問題児と悪魔の妹が異世界から来るそうですよ? 作:亡き不死鳥
「なんか大変なことになってるね」
「仕方ないさ。参加者にとっちゃ生きるか死ぬかの瀬戸際なんだから」
黒ウサギのゲーム中断、およびゲームのルール改正から六日。主催者でありゲーム初日にフランと戦った少女、ペストが黒死病を操る魔王だと判明した。
しかも黒死病をばら撒いた上、参加者側にゲームに横槍を入れられたことによるハンデを言い渡された。それは『ゲーム開始の延長』である。
黒死病とは人類史上最悪の疫病である。この病は敗血症を引き起こし、全身に黒い斑点が浮かんで死亡する。しかも発症まで最短で二日、持って一週間といった最悪の病。つまりこのゲームで一週間以上の期間を開けられると無機生物か悪魔でもない限り死んでしまう可能性が高いというわけだ。
それを十六夜達の交渉により、『ゲーム開始は一週間後。ただしゲーム開始より二十四時間の経過をもって主催者側の勝利とする』というギリギリの所で持ちこたえていた。
「明日の夕方にゃもうゲームは開始されるっていうのに、参加者側はまだぐちぐち言ってるようだね。フランはどう?このゲームの謎は解けたかい?」
「んーん、全然。てんゐは?」
「んにゃ全然。あたしゃ頭脳派じゃないからねぇ」
「そっかー」
フランとてんゐは現在舞台区画の通路を適当に歩き回っていた。『悪魔』の妹であるフランと幸運を携えたてんゐが黒死病に侵されるなどありえない。かといって看護の手伝いなどは逆に邪魔になる。よってゲームの謎解きに励むしかないのだがそれも今のところ上手くいっている様子はないようだ。
「『偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ』ね。その砕くもんはステンドグラスって考察まではおーけー?」
「うん。問題はどのステンドグラスを壊せばいいかってことだよね?………全部壊すなら楽なのに」
「それじゃゲームにゃならんよ」
「んー、難しいなぁ…」
☆☆☆
「………あの子に頼まれてフランドールの様子を見に来たけれど、どういうことかしら?狂気の量が
フランとてんゐが去った道に、六日前耀に手紙を渡した女性が立っていた。言葉から察するにフランを知っているらしい。
その女性は誰もいない歩廊を歩みつつ独り言を述べていく。
「この火龍誕生祭に来てからのフランドールの言動。面白そうなことに首を突っ込むのはいつも通りとして、『愉快に素敵に負けの味を噛み締めなよ、十六夜ィィ!』『不死の貴方は、私が壊しても生きていられるのか……ってね』など普段なら言わない言葉。
さらに普段から『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』をあまり使っていなかったフランドールがあっさり相手に行使した事。
姉に叩き込まれた筈の破壊の能力まで使い始めるのは『アレ』の前兆。なのに身体に溜まっている狂気は驚く程少ない。
さてさて、これはどういうことかしら?『貴方』なら分かる?『貴女』は?『あなた』ならどうかしら?
うふふ。なんにせよ、フランドールの運命が楽しみね」
微かな笑い声を残し、女性の姿はそこから消え失せた。
☆☆☆
境界壁・舞台区画。
大祭運営本陣営、隔離部屋個室。
そこではノーネームで唯一発症してしまった耀に十六夜が自らの推理を披露しているところであった。
ゲームの謎、『偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ』の砕く物はステンドグラスだということ。
魔王側の配下はそれぞれハーメルンで起きた事実を具現した悪魔だということ。
そして最後まで分かっていなかった『真実の伝承』に辿り着いた所で十六夜は……
「ああクソッ!完全に騙されてたぜ“黒死斑の魔王!つまりお前達はグリム童話上のハーメルンの笛吹きではあっても、本物のハーメルンの笛吹きじゃなかったってことか!」
突如叫び出しバタン!とドアを開け飛び出す。そして耀に振り返り、
「おかげで謎が解けた。あとは任せて、枕を高くして寝てな!」
と言って出て行った。白夜叉が箱庭の太陽の主権を持っていると言ったところから考えを纏めたらしいが耀にはよく分からない。だから難しいことは十六夜に任せて今は眠ってしまおうとした。
「なるほど、太陽の主権ね。それだけで白夜叉を拘束した方法、さらにはゲームの答えまで導き出すなんて」
「!?」
「こんにちは。一週間ぶりかしらね?お嬢さん」
「あの時の…」
いつの間に現れたのか、先程まで十六夜のいた場所に六日前耀に手紙を渡した女性が立っていた。音はなかった。匂いもしなかった。なのにどこからかいきなり現れる。バッと布団を剥ぎ上半身を起こした。
「……あなたは誰?」
「名乗る程の者ではございませんわ。それに、寝たままで結構よ。黒死病にかかっているなら起きているのも億劫でしょう?」
「…………」
「そんな警戒しなくても大丈夫。言ったでしょう?貴女達と交えるつもりはないって」
パッと持っていた扇子を開き口元を隠す。その姿がなんとも胡散臭く、耀からこの女性への信頼は全く感じられなかった。
