VALKYRIE PROFILE ZERO   作:鶴の翁

11 / 15
 全く書けません。
 いつの間にか投稿期間かなり空きましたね、申し訳ないです。


第11話

 学園敷地内西側の風と火の塔の間にあるヴェストリの広場は日中でも日が差さず、その為、人が来ることが殆ど無い場所である。

 稀に逢引している生徒もいるが、それでもこのヴェストリの広場は普段は寂としている。

 が、今は違った。

 ギーシュの決闘発言が生徒達へとまるでバケツリレーのように伝達され、それが暇を持て余していた生徒達へと広がり、今では今日一番の人の集まりを作っていた。

 

「諸君! 決闘だ!」

 

 ギーシュが自身の杖を振り上げ、集まった生徒達へと声を上げる。

 ギーシュの言葉に周りの生徒達は大きな歓声を上げる。

 

「決闘するのはこの僕、ギーシュ・ド・グラモンと、ルイズの使い魔の平民だ!」

 

 先程よりも大きな歓声が広場に響き渡る。

 それと同時にギーシュを中心に円を描いていた人垣の一部が割れて道を作った。

 その中をまるで怖じけた様子もなく、後ろにはルイズとシエスタを連れたレナスがゆっくりとギーシュへと歩み寄る。

 人垣で作られた円の一番内側でルイズとシエスタを待つように言い、レナス自身は更に円の内側へと歩く。

 

「どうやら逃げなかったようだね、そこは褒めといてあげよう」

 

 ギーシュは何処に持っていたのか、薔薇の花を手で弄りながらレナスへと話しかける。

 

「逃げる? 負けもしない戦いを放棄するほど私は愚かではないのでな」

 

 レナスの言葉にギーシュのこめかみがピクリと動く。

 

「ふぅ……どうやら、まだ自分の立場も誰に喧嘩を売っているのかも解っていない愚か者のようだ」

 

 まるで演劇でもやっているかのように、ギーシュは自身の目元を指で抑えながらよろけるようなオーバーアクションを取る。

 

「いいだろう! その減らず口をこの僕が叩きなおしてあげよう!」

 

 バサリと自身のマントを手で大きくなびかせる。それと同時にどこからともなく薔薇の花弁がギーシュの周りへと降り注ぐ。

 全くもって無駄な事なのに、舞台の役者の様に自身をより格好良く見せるための仕込みは怠らないのか、そこだけは褒めてやっても良いだろう。

 

「お互いに最も得意とするもので勝負しようじゃないか! 勿論僕はメイジだ。魔法で勝負しよう! さぁ、君も自分の武器を手にするといい!」

 

 ギーシュは手に持っていた薔薇をレナスへと突き付ける。

 さて、どうしたものかと、今更ながらレナスは考えていた。

 レナスは自身の中に物をしまうことが出来るのだが、今この沢山の観衆の前でそれを取り出せば、私が普通の人間で無いことがバレてしまう。

 それに私が持つ様々な武器は不死者と戦うために作られた武器だ。

 人間相手に使うには少々威力が高過ぎる。対人間用に武器を創るのも可能なのだが、それも先程と同じ理由で却下だ。

 となれば……。

 

「ルイズ!」

 

 観衆の中にいるルイズを呼ぶ。

 いきなり名前を呼ばれた事にルイズは驚きながらも返事を返す。

 

「何よ!」

 

「すまないが、衛兵から剣を借りてきてくれないか?」

 

「はぁ!? なんで私がそんなことしなきゃならないのよ! そこのメイドにでも頼めばいいじゃない!」

 

 ルイズの言葉にレナスは首をふる。

 

「シエスタに頼んでも良いのだが、衛兵が只の使用人に剣を預けるとは思えない。その点ルイズは貴族だ。無理を言えばすんなりとは行かないが貸してはくれるだろう」

 

 その言葉にルイズは納得出来かねない様に顔をしかめたが、わかったと言うと駆け出そうとする。

 

「待ちたまえ!」

 

 それをギーシュが静止させる。

 

「君は剣で僕と戦うと言うのかな?」

 

