Muvluv 生命の源の申し子   作:ユニコーン

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お待たせいたしました!
第二十九話を更新します!

それでは、どうぞ!


第二十八話

夕呼side

 

 

 

 

「フィカーツィア・ラトロワ~?」

 

『はい、一度忍びで来日して誰かを探してたみたいなんです』

 

 

 白銀から早々に通信が来たと思えば、忍びで来日して人を探していたと言う女を調べて欲しいだった。

 面倒ながらも試しに名前をデータベースで検索すると、【ソビエト連邦陸軍ジャール大隊隊長】の中佐だった。

 ザッと見るだけでもかなりの功績を上げてるわね。

 勲章類がズラリと並んでいるわ。

 

 

「で、他には何かあったの?」

 

『日本文化が好きみたいで、浴槽等の家庭用品から竹刀とかを一個大隊分注文してたみたいです。あと天然の保存食とかも購入してたみたいで…』

 

「…そう、こちらでもある程度調べてみるわ」

 

『お願いします』

 

 

《―――ブンッ》

 

 

 やれやれ、コイツ等が現れてから面倒臭い事が増える一方だわ。

 アタシは更なる研究で忙しいってのに、何でこうも仕事を増やしてくれるのよ。

 それにしても、日本文化が好きな物好きがソビエトにいたのにはビックリだわ。

 まさか浴槽から色んな物を徹底的に発注するなんて、軍内では恐らく風当たりは強いわね。

 あの国は昔の戦争から日本を卑下しているのに、その日本の生活用品等を態々注文して使うんだから。

 それと気になるのが、誰かを探していること…日本に亡命した奴でも探してるのかしら?

 

 

「社は覚えは無いの?」

 

「…無いです」

 

 

 白銀と違って常に情報を閲覧していた社が覚えがないと言う事は、今回のはイレギュラーってことね。

 もっと情報を集める必要があるかしら…あそこは自国の情報は一つでも漏れないようにガチガチに固めるから、アタシが探ったら何しでかすかわかったもんじゃないわ。

 第三計画…『オルタネイティブ3』で失敗して戦力諸々失ってるから、ちょっとの事で事を大きくして賠償請求とかして来るから面倒だわ…

 あら、社がいきなりあたしの後ろに隠れたけど、どうしたのかしら?

 

 

「おや、お嬢さんに気付かれてしまいましたか」

 

「!?」

 

「初めてですね、一番に気付かれるのは―――」

 

 

 コイツはまた、人の許しもなく勝手に入って来て…

 

 

「―――誰の許しを得て入ってきたのよ、鎧衣(・・)

 

「これは申し訳ない、香月副司令の麗しいお顔を早く拝見したいもので、つい先走ってしまいまして」

 

 

 渋く色褪せたトレンチコートを羽織り、室内でもハットを被って飄々として何を考えてるか分からない笑顔を貼り付けている男、【鎧衣 左近】が入口に立っていた。

 執務室のセキュリティロックはあの後から更新はしていないものの、それでもセキュリティは他国のセキュリティよりも段違いに高い。

 にも関わらずこの男はロックなど何のそのと言わんばかりに、意図も簡単にすり抜けて毎回部屋に潜り込んでくる。

 

 

「何分私の娘の様な息子…いや、息子の様な娘ですかな? その上官である突如と現れた中佐方にご挨拶を申し上げたくて…中佐方は今どちらにいらっしゃいますか?」

 

「白々しいこと言ってんじゃないわよ。ここに来なくてもあんたならアイツ等が今どこにいるかぐらい知ってんでしょうが」

 

「これはこれは、私の能力を買って下さるのは光栄ですが、挨拶をするのにも手順を踏まないと失礼に値しますので」

 

 

 どの口が失礼に値するとほざくのよ。

 それを思うならアポとノックしてから入ってきなさいよ。

 相変わらずこいつはワザとこっちの神経を逆撫でして怒りを誘ってボロを出させようとするわね。

 

 

「で、何の用よ?」

 

「ああ、そういえば今回行って来たブラジルでは―――」

 

 

《―――チャキッ》

 

 

「ごちゃごちゃ言ってないでさっさと要件を言えッ!」

 

「おっと、まさか麗しい香月副司令からそんな無骨な物を向けられるとは。何やらパワーアップもしておりますね」

 

 

 P90を向けられてるのに相変わらず飄々としてるわね。

 こっちは今から面倒臭い奴等の情報を得ないといけないってのにッ…あら?

