問題児と悪魔の妹が異世界から来るそうですよ? 作:亡き不死鳥
今回は繋ぎの部分で特になにも起こりません
問題児の脱走
飛鳥が暴れてから更に半月、ノーネームにも少しずつ変化が起こっていた。異世界の問題児達がくる前まで厳しかった食料問題も半ば改良され、四人は異世界の勝手に少しずつ慣れますますコミュニティに貢献していった。他にも半月前に飛鳥に文字通り料理されそうになったてんゐがよく遊びに来るようになった。ノーネーム(主に飛鳥)にイタズラを仕掛けたり飛鳥に寝起きドッキリを仕掛けたりして飛鳥に追いかけ回されている姿は最近では見慣れた光景になっている。
さぁ、今日も今日とて問題児の問題児による問題児の為の祭りが始まる。
☆☆☆
「火龍誕生祭?何それ?」
ノーネームの本拠の屋上、手足を放り出し寝転がったまま日光浴をしていると、遊びに来ていたてんゐが発した聞きなれない単語を聞かされフランは興味津々といった表情で聞き返した。
「あれ、黒ウサギから聞いてないの?確か白夜叉が黒ウサギ達にも招待状を送ったって言ってたんだけどなー。えーと、ほらこれ」
何処から取り出したのかてんゐの手に握られた一枚の紙を受け取りその内容を音読する
「えーと、『火龍誕生祭の招待状。北側の鬼種や精霊達が作り出した美術工芸品の展覧会および批評会に加え、様々な主催者がギフトゲームを開催。メインは階層支配者が主催する大祭を予定しております』。なにこれすっごい面白そうじゃん、行ってみよっかな♪」
訝しげな表情をみるみるうちに喜色満面に変えていった。齢五百になろうとしていてもやはり子供、お祭り事には目がないのだ
「せっかくだしイザ兄や飛鳥達も連れて皆で行こう!ほらてんゐも行くよ!」
「……おー」
てんゐの腕を引っ掴み善よ急げと空を飛ぶ。尻尾のようにブラブラ揺れているてんゐはもう慣れたのか諦めたのか、ただ為されるがままに引っ張られて行く。そして到着したのはノーネームの書庫。そこでは丁度飛鳥のシャイニングウィザードをジンが喰らっているところだった。書庫には十六夜、飛鳥、耀、ジン、そしてキツネのリリがいた。火龍誕生祭について話す為の面子は整っているようだった。
「あらフランおはよう。……それに性悪兎も」
「フラン、おはよ」
「ふぁぁ。よう、朝っぱらから元気だな」
「みんなおはよう!ねえねえ、これ見て!」
バッとてんゐから貰った招待状を全員に見えるように見せつけた。
「あら、フランも持ってたの?私達も丁度それを十六夜君に教えようと思ってここに来たの」
「そうなんだ。ほらイザ兄、見てみて」
フランから受け取った招待状に目を通していく。すると先程の眠そうな姿が嘘のように目が輝いていき、心なしかプルプルと震えているようだ。
「オイ、ふざけんなよフラン。こんなクソくだらないことで快眠中にも関わらず俺は叩き起こされたのか!?しかもなんだよこの祭典のラインナップは!?『北側の鬼種や精霊達が作り出した美術工芸品の展覧会および批評会に加え、様々な主催者がギフトゲームを開催。メインは階層支配者が主催する大祭を予定しております』だと!?クソが、少し面白そうじゃねぇか行ってみようかなオイ♪」
「イザ兄ノリノリだね」
四人の心は一つになった。取り敢えず祭りに乗り込もう。今すぐにでも飛び出して行きそうな問題児達をリリが血相を変えて呼び止めた。
「ま、待ってください!北側に行くとしてもせめて黒ウサギのお姉ちゃんに相談してから……ほらジン君も起きて!皆さんが北側に行っちゃうよ!」
「…き、北側!?ちょ、ちょっと待ってください皆さん!北側に行くって本気ですか!?」
「?そうだけど?」
「何処にそんな蓄えがあるというのですか!?此処から境界壁までどれだけの距離があると思ってるんです!?リリも大祭の事は皆さんには秘密にとーー」
「「「「秘密?」」」」
ジンの言葉に皆の言葉が重なる。そしてそこから導かれる答えはーー
「……そっか。こんな面白そうなお祭りを秘密にされてたんだ、私達。ぐすん」
「コミュニティを盛り上げようと毎日毎日頑張っているのに、とっても残念だわ。ぐすん」
「私達の間ではそんな隠し事はもうなくなったと思ったのになぁ。ぐすん」