「そうだ。私が最も得意とする武器は剣だ。生憎と今は剣を持ち合わせていない」

 

 ふむ、と軽く顎に手を当てギーシュが唸る。が直ぐにポンと手を打つとニヤリとした笑みを浮かべながら大げさに両腕を広げて再度マントを大きくなびかせる。

 

「いいだろう! 君の武器は僕が用意してあげよう! 主であるルイズの手を煩わせる必要もなくなるだろう?」

 

 ギーシュは薔薇の花を振ると、花弁が一つ地面へと落ちる。

 すると、落ちた薔薇の花弁が光を放ちその場でぐにゃりと変化を初め、一本の剣へと形を変えた。

 ギーシュはそれを掴むとレナスへと放る。

 その剣はレナスの手前の地面へと軽く斜めに傾いたように刺さった。

 

「さぁ、受け取るといい!」

 

 レナスはそれを手に取る。

 今まで扱ってきた武器の中で最も弱い武器だと感じ取りながらも、貴族のお子様相手には丁度良いと考え、いつものように剣を構えた。

 相手に対し右足を前に、半身だけで相手に向き合う。剣を持つ手を腰の辺りで固定させ、剣先は相手の喉元へと狙いをつける。

 レナスにとっては敵と戦う際にとるいつもの姿勢なのだが、見る者によっては、その姿勢だけでかなりの手練だと見抜く者もいる。

 そしてそれを見たギーシュもその内の一人、見抜く者であった。

 彼の家系は軍事家系である。幼い頃から家には軍に属する沢山の兵やメイジが訪れていた。

 そんな彼等を間近で見ながら育ったのだ。相手がとる姿勢や気迫というもので相手の力量を少なからず測ることが出来る。

 そして今、レナスと対峙し彼が感じたことは『戦う相手を誤ったかも知れない』だった。

 だが、それでも今は決闘の場。自分で決闘を申し込んで置いて、今更勝てぬとこの決闘を放棄は出来ない。それに自分は軍事家系の一人だ。敵にそう背は見せらる訳にはいかないと言う意地もある。

 更にギーシュは既にある一つの策を打っており、それにより少し余裕が出来たのか、再度ニヤリとした笑みを浮かべた。

 

「では、始めよう」

 

 そう言うと再度薔薇の花を振るい、その花弁が宙を舞う。

 剣を錬金した時と同じようにその花弁が形を変え、甲冑を着込んだ女性形の人形へと姿を変える。

 

「君には名乗り忘れていたので、改めて名乗らせてもらおう! 僕の名前は、ギーシュ・ド・グラモン! 二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。従って、君の相手は僕の魔法で作り出した青銅のゴーレム『ワルキューレ』でお相手しよう!」

 

「ほう……」

 

 屍霊術師の様に魔法で使役するモノを召喚し戦うタイプの魔術師か……。

 恐らく、奴の硬度はこの剣と同じ……、ならば、切ることは出来るはずだ。

 

