問題児と悪魔の妹が異世界から来るそうですよ?   作:亡き不死鳥

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……………ツッコミはなしで


堕ちた英雄ペルセウス

 

 

 

フランが本拠から出ると、そこには石化したレティシアが存在していた。その近くに十六夜と黒ウサギもいる。地に転がる石像がまるで何かを庇うかのような姿勢をしているので、きっとレティシアは二人を守って石化したのだろう。近くには昨夜フランと打ち合ったのと同じ形状の槍が壊されている事から十六夜は力試しに勝ったのだろう

 

夜になりフランの思考速度が上がり、目の前の情報を淡々と整理していく。しかし働き続ける脳と対象に心がこの光景を受け止められない。フランは日々の生活の変化に疎い。幻想郷に居た時は()()の時以外は全て紅魔館の中でサイクルが出来ていた。何か変化があるとしてもそこまでマイナス方向の出来事は起きていなかった。

 

だからこそだろう。異世界に来てから、友達が増え、目標ができ、皆に笑顔が増え始めていた。それをあっさりと壊すような光景が目の前にある。未だ精神年齢がそう高くないフランには()()はあまりにも重い

 

「いたぞ!吸血鬼は石化させた!すぐに捕獲しろ」

 

「例の“ノーネーム”もいるようだがどうする!?」

 

「邪魔するようなら構わん、切り捨てろ」

 

フランが一種の現実逃避をしていると、光りの差し込んで来た方角から翼の生えた靴を装備した男達が大挙して押し寄せてきた

 

まるで虫のようだと思いながらそれを見ていると、何かに引っ張られるような感覚がして本拠に連れ込まれた。振り向くと十六夜とフランの手を引いている黒ウサギだった。そこでようやく固まっていた身体が動き出した

 

「黒ウサギ!なんでレティシアを彼処に置いてきたの!?あいつら敵なんでしょ!?だったら守らないと!」

 

「……無理なのですよ。レティシア様は元々“ペルセウス”の所有物。あの方々はレティシアを回収しに来たのでしょう。それを邪魔したとなると彼等の本元、“サウザンドアイズ”そのものを敵に回しかねないのですよ」

 

「そんな……レティシアは黒ウサギ達の事を心配して!」

 

「そんなの!!分かってるのでございますよぉ!!それでもこのコミュニティには百二十人もの子供達も居るのです!その子達全員を危険に晒せと、フランちゃんはそう仰るのですか!?」

 

黒ウサギの剣幕にフランは言葉を詰まらせる。そう、心配じゃないわけない。連れ去られるのを指を咥えて待つなんて冗談じゃない。昨日今日あった程度のフランと違い、黒ウサギは長い間レティシアと共に過ごして来たのだ。それを身を焼くような決断で耐えている。それをその泣きそうな双眼が伝えてくる

 

「……でも…でも…だったらどうしたら……十六夜ぃ…」

 

黒ウサギと話している間にも相手は着々と作業を済ましていく。十六夜は二人の会話を聞きながら何かを考え込むように目を瞑っている。相手がレティシアに縄をかけ始める。身体よ動けと、レティシアを助け出せと足が動きそうになる。しかし黒ウサギに怒鳴られここで飛び出す愚かさが理解出来る。結局フランには歯を噛みしめながらこの光景を見ているしか出来なかった

 

「………フラン。……黒ウサギ。二人に聞きたい事がある」

 

突然の十六夜からの発言。黒ウサギと共に振り返ると、普段のおちゃらけた態度は全く無く、こちらの目を真っ直ぐ見る十六夜が居た。黒ウサギも普段の十六夜とのギャップに驚いているようだ

 

「なん…でしょう?」

 

小さく黒ウサギが返す。

 

「俺を……信じられるか?」

 

要領を得ない質問。旗を返して居た十六夜はもっと理論的だった。それが無くなるくらい切羽詰まっているという事なのか……。それでも、十六夜は頭が良い。多分この中では断トツで。その十六夜が信じろと言うなら……うん。

 

「私は信じられるよ」

 

「黒ウサギもです」

 

同じ結論に至ったのか、黒ウサギの方も瞳に迷いは無い。そして、その返答を聞いた瞬間。十六夜の口角が上がった

 

「よし、二人にやってもらうことがある。まずフラン。外にいる奴らを全員撃ち落とせ」

 

「え!?で、でもそんなことしたら……」

 

「言ったろ。『信じろ』って。フラン、黒ウサギ、お前達が俺を信じてくれるなら俺は必ずレティシアをペルセウスから取り返してやると約束する。……どうする?」

 