「ここらで一つ、黒ウサギ達に痛い目を見てもらうのも大事かもしれないな。ぐすん」
泣き真似をしながらなお一層祭りに行く意思を強めた問題児達。拉致したジンと共に一同は東と北の境界壁を目指すのだった。
「……これからの黒ウサギの苦労が目に浮かぶね。ぐすん。………ウサウサウサ」
問題児パーティーの最後尾で、黒ウサギを憂いつつ笑つつてんゐはひっそり呟いた。なんせ、幸と不幸を操るてんゐ自らがこれから先の不運を予測しているのだ。何かが起こらない筈がない。
(だから黒ウサギ…精々頑張りな)
☆☆☆
「よう店員さん。久しぶりだな」
「…久しぶり」
「店員さん久しぶりだね!」
「また来たわ」
「相変わらず辛気臭い顔してるねぇ」
「……店員さん、助けてください」
あの後ジンから北側の境界線までの距離が九八○○○○kmあると聞かされ、『そんな所に招待した白夜叉が悪い。こうなったら殴り込みに行くぞコラ!』という結論に至りサウザンドアイズの支店に訪れていた
「お帰りくださいませお客様。御帰り道はそちらとなっております」
「そうかよ。んじゃお邪魔します」
「侵入するのは辞めてとっとと帰ってください。オーナーが来ちゃうじゃないですか」
「それは私達にとってはメリットでしかないわね」
「うん。白夜叉は頭の硬い店員と違って話がわかる」
「ですから「やっふぉおおおお!ようやく来おったか小僧どもぶふぁ!?」…足が滑りました」
何処からか叫び空の彼方から降ってきた白夜叉を、店員は鮮やかな足払いで白夜叉の着地を邪魔してみせた。
「やるな店員。一瞬で対応した早さは流石だぜ」
「だてにサウザンドアイズの店員をやってませんから」
「あれ?それなら白夜叉を転ばすのは問題ないの?」
「あれはスキンシップよ。仲の良いどうしがやることだから問題ないわ」
「そっかー」
「お、おんしら!不時着した美少女を無視して会話を続けるとは何事だ!というか最近おんし荒っぽいぞ!」
けろっとした表情の店員に向けて若干涙目になった白夜叉が抗議する。白夜叉曰くここ一ヶ月の間白夜叉が巫山戯ていると、店員が隙を見て制裁をしてくるそうな。店員がストレスの捌け口を見つけたようでなによりである
「まあよい。まずは店に入れ。…少し秘密裏に話しておきたい事もあるしな」
スッと目を細め言葉に真剣さを宿らせる。嬉々とした顔の問題児達と青い顔をしたジンを引き連れ一同は店の中へと入って行った。
〜省略〜
「つまり北のフロアマスターが交代してそれ関係でなんかあるってことか」
「よく分からないけど分かったわ。だから今すぐ北側へ向かってちょうだい」
「…黒ウサギに追いつかれる」
「え?なに?どういうこと?」
「鬼ごっこだってさ」
「む?内容を聞かず受諾してよいのか?というかおんしら全く聞いてな…」
「構わねえから早く!事情は追い追い話すし何よりーーその方が面白い!俺が保証する!」
「……そうか。面白いなら仕方が無い!娯楽こそ神仏の生きる糧なのだからな。ほれ」
パンパンと柏手を打つ。
「よし。お望み通り、北側に着いたぞ」
「「「「「は?」」」」」
驚愕しつつもてんゐとジンを除いた四人は期待を胸に店外へ走り出した。
「……赤壁と炎と…ガラスの街!?」
目に映るのは店を衝くような赤壁の境界壁。外壁に聳える二つの外門が一体となった巨大な凱旋門。さらに色彩鮮やかなカットガラスで飾られた歩廊に加え、歩くキャンドルスタンドまであるではないか。東側では見たことがない文化に皆が皆この景色に心を奪われ……
「見ィつけたーーーのですよぉおお!!」
ズドォン!!と、激しい音と砂煙と共に黒ウサギは問題児達の前に落ちてきた。
「あ、黒ウサギも来たんだ」
「ええ、ええ、当然でしょうとも。なんせ…」
と一旦区切り懐から一枚の手紙をフランへ向けて投げつけた。
「こんなものを皆様からプレゼントされたんですからね!」
「えと、『黒ウサギへ。北側の四○○○○○○外門と東側の三九九九九九九外門で開催する祭典に参加してきます。貴方も後から必ず来ること。あ、あとレティシアもね。私達に祭りの事を意図的に黙っていた罰として今日中に私達を捕まえられなかった場合四人ともコミュニティを脱退します。死ぬ気で探してね♪by飛鳥』。なにこれ聞いてない」
