問題児と悪魔の妹が異世界から来るそうですよ? 作:亡き不死鳥
マジすんませんっしたぁ!!
狂気スイッチ『弱』『中』『強』
↓
『弱』
ーー私だけの友達が欲しかった。
ーー私だけに会いにきてくれる友達が欲しかった。
ーーお姉様のじゃない。私の、私だけの友達が。
ーー壊れない物が欲しかった。
ーー私には壊せないモノが欲しかった。
ーーそれさえあれば、きっと私は自分に怯えなくて済むから。
ーー壊せるモノが欲しかった。
ーー壊しても怒られない。そんなモノが欲しかった。
ーーそれがあれば、きっと私はーー
☆☆☆
身体が軽い。まるで身体中に風でも纏っているようだ。
夜空が明るい。月の周りの星々がとても輝いて見える。
音が透き通っている。周りの僅かな音も逃さんと耳が振動をかき集めているようだ。
世界が変わって見える。
ああ、なんて、なんて壊れやすい世界なんだろう。
目の前の黒ウサギも、空に浮かんでいる魔王も。
そのさらに後ろの月さえも、掴んで握って潰したくなる。
さあまずは何を壊そう。黒ウサギ?魔王?ここら一帯を消し飛ばすのもとっても楽しそう。
でも、まずは準備運動。ちょっとずつ、ちょっとずつ壊して、最後はまるごとぶっ壊そう。
だから黒ウサギ、
「じャま」
私の顔を覗き込んでいた黒ウサギを払いのける。吹っ飛んで何処かの建物に突っ込んだようだが、そんなものはどうでもいい。
まずは前座、魔王を壊そう。
ツメを剥ごうか?頭を潰そうか?内臓を全部取り出すのもいいかもしれない。あァ、想像スるだけデ楽しクなってキた。
「キャハ♪」
フッとフランの姿が消えた。跳躍と同時の高速移動。まるで瞬間移動のようにペストの背後にまわる。それに気づいたペストはフランの変化に違和感を抱きつつも先程までと同じように黒い風を纏った。しかし、黒ウサギの雷とサンドラの炎を同時に防いでいた風をフランは直接握り潰した。
「…!貴女、さっきと何か変わった?」
「ぜんゼん変わっテないよ?それヨりも貴女ノ目、一個頂戴?」
ペストの返事を聞くことなくフランはペストの目玉に向けて手を突っ込もうとする。再び風で防ごうとするもフランは難無く死の風を壊していく。
魔王であっても死なない訳でもなければ痛みも感じる。さすがに目を抉られるのは勘弁したいのでペストは一旦フランから距離をとった。
だがそんなことを今のフランが許すはずもなく、逃げる端から追いかけていく。
「…鬱陶しいわ」
今度はペストが攻勢に出た。振り向きながら防御の壁にするのではなく、攻撃の為にフランにまとわり着かせた。本来なら即座にその命を吸い取る死の風だがフランは鬱陶しそうに払いのけようとしている。
「いくら吸血鬼が不死性が高いと言っても、ひたすら『死』を浴び続ければ動けないでしょう?」
ペストの言葉を証明するかのように少しずつフランの動きが鈍っていく。がむしゃらに暴れようとしても上手く身体が動かせないようだ。
既に脅威は去ったと見たか、それとも単なる余裕か、ペストはフランに近づき顎を持ち上げた。
「この程度よ。吸血鬼が何をやっても、私のような『神霊』に勝てるわけないじゃない」
フランの目は敵意に満ちていたがペストには何も感じない。子犬に手を噛まれても怒る人間は少ないのと同じだ。このまま風に捉えておけば問題はないだろう。そう思って顎から手を話そうとして、フランの口が一気に吊り上がったのが見えた。
「あは♪アッはははハハははハハは!!」
バキン!
