Muvluv 生命の源の申し子   作:ユニコーン

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お待たせいたしました!

それでは、どうぞ!


第二十七話

榊side

 

 

 

 昨日、中佐方が講義の時間になっても来られなかったので自主トレをしていたら地響きを感じたわ。

 何だろうと門を見ると、白銀中佐が門兵達をパコーンッと気持ちのいい音を立てて吹き飛ばしながら基地に猛スピードで駆け込んで行ったのを見たわ。

 突然の出来事で私の脳内処理が追い付かなかったけど、鎧衣が直ぐに吹き飛ばされた門兵達に駆け寄ったのを見て私達は再起動したわ。

 門兵達を医務室に運んでる途中で、今度は神宮司軍曹が奇声を上げながら私達の横を通り過ぎて、直ぐに衛生兵を引き連れてエレベーターの方へ向かわれたけど…医務室にせめて一人は残しておいて欲しかった。

 幸い門兵達は外傷は特に無く、脳震盪を起こしていたみたいだったので医務室のベッドで寝かせて介抱していると、今度は神宮司軍曹と伊隅大尉達が血だらけの黒崎中佐を医務室に運んで来たわ。

 それを見て珠瀬は悲鳴をあげて卒倒、私、御剣、彩峰、鎧衣はまたもやフリーズ…

 特に彩峰と御剣は自分達が全く歯が立たなかった相手が、人間相手に遅れを取らないと言われていた方が瀕死の状態で運ばれて来たのにフリーズが追いついておらず、呆然としていたわ。

 必死で呼びかけながら軍曹達は治療を施していたけれど、その後どうなったかは覚えていなかった。

 だって、どうやって部屋に戻ったのかすら覚えていないんだもの。

 そして今朝、朝食を摂ろうと全員でPXに向かうと、一角で大量の空皿が壁になっているのと、その壁を順調に積み上げていく中佐のお二人とせっせと料理を運ぶ女の子がいたわ。

 朝食は、本来ならしっかりと取らないと後の訓練に支障を来すんだけど…アレを見たら食欲は失せてしまった。

 特に黒崎中佐は身体に包帯を巻きつけてる重傷者なのに、一日で復活するなんてどんな身体してるのかしら…私達も中佐方のメニューをこなしていったらあんな風に直ぐに復活するの?

 食べ終えた中佐方は私達に気付いて挨拶に来て下さったわ。

 昨日講義が出来なかったことを謝罪された後に、新しいメニューをくれた後、直ぐに横浜基地を出ると言われてPXから出て行かれたわ。

 ただ、予想だけれど…これからの横浜基地は、一日が平和で終わらないということは想像出来るわ。

 

 そうそう、私達自身だけど、前に比べてかなり強くなったことが自覚出来るわ。

 私と珠瀬は格闘戦は勿論、狙撃と早撃ちがかなり上達して神宮司軍曹がデータを見て嬉しそうにされていたのを覚えているわ。

 御剣と彩峰に鎧衣も同様に強くなっているのが個別データで分かるわ。

 

 御剣は剣と格闘を合わせた剣術で、中佐方の技が幾つか使えるようになったって言ってたわ。

 確か、一瞬で相手に鋭い突きを放つ【瞬迅剣】

 突きを雨の如く相手に浴びせる【散沙雨】

 強い斬り上げから強い斬り下しを浴びせる【虎牙破斬】

 斬り付けた後に三日月の様に斬り上げる【弧月斬】

 同じく真一文字に斬り付けた後に自分も跳躍しながら斬り上げる【双牙斬】

 あの時黒崎中佐が要撃級に浴びせた縦回転しながら斬り付けてる【烈空斬】

 

 彩峰はトンファーを使っての格闘ね。

 アイツは元々肉弾戦では小隊一の実力を持つからトンファーがしっくり来てる見たいだわ。

 跳躍して相手を地面に埋めるぐらいの力で踏み付ける【崩蹴脚】

 懐に飛び込んで衝撃を放つ【掌底破】

 連続で6回のラッシュを繰り出す【連牙弾】

 ショートアッパーで相手を突き上げる【臥竜砕】

 相手を殴って地面に殴りつける【迫撃掌】

 相手を蹴り砕くように吹き飛ばす【砕心脚】

 蹴り上げから空中で回し蹴りを四回繰り出す【飛燕連脚】

 