 そう考えたレナスは召喚されたワルキューレへと素早く近づく。

 姿勢を少し低めにまるで滑るようにワルキューレへと接近すると剣を振り上げ、ワルキューレの肩の位置から斜めに断ち切るように剣を振り下ろす。

 剣の刃は確かにワルキューレの鎧に食い込んだが、その瞬間レナスは剣に違和感を感じ、そのままワルキューレを断ち切らずに鎧を撫でるように剣を滑らせた。

 貴金属の擦れ合う音が響き渡る。

 レナスは剣を滑らせながら同時に自身の体も勢いに任せて回転させ、ワルキューレから離れるように後ろへと飛んだ。

 一歩遅れてワルキューレの拳がレナスへと襲いかかるが、もう既にレナスはワルキューレの前から離れており、その拳は空を切り、軽く風の音を出しただけだった。

 この一瞬の攻防に観客は歓声を上げ、場はさらに盛り上がりを見せた。

 ギーシュもレナスの素早さに驚きはしたものの、未だワルキューレは健在、ダメージも殆ど無い事から直ぐにワルキューレで追撃を始める。

 だが、軍事家系だと言ってもギーシュ自体は戦闘に関してはずぶの素人である。

 メイジといえど訓練や戦闘経験などが無くては、操るゴーレムも使い手に伴いその強さに比例する。

 いくら普通の人間より早く動けるゴーレムとは言え、ただ闇雲に拳を振るうだけでは戦女神と呼ばれるレナスにかすりもしない。

 現にワルキューレがいくら拳を振ろうともレナスはそれを余裕を持って躱し続けた。

 その間、何度も反撃できるチャンスがあったのだが、レナスは一度も反撃すること無く回避に徹していた。

 

「いつまでも回避し続けていても仕方がないな……」

 

 そう言うとレナスは近づいた時と同じように、今度はワルキューレとの距離を一気に離した。

 構えを解き、その場にただ立っている様な姿勢へと体を緩めた。

 

「ふっ、先程までの威勢はどうした? それとも今更になって勝てないとわかったのかな? 今直ぐ謝れば、許してあげないことも――」

 

「少し黙っていろ」

 

 自分が有利だと感じたのか饒舌に喋るギーシュを黙らせたレナスは手に持つ剣に目を向ける。

 たった一撃、ワルキューレに刃を当てただけなのだが、もう既に剣には刃こぼれが見て取れる。

 レナスは剣を軽く拳の甲で叩くなどして、入念に調べて気が付いた。

 

「なるほど。コレが奴を強気にし、負けないという自信か……」

 

 確かにワルキューレもこの剣も青銅ではあるのだが、明らかに此方の剣の方が脆く作られていた。

 重心もぶれており、ワルキューレよりもほんの少しだけ硬度が柔らかい。恐らく二、三回ワルキューレを断ち切れば、折れてしまう程のナマクラだ。

 だがこのまま折れないように気をつけて戦った所で、いずれは折れてしまうのならあの小僧の全力を把握した上で折れる限界まで使い切ったほうがいいだろう。

 エーテルコーティングを掛けても良いのだが、それではこれを作ったあの小僧が不審に思う可能性もあるから却下だ。

 いずれにせよ、このままでは負けはしないが、剣が折れれば勝つのは難しくなってくる。

 

「……どうも貴族という人間は汚い手を好む輩が多いようだな」

 

 ミッドガルドにてエインフェリアを集めていた時も、様々な街や都市を見て回ったが、どの場所でも必ずと言っていいほどに王族や貴族と言ったような地位が高い人間はやたらと卑怯な手を好み、自身の欲の為にしか動かない人間ばかりであったのを思い出した。

 

「どの世界においてもそれは同じことなのか……? 嘆かわしいことだ」

 

 物悲しさを覚えながらもレナスは再度剣を構えた。

 それは見たギーシュはやれやれと困ったような感じで手を上げ嘆息する。

 

「此処で言うのもなんだが、諦めて降参してはくれないか? 僕とて女性を嬲る趣味は持ち合わせていないのでね」

 

 その言葉にレナスはピクリと反応する。

 

「女性を嬲る趣味は無い? 先程シエスタにした事は嬲る事と何か違いがあるのか?」

 

 レナスの問いにギーシュは笑って答える。

 

「あの給仕の平民が粗相を起こしたのだ。あれはそれに対する”躾”だよ」

 

「……そうか」

 

 知らず知らずのうちに剣を握る手に力が入る。

 まるで同じ人間であろうと平民と貴族と言う身分の違いだけで人間を家畜の様に扱い、自分に気に入らないことが起こればそれに対する扱いが躾だと言うギーシュに対しレナスは静かな怒りを覚えた。

 

「ならば、今度は私が貴様を躾けてやろう」

 

「……なんだと?」

 

 レナスの言葉に笑っていたギーシュは笑うのをやめるとその額にうっすらと血管を浮かばせた。

 

「平民風情が貴族である僕を躾けるだと? 寝言は寝ていうものだぞ平民?」

 

「その平民風情に未だ攻撃を当てられていない貴族様。今のままでは私に一撃当てることすら出来ないぞ? 本気を出してもらっても良いのだが?」

 