 そういえば居たわね、探りに打って付けの奴が。

 

 

「―――丁度いいわ、あんたに仕事よ」

 

「おや、突然ですね。して、どの様な仕事でしょうか?」

 

「こいつの詳細と、部隊の詳細を手に入れて来なさい」

 

 

 P90をしまってデスクトップ画面をこいつに見える様に動かして命令すると、鎧井は首を傾げた。 

 

 

「おやおや、どこの誰かと思えばジャール大隊隊長ではございませんか」

 

「あら、あんたこいつの事知ってるの?」

 

「ええ、いつの日か帝国でお会いしましてね。何やら人を探していると言っておりまして…結局見つからなかった様ですが」

 

 

 これは予想外、まさか既にフィカーツィア・ラトロワと会っていたなんて思わなかったわ…

 それにしても、フィカーツィア・ラトロワも大きなミスをしたわね。

 こいつはあたしの駒で帝国情報省の諜報部員、そして殿下の側近の三足草鞋。

 ただでさえロシア人が日本に来日する事に疑念を持つ時代なのに、こいつに人を探してるだなんて言ったら隅から隅まで嗅がれたくない所まで嗅ぎ回られるわ。

 なら丁度いいわ、こいつにもう一度調べて貰いましょう。

 

 

「なら話しが早いわ。さっさとこいつの新しい情報を持ってきて頂戴」

 

「おや、副司令はその道に目覚め―――」

 

 

《―――ジャキンッ》

 

 

「………」

 

「畏まりました、不肖この鎧衣 左近、この身この骨が尽きようとも任務を完遂して見せましょう」

 

 

 ロケットランチャーを向けられても態度を変えず、鎧井は恭しく一礼をして立ち去った。

 なーにがこの身この骨が~よ。

 忠誠を誓ってるのは殿下だけでしょうがッ白々しい!!

 

 

「全く、アイツはここのセキュリティを簡単に開けてくるわね…そうだわ、今度社が暴走した時のロックの解除、アイツにやらせよ」

 

 

 余談だが、数日後に賢治によって再び霞の逆鱗が発動し、たまたま居合わせた鎧井がドアを開錠しようした時、強力な電気ショックが流れ、鎧衣は黒焦げになった。

 

 

 

 

―――帝国技術廠

武side

 

 

 

 

《ドォォーーンッ!》

 

 

「いいんじゃね今の?」

 

「そうだな、今までので一番深く埋まってるな」

 

 

 あの後、遅くなった昼飯を取って俺達は武器の改造に取り掛かった。

 最初に突撃砲の改造をしたけど、元々撃震改を改造した時に改造した突撃砲をもう一度見直して作っただけだ。

 元々撃震改を改造した時に一緒に改造した突撃砲は36mmの弾倉の装填数を10%と120mmの弾倉を8発にまでUPし、はめ込み箇所を若干大きくした。

 そして弾倉自体に給弾不良を防ぐ為に突貫自作の簡易型モーターを搭載して随時給弾出来るようにした。

 ネックは一丁作るのに今までより金が掛かるが、衛士の命に代えることは出来ないので、先生に言って横浜基地はこれを使うことにする。

 だが只弾数を増やしたのとジャムるのを防いだだけではBETAの大群(・・)を相手にはあまり意味がない。

 突撃級のあの甲殻には殆ど効かないからな、貫いたと思いきや直ぐ様再生するし…

 そこで俺達は、弾丸自体に仕込みを入れることにした。

 もっとも、昔俺が読んでいた週刊少年雑誌の西部ガンマンのダンディな叔父さんが使っていた弾丸を再現するだけなんだが。

 弾丸自体に螺旋を彫ると、ある程度貫通力が増すとのことだ。

 実際に一発だけ36mmの弾に彫って撃ってみると、普段の36mmよりも深く埋まっていた。

 ただ火薬を増やすわけにもいかないので、弾丸に螺旋を彫る方向で今作業しているんだが…まだしっくり来るのに当たっていない。

 最後に作った奴が今までで偶然一番威力が高かっただけだ。

 因みに今撃ったのは劣化ウランではなく通常のやつな。

 

