問題児と悪魔の妹が異世界から来るそうですよ?   作:亡き不死鳥

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うーむ、書いてて違和感を感じる。なんだろ?
まあどうぞ


目が覚めたら……

 

 

 

 

 

 

 

 

紅茶の匂いがする。この香りを嗅ぐことが随分と久しぶりに感じる。

これは咲夜が入れた紅茶だ。いい香りの中に、何処か毒のような匂いがする。きっとまた希少品と称して紅茶に変な物をいれたんだと思う。

甘い匂いもする。これもまた久しぶりに感じる匂いだ。血の入ったケーキはフランの好物だ。遊んだ後や勉強の後に咲夜が用意してくれたおやつが楽しみだったのを思い出した。

 

……目が覚めたら、ここが紅魔館だったらいいのに。箱庭に来たのも、十六夜や飛鳥や耀、黒ウサギにジンにレティシアと会ったのも全部夢。

友達が出来た夢だったからちょっとがっかりするけど、また自分の何時もの生活に戻ってる。咲夜に起こされてパチュリーに勉強を教わって、こあが入れた紅茶を飲む。その後お姉様に巻き込まれた美鈴と一緒に弾幕ごっこやお姉様の考えた遊びをする。

夢のような現実。元々現実だった夢。

でも分かってる。()()が夢じゃないのは分かってる。耀を友達を……殺…し…たっけ?確かあの時は…お姉様が……

 

 

『そこまでよ』

 

 

そう。お姉様が来た気がした。いや、来ていた。だったら私は……フランは……

 

 

「…お姉様?」

 

「なあに?フラン」

 

 

ゆっくりと開けた視界の隅に見覚えのある顔があった。何を隠そうお姉様その人である。薄っすらと浮かべた笑みにフランは少し顔を赤くして視線を外した。

そのまま覚醒してきた頭で辺りを見回すと、雰囲気からして耀が寝かされていた病室のような部屋だった。目を動かしてみたが他の人はいないようだった。

 

「……お姉様。お姉様はいつ頃フランを見つけたの?」

 

「そうね、フランが女の人間を殺そうとしていた頃だったかしら」

 

「……その人間はどうなった?」

 

「安心なさい。その子なら美鈴とパチェに治療してもらってもうピンピンしてるわ。もうゲームから二日経ってるし」

 

「……そっか」

 

死んでいないと分かって少しだけホッとする。だけど私がしたことは間違いなく許されないだろう。仲間を取り戻したいという黒ウサギを助ける為にノーネームに入ったというのに、逆に仲間を奪いかけたのだから。

ほんと…笑えない。

 

「…ねえお姉様。フランね、お姉様に沢山話したい事があったんだ」

 

「……そう。ぜひ聞きたいわね」

 

微笑みを崩さないままフランの顔をしっかりと見つめる。目に見える葛藤や悲しみ、懐かしさや嬉しさをごちゃ混ぜにしたような顔でフランはゆっくりと話し始めた。

 

 

「フランね、この箱庭に来てから友達が出来たんだよ。胸を張って『私の友達だ!』って言える友達が」

 

「イザ兄と世界の果てに行ったんだよ。大っきな蛇がいたけどイザ兄がすぐに倒しちゃった」

 

「飛鳥はフランにクマのヌイグルミをくれたんだよ。凄い剣幕で大事にしなさい!って。まあそれと一緒にてんゐも捕まえて来たのはビックリしたけど」

 

「てんゐはウサギだけど幸運とか操れるんだって。それで隕石降らしたことがあるけどどうやったのか未だにわからないんだよ」

 

「黒ウサギはコミュニティが崩壊してから三年も一人で支えてたんだって。フランなら皆がいなくなっちゃったら凄く泣いて……どうしたかわかんないや」

 

「レティシアはノーネームのメイド長なの。咲夜と一緒だね。咲夜みたいに気配り上手いし優しいし、それにすっごい可愛いんだよ!」

 

