問題児と悪魔の妹が異世界から来るそうですよ?   作:亡き不死鳥

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飛鳥の出番が少ないと思うんだよ
そんな軽い気持ちで書きました


幕間
久遠飛鳥の憂鬱


 

 

「出番が少ないと思うの」

 

「……はぁ、そうなんですか」

 

歓迎会から半月程経ち、四人は様々なゲームで金品や日用品を稼いでいた。飛鳥も稼いではいるのだが、何故か自分の活躍を書かれていない気がしたので偶にサウザンド・アイズの店員さんに愚痴りに来ているのだ

 

「それであなたは何がしたいんですか?」

 

「白夜叉にいいゲームを紹介して欲しいのよ」

 

「前から言っているように此処はノーネームお断りです。他を当たってください」

 

「だから毎回入らないであなたとの雑談で終わらせているじゃない」

 

「私の邪魔は営業妨害です!」

 

飛鳥が訪れるのはこれが初めてではない。その日のゲームが終わるとよく話しかけてくる。最初は気分転換にでもと雑談に興じていたが、最近その頻度が増してきた。そろそろ何とかしないと仕事に影響が…

 

「おや、今日は娘一人か」

 

店員がどう追い返すかを考えていると変態…もとい白夜叉が奥から出てきた

 

「あらこんにちは白夜叉。今日は暇かしら?」

 

「ククク、最強の階層支配者に暇な時なんぞないわ。ただ若い娘の気配がしたのでな。少し気になったのだ」

 

「…そう。理由はともかく都合がいいわ。ねえ白夜叉、少し大きいギフトゲームはないかしら?」

 

「大きいギフトゲーム?おんし一人でか?……まぁない事もないが、少し心にくるゲームだと噂が立つゲームだ。なんでも『一回参加すればもう二度と参加したくなくなる』らしい。そのくせ結構な参加者がクリアしてるのだからよく分からん。そんなやつだが……受けるか?」

 

「もちろんよ。どんなゲームでも出番が増えるなら問題ないわ!」

 

「出番?」

 

「……ゴホン。それでは白夜叉、その開催場所まで案内願えるかしら?」

 

「うむ。では……」

 

パンパンと柏手を打つ。すると景色一変森の中に着いた。森の中ではあるが店があり家がありと、此処ら一帯は何処かの居住区に見えた

 

「ここは箱庭二一○五二九五外門居住区。コミュニティ『四本足』が主に活動しておる。まあ大帝が出張店みたいなものだがの」

 

「あら、ノーネーム本拠から結構近いのね」

 

「うむ、まあ近いと言ってもかなりの距離はあるがな。それに加え箱庭の外へ繋がる門があるせいで奴のいいサボり場だ」

 

「奴?」

 

「ほれ、着いたぞ」

 

白夜叉の後を着いていくと一つの店、まるでドールハウスのような店に着いた。見える限りだがかなりの人形が並んでいる

 

「おや、いらっしゃい」

 

中に入ると一匹の人型ウサギが出迎えた。白夜叉の姿、そして飛鳥の姿を見て目を細くし小さく笑う

 

「白夜叉様じゃないですか!本日はどういった御用件で?」

 

「……おんしのゲームに参加したいという娘がおってな。暇潰しついでに連れて来た」

 

「へへえ!流石白夜叉様!まさか私ごときのゲームを宣伝してくださっているとは!いやはや頭が上がりませんよ!」

 

身振り手振り口振りで白夜叉を褒めちぎっていく白兎。すぐ横でその動きを見ている飛鳥は、元の世界を思い出させるそのウサギに嫌気がさしていた。言葉が全て思い通りになる娘と言われ、媚びへつらう有象無象の輩どもの姿が重なりえらく不快な気分になっていく

 

「……それで、いつまでそんな口調でいるつもりじゃ、てんゐ」

 

いい加減ウンザリしたのか白夜叉が口調を強めると、今まで低姿勢だったのが嘘の様にふんぞり返りドッカリと椅子に腰掛けた

 

「アッハハ!ノリが悪いねぇ、白夜叉。普段は自分が巫山戯て若いもんで遊んでるくせに。あたしゃ悲しいね」

 