「……分かった。行ってくる」

 

それだけ言うとフランはダッと本拠から駆け出しレティシアの元へ走り出した

 

「次に黒ウサギ、お前に聞きたいことがある」

 

 

 

 

 

 

本拠を飛び出したフランはまず今にもレティシアを連れて行かんとする三人の男達に飛びかかった。先ずはレティシアに縄をかけている男を勢いを乗せたまま蹴りつけた。それと同時に二人に弾幕を一つずつぶつけた

 

「ガァ、!?」

 

「何を…ブヘェッ!!」

 

「ノーネームが!…ゴフェ!」

 

続いて地上にある『姿が見えない』敵を吸血鬼の嗅覚で察知し、弾幕を放つ。それを確認するとブワッと空を飛び、百人を超えるペルセウスのメンバーの真ん中に突っ込んだ

 

「なんだこのチビは?」

 

「ふん。所詮は名無しか。身の程を知れ」

 

「この人数相手にどこまで粘れるかな?自軍の旗すら守れなかった名無しなど我等の敵ではないぞ!」

 

四方八方からの罵詈雑言。それがどうしたとフランは相手を心底見下したような目で言い放つ

 

「あなた達を全員落としてあげるわ。……お前達を殺したいし裂きたいし壊したいけど、今日だけは、今だけは、辞めておいてあげる。……だけど、一人も逃がさないよ!!」

 

百人に囲まれながらフランは気丈に言い放つ。そして懐から一枚のスペルカードを取り出した

 

 

「禁忌『恋の迷路』」

 

 

…………壁だ

フランのスペルカード、恋の迷路を目にしたペルセウスのメンバーは全員そう思った。光り輝く壁がまるで自分達に迫ってくるようだ。それは間違いでは無い。まさに弾幕、弾の幕、弾の壁、弾の波だ。避けれる所などないと言わんばかりの密度。それらがペルセウスを呑み込んでいく。第一波を逃れたのはフランの前に居た者達だけ。しかしそいつらも第二波に呑み込まれていく。そして弾幕に当たった者は例外無く地に叩き落とされる

 

(大丈夫、加減は出来てる。これだけはずっとお姉様に教え込まれたんだから)

 

レミリアが弾幕ごっこについて一番初めに教えたのは加減だった。スペルカードなど二の次にして徹底的にフランに弾幕の威力を調整させた。理由は大まかに二つ。一つはフランは今まで無意識のうちに『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』を弾幕に載せて使っていたからだ。弾幕そのものに威力がなくとも能力で相手を壊してしまう。そしてもう一つはフランの感情的な性格にあった。感情にムラがあるフランは本来から強力な弾幕を使ってしまう恐れがあったのだ。そして、決まって最後にはこう教えていた

 

『この弾幕ごっこはね、友達を作るゲームよ。互いを見せ合い、魅せ合う。妖精も、人間も、妖怪も、神すらもこれを通して友達になれる。そんな素敵なゲーム。…でもね、相手を壊してしまっては友にはなれないわ。それさえしなければ……フラン。あなたには必ず素敵な友達が出来るわ。……そして』

 

(出来たよお姉様。異世界でだけど、私にも友達が!それに)

 

『その友達を守る為にあなたの力を使ってくれるなら、姉としてこれ以上の喜びはないわ』

 

(私は今友達の為に戦えてるよ!)

 

 

スペルカードの効果時間が切れる。弾幕が消えた夜の空にはフラン以外の存在は無かった。代わりに地面には百人を超える人が倒れていた。それはつまり十六夜に頼まれた役目を果たせたという事だろう。地に降り立ったフランの頭を近づいて来た十六夜が乱暴に撫でる

 

「よくやったなフラン。んでもって、後は俺に任せとけ。黒ウサギ、おチビとお嬢様を連れて来い。行くぞ!」

 

「ふぇっ!?は、ハイ!って、え?ど、何処にですか?」

 

「決まってんだろ。事情に詳しそうな奴の所だ。ペルセウスとノーネーム、両方に繋がりがある奴なんて近場じゃあいつくらいだろ?」

 

「……まさか」

 

「ああ、白夜叉の所だ」

 

 

☆☆☆

 

 

 

「うわおウサギじゃん。噂には聞いていたけど、本当に東側にウサギがいるなんて思わなかった!つーかミニスカにガーターソックスって随分エロいな!ねー君ウチのコミュニティに来いよ。三食首輪付きで毎晩可愛がるぜ?」

 

