問題児と悪魔の妹が異世界から来るそうですよ? 作:亡き不死鳥
ついでに前回の前書きに今回の話で幻想郷組みが出るって書いたのも全部テストって奴の仕業なんだ。
というわけでどうぞ
『耀も友人は大事にしろ。外で生きていく時、それは最も大事な財産になる』
これはかつて私のお父さんが言った言葉だ。
木彫りの首飾りを貰った日、グリフォンの事を話して貰った日、そして…二年後に迎えに来ると言った日に。
私はその日、初めて自分の足で歩いた。初めて三毛猫と話すことができた。
退院してからは驚きの連続だった。
病院の外を踏みしめた足が、異様に重かったことを覚えてる。
近所の犬達を集めて一緒に追いかけっこをしたことを覚えてる。
水族館のイルカショーで、イルカとお話しながら背に乗せてもらったことを覚えてる。
『次は二年後の今日。満月の夜に迎えに来る』
私はその言葉を信じて様々な獣達と絆を深め、出会いを重ね、自分自身を鍛えた。獣の友達を作るのは新鮮で楽しかった。山に行き、海に行き、そこにいる獣達と触れ合えることは嬉しかった。
そして二年後
父は……迎えに来なかった。
その日は私の人生の中で一番泣いた日だったと思う。空に浮かぶ十六夜の月を睨みつけ、そばに居た三毛猫を抱きしめ、涙が枯れるまで泣いた。
そんな経験をしたからこそ、私はあの手紙の誘いに乗ったんだ。
『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる、その才能を試すことを望むならば、己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、我らの“箱庭”に来られたし』
あの世界の何処かにいるはずの父親を捨ててきた。
友達である獣達を捨ててきた。
家にある全てを捨ててきた。
私の生きてきた全てを、あの世界に捨ててきた。
その全てが『今』に繋がっているんだとしたら、私はその『運命』を信じてみたいって思ったんだ。
☆☆☆
対峙するフランと耀。サンドラをなんとか説得し離れてもらったが、これからどうしようと耀は考える。
ルール無用で戦った場合自分は直ぐに死んでしまうだろう。それではダメだ。今のフランは普段のフラン以外の何かに侵されている。その状態で誰かを殺したことが分かれば、きっとフランは泣くだろう。
そんなことはさせない。そのためにはこの
思考の渦に入り込みそうになった耀。すると、まるでそれを助けるかのように空から二筋の光が耀とフランの目の前に降り立った。
「これは…」
『ギフトゲーム名“game of barrage”
プレイヤー一覧
フランドール・スカーレット
春日部耀
フランドール勝利条件 春日部耀の破壊
春日部耀の勝利条件 フランドールの身体の一部への接触
上記ルールに則り、“フランドール・スカーレット”“春日部耀”の両名はギフトゲームを行います』
「イザ兄の時の…」
フランが小さく呟く。耀は知らないが、火龍誕生祭に訪れてから直ぐにフランと十六夜はギフトゲームをしている。その時に使われた個人間のギフトゲームでの契約書類だ。
「……これなら」
フランがギフトゲームではなく契約書類を眺めている間に耀は再び頭を働かせていた。
このゲームは耀が現場もっとも求めていたものだった。フランが耀を壊そうとするのはもう仕方ない。それが避けられないことは既に理解していた。だから本気で殺しに来るフランと戦う事は覚悟していた。しかしそれには全くと言えるほどに足りないものがあった。
それは勝率だ。フランの力は十分に理解している。フランから貰った吸血鬼のギフトの力を無限に使えるというだけで相当な脅威になる。それに加え無限に放たれんばかりの弾幕。単体で撃破するには、圧倒的にスペックが足りない。
だがこれならどうだ?触れるだけならまだチャンスはある。先ほどの経験からも一方的に嬲られるだけという事にはならないだろう。少なくともさっきよりは数倍勝ちの目が出ている。
ならばあとはフラン次第だ。耀はフランの意思を確かめる為に契約書類からフランへ視線を移す。
丁度フランも此方に目を移した。ギフトゲームは両者合意によって始まるのだ。
「……イイよ。こレで遊ボう。だかラ、簡単ニ壊れナいでネ?」
「…約束する、絶対に負けない。そして、絶対にフランを救ってみせる!」
「……ソう。なら…」
グニャリと顔を歪ませ、狂った笑みを浮かべる。
「ワタシハ耀をゼッタイにコワシテミセル」
禁忌『禁じられた遊び』
☆☆☆
「…仕掛けは上々。といったところかしらね」
ハーメルンの街の一角。強大な力がぶつかり合った後のような瓦礫の上で、夜にも関わらず日傘をさし佇んでいる女性、八雲紫は呟く。フランと耀にと作られた契約書類が受理されたことを確認し満足気に頷いた。
「あとは……貴方だけよ、逆廻十六夜」
緩めていた目元に真剣さを纏わせ紫は十六夜を見る。そこには右腕を抑え脂汗を流した十六夜の姿があった。右の拳は砕け、肉は内側から爆ぜたように傷ついている。
その腕と周りの風景を見るだけで魔王の臣下との戦いが激しかったことが分かるだろう。
「ちっ、狙ったように来やがって。真打ち登場ってか?」
普段は飄々とした態度を崩さない十六夜も今回ばかりは真剣な目をしていた。
先程まで十六夜は