「阿ッ!相変わらずのようだの。その嘘八百の口調も態度も」

 

「あたしの商売は運を売り、嘘を売り、そして最後に不幸を売る。調子に乗って幸運ばかりあげてたら色々腐っちまうのさ。それにあたしの暇潰しにもなるしね。ウサウサウサ!」

 

豪快に無遠慮に話を続けていくてんゐ。さっきまでのギャップが飛鳥から発言する力を奪っていた。媚びを売っていた姿が嘘には見えなかった。そう考えると今の性格すらも嘘に見えてくる。それなのに白夜叉と対等に話すくらいの貫禄が有るとも思えない。飛鳥は目の前の小さなウサギの真意が全く掴めずにいた

 

「おっと、いい加減お客様を放ったらかしにするのも悪いね。よろしくお嬢ちゃん、あたしはてんゐ。因幡の素兎さ」

 

「…えと、久遠飛鳥よ。ノーネームに所属しているわ」

 

「…!ほう、ここいらのノーネームといったら黒ウサギのコミュニティかい?」

 

「知っているの?」

 

「ウサウサ。まあね。ではでは奥の方へどうぞお嬢ちゃん」

 

「ええ。また後でね白夜叉」

 

「うむ、終わった頃にまた来る。気をつけるんじゃぞ」

 

「忠告は頂いておくわ。負ける気はさらさらないけどね」

 

髪を後ろに払い颯爽と店の奥に入っていく。突き当たりの部屋に入るとそこには人一人が入れるくらいの鏡が置いてあった。おそらくここがギフトゲームの入口なのだろう

 

「ではお嬢ちゃん、愉快で素敵なゲームをお楽しみください」

 

「ふん。どんなゲームでも簡単にクリアしてやるわ!」

 

意気込み鏡の中へ躊躇いもなく足を踏み入れ、飛鳥は部屋から姿を消した

 

「ククク……ウサウサウサ!」

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

『ギフトゲーム名 ”shocking baby bear”

 

プレイヤー一覧

久遠 飛鳥

 

クリア条件 遊びに来た少女となれ

 

敗北条件 タイムアップ

 

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、久遠飛鳥はギフトゲームに参加します

 

四本足印』

 

「………全く分からないのだけど」

 

飛ばされた先は何処かの家の様だ。窓の外には木々しか見えず遊びに来た少女というより迷い込んだ少女の気分だ

 

「…とにかく、少し中を歩き回ってみようかしら」

 

まずは探索だ。歩き回った結果ここには台所、居間、寝室があった。そこにはそれぞれ大中小の三つずつのスープ、椅子、ベッドがあった

 

「三人家族なのは間違いないわね。いえ、『bear』とあるのだし三匹家族かしら?それに『shocking baby』。子供の熊を泣かせろってこと?……趣味が悪いわね」

 

このゲームを作ったウサギの姿を思い出すと無性にイライラしてくる。きっと今もこの様子を見てウサウサ笑ってるんでしょうね。…そう思うとムカついてきたわ

 

「……さて、小熊に何かしろってことはこの一番小さなスープの入ったおわんと椅子とベッドに何かしらしろってことよね。……よく分からないし全部叩き壊そうかしら」

 

かなりアクティブなお嬢様の考えだが実際そこまで間違っていない。このゲームは『三匹のクマ』という童話を題材にしたゲーム。クマの家に迷い込んだ少女が小熊のスープを飲み、椅子を壊し、ベットで寝て、窓から逃げるだけのお話。つまり小熊を泣かせて家から出ればもうそれだけでゲームクリアの単純なゲームだ。しかし、小熊に目の前で泣かれるのは心が痛み罪悪感に駆られるというクリアした時の優越感を根刮ぎ奪い取る性格の悪いゲームなのだ

 

そんなことはいざ知らず飛鳥は謎を解こうとするも、謎自体が無いので解けるはずもなく思考の渦に呑まれていた。そして最終的に出した結論は…

 

「取り敢えず、壊しましょう」

 

結局壊すことに落ち着いた。善は急げとばかりに小熊のベットをガルドとのゲームで獲得した白銀の十字剣で切り刻み、椅子を叩き潰し、スープは勿体無いので飲んだ後おわんを真っ二つにした