 売り言葉に買い言葉である。ギーシュは呪文を唱え、その他一切の言葉を発さず、ギーシュは杖を造花の杖を振るう。

 最初に出した一体のゴーレムに加え更に六体。計七体のゴーレムのワルキューレが立ち並んだ。

 

「これが僕の全力だ! 後悔するなよ平民! やれ! ワルキューレ!」

 

 七体のワルキューレがレナスへと躍りかかる。

 

「この数で打ち止めか、敵の上限数さえ分かればこの剣でも倒すのは容易い」

 

 レナスも迫り来るワルキューレへと駆け出し、剣を振るう。

 いくらこの剣が脆くとも、それと同じ位、強度が薄い所を攻撃すれば長く戦えるはずだとレナスは敵のある部分に目を付けそこを狙うことにした。

 最初に接敵したワルキューレの拳を避け、すり抜けざまに人間で言う関節の部分、肘、膝、太腿や肩の付け根にだけ刃を通す。

 ただ決して断ち切ることはせず、剣に負担がかからぬように刃が軽く食い込んだ所を鋸のように引き切りながら幾つも傷を付けていく。

 今の人の身で相手に出来る数、三体前後を相手にしながら、数が増えたら足を使い蹴り飛ばすなり、スライディングで転ばせるなどして数を一定数に保ちながら関節へと傷を増やしていく。

 

 余談だがレナスが蹴りを使う度に周りの男子生徒が歓声を上げ、それを女子生徒が冷ややかな目で見ていたが、レナスが着ているものはロングスカートに酷似しており蹴りを使った所で見えるわけもなく、男子生徒諸君は残念でならないとこぼしていた。

 

 そんな中、圧倒的に数の差もありながらも一撃も当てられていないギーシュは焦っていた。

 打っておいた策である、本来より脆く作った剣は未だ折れてはいない。

 だが、此方にもダメージが無い分、数で優っている此方の勝利は揺るがないと自分自身に言い聞かせながらも攻撃を繰り返させる。

 しかし、七体もいるワルキューレの拳は一撃どころか触れることすら出来ずにあしらわれ続けている。

 まるで幼き頃から見て来た、部下を圧倒する自身の父親の訓練風景のようであった。

 それでもギーシュは何とかワルキューレ達を操り、遂にレナスを取り囲むことに成功した。

 ワルキューレがジリジリとレナスに近づきながら円を縮めていく。

 流石に七体同時に襲いかかれば、一撃……、いやもう此処で彼女を負かすことが出来るかも知れないとギーシュは気持ちが高ぶった。

 取り押さえてしまえば、いくら彼女が強くとも、大の男の大人でも力負けするゴーレムに彼女の細腕で振り払えるはずがない。

 それに観念したのかレナス自身も剣を構えるのを止め、先程のように姿勢を緩めており、ギーシュは一層笑みを深めた。

 

「ははは! どうやら観念したみたいだね! どうだい? やはり平民は貴族には勝てないのだよ! だが僕も鬼ではない、君が僕に尽くすと言う程の誠心誠意を持って謝れば許してあげないことはないよ?」

 

「……」

 

「何とか言ったらどうだい? もしや恐怖で声も出ないのかな? ならば今は武器を捨てて頭を下げるだけでもいいのだよ?」

 

「……」

 

「おい! 本当に何か行動に示したらどうだい!? それともこのままワルキューレに殴られてもいいのかな?」

 

 レナスを囲むワルキューレの輪が更に距離を縮めて行くが、此処でようやくレナスが呟いた。

 

「頃合いだな」

 

「は? 何を言っている?」

 

 レナスの言葉の意味がわからず、キョトンとするギーシュにレナスは一気にギーシュへと駈け出した。

 

「馬鹿め! 一点突破なら抜けられると思ったか! やれワルキューレ!」

 

 ギーシュの命令に従いレナスを取り囲んでいたワルキューレが一斉に飛びかかった。

 

 だが、三体のワルキューレがその場で転び一体を巻き込みながら地面へと倒れた。

 

