問題児と悪魔の妹が異世界から来るそうですよ?   作:亡き不死鳥

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年明け一発目はこっちだー!
セリフパートが多めになったけどどうぞ。


招集の真実

 

 

 

 

 

 

「フランを箱庭に飛ばしたの、あんただろ」

 

 

辺りは未だにお祭り騒ぎ。それでもこの二人の間だけは静寂が訪れていた。

たった一瞬、されど一瞬、紫の目元が細まった事を十六夜は見逃さなかった。偶然かもしれないしただの勘違いかもしれない程度の動きでも、十六夜は己の仮定が正しい事を確信した。

 

「元々不自然だと思ってたんだよ。箱庭に呼び出されたのは俺、春日部、お嬢様、そしてフランだ。人間人間人間ときて妖怪。ただ強い奴を呼ぶだけなら比率が明らかに逆だ。かといって最強の存在を呼んだとも考えづらい。それなら神でも星霊でも呼べばいいからな。だから呼べる奴らの限界だったと当初は考えてたし、それについての仮説はいくつか立ててたが、さっきフランと姉ロリの話聞いたら納得いったよ」

 

「姉ロリ?……ああなるほど。それで、納得というのはなにがかしら?」

 

「おチビが呼んだのは『人類最高クラスのギフト保持者』だったんだよ。だから俺達のようなギフト持ちの人間が多く呼ばれたんだ」

 

「あら、それならフランドールが呼ばれたのはその人類最高クラスのギフト保持者に来た手紙を誤って読んでしまったとも考えられるわよ?あの娘が住んでいた場所には人間離れしたメイドが住んでいたもの」

 

「おかしな点はまだある。俺達に送られた手紙は全て同じ文面が書かれていた。呼び出した先でのタイムラグがなかった事から手紙は同一の物と考えていい。

だが姉ロリは『あの手紙は読んだら強制送還される』って言ってたんだよ。そこがおかしな点の二つ目だ」

 

十六夜は紫の反論に取り合わず自分の推測を述べる。相手のペースに嵌らず、まずは自分の言葉で相手を追い詰めるように淡々と語っていった。

 

「俺もあの手紙を河原で受け取って直ぐに開いたが、強制送還なんざまるっきりされなかった。それどころか帰ってゲームしてる暇さえあったよ」

 

「………」

 

「おかしいだろ?箱庭に来る奴どころか送られた手紙すら違う。それなのに召集場所と時間はピッタリときた。

そうなると元々『何処かの人間』に送られた『オリジナルの手紙』に『何処かの誰か』が細工したって考えるのが普通だろ」

 

「そうね。それで?何処かの人間は誰で、何処かの誰かは誰なのかしら?」

 

言葉を受けても紫はあくまで余裕の表情と態度を崩さない。目は細められ口元を隠しているのに笑っていると分かる顔をしながら涼し気に十六夜の演説を聞いている。

 

「そうだな、まず何処かの誰か。これはわかってんだろ?あんただ」

 

「あら証拠はあるのかしら?」

 

「そのセリフが証拠だって言ってやりたいがな。まあ消去法だよ。今回の件で本人の意思を無視すれば踏んだり蹴ったりなのはフランだ。ならあいつの仲間内でフランを恨んでる奴なのか、と思ったがそれも違うと踏んだ」

 

「?」

 

「『仲が良過ぎる』んだよ、あいつら。人を見る目はあると自負してるがフランを囲ってる奴らの結束が並じゃない。まあそれは証拠としちゃ薄いが、恨みの線は助けにきてる時点でなし。フランの為にやったのも一ヶ月も放置した点でなしだ。

そうなると答えは一つだ。あいつらにとってフランが飛ばされたのは完全に予想外だったんだよ。だったら予想外じゃなかった存在ってなると、『あいつら』とは別勢力の『あんた』か『あの狐』しかいなくなるが、主従関係をみれば犯人はあんたしかいなくなるわけだ」

 

ピッと十六夜は紫に指を差す。

しかし、その返答は嘲笑だった。

 

「それで証明したつもり?随分とお粗末な推測じゃない。証拠もなく理由も感情論。まるで話にならないわ」

 

やれやれと馬鹿にしたように十六夜を見下した。

 

「もちろん、これで終わりじゃないわよね?」

 