しかしそんなものはどうでもいいとばかりに言葉を紡いでいく。
「『春日部耀』。ギフトネーム『
突如女性から語られた言葉に驚愕する。それらはノーネームのメンバーなら知っている事だが、名も知らぬ女性にすら知られているとは思わなかった。
「……白夜叉から聞いたの?」
「まさか。彼女はそんな無粋なことはしませんわ。地道に堅実にコツコツと調べた成果です。
うふふ、それにしても素晴らしいギフトね。他種族の特性を得るギフト。妖怪の特性までも手にできるギフト。貴女はノーネームの中でもとても興味をもてますわ」
「…興味を持つなら十六夜の方じゃない?」
「ああ…彼ですか。……そうですね、『想像以上』であり、『期待はずれ』でもある。と、言っておきましょうか」
「想像以上で、期待はずれ?」
「ええ。ですが気にしないでくださいな。
「……?え〜と?」
「あら、もうこんな時間。今日は意義のある時間が過ごせました。そろそろお暇しますわ」
「え?ちょっと…」
「あ、そうそう」
全く話を聞かない女性を引きとめようと布団を剥いだ耀の額を女性の持っていた扇子がポンッと突ついた。
すると、ぐらっと視界が揺れたかと思うと耀の意識は少しずつ闇へ落ちて行った。
「今日のお礼に少しだけサービスです。明日は『友達の為に』頑張りなさいな」
☆☆☆
「DEEEEeeEEEEN!!!」
「はぁ……はぁ……」
暗い洞穴を突き進んだその先、地下道に巨大な鉄の門が聳え立ち、その細部に見られる巧緻な技術を見せつける展示会場。そこにノーネームの久遠飛鳥が紅の鋼の巨人『ディーン』を相手にギフトゲームを行っていた。否、つい今しがた勝負はついたようだ。
「ふぅ……。随分手こずらせてくれたじゃない。でもこれで、ディーンは私が服従させたってことになるのよね?」
このギフトゲームを開いた『ラッテンフェンガー』の群体精霊へむけて飛鳥は語りかける。祭りで偶然見つけたはぐれ妖精に導かれ、このゲームを受け、そして勝った。
しかし僅かに待てども群体精霊からの応答がこない。訝しげにしていると、視界の端で動く気配があった。
そこには、日傘をさした妖艶な女性が部屋の隅に立っているではないか。ギフトゲーム中は誰も入れない筈。ならばつい今しがた来たのか?
眉を顰めているとこちらが気づいたことに気づいたのか、ゆっくりとこちらへ向かって来た。
「こんばんわ。こんな夕暮れにこんな所で何をしているのです?」
「あら、それはこちらのセリフよ。こんな所で何をしているのかしら?それにここの精霊達に何をしたの!?」
「
所属や名前がばれている。有名になったと自負するべきか厄介なのに目をつけられたと悔やむべきか。だが今は自分の事より精霊達が心配だ。ここで精霊達の意思を無駄にするなど飛鳥には到底出来ないのだから。
「……精霊達は無事なのよね?」
「それについては保証しましょう。傷一つなく一人も欠けずにいることを約束しますわ」
「……分かったわ。そこまで言うなら話は聞いてあげる。それでもその前に名乗りなさい。会話をするならその程度の礼儀は守るものよ」
「ふふ、威勢のいいこと。それでこそ『威光』、支配のギフトを持つに相応しいわ。……でも今はまだまだ未熟ね。『ギフトを支配するギフト』と呼ぶには程遠い。それでも将来の可能性を無限に備えている。ノーネームで最も期待が持てる存在、といったところかしら」
「なにをゴチャゴチャと!『大人しく名乗りなさい!』」
先程までゲームをしていた故に体力はあまりない。しかしどうにもこの女性は胡散臭い。せめて名だけでも聞いねおかなくては。そう自らを奮い立たせ『威光』を放った。
「………やはりこの程度。まだ足りないわね」
「…そんな」
堪えた様子はまるでなし。威光を使う前と寸分違わずそのままの体制の女性。そして悠々とした動作で懐の扇子を開き口元を隠した。
「精進なさい。私の名は貴女が名乗るに相応しいと思った時、改めて名乗りましょう。ですから今は、己の弱さを噛み締めなさいな」
ブゥゥゥゥンと女性が空中に手を翳すだけで空間に裂け目が生まれた。その裂け目からは無数の目がギョロギョロと視線を彷徨わせている。その目と視線が交わり腰が引ける飛鳥だったが、女性は気にする事もなく裂け目に入って行った。
「………なんなのよ、いったい」
ゲームの勝利の余韻は吹き飛び、不気味な焦燥感だけが飛鳥の胸に残された。
☆☆☆
裂け目の内側。周囲360度どこを向いても目玉が動き回っている不思議な空間で女性は当てもなく身体を彷徨わせていた。
「逆廻十六夜。ギフトネーム『
人間としてなら彼はかなり上位の存在なのでしょうね。力も速さも人間とは思えない凄まじさ。
……故に、彼は人間でしかいられない。生まれ、育ち、そして死ぬ。そんな人間にしかなれない。
だからこそ、
彼は決して『人間と妖怪の境界』を踏み越える事は出来ないわ」
誰もいない無限の空間。女性の独り言を聞く者は誰もいない。
さて、意味深なセリフと人の話を聞かないおb……女性。
解釈が人それぞれなら答えは無限に存在するのではないか。
作者の答えを書いていきたいとおもいます。