 鎧衣はカタールを二刀使って動き回る攪乱タイプね。

 意外にも使い勝手がいいみたいだわ。

 御剣と同じく【散沙雨】

 【瞬迅剣】と似てるけど威力よりも速さとコンパクトさをより重視した【牙突衝】

 二刀で斬りつけて斬り上げる【飛連斬】

 【弧月斬】に似てるけど少し違って光が見える【月閃光】

 素早く二回斬りつけて背後を取る【幻影刃】

 蹴りを隙なく繰り出す【三散華】

 

 私達はまだ名前が付く様なのは習得出来てないけど、ワンホールショットは80%は出来る様になったし、不規則な動きをする的の真ん中を撃ち抜くことは出来る様になったわ。

 珠瀬は狙撃の飛距離が延びたし、私は二丁拳銃で的を全て打ち抜くことは出来る様になった。

 銃と剣を合わせた銃剣はまだ貰ってないから格闘戦は基本的なもので終わらせているけど…私達、よくこんな短期間でここまで強くなったわね…

 

 

 

 

まりもside

 

 

 

 

 昨日の夕方は散々だったわ…

 夕呼と伊隅と一緒に中佐方が作られた機体とOSの完熟訓練をして結果を審議しようと執務室に向かったら、執務室がロックされていたなんて。

 中から黒崎中佐の助けを呼ぶ声と悲鳴が聞こえた時は信じられなかった。

 生身でBETAと戦える人が執務室で悲鳴を上げるとなれば、彼以上の存在が執務室に居ることになるけれど、その存在がまさか社少尉だなんて誰が思うのよ。

 夕呼も夕呼よ、壁と扉をあんなに固くして、何でチェーンソーやドリルで歯が立たないのか聞いたら撃震の装甲を使っていたなんて、いくらなんでも補強し過ぎよ!

 そのせいで黒崎中佐の救助が遅れてしまったんだから!

 幸い、黒崎中佐の化け物じみた身体能力で直ぐに意識を取り戻したけど、直ぐに膝を抱えて『霞ちゃん許して霞ちゃん許して』って壊れたテープレコーダーみたいに虚ろな目で呟いていたから逆にこっちが怖かったわ…あれはトラウマになってしまわれたわね。

 BETA相手に生身で対処出来る人間をPTSDにしてしまう社少尉…あの小さい小動物の成で返り血を浴びて佇むとか思い出しただけで夜が怖いわ…

 何であんなことしたのかと夕呼が聞いたら『武さんが帰ってこなかった』って言ってたわ。

 どこまで依存症なのよ! と内心でツッコミを入れたら社少尉の背後から一瞬だけ刃物の光が私に反射して見えた…

 私の考えたことが丸で筒抜けのようで…それからと言うもの、白銀中佐は黒崎中佐よりも必ず先に帰ってくると私達の中では締結されたわ。

 派遣する際は黒崎中佐にさせて、お二人が必要な場合は霞ちゃんと他の護衛を連れて行くのを条件に…

 

 

「はぁ~…」

 

「ちょっと、なーに溜息付いてんのよ?」

 

「付きたくもなるわよ、むしろ昨日の惨劇を目の当たりにして溜息を付かない方が無理よ」

 

 

 現にあの惨劇を見て卒倒したピアティフ中尉は日にちを跨いだ今日もまだ魘されているんだから。

 私達が今居るのは黒崎中佐の作業場。

 夕呼の執務室がまた破損した為、一時的にここにお邪魔しているわ。

 初めて入ったけれど、PCのモニターが9つ並んでキーボードが3つ、本体も3つ連結されている特殊なPCが直ぐ目に入るわ。

 まだBETAが地球に来ていない時の株式のオフィスでもマルチディスプレイは3~5のはあったと技術屋に聞いたことあるけれど、9つなんて初めてよ。

 今は社少尉がモニター1つだけ点けて作業をしてるけれど、中佐は9つもディスプレイに出力して何をするのかしら?