「当たり前だ。なら次は『何処かの人間』に目を当ててみようか。

まずは候補からだ。

1.あんたが言った紅魔館の人間離れしたメイド。

2.フランの遊び相手であった魔法使い。

3.同じくフランの遊び相手であった巫女。

この三人が有力だ」

 

完全で瀟洒な従者、十六夜咲夜。

普通の魔法使い、霧雨魔理沙。

楽園の素敵な巫女、博麗霊夢。

この三人にオリジナルの手紙が渡るはずだったと十六夜は踏んだのだ。

 

「この中で最も可能性が高いのは巫女だ。フランからの又聞きだから詳しい事は知らないが……弾幕ごっこの提唱者らしいな」

 

「あらそんな事まで聞いてたのね」

 

「提唱者って事は人間の中でもそれなりの地位にいるんだろ?幻想郷がどれほどのもんか知らねえが、弾幕ごっこが一般的になるほど流行ってるってんだから相当なはずだ」

 

そして、と一区切りつけもったいぶるように溜めを一つ作った。

 

「だからこそ、あんたが『何処かの誰か』っていう証明にもなる」

 

「………へぇ」

 

初めてかもしれない、今日この時紫の顔が歪んだ。愉悦と喜悦を交えたような目で十六夜に先を促す。

 

「あんたらのコミュニティの名前、『幻想郷』っていうんだよな。まさしくフランやあんたらが住んでる場所そのものの名前だ。

加えて姉ロリ達があんたをコミュニティのトップに据えている事も不自然だ。ああいう組織の上に立つ奴は同格のしたにつく事を決して認めないからな。

ならなぜか?可能性は二つ。一つはあんたにあいつらが借りがある可能性。もう一つは……あんたが幻想郷でもあいつらよりも地位が上の可能性だ」

 

「……」

 

「あんたが幻想郷のトップだとしたら話は簡単だ。コミュニティの名前を幻想郷にした事も、巫女に行くはずだった手紙に細工出来たのも……フランを異世界に飛ばしたのもな」

 

最後の言葉だけは十六夜は紫を睨みつけ低い声で冷たく言い放った。

 

「コミュニティの名前を幻想郷にしたのはあんたが所属している組織自体が幻想郷だったから。

巫女宛の手紙に細工出来たのは立場が同じくらいである筈の巫女と関わりがあり、尚且つ巫女に消えられては困ると思ったからだ。あんたの能力なら巫女に異変が近づけば気づくのも楽勝だったろうよ。

………そしてフランを箱庭に送ったのは……あの狂気が原因だろ」

 

一転苦々し気に舌打ちをする。フランは耀を傷つけた。それでも仲間には変わりがない。だから仲間の闇である部分に触れるのは抵抗があった。

それでも十六夜は口を止める事はしなかった。

 

「フランの破壊する能力、それに加えて不安定な精神。さぞかし不安だったろうよ。下手すりゃその力が幻想郷に向けられるかもしれなかったんだからな。

だからあんたは厄介払いも含めてフランを箱庭に飛ばしたんだ。重要な人物から厄介ごとを遠ざけ、厄介であるフランに厄介ごとを押し付ける。

…どうだ?俺の推理、間違ってるか?」

 

「…………」

 

十六夜の問いに紫は何も返さない。目は小さく伏せられ窺い知る事は出来ないが十六夜は己の推測が間違っていない事をほぼ確信した。

実際間違っていない。紫は幻想郷の管理者であり博麗霊夢は幻想郷の結界を維持する為に必要な存在だ。フランの能力もとてつもなく恐ろしい。

 

「………クク」

 

だからその僅かな間違いはただ『知っているかどうか』。それだけだった。

 

 

パチン

 

 

紫が小さく指を鳴らすと、二日ぶりに感じた浮遊感が十六夜を襲った。

周囲から祭囃子の音が消え、屋台が消え、代わりに無数の目玉が辺りを覆い尽くす。『ここはスキマだ』と十六夜は声を出さずに認識した。

そしてこの空間に引きづりこんだ張本人は扇子で口元を隠して未だに笑っていた。

 

「あっははは!いいわね、凄くいいわ。やはり人間は面白い。いえ、ここはあなたは面白いと言った方がいいかしら。卓越した頭脳、超越した力、洗練された洞察力。どれもこれも最上級。素晴らしいの一言に尽きるわ」