 

「撃つといっても君達の場合は弾を蹴って撃ち込んでいるじゃないか。君達の足はハンマーかね?」

 

「突撃砲に一々装填するより早いっしょ?」

 

「人間を辞めた様なセリフをサラりと言うのはやめてくれ…」

 

 

 突撃砲を一丁解体→銃身を固定→俺が弾丸込める→賢治が蹴って撃つ。

 突撃砲となんら威力は変わらない。

 弾丸に関してはここまでにしよう。

 弾丸のサンプルも三つ出来たし、一つはここにおいて、二つは横浜に送って先生に修正して貰おう。

 さて、次は支援突撃砲に移るか。

 

 

「本当に君達は何でも出来るんだな…」

 

「何でもは出来んさ、知ってたり思いついたことを模索してるだけさ」

 

 

 …そのセリフはどっかで聞いたことあるぞ賢治。

 支援突撃砲に移っても、同じく装填数を10%増やして弾丸に螺旋を彫っただけ。

 後はロングバレルの頑丈さと排熱スピードを向上させて飛距離を3%だけ伸ばした。

 3%伸びたので、当然スコープも3%分距離計算を伸ばすように改造し、プログラムも弄った。

 ついでにロングバレルの上にある取っ手の様な物は取り除いて平たくしたので、担架に積みやすいようになった。

 

 

「ここまでで6時間か…技術廠をフル稼働させても真似出来ないな…」

 

「それより、其方の仕事は大丈夫ですか? こっちがボコボコと騒音を立ててるから集中出来ないのでは…」

 

「私の方は問題ない、寧ろ君達の考え方がプラスされて色んな仕事が捗ってるよ」

 

「そうですか、邪魔になってなければよかったです」

 

 

 中佐の俺達には書類仕事は回ってこないけど、巌谷中佐を見て改めて中佐という位がいかに大変かが分かる。

 帝国技術廠の副局長である事も関係してか、書類整理だけで軽く400枚の紙束が3つテーブルに乗っている…

 俺達じゃ絶対に捌けないな。

 

 

「まあ俺と武は肉体労働だから、書類関係は殆ど博士とピアティフ中尉が捌いてるだろ」

 

 

 …報告書ぐらいは俺達書いてるけどな。

 

 

 

 

横浜基地 執務室

 

 

 

 

「これが情報ですか…」

 

「現時点ではソ連は情報を執拗に隠していて簡単に探れないのよ。あっちはめんどくさいったらありゃしないわ」

 

 

 夕方、横浜基地に戻ってアイツ等の講義を終わらせた後に先生の下に行くと、例の中佐の詳細を渡された。

 フィカーツィア・ラトロワ

 未亡人でグルジア出身の夫は戦死、子供はMIA。

 被支配者民族で構成された部隊を持ち、ロシア人を敵視する子供達からママと敬愛される程の信頼を持つ女史。

 訓練兵時代、総戦技評価演習の途中、雪山で行方不明になるが、自力で帰還。

 訓練兵を卒業と同時に自分の部屋に日本製を持ち込み始め、和食を作り始める。

 訓練兵時代に行方不明から自力で帰還してから物思いに耽る事が多い。

 また、格闘技も柔道と空手、合気道に力を入れ、度々問題を起こす屈強達をちぎっては投げを繰り返し、ロシアの女三四郎として君臨した経歴有り。

 女性でありながら戦場と基地内で活躍をして一躍脚光を浴び、いつしかグルジア出身の夫と結ばれ、子供を授かる。

 その後、夫は戦死、子供はMIAとなるが、周りからのサポートにより悲しみから立ち直る。

 得意技は一本背負い。

 味付けは味噌を中心としている。

 

 

 おいちょっと待て、色々とツッコムところがあるぞ。

 途中のブルーな話はともかく後半だ。

 何でこの人ロシア人なのに日本武道三種も極めてんだよ。

 なんだよ最後の得意技は一本背負いって、洒落か、洒落なのか?