 って、話が脱線したわね。

 

 

「それよりも黒崎中佐はもう大丈夫なの? 今朝早くにもう帝国技術廠に行かれたみたいけど…」

 

「大丈夫よ、目を覚ましてから直ぐに糖分補給して復活したから」

 

 

 …糖分補給?

 

 

「ああ、そういえば言ってなかったわね。あの二人はカロリーを補給すれば大概は復活する夢の身体をしてる未確認生物よ」

 

 

 え、何よそれ?

 カロリーで体力を回復させるとか、どんな夢物語な能力よ!?

 でもカロリーということは生半可な量じゃないんじゃ…

 

 

「そうよ、今朝PXの一角に大量の空皿が壁を作ってたでしょ? アレあの二人の仕業よ」

 

 

 ちょっと、あれは軽く80人前は超えてたわよ!?

 いくら横浜基地(ウチ)が国連だからって、食料が足りなくなるんじゃ…

 

 

「心配要らないわよ、あいつらが食べてたのは遺伝子組み換えで作った食材と合成食だから、直接横浜(ウチ)の食料に手を出してないわ」

 

 

 え…遺伝子組み換えって、いつの間に食料を開発していたの?

 

 

「少し前から開発してたわよ、検査して問題は出なかったけど、実際に口にして何の影響が出るか分からないから出してないだけ。あいつらはその被検体に自分からなったって訳よ」

 

「いや被検体って…」

 

「まあ30回も調理前と調理後に検査して問題ないって出てるし、あたしもデータ見て問題ないと判断したから、今日から横浜基地と帝国軍に出すわ」

 

「え、何でそこで帝国軍が出てくるのよ?」

 

「あの時、あの馬鹿共が好き勝手暴れてガス欠起こして帝国軍の食料を食い荒らしたのよ。もっとも渡すのは合成食の改良版だけだけどね。黒崎は食材4割を渡すつもりだったみたいだけど、いきなり天然食材を基地に出すわけ無いでしょ? 被検体の名目であたしと霞とまりもだけよ、天然食材を食べれるのは」

 

 

 …もう、あの二人が来てから夕呼の無茶振りに拍車が掛かってるわよぉ…

 これ以上胃薬飲んだらどうなるのよぉ…

 

 

「(神宮司軍曹が頭を抱えてます…あがーですか?)」

 

 

 霞は点いていないモニターに反射して映るまりもを見て思った。

 

 

 

 

巌谷side

 

 

 

 

 翌日、何故か黒崎君は体中に包帯を巻いてやって来た。

 何があったのかと聞けば黒崎君は隅っこで体を抱えて蹲ってブツブツと唱え始めてしまった。

 あの時白銀君が霞と叫びながら帰っていったから、恐らくその人物が原因だと思うんだが…

 白銀君に聞けば『基地に戻った途端、ウサギの逆鱗に触れて半殺しにあった』と苦笑しながら言っていた。

 …そのウサギと例えられる子に思い当たるのは、香月副司令と通信した時に映った少女だけだが…あの強さを持つ彼をここまで追い込むのか?

 横浜は何やら魔の巣窟みたいに聞こえてきたぞ。

 

 

「それはそうと、今日はどうするんだ? 不知火は今朝整備班に見せたばかりだが?」

 

「今日は取り敢えず武器にします、横浜基地(ウチ)の不知火改と撃震改はまりもちゃんと伊隅大尉があと少しで完熟出来るみたいなんで、完熟出来てから持って来てもらいます」

 

「そうか、まあこちらとしては武器のデータも貰えるから有難いことに変わりは無いな」

 

 

