問題児と悪魔の妹が異世界から来るそうですよ? 作:亡き不死鳥
『ギフトゲーム名“十六夜の月と紅の月”
ルール説明
・ゲームの開始はコイントス
・参加者がもう一人の参加者を“手のひらで”捕まえたら決着
・敗者は勝者の命令を一度だけ強制される
宣誓 上記ルールに則り、“十六夜”“フランドール”の両名はギフトゲームを行います』
二人が宣誓を交わすと羊皮紙が一枚ずつ手元に舞い落ちる。
「これはコミュニティ間の決闘ではなく、個人の間で取引される契約書類です。決着と同時に勝者の紙は命令権へと変化し、敗者の紙は燃える仕組みです」
「へぇ……」
「よく出来てるねー」
十六夜は物珍しそうに羊皮紙を読み直し、フランは引っぱたりひっくり返したりして仕組みを調べている。
「……よし、コインが地面に着くと同時にスタートだな」
「はい。ここは黒ウサギがコイントスさせて頂きます」
話している間にも十六夜は思考を巡らせていく。十六夜はフランの初手を想定し始めていた。
(走力は飛行能力的にむこうが有利。力比べは……なんともいえねぇな。けどこの勝負に力比べは不必要。問題は、フランの五感に変身能力。その上速度、力とかの基本的な能力も警戒が必要か。へっ、改めてとんでもないな。ここまでくればフランの初手は逃走してから俺の視界の外へ出て、それから奇襲が一番勝率が高いな)
初手のヤマは張った。では、と掛け声をかけた黒ウサギのコイントスが始まる。金属音と共に打ち上げられたコインを軽薄な笑みで見守る十六夜、そしてフラン。滑らかな弧を描くコインがどんどん地上へ落ちていく
ーーーーキン!という金属音が響くと同時に、
「オラァァァァァァァ!!!」
「ヤァァァァァァァァ!!!」
(だよな!フラン、お前がコソコソ逃げる訳ねぇ。ゲームの勝率うんぬんより、正面から来ると思ってたぜ!)
拳を握りしめ相手に向けて突き出す。拳と拳がぶつかり合う。
初撃を制したのはーーー十六夜だった。
「くうっ!」
苦悶の表情で吹き飛ばされたフランは建物の屋根の上に着地する。ガリガリと屋根が削れたがそんなのは全く気にならない。それ程フランの感情は高揚していた。
(やっぱりイザ兄は凄い。力じゃかないそうにないや。だったらこっちは…)
手を十六夜の方へ突き出し、弾幕を放つ。真っ直ぐ当たるように。広範囲に逃げられないように。ゆっくりと避けにくいように。しかしその全てが力強く。そんな弾幕を放った。本来自分の得意分野は
当然簡単ではない。十六夜も屋根を伝い、力を使い回避を続ける。速さと力強さを持ち合わせた十六夜にはこの弾幕ではヌルいようだ。
「やっぱ通常弾幕じゃだめか。だったら、
禁弾『カタディオブトリック』
五方向に青い大玉を放つ。その玉の後ろにまるで軌跡のように中玉や小玉が広がって行く。さらにその大玉は何かに反射されるように起動を変え十六夜に向かっていった。
「うぇ。これはちっとキツイな」
スピードが速い上四方八方から逃げ道を塞ぐように弾幕が襲いかかって来る。ここは一発……
「ラァッ!!」
空中で腕を振るい前方の弾幕を消し去った。だが今回それは愚策だったようだ。腕を振るったすぐあと大玉が反射し、真っ直ぐ十六夜に突っ込んできた。
「やべっ、これは避けらんねぇか」
腕を交差し力を込める。弾幕が腕に当たると、想像以上の力で身体が吹き飛ばされた。空中で身を捻りなんとか足からの着地に成功する。だが、この一撃は案外重かったようだ。
(左手が動かねぇ。一発でこれとは……痛み分け。っていうにはあっちはそんなに効いてないみたいだし。こりゃ早いうちに決着つけないと不利だな)
お互いに一撃いれたとしても圧倒的な種族差によりフランが有利だ。ディスアドバンテージは大きい。それでも、全く負ける気はしない。
十六夜は自らが壊した屋根の瓦礫の一部を手に取る。
「始まってすぐで悪いが……決めさせて貰うぜ」
手にした『ソレ』を大きく振りかぶり、ぶん投げた。その瓦礫は第三宇宙速度でフランへ直進する。投げられたフランは驚愕しつつも想定外の弾幕をほぼ反射で避ける。だがその一瞬で十六夜は距離を詰め切った。無理な体制で避けたせいでバランスは完全に崩れていた。
「悪いなフラン。今回は俺の勝ちだ」
十六夜は勝ちを確信した。跳躍も飛行も、蝙蝠化でも逃げるには間に合わない。だが油断なく素早くフランに手を伸ばした。
しかしその手がフランに触れることはなかった。
「消えただと?」
一瞬だ。本当に一瞬。十六夜の指先が触れるか触れないかのところでフランの姿が消失した。しかしフランの消えた先、そこには先程まで無かった物が漂っていた。
「…おいおい、何度目のビックリショーだよ」
光の玉だ。一目で相当量の力を持っていると分かる光の玉が空中に存在していた。
「秘弾『そして誰もいなくなるか?』」
虚空からスペルカード宣言が聞こえ、光の球が襲いかかってきた。十六夜は危なげなく避け、一旦距離を取る。『カタディオブトリック』の時のように玉の軌跡を弾幕が彩っているが、今回は弾幕の密度が全然違う。放射線状に身体を入れる隙間さえないほどの密度で広がって行く。
「そして誰もいなくなるか?ね。フランが消えて俺が弾幕に当たって消えれば誰もいなくなるってか。洒落がきいてるじゃねえの」
「He died by the bullet and then there ware none.