 それに味付けなんか誰も聞いてねぇよ。

 

 

「これ、ガセじゃないですよね?」

 

「取って来た本人に聞きなさいよね~」

 

 

 取って来た本人って誰だ…ああ、先生の事だから鎧衣のおっさんにさせたのか。

 あのおっさんが取ってきたってことはガセじゃないな。

 

 

「……」

 

「おい、どうした?」

 

 

 賢治がフィカーツィア・ラトロワ中佐の顔写真を見て今もずっと何かを考えていた。

 何だ、一体?

 

 

「いや~、この女、どっかで見たことがあるんだよなぁ…」

 

「…ソックリさんでも見たんじゃないか?」

 

「…そっかなぁ。まいいや」

 

 

 賢治は考えを投げたが、今も仕切りに首を傾げていた。

 さっきから後ろにいるおっさんが居る手前、別の世界の事を話すわけにはいかない。

 それにこの世界は俺達にとって平行世界でもあるから、自分のことを知らないままの知り合いが居てもおかしくはない。

 ということは、この人を賢治は元の世界で見たことがあるってことか…ん?

 確かこの人、日本に来て人を探してたって巌谷さん言ってたよな?

 一時行方不明…まさか、な…考え過ぎか。

 

 

「まあ、こいつの事はおいおい分かっていくでしょ、既に調査してるんだし、後は結果待ちよ」

 

「…そうだな。で、それはさっきから隅っこでこそこそと油売ってる奴に頼んだのか?」

 

「おや、気付かれてましたか」

 

「!?」

 

 

 賢治が隅っこを親指で後ろ向きに差すと、部屋の隅から声が聞こえた。

 後ろを向くと、丁度光が当たらない角からゆっくりと現れた。

 先生が気付かなかったって事は、外出中に忍び込んだのか…流石美琴の父親。

 逆に今まで俺達に接触して来なかったことを疑うぜ、接触する機会はいくらでもあったのによ。

 

 

「お初にお目にかかります黒崎中佐、白銀中佐。私は鎧衣 左近と申します。貿易会社の課長をやっております」

 

 

 名刺を出しながら挨拶してきたけど、数多くの世界で戦った今の俺なら良くわかる。

 このおっさんの雰囲気から課長(・・)という普通の地位にいる人間とは思えない。

 これは賢治もわかっている。

 さっきからこのおっさんに対して警戒の視線を向けてるしな。

 

 

「その成り、動き、話し方…お前諜報部員だな?」

 

「おや、何故そう思うんです?」

 

「たかが貿易会社課長が何で隙のあるようで無い動きをするんだよ? 丸わかりだアホ」

 

 

 あと態々死角に隠れていたこととかね。

 

 

「……ほう、どうやら君達の前では通用しないようだな」

 

 

 ヤケにアッサリと素性を出したな。

 霞、このおっさんに先生は俺達の事説明したのか?

 

 

《…何もしてません》

 

 

 リーディング→プロジェクションの会話で霞に確認すると、俺達のことは何も説明してない様だ。

 てことは書面上では死人である俺の正体の確認をしにってことか。

 先日月詠大尉に釘刺したばっかだってのに…

 

 

「君が、白銀 武君で間違い無いかな?」

 

「そうですよ?」

 

「ふむ、そうか」

 

 

 …あれ、【前】はいきなり頬引っ張ってまで正体探ってたのにしてこない?

 俺達のあの時の暴れ様から警戒しているのか?

