問題児と悪魔の妹が異世界から来るそうですよ?   作:亡き不死鳥

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遅れてすみません。
リアルが忙しかったのとかなり筆が進まなかったもんで。
かなりちょくちょく期間を開けて書いたので違和感や意味不明なところがないか心配です。変な所があったら教えてくださいね?書いててこれじゃない感がありますがどうぞ。


スキマのひと時

 

 

 

 

 

 

 

四方を目玉に囲まれ、自分より上方に寝そべっている少年を女性ーー八雲藍は眺めていた。

その少年は主の手でこのスキマに放り込まれ、自分はその少年の監視だ。

主曰く、『想像以上であり、期待はずれ』の人間。事実、その少年は藍の想像以上であった。主の命令に従い『十六夜を見ておく』。つまりあの人間が己の監視下であるスキマに捉えておこうと考えた。

 

そこでまず一つ目の予想外。その少年はスキマに落とされるなり、スキマ空間を打ち破ろうとした。始めは人間如きが何をバカな事をと思ったが、少年が手のひらから光の柱を出しスキマの下に打ち付けただけで主の作り上げた空間に人間が数人は優に通れる穴を開けてしまったのだ。

あそこで咄嗟に『上と下の境界』を操っていなければあの時逃げられてしまっていただろう。

 

二つ目の予想外。壊れたスキマそのものは修復に然程時間は掛からないので問題なかったが、その少年が『上と下の境界』にあっさり適応しだした。少年はどこまでが上でどこまでが下か分からぬ空間をあっさり把握し、再びスキマを壊そうとした。そこで私は『右と左の境界』、『前と後ろの境界』、『重力と無重力の境界』、『地と天の境界』を弄った。これで平衡感覚は消え、地と天の境界により一定の場所に足場は存在しなくなった。そこまでしてようやくこの人間の抵抗を抑える事ができたのだ。

 

だからこそ、ここまでしなければ抑える事すら出来ない少年の何が期待はずれなのかが藍は気になる。いや、藍もバカでは無い。個人的な意見だが、十六夜に対して()()()と感じている自分がいるのは確かだ。

逆廻十六夜はどこまでいっても人間なのだ。確かに力は凄まじい。頭の回りも恐らく自分と同等、もしくは上回っているだろう。そこに何かしらの加護が付いているのか、他の能力を打ち消す力が加わればもう鬼に金棒のレベルではないだろう。

そこまで出来て何故空が飛べない?そこまで出来て何故人間の器に留まっている?そこまで出来て何故この空間に対処出来ない?

 

弱く、寿命が短く、傷の治りが遅ければ、食事や睡眠が必要で、魂をわざわざ肉体という器に入れなければ存在すら許されない人間。

それなのに、人間は妖怪を退治し、霊術を、陰陽術を、魔法を、そして科学を進化させ、遂には間接的に妖怪や神までも滅ぼしかけている。

 

藍は目を閉じ、かつて己が敗れた三人の人間を思い出す。

 

『さすがに、式神を倒せば使い手も冬眠から目覚めるかしら?』

『わかったぜ。お前も目も当てられない状態にすればいいんだな』

『狐死してきゅう(丘)にしゅ(首)す。ここは「あの世」。ちょうどよかったわね』

 

弾幕ごっこだったから、などという言い訳は使わない。たとえ遊びでも妖怪が人間に劣るはずがないという慢心だった、とも思えない。あの時既に春雪異変は解決していたし、橙の敵討ちのつもりであの三人に挑んだ。

結果は全敗。

負けるはずがないと思っていた人間に三連敗したのだ。ほんと、ここまでくると悲しみよりも笑いが出てくる。

 

ごそっと動く気配に当てられて閉じていた目を開いた。視界の先には写るのは既に立ち上がった逆廻十六夜の姿。

 

 

 

……ああ、やはり人間は面白い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー気分わりぃ。感覚グラッグラにしやがって、どうしてくれんだよ」

 

上も下も前も後ろも右も左も曖昧になった空間を逆廻十六夜は立っている。先ほどまで寝転がりながら両手両足頭腹腰など体の全ての場所を使って空間の把握に励んでいた十六夜はようやく立ち上がれる程度にこの状況に慣れつつあった。なんせこの空間は自分では右に動かしているつもりが左に移動したり、僅かにしか前に出していない手がピンッと伸びるほど前に突き出してしまったりするのだ。