しかも今はまだゲーム中。ゲームそのものの時間制限はあるが魔王を相手に他のメンバーが無事でいる保証はない。だからとっとと突破したいが目の前の奴の実力は未知数。そんな奴が敵なら面倒事が増えることになる。そうなるとさらにノーネームの危険度が上がってしまう。
だからここはとっとと話を聞いて邪魔するなら突破。邪魔しないならとっととどいてもらおう。
「で、俺に何のようだ?」
「…そうね、単刀直入に言うと貴方にはしばらくここに居てもらうわ」
「邪魔するほうね。んじゃ突破だゴラァ!」
聞くや否や紫を跳び越えるように跳躍した。その速さは腕を負傷しているとは思えない、目にも留まらぬスピードだ。
それに対して紫がしたことはたった一つ。ただ手を横に振るうだけ。たったそれだけで十六夜は数瞬の間にできた目玉が蠢くスキマに呑み込まれた。
「ふぅ。これで懸念事項は消したわ。…藍」
「ここに」
十六夜を閉じ込めるという簡単なように見えて難しい事を難なくやり終えた紫の呼び声に、即座に返答した者がいた。紫に藍と呼ばれた、九本の尻尾を揺らし金色の毛色をした狐の怪。俗にいう九尾の狐の妖怪である。
「十六夜を見ておきなさい」
「御意」
投げやりにも聞こえる司令に藍は不満を零す事なく、了承の意と礼によって返答し、足元に現れたスキマに落ちていった。
「…………ふぅ」
誰も居なくなった荒地で、紫は一筋の汗を流し溜息を一つついた。
☆☆☆
「アッハハ!ホラホら、しッカりヨケなイト壊れチャうヨ?絶対に勝ツンじャナカッたの?」
「ハァ…ハァ…」
フランの放つ十字架と大玉弾幕をくっ付けたような弾幕は、一見避けやすく見えるが安全に避けていると思った時に後ろから首を刎ねようとしてくる。進めば後ろから、 戻れば前から。何もせずとも左右から死が迫って来る。
よって耀は決定打どころか現状維持すら難しい状態だ。とはいえ現状維持をしたところで耀が不利なのは確定的に明らか。だがこの状態を打破できる方法が今の耀には存在していなかった。
「もウ諦メタら?495年壊しツヅけテキタ私に耀ジャ勝テなイヨ」
対するフランは余裕綽々。全く同じ弾幕を放ち続けるだけだった。速さはある。力もある。危機察知能力もあるだろう。それでも耀には勝負を傾かせる飛び出た才がないのだ。
「…諦めないよ。だって、約束したもん」
友達を作りに箱庭に来たのに、せっかくできた友達の一人も救えないでどうするのか。そもそも耀にとって『約束』は特別だ。今でも父と交わした破られた約束の悲しみを覚えている耀にとって約束を破られた、約束を破ったというのは耐え難い苦痛だった。
改めて勝とうと決意するもやはり現状の打破は難しい。強い思いも自分が弱ければ果たせないのだ。
(……どうしよう)
頭に弱気な言葉が溢れ出す。無理だ無茶だ無謀だ。そもそも命懸けで戦ったことなんて箱庭の外ではまるでない平和な一般人だったじゃないか。
人ならざるモノとの戦いで命を賭けるなんて……
『対等な友人になりたいのなら、耀の本気を全力でぶつけなければいけない。……それこそ、命を賭ける程の本気を』
……何故だろう。弱気な言葉に混ざって父の言葉が頭に浮かんで来た。
そう、あれは父がグリフォンの話をしてくれた時、グリフォンと友達になりたいと言った私に父が険しい顔で向けた言葉だ。
そもそも分かっている筈だった。人間が人間以上の存在を相手にするのに生半可な覚悟で生きていられるはずがないなんて、白夜叉の店でグリフォンとのギフトゲームで理解したはずだった。
それは、フランが相手でも変わらない。元々フランはグリフォンのような超常的な存在だ。それを普遍的な人間が友達になるのに、ただ仲良くなれるなんて甘い話があるわけがない。
……きっと、このゲームは私とフランとの友情を測るゲームだ。このゲームに勝つには、私の命を賭けるしかない。
……だったら
「……今からちょっとだけ、私の命を賭けてみようかな」
逃げる為に動かしていた足を止め、フランを見据えた。つまらなそうな顔をしていたフランは耀の目を見るや嬉しそうに笑い、一層弾幕の濃さを増してくる。
普通なら視界を覆い尽くす死の弾幕に身が縮み上がるかもしれない。だが耀にはそんなフランの態度が嬉しく思えた。少しだけ、ほんの少しだけ、フランに認められたような気がしたから。
………さあ、覚悟は決めた。足掻いて死ぬか、みっともなく勝つか。
耀は弾幕の中に飛び込んだ。
弾幕自体はさっきまでと変わらない。フランに近づけば近づくほど密度が上がってくる。
襲いかかる大玉弾幕を身を捻じって避ける。避けきれなかった左腕が僅かばかり削られた。
斬りかかってくる十字架を無理矢理掻い潜る。掠った右足から鮮血が噴き出てくる。
少し進むだけで身体中に激痛と血が増えていく。
友達と真っ向から向かい合うのはこんなに痛いものなのか。
友達に歩み寄るのはこんなに怖いものなのか。
視界が霞む。激痛が走っているのに瞼は鉛のように重い。匂いがうまく嗅ぎとれない。耳がうまく聞こえない。空を踏み締める感覚が弱まってくる。
そんな状態で、フランの弾幕が避けられる筈がなかった。
耀は正面から迫り来る大玉弾幕を他人事の様に眺め…
そして……耀は弾幕に呑み込まれた。
本当に!本当に次回幻想郷組みが出ます。
余談ですがこのあとのストーリーを考えてたら紫様がチート臭くなりそうです。