 

 

「そして君が黒崎 賢治君だね、噂は聞いているよ」

 

 

 どんな噂だよ、どう考えても物騒な噂しか思いつかない。

 

 

「私は香月副司令の下によく足を運ぶが、君達の事は全く聞いたことが無かった。そして君達は特殊任務に就いていたと副司令はおっしゃられているが、どんな任務だったのかね?」

 

「本人に聞けぃ」

 

 

 即答したが、賢治の場合は先生に任せたほうがいいな。

 こういう言い回し方とかは、賢治と俺はほぼ同じでダメな方だからな。

 

 

「そうか、では仮に君達が任務を終えたとして、ひょっこりこの基地にやって来てから戦術機の開発を始めれば、各国でも頭を悩ませている戦術機開発をスイスイとこなしていく。任務についていたとして、ここまでスムーズに開発を進めれるのはあまりにもおかしい。それに先日BETA上陸の際に発揮した君達の力もだ」

 

 

 要は俺達が特殊任務で帰ってきたからってここまで事が進むのはおかしいってことか。

 先生、何とかしてくれよ。

 さっきからおっさんが賢治にボロを出させようと質問攻めしてるんだけど、そろそろ賢治が危ないぞ?

 

 

「さっきから言ってんだろうが、俺達の事は博士に聞けってよ」

 

「おや、自分の―――」

 

「【のされてえのかテメェは―――】」

 

「!?」

 

 

 …ああ、なっちまった。

 

 

「【さっきからテメェは人をイライラさせることばかり―――ッ!】」

 

 

《―――ガシッ!》

 

 

「やめろ賢治、ねちっこい言い回しでイライラするのは分かるが、相手も仕事なんだ。許せ」

 

「【……】」

 

 

 今にもおっさんに殴りかかろうと動き出した賢治に俺が腕を掴んでストップをかける。

 賢治は殺気を抑えたが、目はそのままおっさんを睨み付けていた。

 俺と賢治の差はここだ…俺達の戦闘スタイルは荒々しいが、賢治はそれに比例して気も荒い。

 現に声がハウリングする位に怒りを表していたしな。

 

 

「これはこれは、私としたことが…」

 

 

 おっさんは帽子をかぶり直す仕草をするが、その顔には脂汗が滲んでいた。

 あの飄々としているおっさんに脂汗か…さすがに賢治の殺気にはやられたか。

 霞は…平然としてるな、俺の後ろにいるけど。

 先生も彩峰と冥夜の時ので耐性が付いたのか、天然コーヒーをズズズッと飲んで見てるし…

 おいおい、いくらなんでも耐性付くの早くない?

 

 

「このままでは私は殺されかねないので、改めて自己紹介しよう。私は帝国情報省諜報部課長の鎧衣 左近という者だ。訓練兵の鎧井 美琴の父親もしている」

 

「あ~ら、いつも飄々としてる怪しい叔父さんが珍しいわね」

 

「いえいえ、流石の私も彼には瞬殺されかねないもので…第5計画を阻止する為の存在なのでしょう?」

 

 

 おおう、賢治の殺気でおっさんが素性を完全に明かしたな。

 それに第5計画って、俺達はオルタネイティブについて何も言ってないぞ?

 って、月詠大尉に俺バラしちまったか…やべぇ。

 

 

「まあいい。んで、俺達の正体を探りに来たのは何でだ?」

 

「多分殿下の勅命だよ賢治、昨日月詠大尉が俺に接触して来たんだ」

 

「俺が帰った後にか?」

 

「ああ」

 

 

 多分あの後、鎧衣のおっさんにも俺の事を伝えたんだろう。

 俺も軽率だったな、相手が第4計画に携わっている人間だからといって、迂闊に口にするとは…

 

 

「その通りだ。私も殿下より勅命を受けており、君達二人の素性を探りに来たのだ。無論、我々に敵意は無い…本来なら、そちらの意思を聞く立場なのだがな、そうすれば私はどうなっていたことか想像もしたくないな」

 

「ああ、それはわかってるよ。さっきは言い回しがイライラしたから殺気出しちまっただけだ。すまなかったな」

 

「何、気にすることはない。それを狙ってしていたのだからね」

 

 

 何かいつの間にか二人の仲が良くなってるし。

 俺は若干蚊帳の外を感じた。

 

 

「ところで武、その月詠大尉ってのはお前に何て言ってたんだ?」

 

「あん時はちょっと過激な接触だった。お前にしていたら大尉は二度と表に出て来れなかったろうよ」

 

「あんたどこまで容赦なく過激なのよ?」

 

「いや知らねぇよ」

 

「知ってて下さい」

 

「…すんません」

 

 

 霞にだけは打ちのめされるな賢治。

 まいいや。

 

 

「…まだ私の質問は終わっていないのだがね?」

 

 

 あ、すんません。

 何でしたっけ?