床に伏せている耀とその看病に残ったジン以外のノーネームメンバーはサウザンドアイズの支店に着き、離れの家屋に辿り着いた。ノーネームを出迎えたのは地の性格を隠そうともしない亜麻色の髪に蛇皮の上着を着た線の細い男だった。その男こそレティシアを苦しめている本元、ペルセウスのリーダールイオスである

 

「これはまた……分かりやすい外道ね。この美脚は私達のものよ」

 

「そうですそうです!黒ウサギの脚は、って違いますよ飛鳥さん!」

 

「そうだぜお嬢様。この美脚既に俺のものだ」

 

「そうですそうですこの脚は、ってもう黙らっしゃい!」

 

「よかろう、ならば黒ウサギの脚を言い値で」

 

「売りません!真面目なお話をしに来たのですからいい加減にしてください!黒ウサギも本気で怒りますよ!」

 

「馬鹿だな。怒らせてんだよ」

 

スパーン!とハリセン一閃。ノーネームが漫才をしている間、フランだけは目の前のルイオスを睨みつけていた

 

 

 

 

 

 

話が進まなくなったことと人数が増えた事により一旦サウザンドアイズの店に移動し、仕切り直す事にした

 

「ペルセウスが私達に対する無礼を振るったのは以上の内容です。ご理解いただけたでしょうか?」

 

「う、うむ。ペルセウスの所有物・ヴァンパイアが身勝手にノーネームの敷地に踏み込んで荒らした事。それらを捕獲する際における数々の暴挙。確かに受け取った。謝罪であればまた後日」

 

「結構です。あれだけの暴挙と無礼の数々、我々の怒りはそれだけでは済みません。ペルセウスに受けた屈辱は両コミュニティの決闘をもって…」

 

「いやだ」

 

唐突にルイオスが口を挟んだ

 

「決闘なんて冗談じゃない。それにあの吸血鬼が暴れ回ったって証拠があるの?」

 

「それなら彼女の石化を…」

 

「あるぜ」

 

再び黒ウサギの言葉が遮られる。今度は十六夜のようだ

 

「なに?」

 

「あるっつってんだよ。ほれ」

 

ぽいっとバラバラになった鉄の塊を皆に見えるように投げた

 

「こいつはあいつが持ってた槍だ。こいつがこんな形でノーネームの敷地に残されてるんだ。“暴れた”って証拠にゃ十分だろ?なんなら本当にレティシアの物か鑑定してくれても構わないぜ?」

 

「はっ!おいおいそんな物で証拠扱いにするのか?口裏を合わせていないとも限らないじゃないか。そうだろ?元お仲間さん?」

 

「な、何を言い出すのですか!そんな証拠が何処に」

 

「事実、あの吸血鬼はあんたの所に居たじゃないか。ま、どうしても決闘に持ち込みたいというならちゃんと調査しないとね。……もっとも、ちゃんと調査されて一番困るのは全くの別の人だろうけど」

 

「そ、それは……!」

 

視線を白夜叉に移す。黒ウサギとてバカでは無い。レティシアの脱走に彼女が一枚噛んでるのは明らかだ。この三年間ノーネームに支援をしてくれていた白夜叉にこの一件で更なる苦労をかけるのは避けたかった。……自分にはもうなす術が見つからない。黒ウサギの視線は知らずと十六夜に向かっていた。黒ウサギとフランに信じろと言った異世界からきたばかりの人間に

 

「調査なんてする必要ないぜ?そんなことしなくてもお前はゲームを受けるからな」

 

黒ウサギからの視線を受けっとったとばかりに挑発的な笑みを浮かべる十六夜。そんな十六夜の態度に怪訝な表情を浮かべながら反論する

 

「どこにそんな自信があるのか知らないけどさ、言ってるだろ?『いやだ』って。まあ?黒ウサギがウチのコミュニティに来るって言うならあの吸血鬼ぐらいなら返してやらない事もないけど?」

 

「ッ!!貴方という人は!」

 

「待って黒ウサギ」

 

今にも掴みかかりそうな黒ウサギを止めたのは此処に来てから全く喋ろうとしなかったフランだった

 

「黒ウサギ。信じよう?十六夜はなんの根拠も無しにあんなこと言わないよ」

 

「フランちゃん……ハイ。分かったのデスよ」

 

黒ウサギは変わりかけた髪の色を元に戻し、深呼吸をして感情を落ち着かせることに専念した

 

