問題児と悪魔の妹が異世界から来るそうですよ?   作:亡き不死鳥

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あれれ〜?バトルパート突入前っぽく前回終わらせたのにバトルパートに入れなかったぞ?

話の流れ的に幻想郷組は次回出します。


小さな少女の抱える願い

 

 

 

 

 

春日部耀は焦っていた。ここ一週間で遭遇した手紙を届けてくれたり、黒死病を治してもらったりした人が今度はフランの、友達の危機を教えてくれた。

近くの建物を蹴り飛ばし、一目散にフランの元へと向かって行く。だが速さに反して耀の気分は落ち込んでいる。耀の動物的な第六感がこの先に進むことに対する警報を鳴らしているのだ。

それを耀は理性で押さえつける。なにせこの先にはフランと黒ウサギが魔王と戦っているはずだ。なら、ここで逃げることなんてできない。

 

耀は更にスピードをだして走り続ける。そしてようやくフランの姿が見えるところまで辿り着いた。

そこではフランが宙に浮かび呆然としていた。虚空を眺め何かを求めるように手を前に出している。どうやらフランは無事なようだった。

だけど、どこか違和感がある。フランの存在感はこんなに大きかった?フランはこんなに怖かった?

フランは……こんなに血の匂いが強かった?

「……フラン?」

 

「…耀」

 

フランが振り返る。その顔に、服に、血を貼り付けながら。瞳に狂気を宿らせながら。まさに、悪魔のような笑みで…

 

 

「あ〜そ〜ぼ♪」

 

 

 

私に弾幕が放たれた。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

ハーメルンの街の一角、そこでは二人と一つの演奏会が開かれていた。“ハーメルンの笛吹き”。かつて百三十人の子供達を魅了し、連れ去ったと言われる音色が街中を歌うように響いている。その音に耳を傾けるのはノーネームの久遠飛鳥と鋼の巨兵のディーンだけだ。

『一曲の演奏でディーンを魅了してみろ』という飛鳥からの挑戦をラッテンが受け、始まったこの演奏会。どうやらそれも終幕を迎えたようだ。

 

「一曲分……という約束だったものね。夢は見られましたか、お客様?」

 

「……ええ。とても素敵な夢だったわ」

 

勝者はノーネームの飛鳥。ラッテンはディーンを支配できなかった。それでも、ラッテンは晴れやかな気分がした。この一曲は自分の本気の曲だった。火蜥蜴を唆す為の適当な曲ではなく全身全霊、渾身の一曲だ。それでダメなら、自分は完全に敗北したことになるのだから。

 

「あーあ……負けちゃった。ま、さっきの一撃で殆ど致命だったんだけど。加えて全力の演奏とかやっちゃったもんだから……悪魔の霊格が保たなくなったみたい。……じゃあね、可愛いお嬢さん。ご静聴感謝します♪マスターによろしくね」

 

「こちらこそ。素敵な演奏をありがとう」

 

ラッテンの姿は風と共に消えた。後に残ったのは先程までラッテンが演奏に使っていた笛のみだ。

 

「……また聞きたいものね」

 

笛を拾い上げようと手を伸ばす。しかし、その手に笛が触れる前に突如地面に現れた裂け目に笛が呑み込まれてしまった。

驚愕に目を見開くもそこには既に何もない。それでも先の裂け目は見覚えがあった。あれは休戦期間にあの日傘のおばさんが出していた裂け目だ。

 

「出てきなさい!いるんでしょ!?」

 

誰もいない場所に向けて怒鳴りつける。するとそこから裂け目が生まれ、中から人が出てきた。忘れもしない、ディーンを服従させた時に現れた胡散臭いおばさん。

 

「あら、覚えていてくれたのね」

 

「ええ、あなたのようなおばさまはそう簡単には忘れられないもの」

 

「………本題に入りましょう」

 

引き攣りかけた顔を扇子で隠し、話を無理矢理変える。女性に年の話はタブーなのです。

普段のポーズで落ち着いたのか、軽い雰囲気を吹き飛ばし飛鳥を見据えた。

 

「久遠飛鳥。貴女は今しばらくここにいなさい」

 

「…どういうことかしら?残念だけどそれは聞けないわ。これから私が行くところには魔王と仲間が戦っているの。私だけこんなところでのんびりしていられないわ!」

 