 

 

「君達の力の秘密は聞かないことにしておこう。しかし君達が面倒を見ている訓練兵達も、目を見張る技術を身につけているのだが、アレも君達の力の一旦と考えていいのかね?」

 

「ああ、アイツ等に生きる為と、後悔の無い様に力を教えてるんだ。まりもちゃん…神宮司軍曹が既にその心を教えてるからな、俺達はその為の技術を教えてる。それだけさ、あんたの娘もかなり強くなったぞ?」

 

「ああ、私の娘の様な息子、いや、息子の様な娘だったかな?」

 

「素直に娘と言って下さい…」

 

「何? この程度で根を上げるとはだらしないぞ白銀 武君」

 

 

 やかましいわ!

 大きなお世話だ!

 

 

「こんな私でも我が子に無頓着という訳ではない。どうか我が子をよろしく頼む」

 

「言われるまでもない、その為に俺達が帰って来たんだ」

 

「死なせはしません、絶対に」

 

「そうか…君達ならば安心だ。話してみて君達は博士の…引いては訓練兵達の敵にはならないと判断出来た」

 

 

 調査の方は任せたまえ、といって鎧衣のおっさんはコートを翻して去っていった。

 …あのおっさん、あそこまでかっこよかったっけ?

 

 

「さて、これで大きな問題の一つは解決したのかな?」

 

「上等、あの鎧衣を信頼させるとは恐れ入ったわ」

 

 

 ああ、あんなに人をおちょくらないで話をしていたおっさんは初めてだ。

 それに俺達を信頼したってのも…

 

 

「それはあんた達がそれ程の人間だってことよ。あんた達は幾多もの世界で戦い続けて来たって言ってたけど、その雰囲気をあいつは感じ取ったってことでしょ」

 

 

 そっか…誰かに認められるっていうのはやっぱ、いいもんだな。

 

 

「それじゃ、次はアイツ等のこれからの訓練について話すか」

 

 

 そうだな、まず冥夜と彩峰は基本的な技を幾つか覚えてくれている。

 そろそろ秘技まで行こうかと思ってるけど、基本的な技はまだまだあるからそっちをもっと覚えさせるかどうか…

 

 

「あんた達の言う技って、そんなにあるもんなの?」

 

「まあ、そういう世界に一時いたからな。都合よくあの5人にピッタリの技もあるし、今のアイツ等の使える技より上のもまだまだある」

 

「特に冥夜と彩峰は運がいいです。その世界でも剣と格闘を使う連中はかなり居ましたし、俺達も数多く覚えますから」

 

「そう、アイツ等が使える様になるなら別にあんた等の好きにしていいわ」

 

 