 

「ふぅ。ここまですれば文句ないでしょう」

 

悠々と始めの寝室へと戻ったが勝利の宣言はされない

 

「これ以上何しろって言うのよ!」

 

そろそろこのギアスロールも切ってやろうかと思っているとガチャっと家の扉が開く音がした。そして

 

「わーん!誰かが僕のスープを飲んじゃった!それにおわんも壊しちゃった!」

 

子供の泣き声がした。それも声の調子を聞く限りかなりのガチ泣きのご様子だ

 

(実際に泣き声を聞くと少し罪悪感がでるわね。まぁこれでゲームクリアでしょう)

 

しかしギアスロールからは何の反応も無い

 

「泣かないで。ほら、椅子に座って休もうじゃないか」

 

台所からそんな声が聞こえ、飛鳥の背中に嫌な汗が流れる。この先の未来が予想出来たからだ。何故なら椅子は…

 

「うわーーん!!誰かが僕の椅子を壊しちゃったぁ!!」

 

「うっ……」

 

飛鳥が先程叩き潰したからだ。背中に嫌な汗が更に登ってくる。この流れでいくと次は……

 

「もう休もう。ほら寝室で一緒に寝ようじゃないか」

 

「………………」

 

現在の状態だけ言おう。嫌な汗が止まらない。ゲームをクリアするためとはいえ、少しやり過ぎたかもしれない。

 

「……逃げましょう」

 

もうゲームなんてどうでもいい。とにかくここから逃げ出したい。その一心ですぐそばの窓から飛び出し駆け出した

 

「うわぁぁぁぁぁん!!!誰かが僕のベットを壊しちゃったよぉぉぉぉ!!!」

 

「………………ッ!!」

 

小熊の叫び声をバックに走り続ける飛鳥の前には『勝者:久遠飛鳥』の文字が浮かんでいたが一心不乱に走っていた飛鳥は気づくこともなくゲームフィールドから現実へと戻っていった

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「いやぁ、いいゲームだった!」

 

「………………」

 

「あはは、どうしたの?ゲームはクリアしたのに……お顔が怖いですよ?」

 

「………あなた、てんゐとか言ったかしら?」

 

「へ、へぇ。そうでございやすが……」

 

「ちょっとそこまで首貸しなさい」

 

「顔じゃなくて!?」

 

 

 

☆☆☆

 

 

ノーネーム本拠

 

 

 

「あ、飛鳥!おかえりー。遅かったね」

 

「………ええ、ちょっと遠出しててね。それとフラン、お土産よ」

 

背負っていた袋から()()サイズの人形を取り出してフランに手渡した

 

「わぁー!!ヌイグルミ!もらっていいの!?」

 

「…ええ、もちろんよ。ただし!」

 

「ふぇっ!?」

 

「絶対に……絶対に乱暴に扱っちゃダメよ。いい?」

 

「う、うん」

 

顔を近づけ鬼の様な剣幕で詰め寄る飛鳥にフランはただ頷くしか出来なかった。空気が重い気がしたのでフランは飛鳥の担いでいる袋にまだ膨らみがあることに気づき聞いて見る事にした

 

「ね、ねえ飛鳥。その袋には他に何が入ってるの?」

 

「これ?今日の夕飯よ」

 

「そ、そうなんだ。中身は?」

 

「……これよ」

 

グイッと袋から乱暴に引っこ抜く。その手に握られていたのは…

 

「てんゐ!?」

 

「おぉ〜い、たーすけてくれ〜」

 

耳を掴まれ宙ぶらりんになっているてんゐだった

 

「待っててねフラン。取り敢えず煮て焼いて掻っ捌くから」

 

「待って飛鳥!そんなことしたらてんゐが死んじゃう!」

 

「大丈夫、バカが一人消えるだけ。何の問題も無いわ」

 

「問題あるって!だ、誰か来てーー!!」

 

この後飛鳥を止めるのに二時間を費やし、てんゐのゲームは開催禁止になったとさ

 

 

 




なんか……小熊が……
作者だからか書いてて胸が痛くなった

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