そんなハチャメチャ空間をこの短時間である程度把握した十六夜はやはり色々超越してるとしか言えないだろう。

そして、立ち上がってからの十六夜は重心を全く動かさないで立っていた。前後左右上下がダメなら真ん中、中心にとどまっていればいい。理屈としてはあっていてもできる人間は少ないだろう。重心を動かさないで長時間というのは想像以上に難しいものだ。

 

「そろそろ大人しくしている気になったか?」

 

「いんやまったく。今にもここから逃げ出したくてウズウズしてるね」

 

「それは困るな。だがな人間、私もお前をここから逃がすと主からの折檻が待っていてな。少しばかり大人しくしてくれないか?」

 

「普段なら大人しくさせる気があって尚且つ面白い話でも聞かせてくれれば考えなくもないが……今は結構急いでんだよ。俺はともかく他の連中がどうなってんのかもわかんねえのに」

 

「なるほど、ならばそれを教えてやろう。ついでに質問があればそれにも答える。さらにさらに面白い話も聞かせてやろうか?それでお前が留まるならそのくらいの苦労は惜しまないが」

 

「…………ちっ。言う事を聞くのは癪だが現場を知れるってんなら教えろ。だが状況によっちゃ力尽くでもここから出るからな」

 

「構わないさ」

 

ほら、と藍が指を鳴らすとスキマ空間の一部に三つの映像が流れ始めた。

一つはレミリアに抱えられたフラン。

もう一つは耀と黒ウサギとレティシアに加え、サンドラと美鈴にパチュリーと咲夜が集まっていた。

残りの一つには飛鳥とジンが走っていた。

 

見知らぬ存在の姿を確認したが十六夜の目に警戒の色は無い。というかフランを抱きかかえている少女の顔を見て敵意も悪意も皆無だと分かったのだろう。その証拠に僅かに十六夜が安堵の溜息をついたのを藍は見逃さなかった。当然それについて聞くほど不粋な性格ではないので放っておいたが。

 

「……それで、なにか聞きたい事はあるか?フランドールの異常が治った今、恐らく直にここから出られるだろう。そこまでなら質問全てに正直に答えると約束しよう」

 

譲歩してやる、と藍は十六夜に問いかける。そんな藍に十六夜は不信感を隠しもせずに視線をやる。

先程までの対応からしてもあちらがこちらを見下しているのは分かりきっていた。それ以前に自力での脱出は出来ないと思っているはずだ。それなのに与える必要性のない情報を与え、さらに無償で情報を差し出そうとしている。

見ていれば分かるが、相手は交渉事も素人ではないだろう。素人ならそのまま何もせずに放っておいたはずだ。なのにわざわざ情報という餌を与えて来た。そこまで俺をここに留める必要があるのか。

それとも相手の言葉を信じるなら主が怖くて情報を流してしまっただけなのか。

どちらにしろ時間がない。質問をせずに終わらせるなど愚の骨頂だ。十六夜は一応の方針としてひたすら質問する手に切り替えた。

 

「簡潔に答えろ。俺を閉じ込めた理由はなんだ?」

 

「お前を死なせないためだ」

 

「あ?」

 

いきなり躓いた。それもそうだろう。初対面の奴に貴方は私が守るから的な事を言われてもピンと来ないどころか警戒心をうなぎ上りにさせるだけだろう。

 

「…おい、いくらなんでもその理由はねえよ。お前らが俺のどこまで知ってるか知らねえが、俺があの班ロリに殺されるだと?そんな笑いじゃ時間は稼げねえよ?」

 

「斑ロリ?………ああ、黒死斑の魔王(ブラック・バーチャー)か。違う、お前を殺す筈だったのはフランドールだ。魔王じゃない」

 

「!」

 

まただ。また躓いた。嘘だと一蹴することは出来る。だが目の前のこいつも自分の勘もこれが冗談じゃないと訴えてくる。きっとこれは本当なんだろう。

 