 …使えるって言葉にちょっと来たが、先生はこういう風に言うけど、何も部下を本当の道具に思ってるわけではない。

 努力して成果を上げてる人間にはそれなりの褒美を取らせるのが先生のポリシーだ。

 さて、これからもっと基本的な技を覚えさせていくか、秘技を覚えさせていくか賢治と悩んだ末、このまま基本的な技を覚えさせていくことにした。

 冥夜には…特にアスベルの剣術がうってつけだな。

 炎とかそういったのは起こせないけど、あいつの抜刀剣術には格闘も混ざってるし、いい見本になる。

 それに冥夜はパワーとスピードのバランスのいいタイプだから彩峰が覚えてる技も覚えてもらおう。

 こうすれば戦うバリエーションは増えるし、応用も効いていく。

 彩峰はモロパワー型だ。

 スピードもあるが、モロ俺と同じタイプで、パワーから生まれるスピードの使い手だ。

 懐に飛び込む速さもかなりのものだし、体勢の立て直しも前に比べて格段に良くなって様になっている。

 彩峰も同じく基本的な技を覚えて行かせるけど、アイツにはコンボも教えよう。

 今までのレポートや訓練途中を見てると、ひとつの技を出したらまた通常コンボをしてるだけだった。

 技から技のコンボを使ってない…基本的な技はそう大きな威力がないし、体の硬直があるからこれじゃ隙だらけになる。

 賢治の方はどうするんだろうか…そういえばアイツ等の武器も出来上がったって言ってたか。

 ならあの二人は銃剣に取り掛かるか。

 美琴のはカタールという珍しい武器だが、かく乱と隠密タイプのあいつにはうってつけの武器だった。

 他にも苦無とか色々と持ってるみたいだし。

 でも問題は、銃関係の技はイリアとリカルドにヒューバード、アルヴィンが使ってたけど…こっちではアイツ等の技再現出来ないぞ?

 

 

「あいつらには格闘技だけ覚えてもらう、銃型(ガンカタ)銃舞(ガンブ)を覚えたアイツ等に敵はいないさ」

 

 

 銃型(ガンカタ)銃舞(ガンブ)…踊るように体を動かしながら寸分も狂わず標的を撃ち抜き、次の動きを予測させない双銃戦闘技術。

 それをあの二人に覚えさせるのか…いくらなんでも時間が足りないんじゃないのか?

 

 

「白銀、あんたはその銃型(ガンカタ)銃舞(ガンブ)っていうのは出来ないの?」

 

「俺はそこまでオールマイティに出来ません。唯一会得しているのが賢治だけです」

 

「そう、ならあんた達は向こうで寝泊りは難しくなるわね。またいつBETAが来るか分からないし…」

 

 

 俺だけ向こうに残ったら霞がまた暴走するから俺()が帰って来ないといけない。

 向こうとこっちで寝る日を分けるか…といっても、俺が向こうに残ってもすることはないんだから俺がこっちに帰ってくれば問題無いような…はぁ。

 

 

「なーに溜息ついてんのよ白銀?」

 

「いえ、自分の技術力の無さに嘆いているだけです…」

 

 

 向こうに残ってもする事がない…自分で言っておいて悲しい過ぎる…

 ああ、霞ありがとう。

 そんなソファーに登ってまで俺の頭をなでなでしなくていいよ。

 

 

 

 

――ソビエト社会主義共和国連邦 カムチャッカ基地

 

 

 

「………」

 

 

 ここ、ソビエトの左官クラスの部屋でありながら生花、額等の異文化の作品を飾っている部屋の持ち主は一人掛けのソファーに座り、デスクトップ画面で流れる映像を真剣な顔で見ている。

 日本に潜り込んでいる諜報部員から得た極秘映像を端末で再生してみると、BETAを相手に生身で立ち向かっている男二人が縦横無尽に駆け回ってBETAを駆逐していた。

 そして後半では、今までに無い勢いでBETAを更に駆逐していた。

 

 

「………」

 

 

 既に3回は再生されているこの映像を食い入る様に見ている女史の名は【フィカーツィア・ラトロワ】

 未亡人でありながら若い女衛士と何ら変わらない引き締まった美しい身体を持つ女史は、一人の男を執行に目で追っていた。

 その相手は、いつの日か日本で人探しをしていた人物だ。

 

 

「…ふ、ふふふ」

 

 

 薄い金髪を後ろで止めているラトロワは、一人の男の映像がアップで映った箇所で映像を止め、こみ上げてくる歓喜を隠すことなく表していた。

 

 

「フフフ、ハハハハハハハハッ!」

 

 

 溢れた歓喜を声に出して笑ったラトロワは、静止している男の映像を見ながら顔を綻ばせた。

 

 

「ふふふ、どこを探しても見つからなかったが…やはり日本に居たか…ようやく見つけたぞ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――黒崎 賢治」

 

 

 

 

 

 




リアルの職場がJALのアメーバ経営なるモノを真似し始め、8:30~21:00まで会社に缶詰…
これはもう、ブラック企業決定ですかね?
ユニコーンの体はボロボロだぁ…
そんな中でもちょくちょくと添削を繰り返して小説を何とか完結に持っていこうと思います!

感想、アドバイス等をお待ちしております!

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