「ジンは十一歳なのにノーネームのリーダーなんだよ。だからノーネームを救う為に『人類最高クラスのギフト所持者』を呼んだんだって。私も来たけど」

 

「耀って凄いんだよ!ペンギンとか象とか色んな動物とお話出来るんだって!それに友達になった動物とかの特性が使えて吸血鬼の力も使えるようになっちゃった!」

 

 

フランは箱庭に来てからのことを心底嬉しそうに語った。ガルドとのゲームのことや、ペルセウスのゲームでやり過ぎてしまったこと。火龍誕生祭でのゲームでアーシャやジャックと知り合ったこと。他にも様々な『初めて』をレミリアに話した。それが現実逃避だと分かっていても、楽しい過去のみを話し続けた。

レミリアもそれに相槌を打ち、楽しそうに耳を傾けていた。自分ではさせる事が出来なかった事を聞くのは少し癪ではあるが目の前の笑顔には全く勝てないだろう。

 

だが話が進むに連れてフランの声のトーンが少しずつ落ちて来ているのもレミリアにはわかった。きっとここからは自分にしかできないことだ。楽しい過去の話が終われば次は辛い過去の話が始まる。それを受け止められるのはきっと姉である自分の役目だ。だからずっとフランの言葉を聞き逃さないように一字一句を記憶していた。

 

「この箱庭に来てさ、いっぱいいっぱい楽しいことがあったよ。私だけの友達っていう響きが凄く嬉しくてさ、お姉様達の知らない人間に仲間だって言ってもらえたのが凄く心地よくてさ。友達と肩を並べて戦うのも、友達に背中を任せられるのも初めてでさ。箱庭での生活は充実してたんだよ。

……なのに、……なのにさ」

 

 

 

 

 

全部私が壊しちゃう

 

 

 

 

 

 

腕で自分を抱き肩に爪を食い込ませる。

覚えてるんだ。楽しかった日常を。

覚えてるんだ。自分で壊そうとした友達を。

友達が出来たことに浮かれて、ゲームが始まる前にタイムリミットが近づいていることに気づいても言わなかった。自分の『闇』である部分を知られたくなかった。

その結果がこれだ。結局お姉様を頼ってしまっている。否、頼らざるをえない状況を作り出してしまった。紅魔館を出ても、幻想郷から出ても、私はただの子供だった。

溢れ出る涙を拭いながら、それでも辞めることなくフランは話を続けた。

 

「…お姉様が正しかったよ。弾幕ごっこは友達を作るゲーム。実際弾幕ごっこをして友達が出来たもん。なのに私はその友達を壊そうとした。壊さなければ素敵な友達ができるって言われても、壊れちゃう。壊しちゃう。私が、自分で」

 

あの場所に居たのが飛鳥だったらどうなったか。きっと『やめなさい!』と言って止めようとしてくれるのだろう。

あの場所に居たのが十六夜だったらどうなったか。きっと力尽くで私を止めようとしてくれるのだろう。

黒ウサギやレティシアでもきっと私を止めようとしてくれるのだろう。

その時の私は皆に手を向けるのだろう。右手を握る。たったそれだけで仲間をグチャグチャに出来るのだから。

右手が震える。開いた右手を握りしめることに酷い抵抗を感じる。その震えはすぐに全体に広がって行った。気温は寒くないはずなのに震えは全く止まる気配がない。歯の奥がガチガチとなり続け、この震えは一生止まらないのではないかという錯覚に陥る。

 

 

しかしその震えはすぐに収まった。

身体を包み込むような暖かい感触。僅かに顔を上げるとお姉様が私を抱きしめているのが分かった。

……いつもそうだ。私が怖がったり泣いたりした時はいつもお姉様が抱きしめてくれた。私の部屋を地下に移す時にお姉様も一緒に閉じこもろうとした事もあったっけ。皆に反対されて渋々辞めてたけど。