(一人が弾幕を避けきれずそして誰もいなくなった)
最後の一人はイザ兄だね」
「ならU.N.オーエンはお前なのか?悪いが俺は最後の一人になる気はないぜ?首を吊る気も結婚する気もないんでね」
「それならやっぱり弾幕に撃たれてもらうよ!」
「……!チッ」
虚空との会話を楽しむのも長くは続かず、いつの間にか光の玉が三つに増えていた。それぞれ一つ一つが異常な量の弾幕を配置していて、十六夜の周りはまさに弾幕の檻と呼べるまでになっている。
(半径四メートルってとこか。一箇所に穴開けて脱出するか?いや、動きを見る限り光の玉は自在に動かせそうだ。なら穴を開けると同時に突っ込んできそうだな。……どうすっか)
自らの知能をフル稼働して考える。正面突破は難しい。弾幕に当たるのを我慢するという手もあるが、左手の痺れがまだ取れていないことを考えると更に負傷するのはこの後のゲームに支障がでる。
「………はぁー。しゃーねーか」
大きく溜息を吐き、身体の力を抜いていき天を仰ぐ。そうこうしているうちに弾幕は残り三メートル程まで近づいている。しかし十六夜は焦る様子はない。視線を空から弾幕の檻に向け、ニィッと口の端をつりあげる。
「今まで散々驚かせてもらった礼だ。俺もちょっと全力を見せてやるよ」
グッと身体を引き絞り腕を引く。弾幕との距離は二メートルをきった。一歩、助走ともいえない小さな一歩を踏み出し、
「オッッッラアァァァァ!!!!」
光を纏わせた腕、『星をも砕く拳』を
その一撃は空気を揺らし、建物を揺らし、箱庭の天幕を揺らした。十六夜の魅せた
「…へっ、どうよ」
それだけの事を起こした十六夜はまるで己の技を誇るように一点を見つめる。それは五つにまで増えた光の玉が集まっている場所だ。光が消え、元のフランの姿が現れる。
「……ふふ。やるね、イザ兄」
「だろ?残念だがこのゲームでは誰もいなくならないらしいな。なんせ、誰もいなくなっちまったらゲームの勝敗がつけられねえ。決闘は敗者を決めて終わるもんだ。……そろそろ決めようぜ、このゲームの敗者をな」
先程の一撃で崩れ去った建物を一蹴りし、フランと視線を合わせるように時計塔まで跳んだ。
「こんだけ騒ぎを起こしちまったらそろそろ止める奴が現れそうだからな。この攻防でラストだ。つーわけで、大胆素敵にほえづら掻きやがれよフラン!!」
十六夜は力を溜め込み足場の時計塔を
「あっははは!!愉快に素敵に負けの味を噛み締めなよイザ兄ィィ!」
フランはそれに合わせるように身を捻じり、ソレを同じように
追撃を仕掛けようとした十六夜はその光景に目を丸くしつつも口の笑みは収まらない。己の元へ帰ってきた時計塔を今度は真上に蹴り飛ばした。
「…………」
「…………」
沈黙。闘志はある。興奮も、熱気も、まるで衰えた気がしない。示し合わせたように僅かに身体が沈んだ姿は臨戦体制の獣のようだ。
その二人の間に巨大な影が差した。十六夜が蹴り上げた時計塔の瓦礫と本体が重力に従って落ちてきた所だ。その時計塔がお互いの姿を隠した瞬間、二人は同時に時計塔に突っ込んだ。時計塔ごと、瓦礫ごと、その全てを巻き込むように真っ直ぐに。互いが互いの姿を見つけ、手を伸ばす。
パシッ
火龍誕生祭を騒がせたゲームの勝敗が今決した。
次回:勝者はどっちだ!?
矛盾点やここわかりずらいなどの指摘もよろしくお願いします