ただ祭りにばかり気がいっていて人の話を聞いていなかっただけである。その証拠にすぐさま他の問題児は逃走を図った。
「逃げるぞ!」
「逃がすか!」
しかし耀は運が悪かった。旋風を巻き上げて空に逃げようとしたが黒ウサギの大ジャンプで耀の足を捕まえられてしまった。そしてボソボソと耀に何かを呟くと大きく振りかぶって白夜叉とてんゐの元へようを放り投げた。
「あぶな!」ヒョイ
「グボハァ!おんし何故避けた!?というかおいコラ黒ウサギ!最近おんしは些か礼儀を…」
「耀さんのことをお願い致します!黒ウサギは他の問題児様を捕まえに参りますので!」
白夜叉の言葉を遮り黒ウサギは十六夜達が逃げた方へ跳んでいった。
「……あれ?結局どういうこと?」
一人状況についていけなかったフランはただ立ち尽くしていた。そんなフランを後ろから優しく抱きしめる者がいた。
「フラン、確保だ」
そこにはノーネームのメイド長ことレティシアが居た。黒ウサギの手紙にあったようにレティシアもこの祭典に強制収集されたのだろう。
「れ、レティシア!?って、え?……確保?…そういえばさっきてんゐが鬼ごっこって……私何もやってない!」
「フフ、残念だったな。今度からちゃんと人の話は聞いておくんだぞ?」
「う〜、私も鬼ごっこしたい!」
「ああ分かっているさ」
だから、と続けフランの耳元で囁いた。
「今度は私と一緒に十六夜達を捕まえよう。黒ウサギだけでは荷が重いかもしれないからな。ちょっと手を貸してくれないか?」
「いいの!?やったー!」
喜ぶフランを見て僅かに口元が緩む。こういってはなんだがレティシアは結構世話好きなのだ。手のかかる妹がいたらこんな感じなのかと夢想する。しかしいつまでもここに居たら黒ウサギが二人を捕まえてしまうかもしれない。ならば早く三人を追うべきだろう。
「よし、では追おうか」
「イッザ兄つっかまえ…」
「させるかっ!」
フランのタックルを跳躍して回避する十六夜。しかしその顔には薄っすらと不満が現れている。
「なんだよ、お前はそっち側についたのか?」
「ぶー、イザ兄ずるいよ。フランはあの手紙のこと知らなかったのに勝手に鬼ごっこ始めちゃってさ。それにコミュニティを抜けるって幾ら何でも酷いよ!ということで私も黒ウサギの味方としてイザ兄を捕まえるからね!」
「お前、知らなかったって……まぁ確かに、冗談ってのは後で笑えるくらいがちょうどいい。そう考えれば今回のは質が悪いのは認める」
「……それでも何もせずに降参は許さないよ?それだと結局フランは鬼ごっこ出来なくなるんだから」
「ヤハハ、やっぱフランはそっちか!だよな、ただ謝罪するだのただ許すだのなんてそんなのは『つまらない』。だからさ…ゲームをしないか?俺とフランだけの、一騎討ちで」
「一騎討ち……イザ兄と。…いいね、すっごくいい!最近あまり楽しいゲームがなかったからさ、イザ兄相手なら絶対楽しいよね!」
「もちろんだ。賞品はそうだな…おまえ
ツイッと視線を横に動かすとそこには黒ウサギがなんともいえない表情で立っていた。十六夜とフランの会話を聞いていたので十六夜が反省しているのはわかったから、どう対応すればいいのか分からないのだ。
「……十六夜さん、今回のコミュニティ脱退を賭けた勝負を冗談半分で持ちかけたのは正直許せません」
ですからと続けフランに視線を移す。
「フランちゃんにボッコボコにされて猛省してくださいませ!」
「へっ!簡単にできると思うなよ?相手がフランでも負ける気は一切ないからな」
「私もだよ!イザ兄でも絶対負けないもん!」
「ただし、ギフトゲームは対等の条件でのみ行われます!やるなら正々堂々、真っ正面からお互いの力をぶつけてください!」
「「上等!!」」
ニッと互いの口が釣り上がる。箱庭に来た当初に弾幕ごっこをしたが、それもお遊び程度。ノーネーム最強の二人が真剣勝負をするのはこれが初となる。だからこそ、二人が望むことはただ一つ、
((絶対に勝つ!))
紅い月と十六夜の月が今、衝突する!
小説を書ける時間が少ないぜぃ