こんな時でさえまだお姉様が問題を解決してくれることを祈ってる。自分では何も出来ないのに。

でも、いつまでも頼っているだけでは駄目だ。自分の行動は自分で責任をとらなくちゃ。だから私は、私は皆に謝ってから…

 

「お姉様、わたし……」

 

 

 

 

 

 

幻想郷に戻るよ

 

 

 

 

 

 

その言葉がフランの口から発せられることはなかった。いつの間にか離れたレミリアの指によってフランの口が塞がれたからだ。

 

 

「フランがこの世界に飛ばされた日の一週間後、何があったか覚えてる?」

 

 

突然の問いかけに一瞬頭が停止する。フランが箱庭に来た日なら簡単に思い出せる。

退屈で図書館に行き、太陽の下を歩けるようになるシールを貰い(奪い)、部屋にあった手紙を読んだ瞬間箱庭に飛ばされた。

そこからも色々あるが今は別にいいだろう。レミリアが問いかけているのはその一週間後。あの日の一週間後といえば……

 

「………あ、私の誕生日」

 

そう、そうだ。丁度あの日から一週間後、それはフランの誕生日だ。あまりに色々なことが起こり過ぎて自分でも完全に頭から消え去っていた。

 

「そうよ。本当はあの時のシールをプレゼントしようと思っていたのだけど、取った後すぐにこっちに飛ばされたから言えなかったのよ」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「いいのよ。元々あの手紙は読んだら強制送還されるように弄られてたらしいしね」

 

苦笑するレミリアを見ながら申し訳ない気持ちになる。しかし何故このタイミングでその話をしたのかが気になった。フランを幻想郷に戻すためなら今の瞬間に話を遮る必要はなかったはずだ。一体どうして……

 

「まあそんなこんなで私達はフランの誕生日をしっかり祝えていないわけよ。それは姉として許せないの。だから私はフランに一つプレゼントをしたいと思っているわ」

 

ピッと指を一つ立て得意気に言い放つ。

 

「フランのお願いをなんでも一つ叶えてあげる。大きなお城が欲しければパチェに作ってもらうし、ケーキをお腹いっぱい食べたいなら咲夜に作らせるわ。他にも……

 

 

 

ノーネームとの仲を取り持って欲しい、とかでもね」

 

 

 

 

静かにレミリアの話を聞いていたフランの顔が険しくなっていく。

つまり、つまりお姉様は…

 

「そのお願いでノーネームと仲直りしろってこと?」

 

そりゃあ仲直り出来れば嬉しい。それでも間違いなく自分は耀を傷つけた。それは、誤魔化しようのない事実だ。そんな自分がまたノーネームの皆と仲良くしたいだなんて……

 

「あら、そうは言ってないわ。なんでもって言ったでしょ?そのお願いが『ノーネームの皆と会いたくない』なら今すぐ紅魔館に戻りましょう。『仲間としては無理でも知り合いとして仲良くしたい』なら私達のコミュニティに入りなさい。本拠はノーネームの本拠の近くだから好きな時に会えるわよ」

 

フランに普段となんら変わりない声色で甘言を囁いてくる。そう、別に仲間だけが友達だけが関わりではない。会いたくないなら会わないでも構わない。あくまで全てはフランの意思に任せている。だからこそ、分からない。

ここでもだ。ここでも自分はどうすればいいか分からない。今まで他人の決定に付き従っていただけの自分には。

 

「フラン、一つアドバイスよ。私達は妖怪。他人に気を使う必要も、未来に憂いを抱く必要もないわ。ただただ、自分の好きなようにやりなさい」

 

それを最後にフランを一撫でし、レミリアは部屋を出て行った。一人取り残されたフランはレミリアの言葉を理解しようとするも、そう簡単には割り切れない。

まだまだ自分は大人にはなれなそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

フランの病室から出たレミリアは扉に背を預け小さく息をはいた。妹にいいセリフを言った後はなんていい気分なんだろうか。一ヶ月ぶりだからまだまだ余韻に浸っていたいところではあるが、まあ今はここまでにしておく。