「その魔王なら既にフランドールが踏破しました。ですが今はフランドールが暴れています。春日部耀が相手を努めていますが長くは保たないでしょう。

そして……貴女では勝負にもならないわ」

 

今の飛鳥の強さはディーンにある。肉弾戦が苦手な部分をディーンに補わせることが可能になったからだ。

しかしディーンの巨大さはフランドールにとってただの当てやすい的にすぎない。打てば響き、打ち過ぎれば壊れるディーンに一発弾幕に当たれば死ぬ可能性のある飛鳥にフランドールの相手はつとまらない。まだノーネームのメンバーに死んでもらうわけにはいかないのだ。

 

「……お断りよ」

 

だからこそ、力ずくも仕方ないだろう。元々呼び出された全員は問題児。いいかと聞かれてはいと答えないのは分かっている。

 

「私はね、仲間が傷ついている間に自分だけのうのうと休んでいるなんて死んでもごめんよ!無理矢理にでもそこを通してもらうわよ。ディーン!」

 

「DEEEeeeeEEEN!!!」

 

雄叫びをあげ戦闘の意思表示をする。その姿は勇ましく、仲間の為に戦おうとする姿は気高かっただろう。

 

しかしそれは勝敗にはなんの影響も及ぼす事はない。仔犬が吠えても人は逃げないし、窮鼠が噛んでも猫が死ぬわけがないのだから。

当然、人間の遠吠えに八雲紫は揺らがない。

 

「私が起こすまで寝ていなさいな。

 

 

 

『夢と

 

 

 

 

現の

 

 

 

 

境界』」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー暗転ーーー

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

突如始まったフランと耀の弾幕ごっこ。始めこそ混乱していた耀だったが、現在はかなり善戦していた。

イルカのソナーによって弾幕の位置を確認し、犬の嗅覚でフランの位置を捉える。ネズミの動体視力で弾幕の軌道を確かめた後、グリフォンのギフトを使いこなし弾幕を避け続ける。数多くの動物の特性を生かしフランの弾幕に対処しているのだ。

 

「わ〜。耀っテ弾幕ごっこうマいんだね!」

 

「…そろそろなんで弾幕ごっこが始まったのか教えて欲しいんだけど」

 

「あレ、言ってなカった?」

 

「言ってない」

 

「んー、さっキまで魔王様で遊んでたんダけど壊れちゃっタからさ。耀も壊レたらやだから今のうチに遊んでおこうと思ッて」

 

「……?壊れたら嫌なのに遊ぶの?」

 

「…?友達ハ一緒に遊ぶもノでしょ?」

 

「「……??」」

 

互いに首を傾げる。結構余裕そうだ。

だが、それらを看過できない者がいた。前回忘れ去られていた黒ウサギを助けに行っていたら、いつの間にか魔王が消えていて、ノーネーム同士で争っている姿を見せられたサンドラだ。

 

「貴女たちは何をやっているの!?今はそんなことをしている場合じゃない!」

 

思っていたより遠くに飛ばされた黒ウサギを追いかけていたので、何故二人が争っているのかわからない。もちろん耀もわからない。チラッと耀がフランに流し目を送ると、それを目敏く見つけたサンドラは標的をフランに定めた。

 

「それで、なんでこんなことをしているの!貴女たちは仲間でしょう!?」

 

「うん、そウだよ。だから友達同士で遊んデたんじゃん」

 

「時と場所と状況と相手を考えて!遊ぶくらいいつでもできるでしょ!?」

 

一見特に突っかかることはないセリフ。だが、何処に逆鱗が触れたのか笑っていたフランから表情が消えた。その表情から得体のしれない不気味さを感じ、サンドラがたじろぐ。

 

「いつでもできる?……ううん、それは無理。少なくとも、前の世界じゃ無理だった」

 

突然意味がわからない言葉にサンドラは眉を顰める。それに耀もフランの言葉の意味がわからない。

耀は箱庭に来た日の夜、フランが悩んでいる所に出くわし(無意識にだが)フランの悩み事を解決した。その時にフランは元の世界の事を嬉しそうに語っていたのだ。

 

笑顔で優しい門番の紅美鈴。

 

魔法使いで勉強を教えてくれるパチュリー・ノーレッジ。

その司書で、ドジだがフランをよく気にかけてくれる小悪魔。

 

