問題児と悪魔の妹が異世界から来るそうですよ? 作:亡き不死鳥
境界壁・舞台区画。大祭運営本陣営、大広間。
ゲーム開始数十分前、大広間には数多のコミュニティの中から病魔に侵されなかった僅か五○○名が集まっていた。
その数は全体の一割に及ばない少数である。だがその中に『病魔に侵されたにも関わらず』この場に参加した者もいた。
「耀大丈夫なの?」
「全く問題なし。斑点もなくなった」
「おいおいどんな手品を使ったんだ?黒死病は超凶悪で歴史をみれば死んだ奴らは八○○○万にのぼるぞ?そんな代物を治すとはな」
「私は何もやってないけど……やった人には心当たりがあるかも」
「どんな人?」
「えーと、日傘を持っててフワフワした服を着てて、あとなんか胡散臭かった女の人」
「ほー、そりゃ是非とも会ってみたいもんだ」
結果的にノーネームは攫われた飛鳥以外の全員で参加することになった。それに加え十六夜がギフトゲームの謎を解いた事により皆の行動は決まった。
まず“サラマンドラ”と“ノーネーム”が魔王と戦う。ただし耀は病み上がりで無茶しないように大広間から距離のある場所のステンドグラスを割る役割を与えられた。
十六夜とレティシアはヴェーザーとラッテンを倒し、フランと黒ウサギにサンドラは
耀は少し文句を言っていたが今のところこれが一番勝率が高いとされた。
「頑張ろうね、フラン」
「…うん、そうだ、ね」
そして……ギフトゲームが再開した
ゲーム再開の合図は激しい地鳴りと共に起きた。
境界壁から削り出された宮殿は光に呑み込まれ、激しいプリズムと共に参加者のテリトリーを包み込む。
見上げれば天を衝すほど巨大な境界壁は消え、代わりに見たことも無い街並みが宮殿の外に広がっていた。
魔王が自分の伝承の元であるハーメルンの街をここに召喚したのだ。
「………街ができちゃった」
宮殿の外の景色をぼうっと見つめるフラン。木造の街並みやパステルカラーの建築物が一帯に広がっている。
「あ、私もいかなきゃ」
既にここにはフラン以外の参加者は消えていた。おそらくはステンドグラスを割に行ったり、魔王と戦いに行っているのだろう。
フランもすぐさま外に飛び出ようとして……ドクン!と心臓が跳ねた。それと同時に汗が吹き出る。不快な何かが身体を覆って行くような感覚が広がっていく。
「…ハァ…そろそろ危ないかも。……もうちょっとだけ、このゲームが終わるまでは待ってね」
胸を抑えながら小さく呟く。身体を覆う不快感はまるで衰える事はない。それを抑え込み暗くなりかけている空を見上げる。
(月は……大丈夫。全然丸くない。これくらいなら、いける!)
今は走らないと。『友達の為に』
☆☆☆
雷が鳴り響き、炎が空を飛び、黒い風が宙を滑る。皆が奔走している時、屋根の上では一つの戦いが繰り広げられていた。そこでは黒ウサギ、サンドラ、そして黒死斑の魔王《ペスト》が己のギフトを振りかざしていた。
黒ウサギが
「いい加減に無駄だと分からないの?」
ペストが若干呆れを含んだ声色で問いかける。黒ウサギとサンドラは共に神格級のギフトを持っているが、ペストには全くと言っていいほどにとどかない。
「まいりましたね。決定打に十分なりうるギフトの筈なのですが……どうやら火力不足のようです」
ですから、と続ける。見つめるはペストの上空。闇夜に輝く七色の羽を持った仲間に顔を向ける。
「やっちゃってください!フランちゃん!」
「禁弾『スターボウブレイク』!」
黒の背景に七色のカーテンがかかる。否、無数の極彩色の弾幕が一斉に浮かび上がったのだ。その弾幕は浮上を辞めたかと思うと、今度は垂直に急降下を始めた。それらはペスト目掛け、雨のように降り注いで行く。
「この前の吸血鬼。欲しいわね」
それを見てもペストは焦る事もなく落ちてくる弾幕を眺めている。
まずは初弾。バスッという音と僅かに風を散らし消えた。
そこからは連弾。弾幕が雨あられと降り注ぎ黒い風を少しずつ削って行く。