今まで拘束が解けなかったのが嘘のようにアッサリと風を壊し、ペストの首を掴み上げた。
「グ…、貴女、動けない筈じゃ…」
「何を言ッてるのカよくわかラないけどさァ…」
ニヒッとさらに口を細くして嘲笑を上げた。
「『死』ごトきがさぁ!『不死』に勝テるわけナいじゃん!バァァァカ!」
空いている手を握りペストの右目に向けて正確に拳を叩き込む。吸血鬼の力に破壊の能力が合わさり、グチュッと音を立てながらペストは地面に叩きつけられた。
「……この程度じャ終わらなイよね?魔王様?」
土煙でペストの姿は見えないが存在感は健在している。いや、むしろさっきよりも大きくなっている。
「……殺す」
ドス黒い風が土煙を吹き飛ばし、辺りを蹂躙し始めた。その風の発信源であるペストの右目は、どうやったのか元に戻っていた。
「手駒とかもうどうでもいいわ。お前は指の先まで殺し尽くす!」
今にもはち切れそうな青筋を額に浮かべ、フランを睨み殺そうとする。滲み出る風は余波だけで建物を削り、街に被害をもたらしていく。
しかしフランはそんなことは気にしない。街なんて後で壊せる。それよりもペストが目を潰したのにあっさり治せたのが今の問題だ。心臓を潰しても治るのか試してはみたいがそれは最期でいいだろう。今のフランは、壊しても治る存在をみると指の先まで壊してみたくなってしまう。その相手が魔王なら破壊対象として不足はないだろう。
「……ふふ、サイッコー♪」
そこからは暫く硬直状態が続いた。ペストは風でフランを斬り裂き、フランはペストを殴り抉りと攻撃は当たるが互いに一瞬で治してしまう。
だがそれも一時的。状況は常に動いて行く。
「んー、そろソろこっちもいっテみようか?」
先に仕掛けたのはフラン。手のひらに『目』が集まり始める。それはいつも通りでいつも通りに相手を確実に破壊する脅威となる。
「きゅっトして〜、ドッカーン!」
ソレはペストこ右腕を根元から弾き壊した。苦痛に一瞬顔を顰めるもすぐさま再生していく。
『神霊』。人が死んで神になったもの。神にとって信仰とは力だ。ペストはおよそ八○○○万もの信仰を得ている。それはそれはおぞましく恐ろしい『死神』を支える信仰だ。それを殺しきるのは容易なことではないだろう。
しかし、今の状況は面白くない。フランはそう考えていた。思考が存在するのは人間も妖怪も同じ事だ。壊しても壊れない。否、壊しても元に戻る存在というのはある意味フランが求めてきたものでもあった。だが壊れないモノがあると壊してみたくなるのは、破壊の力を持って生まれた妖怪の性か。
「……不死性が高くてモ『死』を浴び続ケれば死ぬんだっけ?」
向かい合うペストに問いかける。
試すつもりだ。『死』に『破壊』を浴びさせ続ければどうなるか。フランはよく考えてはいないが『殺し続ければいつか死ぬ』という結論に辿り着いた。
だから…
「身体の端かラ端までちョっとずつ壊してアげる♪」
突如、ペストの身体が三方から掴まれた。
「!?なに、こいつら」
「うフふ、禁忌『フォーオブアカインド』。そして……」
パチンと指を鳴らした。
ボッと分身のフランの身体から炎が溢れ出した。それはレーヴァテインの荒々しい破壊の力を携えた破壊の炎。それが分身と共にペストにまとわりついていく。
……当然、破壊の力を全身で受ける事になったペストは…
「がああああぁぁぁぁぁあああ!!??」
突然の激痛。まるで全身から皮を少しずつ剥ぎ取っているかのような錯覚。一時的ではなく永続的な痛みがペストを襲う。ツメが割れた感覚が、皮膚が破けた瞬間が、肉が千切れた感触が、神経を通して直に伝わってくる。
すぐに風を纏い防ごうとするがその風も悉く破壊されていく。
これは余談だが、ペストの象徴するものは言わずもがな『死』だ。『死』を与えるギフトを扱うペストは本気の時、『死』の力を強くする。しかし当然ながら『死』に質量も物量も力量もある筈がない。つまりは『死』のギフトそのものを破壊してしまえばペストのギフトはあまり意味をなさない。ペストにフラン。相性は最悪だ。
「………こレくらいじゃ、終わラないよね?魔王様?」
再び同じ問いかけをする。悲鳴を上げ、拘束から抜け出せない魔王に向けて問いかける。
これは多分私に対する意趣返しだ。抜け出せないフリをして近づいてきたら襲いかかるつもりなんだ。
それなら、とゆっくりフランはペストに近づいて行く。そしてすぐ目の前に立った。
さぁ、襲って来い。そして続きをやろう。貴女は魔王なんでしょ?魔王は強大で凶悪で、全力で叩き潰しても誰からも咎められることのない素敵に不適にゲスい奴なんでしょ?なら、もっと私と戦ってよ。そうしていれば…きっと私はーー
遂に炎を挟んで手が届くくらいの距離に来た。
結果ーーペストは拘束を抜け出せなかった。吸血鬼三人の拘束だけならまだなんとかなった。だが全身を襲う激痛に壊されても治ってしまうという、ある種無限ループの恐怖にペストは身体も心も弱っていた。
今のペストに、最後の抵抗をする力は、もう、ない。
「……………ナんデ?」
グチャッとペストの右腕が壊れた。
「ナんデコんなニ早く壊レちゃウの?こレじャあ私は……」
左腕、右足、左足、肩、鎖骨、股関節、踵、手のひら、膝と能力でひたすらに壊していく。壊していないと、本当に全てを壊してしまいそうだったから。その全てにはきっと、彼らも含まれているだろうから。
だから、今はただ壊すしか……
☆☆☆
「……ここまでのようね。
消えなさい。……『生と死の境界』」
☆☆☆
異変は突然やってきた。先程までずっと壊していたペストが消滅してしまったのだ。壊しても治る筈なのに、『壊れない』はずなのに。
スタッ。
……音が聞こえた。匂いがした。今の私が一番恐れている事が起きた。
「……フラン?」
「…耀」
ーー壊せるモノが欲しかった。
ーー壊しても怒られない。そんなモノが欲しかった。
ーーそれがあれば、きっと私は自分の大切なモノを壊さないで済むから。
ーーでも、本当は分かってもいたんだ。
ーーそれがあっても、きっと私はーー
「あ〜そ〜ぼ♪」
ーーきっと私は、壊し続けるってーー
作者はペストが大好きです。本当です。信じてください。
狂気『弱』
半端に理性が残っているのである意味対人戦では一番おっかないです。