 

「盗み聞きだなんて趣味がわるいんじゃない?逆廻十六夜」

 

扉のすぐ横には自分と同じ体制の人間。フランに『イザ兄』と呼ばれていることについて小一時間ほど問い詰めたい輩である。

 

「……別に。来たら丁度あんたが話してたから待ってただけだよ。姉妹水入らずを邪魔しなかっただけさ」

 

「あらそう。なら入ったら?私はもう出たわよ?」

 

扉から背を離し場所を譲る。しかしそれを見ても十六夜は苦々し気に舌打ちするだけだった。

 

「ふふっ。フランがなにを『お願い』するのか心配なのかしら?人類最高クラスのギフト保持者と言われていても、そういう事で悩める姿は好感が持てるわよ?」

 

「……否定はしねえよ。フランに抜けられるとノーネームの戦力と共にモチベーションも下がる。そこから出る影響も考えなくちゃいけないからな」

 

「ふーん。まあ分からなくもないわ。私には関係ないけど」

 

まあでも、とレミリアは十六夜の横を通り越しながら続ける。

 

「安心なさい、私の妹だからね。悩んでも恐れても、結局最後は自分のやりたいことをやるわ。始めての友達を捨てるなんて、普通は出来ないもの」

 

ヒラヒラと手を振り、十六夜の視界からレミリアは消えた。それを見届けた十六夜はもう一つ舌打ちをし、フランの病室から遠ざかって行った。

行き先はマンドラのいる場所だ。今回の魔王襲来、それはサラマンドラが仕掛けた事だ。ゲームクリア条件であるステンドグラス、出展物に紛れて現れた魔王。明らかに主催者側の意図が入っていると十六夜は推理した。それのケジメをつけに行くつもりだ。

ゆったりと歩き、お祭り騒ぎの街中を眺めながら十六夜は思考する。今回のゲームはあまりにも思惑が混じり過ぎた。十六夜の推理では今回の発端はサラマンドラは魔王を引き寄せ、サンドラを一人前のマスターとして周囲に認めさせようとした事のはずだ。だがそれはフランとフランの同郷である数人の人外によって僅かに書き換えられた。魔王を打倒したコミュニティは、ノーネームとサラマンドラからノーネームとサラマンドラと幻想郷というものに置き換わった。

大々的に行われたらしい魔王対フラン。それに続くフラン対幻想郷のメンバー。その現場にサンドラが居た事から、幻想郷のメンバーも魔王のゲームの立役者として違和感なくサラマンドラとノーネームの輪に加わって来た。

………気に入らない。どこの誰とも分からない奴が周囲に気づかれる事なく謀を成し遂げたのがどうにも気に入らない。先日の恨みも多分に含まれてはいるが。

 

「ちっ。あれもこれも全てはあのスキマババアのせいだな」

 

「あら、スキマババアだなんて酷いわね」

 

「……うわ、出たよ」

 

「あらあら、冷たい反応。考えごとをしながら歩くなって母親に習わなかった?」

 

「残念ながらそんな母親はいなかったな」

 

いつの間に現れたのか、いつも通りの胡散臭い笑みと日傘をさして相対しているスキマババアに十六夜はさらに舌打ちする。

しかし、その後は射抜くような視線を繰り出した。

 

「ああ、そうだ。丁度あんたに聞きたい事があったんだよ。今さっき、ついさっき出来た仮定の話をな」

 

「それは興味深いわね。是非とも聞きたいわ」

 

通常装備である扇子を取り出し口元を隠しながら涼しい表情で先を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フランを箱庭に飛ばしたの、あんただろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隠されていない目が、僅かに細まった気がした。

 

 




ちょっとこっちの小説が遅れるかもです。
理由は活動報告をお読みください。

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