一つでダメなら二つ。二つでダメなら四つ。四つでダメなら八つ。力任せの物量作戦。さらに破壊の力が付与され確実にペストの風の防壁を破って行く。
消えていく防壁にさすがに焦りを感じたのか片手をかざし風を上部に収束させていく。
「……所詮はこの程度よ」
弾は落ちども風は破れず。上方に固められた風を突き破るには至らなかった。
だがそれは、弾幕だけの話。
「はあぁぁぁぁぁぁ!!」
遥か上空から急降下してきたフラン。手には燃え盛るレーヴァテイン。目の前の壁を破壊せんと全力で振り抜いた。
「……ッ!」
バキンッと音を立て黒い風を打ち破った。勢いを殺されるも内側のペストにフランはレーヴァテインを叩きつけた。
レーヴァテインを正面から受けたペストは三メートルほど吹っ飛ぶも、体制を戻しフランを睨みつける。そのペストの口の端からは少量の血が流れていた。
だがその視線もすぐに逸れる。ペストが俯きボソリと呟き出した。
「痛かった。すごく痛かった」
声は単調だが僅かに声色が硬い。怒っているようにも泣いているようにも聞こえる。しかしそれだけ言うと、ゆっくり顔を上げ薄い微笑を浮かべた。
「だけど許してあげる。貴女はいい手駒になりそうだもの。このゲームが終われば参加者は皆私達のモノになるけれど、特別に貴女は私の近くに置いてあげるわ」
どこまでも上から目線でモノを言うペストだがフランは何も言わずにペストの目を見つめている。どころか異常なくらいに凝視している。他の何物も視界に入れないようにしているかのように。
実際、ペストの考えは間違っていなかった。
フランは心の中で必死に自分との戦いを繰り広げていた。
(見るな。見るな。見るな見るな見るな!
………ああでも、凄く、もの凄く……オイシソウ)
ジュルリとフランは口から出かけた涎を飲む。今すぐにでも襲いかかりその首筋に噛み付いて血を吸いたくなる。
我慢の限界が近づいた時、ペストの両サイドから雷と炎が飛来した。
「私達を忘れないで!」
「フランちゃんにばかり見ていると足元を掬われますよ!」
今までフランの弾幕に巻き込まれないように離れていたサンドラと黒ウサギだ。ペストは鬱陶しげに風を纏い攻撃を防ぐ。神格級のギフトが二つに自分の風を貫いてくる吸血鬼が一人。時間稼ぎをメインとしてきたがこのままだと少し辛いかもしれない。
「……仕方ないわね。ちょっと本気でやるわ」
刹那、黒い風は天を衝いた。ソレは瞬く間に雲を蹴散らし、空中で霧散してハーメルンの街に降り注ぐ。空気は腐敗し、鳥は地に落ち、ネズミは触れただけで命を落としていく。
「先程までの余興とは違うわ。触れただけで、その命に死を運ぶ風よ。吸血鬼の貴女や箱庭の貴族、階層支配者ならこれくらい生き残れるでしょ?タイムアップまで、せいぜい遊びましょ?」
ペストの指先が三人に伸びる。天から襲う陣風に黒ウサギが雷鳴を向けるが即座に霧散され手も足も出ない。
「こ、これは死の恩恵を与えるギフトですか!この死の風を貫通するには、物的な力では不可能でございます!」
悲鳴を上げて退避する黒ウサギとサンドラ。しかしフランだけはその風を的確に避けていた。弾幕ごっこで鍛えられた回避力を遺憾無く発揮し前へ前へと進んでいく。
「…やっぱり貴女はいい駒になりそう。だから、死なないでね?」
スッとペストが手を向ける場所、フランの元に風が集中していく。意図的に密度が濃くなった風の弾幕をフランは進み、下がり、時に上昇し、下降や宙返りまでして回避を続ける。
そんな中、一つの、とっても小さなアクシデントが起きた。フランの首筋に掛けられた人参の首飾り。それが服の内側から飛び出してきたのだ。無論その程度で変わることは少ない。フランは変わらず黒い風を避けた。だがそれに首飾りは含まれない。その黒い風は無情にもその首飾りを吹き飛ばした。
「あ!てんゐから貰った首飾り……が……」
ーーードクンーーー
一瞬、首飾りを破壊されたことと身体の内側から湧き出るナニカに気を取られ動きが鈍る。それを見逃すほど魔王という存在は甘くない。黒い風に呑まれたフランはそのまま近くの建物の屋根に叩き込まれた。