「フランドールは狂気に侵されれば忽ち周囲を破壊する。しかし紫様、我が主はフランドールの内包する狂気が今までよりも少量であることに気づいた。つまり、今のフランドールの状態はいつにないチャンスだったのだ」

 

「チャンスだと?」

 

「ああ。お前達ノーネームとフランドールにとってのチャンス」

 

すなわち、と続ける。

 

 

 

 

 

「フランドールがお前達と決別するか否か、というな」

 

 

 

 

 

 

度々こちらの意表を突いてくる相手に苛立ちがこみ上げる。顔には出さない。きっと今も自分は飄々とした表情を僅かしか崩していないだろう。頭もいつも通りに働いている。

普通に聞いている限りではフランを迎えにきたこいつらが無理矢理フランを連れ帰ろうとしているように聞こえてくる。

…だがこの違和感はなんだ?

その言葉に嘘は見当たらないが自分の推測が合ってるとは思えない。いや、殆ど合ってるが完答ではないといった感じだ。そもそも無理矢理連れ帰りたいならそれこそ俺をフランと戦わせればいい。(死ぬ気は毛頭ないが)こいつら曰く俺はフランに殺されるらしいからな。仲間を殺したとあればフランは自分から出て行くだろう。ならわざわざ俺を助けた理由はなんだ?こんな、ある意味邪魔したようにしか見えない行動でノーネームに恩を売るなど出来ないだろう。恩を売るなら俺が死にかけた所を助けた方が余程いいはずだ。

そんな十六夜に構わず藍はどんどん話を続けて行く。

 

「フランドールは妖怪として未成熟だ。力の加減こそ姉に教わっているが、己の狂気を抑えきれず狂気が溜まれば軽々しく『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』を振りかざす。そしてその力は、あらゆる生物を殺しうる力を秘めている。特に人間などにはな」

 

目の前の逆廻十六夜、スキマ越しの春日部耀、久遠飛鳥、ジン=ラッセル、十六夜咲夜。他にも博麗霊夢や霧雨魔理沙、東風谷早苗などの人間にとって身体を壊されることは死に直結するといっても相違ないだろう。たとえ魔法が使え、時を止められ、奇跡を起こせるといっても、だ。

 

「それはお前にも言えることだ。ギフトを無効果するギフトを持って慢心しているのかは知らないが、それも所詮魂から出ている代物だ。いや、こちらでは霊格だったか?…まあいい。お前のギフトが魂ではなく肉体に干渉したり、物理的な干渉を与えるギフトに効果が薄い事は今のお前が示しているだろう」

 

スッと十六夜の右腕を指差す。その手はヴェーザーとの戦いで拳が砕け、肉は内側から爆ぜたように傷ついている。十六夜の一撃と敵の全力の一撃。

全てのギフトを無効に出来るならそもそもここまでの傷はつかないはずだ。第三宇宙速度を平気で移動する十六夜に石つぶてを無数にぶつけたところで傷一つつくわけがないのだから。つまり十六夜は肉体という()は魂というギフト(中身)に影響を受けずらいのだ。

だがそれは全ての人間に言えることだ。幻想郷の蓬莱人を思い起こせばよく分かるだろう。蓬莱人は死に絶えた時に古い肉体を捨てて魂を本体とし、別の場所に新しく肉体を作り出す。

簡単にいえば肉体とはまさしく魂を納める容れ物でしかないということだ。熱いお茶を入れた湯呑は中身の影響によって熱くなるが、何も入れてない湯呑と同じように叩けば割れる。

肉体は魂に最も影響を受けるが、最も影響を受けにくい存在でもあるのだ。

 

閑話休題

ようするにフランの能力を十六夜の肉体に使ってきゅっとすればあっさりどかーんされるわけだ。当たらなければどうということはない精神でも飛行能力のない十六夜にはきついだろう。そんな能力相手にするならば空を飛べない十六夜よりは、空を駆け半端でも吸血鬼のギフトを使える耀の方がフランの相手に適していたというわけだ。死ぬ可能性はあったが。

 

「それに加えお前達はフランドールの狂気を抑える方法がない。他にもフランドールがこれからも友を傷つける可能性があることも示しておきたかった。それをお前ら人間は受け入れられるのか、それをフランドール自身が受け止められるのか。それを知ることが今回の出来事の全てだ」