身の回りの世話を全て引き受けてくれるメイド長の十六夜咲夜。

 

そして、厳しくも優しく、常に自分の事を考えてくれていたフランの姉、レミリア・スカーレット。

 

他にもよく図書館に潜入してくる魔法使いの霧雨魔理沙や、フランに弾幕ごっこでは勝てる気がしないとまで言わせた巫女の博麗霊夢のことを本当に嬉しそうに語っていた。

それなのに、なんであんな顔をするのか、耀には理解できなかった。

 

「確かにさ、よく魔理沙や霊夢が紅魔館にきて一緒に遊んでくれてた。始めはそれでもよかったんだよ?でも、何回も魔理沙と霊夢が紅魔館に来て分かった」

 

一旦言葉を区切ると、瞳に一層哀愁を漂わせながら小さく言った。

 

 

 

 

 

 

「魔理沙も霊夢も、私に会いに来たんじゃなかった」

 

 

 

 

 

 

顔を俯かせ、震える声で言葉を紡いでいく。

 

「魔理沙が紅魔館にくるのはいつもパチュリーに会うためだった。霊夢が紅魔館にくるのはいつもお姉様に会うためだった。偶然、たまたま、奇遇にも、私が二人に会って弾幕ごっこをしようと言ったからしてくれただけ。

……所詮私は二人にとって、友達の妹か友達の友達の妹ってだけ。二人にとって私は友達じゃないんだよ。偶然居合わせたから弾幕ごっこをする、通りすがりの妖怪と同じ。

……そんなの嫌だ。

私も私に会いに来てくれる友達が欲しい。私と話に来て、私と遊びに来てくれる友達が欲しい」

 

「…それなら、私達がいるよ?」

 

フランの独白に耀が口を挟む。まるで今の言い方では自分がフランの友達ではないと言われた気がしたから。現在よくわからない理由で弾幕ごっこをしているが、それぐらいでは自分とフランが友達でないなんて言わせない。

そんな思いを目力に込めてフランを見る。

それに対して、フランは三割の歓喜。そして、七割の諦めを持って答えた。

 

「……そうだね。箱庭に来た一番始めに、皆が遊んでくれた時は凄く嬉しかった。お姉様のじゃない。パチュリーのでもない。美鈴でも、小悪魔でも、咲夜でもない。 私の友達が出来たんだから」

 

でもね、そう続ける。三割あった歓喜は消え、全てが諦めに染まった瞳で耀とサンドラを見つめる。

 

「…壊しちゃうの。私の大切なもの、たくさん。

お姉様に貰ったヌイグルミは寝て起きたら壊れてた。妖精メイドがご飯を持って来てくれた時に、その妖精メイドを壊しちゃった。私が暴れた時、紅魔館の半分を壊しちゃった。

………だからきっと、私は友達も壊しちゃう」

 

悲しみ、不安、恐怖、そして、微かな期待。けれどもその大部分は狂気が覆っている。縋るように、媚びるように、祈るように、フランは耀に問いかける。

 

「だかラね、遊ボ?私が壊レるか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「耀ガ壊れルまデ」

 

 

 

 

 

 

 

 





注:読まなくても結構です。後書きを使って今回の何故フランが壊してしまうから遊びたいと思ったかを軽いたとえ話で書こうと思いました。

少しでもフランの気持ちをわかって頂けたら幸いです。


☆☆☆



貴方は運転が下手なドライバーです。以前からどんな事をしても欲しかった車を手に入れる事が出来ました。

しかしその車は一週間以内に必ず壊れてしまう事が分かりました。そんな時、貴方はどうしますか?

きっと一週間以内にできる限りこの車でドライブしたいと思うのではないでしょうか?
しかし、このドライバーは知りません。自分の運転がその車を早く壊してしまう事を。思い出を作りたいから乗ったのに、その行為が逆にその車の終わりを早めてしまうのです。



☆☆☆




もしその車が貴方の大切なもの、大切な人ならどうでしょう?

大切な人と思い出を作ろうとすると、その人は早く死んでしまいます。ならばその人と思い出を作らないで、死ぬまでその人と関わらないことが、貴方には出来ますか?

フランにとってその大切な人は耀でした。
フランは思い出を作ることに決めたのです。




貴方なら、どちらを選びますか?




そんなたとえ話です。お目汚し、申し訳ございません。

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