 昨日の作業は解体だけで終わってしまったが今日は武器に手を伸ばすようだ。

 想像力…いや、創造力が強いな二人は。

 我が国が保有する技術廠は機体は勿論、武器等も全て開発に行き詰まっておりこれ以上の成長は見込めないでいる。

 それに反して、あの二人は仕事が早い早い。

 アラスカ(向こう)も手をこまねいてる内に二人は撃震と不知火を改良してしまったんだ。

 既存の機体の見直しで必要ない部分を削っていき、再加工して作ったモーターを局部に組み込むだけで既存の機体が強化される。

 誰でも気付きはしているが具体的な案が無い為、見送って来たものを彼らは実行し、成功させた。

 素晴らしいと賞賛の声が出てくる。

 やはり思考の柔軟性が物事の解決に必要不可欠だ。

 私自身、米国の事をよく思っているかと言われれば否と答える。

 しかし、だからといって米国の全てを否定してはならない。

 実際、撃震は最初は米国で生産され、それが各国に流れてそれぞれの特性にチューンアップしているのだ。

 そして不知火と吹雪も、ストライク・イーグルのライセンスを手に入れなければ生産出来なかった。

 今XFJ計画が執り行われているユーコン基地では超電磁砲のテストの名目で不知火弐型の改良型の生産が行われているが、正直言って仕上がりの予想は厳しい。

 不知火自体が元々量産機として開発したにも関わらず、かなり突き詰めた設計をし、発展性をギリギリまで削ぎ落としているので私は弄るのに諦めていた。

 だがどうだ、香月副司令から送られて来た二機のドッグファイトを見て撃震とあの(・・)不知火が進化していた。

 我々では辿り着けなかった発展を彼等二人はやってのけたのだ。

 その内の一機、撃震改とOS、必要なモーターのデータを彼等のハンガーが出来るまでの間の租借料として貰ったが、実際はこちらが不知火20機を追加で渡してもまだ足りない対価だ。

 実際に撃震改が一機仕上がったので乗ってみれば既存の不知火と大して変わらない動きをしてくれた。

 日本帝国の特機になる斯衛機はとにかく費用が飛ぶ上に家柄によって機体のチューンアップの差があるので、日本の経済の悲鳴を上げる一部に…いや、三割は占めるな。

 その点この撃震改は瑞鶴より強く費用は撃震と大して変わらないと来た。

 飛びつく以外に何がある!

 しかし、これを上層部が承認するだろうかだ…それには上層部の指名した衛士を実際に機体に乗せて証明させないと無理か。

 斯衛も噂を聞きつければ介入して来るだろうし…あのドッグファイトの映像をフルスクリーンで上映でもしようか?

 その方が口で説明するより手っ取り早い気がするな。

 

 

 

 

武side

 

 

 

 

 俺がブチ破った壁の突貫工事を二人で終えると、巌谷中佐は書類を片付けてくると言って円中尉と一緒に一旦執務室に戻っていった。

 気配も探って、このハンガーには俺と賢治だけになるが油断は出来ないので、あまり大きな声にならないようにして話そう。

 

 

「賢治、プラズマ炉心は出来ないのか? それが出来たら合体無しのネオゲッター1かゲッターロボ號に近い機体が出来るんじゃ…」

 

「馬鹿言うな、アレは俺じゃ作れねえしHDDにも無かったよ。それに作れたとしてもいくらこの世界に戦術機があるからって50m級の機体を造るとなれば装甲から何からこっちの技術じゃまったく歯が立たん。第一に動きが撃震以下になるぞ?」

 

 

 技術力の差がここで出てくるか…くそッ。

 せめてアイツ等を連れてこれれば…ッ!

 

 

「今頃どうしてるんだろうなぁ、アイツ等…」

 

「さあな、今まで俺達が違う世界に落ちてもハンガーで大人しくしてた見たいからじっとしてるんじゃね?」

 

 

 俺達がいない間に武蔵さんのクローンが俺達の相棒に乗ったみたいだけどピクリとも動かなかったらしい。

 一途と言われれば嬉しいが、仲間相手にあの態度はないんじゃないかなと俺は思う。

 

 

「なら動力にSー11を利用すると言ってたアレは、本当に出来るのか?」

 

「霞ちゃんと一緒に設計してみたら何とか出来た。ただしS-11をバラして作り上げるからそん時はかなり繊細に扱わないとドカンだな」

 

「おい出来たとしても爆発しないのを確認してから戦術機に搭載しろよ乗ってていきなりボガンとか洒落にならねえからな分かってんのか賢治おい?」

 

「分かってる分かってる、分かってるから、顔近いって武」

 

 

 本当に分かってるのかこいつは?