 つい焦りすぎてワルキューレの操作を誤ったのかと、ギーシュは急いで立ち上がらせようと命令するも、ワルキューレは地面に体を付けたまま動きはするものの立ち上がらずにいた。

 いや、正確には立ち上がることが出来なかったのだ。

 倒れたワルキューレをよく見ると巻き込んで倒れた奴以外の膝、或いは太腿の付け根の関節が砕けており、そこから下がついておらず、切り離されていた。

 それに加え、まだ辛うじて立つことが出来そうなワルキューレが立ち上がろうとするも今度は腕の関節が砕け散りそのまま地面へと逆戻りしていた。

 

「馬鹿な! 僕の錬金は完璧だったはず! 壊れるなんてことは……!」

 

「あぁ、よく出来ているよ。この剣もそのゴーレム共も。だが、どんな物にも脆い部分が存在するものだ。決してわざと脆く作らなくともな」

 

「ぐっ……!」

 

 皮肉を込めたレナスの言葉に焦りながらも、残ったワルキューレを自身の前に集め、防御に徹する。

 だが、それでもレナスを止めようと拳を振るうが振りかぶった所で傷を入れた関節部分に限界が来て拳を降る前に地面へとその腕が落ちる。

 更にレナスの蹴りを受け、耐えようとするも最初に転けたワルキューレ達と同じように足の関節が砕け、踏ん張りが効かずに残りのワルキューレも地面へと崩れ落ちていった。

 

「このまま負けてたまるかー!」

 

 足の砕けたワルキューレが、別のワルキューレの砕けた腕を掴みレナスへとぶん投げた。

 

「っく!」

 

 予想外の攻撃に思わず剣で投げられた腕を弾く。

 だが、バキリと言う音と共にレナスの持つ剣が折れてしまった。

 残った刃の部分は果物ナイフよりも短く、もう剣とは呼べる物ではなくなっていた。

 

「ははっ! やっと折れたか! これで僕の勝ちだ!」

 

 ギーシュは動けないワルキューレ達の操作を止めると、残った魔力を絞り出して新たなワルキューレを一体作り出した。

 その手には剣を携えており、レナスへと斬りかかろうとする。

 

「遅い!」

 

 だが、その前にレナスはギーシュへと接触しており、その折れてしまった剣の刃をギーシュの喉元へとピッタリとくっつけた。

 

 ギーシュが最後に作り出したワルキューレもレナスの背後で剣を振りかざしているのだが、両者共にその状態でピタリと動きを止めた。

 

「小僧、今貴様が後ろのゴーレムに命令を出し、剣を振れば私を切れるだろう。だが、それよりも早く私の剣が貴様の喉元を切り裂く。……勝負してみるか?」

 

 勝負も何も勝敗は火を見るより明らかだった、誰もこの状態でギーシュが勝てるとは思っていない、無論ギーシュ自身もそう思っていた。

 

「さて、貴様の答えを聞こうか、小僧」

 

 レナスはそう問いながら、剣の刃を少しだけギーシュへと食い込ませた。

 プクリと刃が食い込んだ喉元に血溜まりが出来、小さく膨れ上がるとギーシュの喉を下へと伝っていった。

 ギーシュはまるで魚のように口をパクパクしており、あまりの恐怖に声を出そうとも出すことが出来ず、そのままヨロヨロと後ずさりし、尻餅をついた。

 同時に造花の杖を手放し、剣を振りかざしていたワルキューレはギーシュの操作から外れ、ガシャガシャと音を立てながら地面へと崩れた。

 

「……参った。僕の……負けだ……!」

 

 ギーシュの敗北宣言に観衆が一気に湧く。

 

「平民が勝ったぞ! トトカルチョどうなんだよ!?」

 

「ありえない! 貴族が平民に負けるなんて!」

 

「おい! ギーシュ! 相手が女性だから手を抜いたんだろ! じゃないと貴族が平民に負けるなんてありえないからな!」

 

「あぁ、そうか! ギーシュだもんな! 全く女性に甘いんだから! 手抜いてんじゃねぇーよ!」

 