ーーードクン、ドクンーーー
「フランちゃん!!」
黒ウサギが駆けつけるがフランが動く様子はない。吸血鬼の不死性により死んでこそいないがピクリとも動かない姿に血の気が引くのが分かる。
「フランちゃん!フランちゃん!!起きてください!!!」
魔王との戦いで仲間がこれ以上失われるのはもう耐えられない。巻き込んでしまった後悔。守れなかった後悔。この状況を打破できない無力な自分への後悔。様々な後悔が黒ウサギの身にのしかかっていく。
ーードクン、ドクンドクー
しかし、黒ウサギの声はもうフランには聞こえていない。内側からナニカが湧き出るのと逆に自分が内側に沈んでいく感覚をフランは味わっていた。
(……こんな時に。初めての対魔王のゲームだったのに。私のせいでメチャクチャになっちゃう。ごめんなさい。ごめんなさい。
お願いだから、黒ウサギ………逃…ゲテ)
『
悪魔の妹の、破壊の妖怪の、ただの一人の少女の、狂気が暴れ出す。
☆☆☆
「………潮時ね」
「…あ、昨日の傘の人」
現在春日部耀は外壁近辺に聳える教会に辿り着いていた。既にそこでは真実の伝承である『ヴェーザー川』のステンドグラスを除いた全てのステンドグラスが壊されていた。
ゲームが始まってから三回目の日傘の女性との邂逅だったが、何故ここにいるのかという疑問よりも『ああ、この人はこういう人なんだ』という曖昧な確信を耀は持ち始めていた。
「春日部耀。今すぐにフランドールの元に向かいなさい」
またも一方的な発言。この女性の辞書には説明するという言葉はが無いのだろうか。
「フランドールが現在危機に瀕しようとしております。…いえ、フランドールの周りの存在が、という方が正確でしょうか。現状フランドールを止められる可能性があるのはあなた方ノーネームしかいません」
「!」
そんな耀の考えを読んだのか女性は簡単な説明をしてくれた。
フランの危機。仲間、友達が危ない。
そう考えすぐさま身を翻そうとするがピタッと止まりもう一度日傘の女性を見据える。結局、この女性は敵なのか味方なのか。胡散臭いけど、白夜叉の手紙を届けてくれたり自分の病気を治してくれたりしてくれるので敵ではないのかもしれない。胡散臭いけど。
「……」
「心配しなくてもゲームが終われば話し合いの場を設けようと思っているから安心してくださいな。ここらのステンドグラスは割っておきます。昨日言ったでしょう?『友達の為に』頑張りなさいと」
「…………わかった。ありがとう」
「………」
今度こそ耀はグリフォンのギフトで空へ駆けていく。残されるのは室内なのに日傘をさした女性のみ。
その女性は耀が離れていったのを確認すると虚空に手を向けた。すると空中に裂け目が二つ生まれる。その先では、
『なあ、ヴェーザー。俺はな、そんなお前の驕りを砕きたい』
『……OK。死ね糞ガキ』
ノーネームの逆廻十六夜とヴェーザー川の悪魔。
『ゲームをしましょう。貴女に一曲分の演奏を許可します。その一曲で、私に服従しているディーンを魅力してみなさい』
『……なるほど、ね。いいわ…貴女のゲームに乗って、一曲奏でましょう。幻想曲“ハーメルンの笛吹き”。どうかご静聴のほどを♪』
ノーネームの久遠飛鳥とネズミ使いの悪魔。
共に最終局面に入っていた。その戦いに勝てばこの二人はペストと戦っているフランドールの元へ向かうだろう。そして春日部耀は私が向かわせた。これで不安要素はなし。
「全ては順調。このままいけばノーネームとフランドールには深い溝と新たな繋がりができるでしょう。ふふ、せいぜい踊りなさい。この『八雲紫』の手のひらの上で」
小さな笑い声が教会の大聖堂に響いていく。だがそれを聞く者はいない。
ゲームは終わりが近づいていく。その未来は破滅か、それとも…
正直ハーメルンで他にやることないんですよね。
幻想郷組をヴェーザーとラッテンに当てようとも思ったんですが彼女等には後で纏めて出てきて貰いたかったんで却下。