「わぁお!もう一人の金髪吸血鬼じゃん!なになに?ノーネームはロリコンの溜まり場だったのかよ?つーかこいつがいるんだったらあの吸血鬼いらないだろ?もういい加減に本拠に帰らせてくれない?他の奴等が働いてるか見なきゃいけないんでね」

 

その言葉に再び激昂しそうになる黒ウサギをフランが抑えているのを横目に十六夜は一瞬の隙をついたかのように語りかけた

 

「…お前、もしかしてお前が送り込んだ連中が今何処に居るのか知らねぇのか?」

 

「あん?」

 

「あいつらだったら今はウチの地下に拘束させてもらってるぜ?なんせ、『敷地内への不法侵入』に『本拠周辺の器物破損』をやらかしたんだからな。やろうと思えば今すぐにでも専門の奴等に引き渡す事が出来るぜ?その事実を吹聴して回れば、商業コミュニティにとっちゃ死活問題だろ?」

 

「ッ!!」

 

「どうしたよペルセウス。で?俺たちからのゲーム、受けるか?逃げるか?さぁ、どっちだ?」

 

そう、商業コミュニティにとってなにより大事なのは『信頼』だ。信頼のないコミュニティのゲームに参加する人は少なく、ホストとしての活動も上手くいかなくなるであろう。ルイオスは顔を俯かせ、今までで最長の沈黙が部屋を支配する。そしてルイオスは…

 

「……ク、………クク……あっははははは!いいだろう、答えてやるよ。

『いやだ』」

 

拒否した

 

「確かに送り込んだ全員が捕まっていて、そいつらがペルセウスから消えるとなると、まぁちょっとはキツイかもしれないけどそこまで問題じゃない。それにさぁ、噂を流すっても自分達の立場を忘れてね?“名無し”が」

 

心底侮蔑した目線でノーネームを見るルイオス。しかし箱庭では彼の行動は間違った事ではない。旗と名がない“ノーネーム”。それは箱庭のコミュニティの最下層を生きる者達。それは信頼も信用もなくした者達の名称だ

 

「噂の出処がノーネーム?はっ!笑わせるね。そんな情報誰が信じるかっての。そもそも俺とお前らじゃ立場が全然違う。片やサウザンドアイズ幹部、片や旗も名も亡きノーネーム。今まで築いて来たもんが違うんだよ」

 

今度は十六夜が俯く番だ。ルイオスの言葉は正しい。何処も間違っていない。だからこそ反論が出来ない。そんな十六夜の姿をルイオスはつまらなそうに一瞥するとゆっくりと立ち上がった

 

「これで話は終わり?じゃ、僕は帰るとするよ」

 

スタスタと出口へ向かって歩き出す。

 

ーーここまでかーー

 

ノーネームの誰もがそう思った。

そう、()()以外は

 

「……ククク。あっはっはっは!」

 

今度は十六夜が高笑いをし始めた。まるで先程のルイオスを模倣したかのような、相手を心底バカにしているような笑い声だ

 

「……気でも狂った?」

 

「いやいや、俺は正常だよ。ああ確かにな。俺達ノーネームにゃ信頼も信用も頼る相手すらいねぇよ。だがそれは、昨日までの話だ」

 

「あ?」

 

「惜しかったなぁペルセウス。あと一日、たった一日早けりゃまだなんとかなったかもしれなかった。だがな、この交渉は俺達の勝ちだ」

 

「何を…」

 

「今日丁度俺達はギフトゲームをしてきたばっかりなんだよ。相手はここいらの地域のコミュニティを吸収してデカくしてた奴等だ。…んで、俺達はその吸収されたコミュニティに旗と名を返した。この意味が分かるよな?」

 

「まさか……貴様ら……」

 

「噂の出処は“ノーネーム”じゃない。名も旗もある数十のコミュニティが発信源だったらどうだ?今なら“六本傷”のコミュニティからも発信されるオマケ付きだ。六本傷のコミュニティはデカイ他のコミュニティとの関わり合いが強いし、吸収されてたコミュニティには北や南に同盟コミュニティも居るって話だ。そして……そこまで広がれば当然、“他の”サウザンドアイズのメンバーにもこの噂は届くよな」

 

「……あ、……ぁぁ」

 

「そうなれば、サウザンドアイズの名を汚したペルセウスはどうなる?白夜叉」

 

「………無論、軽くてサウザンドアイズからの追放。重ければ……メンバー全員の粛清もあるやも、といったところか」

 

「だとよ。……さて、最後のチャンスだ。俺達のゲーム、受けるか?逃げるか?」

 

 




取り敢えず十六夜兄さんにかっこいいとこ見せて貰いたくて書きました。

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