 

「……そいつはどーも」

 

「だから訂正を一つしてあげるわ。私の所属している組織は幻想郷そのもの。これは正解。

楽園の素敵な巫女である博麗霊夢は幻想郷で相当な地位にいる。これも正解。

そしてフランドールに細工を施した手紙を渡した。大正解。

だけどフランドールを選んだ理由が厄介払いというのは間違いよ」

 

コロコロと楽しそうに笑った顔を再び歪ませて空中(スキマ)で上手く身動きが取れない十六夜に近づいた。

 

「幻想郷はすべてを受け入れる。

紅霧で幻想郷を覆い尽くした吸血鬼でも、幻想郷から春を奪った亡霊も、月より打ち落とされた咎人も、破壊する力をもった最悪の悪魔の妹でも、ね。ふふ、それはそれは残酷な話ですわ」

 

「ならなんでフランを飛ばした。受け入れたんだろ?」

 

「ええ、受け入れましたとも。人間も妖怪も妖精も神も、罪も罰も裏切りも絶望も破壊も捕食も寿命も別れも死すらも幻想郷は受け入れました。全ては幻想郷のため。当然今回の事も」

 

「……利用したってのは否定しないんだな」

 

「もちろん。しかし最低限の配慮はしました。日で死ぬ事はなくなり水で死ぬ事もなくなった。偶然もありましたが死ぬ事は決してなかった。本人も満足していましたしね」

 

利用した事など然程問題ではないという紫に十六夜は腹の底から怒りが込み上げてくるのが分かった。十六夜の嫌いな事の一つは子供を利用する事だ。フランは精神面であまりに幼過ぎるか弱い存在だった。

強い力はなにも物理に限った事ではない。精神的な力だって山ほどある。騙されたと気づかぬ子供ほど痛々しいものもないだろう。

だから十六夜は…

 

「…気に入らねえな」

 

「なにが?利用したこと?黙っていたこと?それとも純粋な子供心を踏み躙ったことかしら?」

 

「全部だよ。強い力を弱い奴に振るったことも、それを平然と受け入れさせてる事も、俺の仲間を傷つけた事も全部が全部、ああ気に入らない!

強い力は、強い奴にのみ振るっていいと思って過ごしてきたからな。琴線をノコギリで引き裂かれた気分だよ」

 

怒気を隠さず十六夜は吐き捨てる。いや、既に怒気などと軽いものではなく敵意になっていたかもしれない。気に入らないものは気に入らないし、ムカつく事はムカつくと言うのが逆廻十六夜だ。

だが十六夜の威圧感など微風のように受け流した紫はまたも楽しそうに笑顔を浮かべた。

 

「うふふ。貴方のそういう妙に子供っぽい姿、結構好感がもてるわね」

 

「どこぞの姉ロリにも同じ事言われたよ」

 

「あらそれはそれは。力ある者は力ある者と仲良くなる縁でもあるのかもしれないわね。

……でもね、人間は皆力なんてないわよ。一掴みどころかひとつまみ程度の力をもった人間がいるだけ。貴方にとって10歳の幼児も20歳の武闘家も等しく相手にならないでしょう?強い力なんてどれもこれも強い奴になんか振るわれない。力はその力の持ち主よりも弱いものに振るわれるものよ。弱いものには力を振るう権利なんてもらえないもの」

 

言い終えた紫は十六夜との距離を離し、再び指を鳴らした。

 

「貴方の推理、見事だったわ。今回は私の負けよ」

 

下に開けたスキマからは見慣れた街道が覗いている。紫の呟きは十六夜の耳にしっかり収まったが、十六夜は腹の中の不快感が消える事はなかった。

 

今回は間違いなく十六夜の勝利であったはずだ。紫の犯行を殆ど暴き切ったのだ。なのに全くといっていいほど勝った気がしない。

落とされた先はサラマンドラの本拠の前だった。負けたくせに誤魔化し方がムカつくくらいに上手いのがさらに頭にくる。

 

「……食えないババアだ」

 

小さく呟き十六夜は足を前に進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 




細かい設定はフランから聞いたと言う事で。さすがにそこまで細かく描写するのは不可能でした。

推理の中に「それは違うよ!」という点があったらお申し付けくださいませ。

それではあけましておめでとうございます。

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