 

それを最後に言葉を切る。約束通り嘘は言ってないだろう。言葉に歪みも淀みも存在せず、何故かやりきった感を醸し出す藍。

 

……が、真上に叩きつけられた。

 

「きゃん!」

 

「きゃんじゃないわよ、きゃんじゃ。本当に馬鹿正直に話してどうするのよ」

 

「…ゆ、紫さま」

 

いつの間に現れたのかスキマ空間にもう一人の存在が追加された。上に寝そべった藍の尻尾を乱暴に弄りながら文句を付け始める。

 

「私は言ったわよね?逆廻十六夜を見ていなさいって。一言たりとも対象と歓談してろなんて言ってないはずなんだけど?ねえ?」

 

「も、申し訳ありません紫様!ただそこの人間が脱出しそうになったので時間稼ぎをと…」

 

「それならスキマバンジーでもさせてあげなさいな」

 

「そんな言葉知りません!あとそろそろ尻尾離してください!」

 

「おい」

 

「「?」」

 

紫に尻尾を弄られながら顔を向ける藍と弄りながら顔を向ける紫の動きがシンクロする。

というか勝手に変な場所に放り込まれ、そこに寝転がされ、ここにきて放置ときたもんだ。そろそろ堪忍袋の尾がきれても問題ない気がしてきた。

やろうと思えば脱出できる場所にわざわざ留まったのも口の軽い九尾の妖怪から話を聞き出すためだ。始めこそ戸惑ったが無理矢理ならばここを壊すのは容易だ。そして利益がないならとっととこんな場所は出て行きたい。十六夜の本音だった。

 

「身内ばなしもいいが今はこっちと話をしろよ。こちとらある意味誘拐されたのにおとなしくしてやってる優しい優しい人間様だぜ?ちょっとは俺に言うことくらいあんだろ」

 

「ああ、そうだったわね。忘れてたわ」

 

ニコッと笑うその姿が自然にイラつきを誘発する。だがそんな行為ですら十六夜の警戒心を刺激した。

こいつはさっきの狐とは格が違う。直感が訴えかけてくる。十六夜は一瞬の動作も見逃さないように紫を見つめ……突然の浮遊感に襲われた。

 

「忘れててごめんなさい。もう帰っていいわよ」

 

「って、ふざけんなゴラァァァアアア!!」

 

エコーする叫びにヒラヒラと手を振り見送る。そして十六夜の姿が消えたところで紫は藍へ視線を移した。それと同時に寝転がっていた藍は膝をつき、従者の姿へ早変わりした。

 

「……それで、あなたの目から見て逆廻十六夜はどう見えたかしら?」

 

「はっ。頭の回りやギフトはやはり驚嘆に価すると思われます。正面から戦うとなると私では少々厳しいかと」

 

「ふふ、そうね。正面からなら私も危ういかも」

 

「……お戯れを」

 

藍は紫の仕草を一つ一つ見逃す事なく目で追っていた。従者たるもの主の思いを読み取り言われる前に動けるようになるべきだからだ。…まあ未だに主の考えを然程も理解できていない自分もいるわけだが。

それでも今紫が考えている事の二つはわかる。

一つは必ず幻想郷の未来の為になる事だということ。

そしてもう一つは……逆廻十六夜を殺すだけならどうにでもなるということ。

 

主の考えは理解できない。もしかしたら己の考えは間違っているのかもしれない。だが、思わずにはいられない。

もしもあのまま逆廻十六夜をフランドールと戦わせていたらどうなったか。

本当に逆廻十六夜は死んでいたのか。それとも……。

 

思考の渦にハマる前に藍は考えるのを辞めた。主の考えに間違いはない。全ては幻想郷の為、そして我が主の為に動けばいい。

そう改めた藍は更に小さく頭を下げた。

 

 

 

 

 




何言ってんのお前?みたいな目はやめてね?作者も同意見だから。
頭の中では色々出来てるんですよ。紫の目的も考えついたし、これからの路線もあの話で批判が来るとかも考えついてはいるんです。
あとこれからもまた不定期更新になりそうなのでそれだけは書いときます。

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