「あのお方……格好良い……!」

 

「お姉様……!」

 

 観客は思い思いに騒ぎ立てると、ぞろぞろとヴェストリの広場を離れていった。

 残ったのは項垂れるギーシュと、それを見つめるレナス。レナスの身を案じて見守っていたシエスタとルイズだけになっていた。

 

「ふーん、凄いじゃない。本当に勝つなんて」

 

 ルイズは近づきながら賞賛の言葉を口にし、シエスタはレナスへと駆け寄ると思いっ切り抱きついた。

 

「良かった! 本当に良かった! プラチナさん! お怪我などはございませんか!?」

 

「大丈夫だ。ありがとうシエスタ。だが、言っただろう? 負けはしないと」

 

 まさにその通りだったのだが、二人共その瞬間までレナスが勝つとはあまり思っていなかったのだ。

 心の中で二人は謝りながらも、レナスの勝利を喜んでいた。

 

「さて……」

 

 何を思ったのか、レナスはギーシュへと近寄る。

 

「ちょっと! もう決闘は終わったんだから、これ以上は――」

 

「わかっている」

 

 レナスはギーシュの目の前に立つとギーシュを見下ろす。

 その気配に気付いたのか、ゆっくりとギーシュは顔を上げた。

 

「貴様、この勝負は決闘だと言っていたな」

 

「あぁ……」

 

「本来の決闘であれば、貴様はもう生きてはいないだろう。決闘とはそういうものだ」

 

「わかっている……」

 

「ならば、命を奪う代わりに負けたお前に一つ命令しよう」

 

「なんでも言うがいいさ。僕は負けたのだから」

 

 レナスの言葉に再び項垂れたギーシュはレナスの言葉を待った。

 

「では、命令だ。お前が泣かせ侮辱した女性四人に謝罪を入れろ。それだけだ」

 

 レナスはそれだけ言うと、その場から立ち去ろうとする。

 

「ちょっと待ってくれ! それだけ? それだけでいいのかい!?」

 

 もっと酷な命令をされると思っていたギーシュは、顔を上げレナスに問い返した。

 

「それだけだ。だが、誠心誠意を持ってしっかりと謝れ。今の貴様にはそれだけで十分な仕置きになる」

 

 その言葉を聞きギーシュはよろけながらもしっかりと立ち上がり頭を下げた。

 

「このギーシュ・ド・グラモン謹んでその命を承ります」

 

「そうか。だが先にそこの二人にではなく、貴様が泣かせた二人に謝りに行け」

 

「あぁ、わかったよ! その時には改めて君にも謝らせてくれ! では!」

 

 そう言い残すと、ギーシュは本塔の方へと駆け出していった。

 

「あそこまで素直であればこのような事は起きなかったのではないか?」

 

 やれやれと言った風にレナスは頭を振りながら独り言をこぼす。

 レナス自身もルイズとシエスタを連れてこの場を離れようとするが、ふと立ち止まった。

 レナス達の遥か頭上、何も無い青空の一点を見つめる。

 

「ちょっと、どうかしたの?」

 

「……いいや。なんでもない」

 

 ルイズが不思議な顔をしながら聞いてきたのをはぐらかし、シエスタに腕を引かれながらレナス達もまたこのヴェストリの広場を後にした。




 今更ながらレナスペックを
 Aエンディング√クリア・セラフィックゲート制覇
 神化状態では、ほぼ無双に近い能力を持ちあわせておりますが、その力は不死者、救いようのない悪人、打ち倒すべき敵にのみ使う予定です。
 人化状態では、あくまで人間として発揮できる達人の域(極み)だと思ってもらえればいいです。今は常にこの状態なので、そこまで無双は出来ません。いや、しません。多分。
 スクウェアクラスのメイジと対等に渡り合えるくらいの力はある予定です。じゃないと髭……、おっと、此処はまだ先のお話。
 後は付けている装備によって能力が変わる予定を組んでおります。
 何処かしらおかしな点が出てくればその都度調整していきます。

 誤字脱字があれば宜しくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。