 俺は知識が足りねぇが、こんな諸刃の剣はいくつもの過程をクリアしてからしか使えないのが明らかなのは分かってる。

 敷島の爺さんはその場の思いつきで兵器を作って直ぐに使わせて来たけど…その事で何度ボコしたことか、懲りずにまた武器を作って使わせてきやがってた。

 ちくしょう、この時だけは敷島博士の力を借りたかったぜ。

 

 

「まぁ動力…【S炉心】とでも名付けようか。作るにしても技術廠(ここ)じゃ備えが揃ってないからハンガーが出来上がってからだな。霞ちゃんがPCで精密操作してくれないと多分無理だ」

 

「霞が?」

 

「細々とした設定の管理や操作とかな。俺が現場で作業して霞ちゃんが管理室越しにPCで作業ってやつだよ」

 

 

 賢治が言うには、PCスキルは霞ちゃんの方が上で、やること説明したら直ぐに実行できるレベルとのことだ。

 賢治が現場でS炉心を直接触って作り、霞ちゃんはその制御をPCでして普通よりもかなり早く作業が終わるし、危険度も下がる。

 予定としては、先ず二つ作って様々な課程をクリアし、それから機体に搭載するとのことだ。

 それまでの間に機体が形になればいいが…機体が俺達の動きに持つか?

 ドッグファイトであれだけ動いたが既に装甲はボロボロ、関節は摩擦で煙を上げて溶けてたし、あっちこっちがボロボロだった。

 それにエラーもかなり出てたし、普段で俺達はあの動きをするんだから設計図は引けても既存の合金では耐えれないし…

 

 

「どうしたもんかなぁ」

 

「何がだね?」

 

「ん?」

 

 

 後ろから足音と台車の音と共に声が聞こえた。

 

 

「行き詰まってるのかい?」

 

 

 あれ、巌谷中佐だけ何か大量の紙束を台車に乗せて帰って来てる。

 艸場中尉はどうしたんた?

 

 

「二人が作業をしているのに私だけ書類で席を外すのも忍びないのでね、書類仕事もここでする事にした」

 

「おいおい、アンタ程の地位に就いたら機密がジャンジャン来るだろう? 不味いんじゃないのかそれは?」

 

「何、君達なら一々機密を覗いたりしないだろう?」

 

 

 この人のこの絶対自信は一体何処から来てるんだ?

 俺達巌谷中佐をここまで信頼させる様な事してないよな?

 そりゃ信頼してくれるのは嬉しいけどさ…仕事の邪魔にならないかなぁ?

 ところで艸場中尉はどうしたんですか?

 

 

「中尉なら飛鷹中尉の見舞いに行ったよ。ところでさっきは何で悩んでいたんだい?」

 

「俺達の戦術機と、これからの作業について賢治と話してただけですよ。ただ俺達の場合だと素材自体が役不足だからどうしようかと悩んでまして…」

 

「ふむ、力になりたいのは山々なんだが、君達と我々では技術力の差が大きくてなれそうにないな…」

 

「いや、第三者の意見で思いつくのもあるからこちらとしては言ってくれると助かる」

 

「そうか。所で、こちらから提案があるんだが…」

 

「「?」」

 

「海神を改造出来るかい?」

 

 

 と言って巌谷中佐は台車からクリップで留められた紙束の一部を渡してきた。

 海神って確か、佐渡島奪還で最初に上陸した水陸両用の機体だよな?

 俺は実物は見てないけど…見た目からして動きが鈍そうだなコイツ。

 

 

「……」

 

「賢治?」

 

「なぁ、こいつは水陸両用タイプっつったよな?」

 

「ああ、その通りだ。戦術機が上陸して攻めるには空が光線級で支配されてる以上、海中から揚陸地点の橋頭堡を確保するしかないからな」

 

「ネックなのは水中の武器の少なさと、上陸した時の鈍足だよな?」

 

「―――おい賢治、まさか…」

 

「―――ああ、海神(わだつみ)海神(ポセイドン)にしてみないか?」

 

「???」

 

 

 急遽予定を変更し、海神の改造に取り掛かった。

 元々俺達に改良して欲しかったのか、直ぐに二機が技術廠に運び込まれた。

 流石に潜水艦は場所的に無理だったので、機体と潜水艦の離着に問題無い様に改造することにした。

 まあ、俺達が思いつくのはこれぐらいだけど、かなり汎用は効くようになった筈だ。

 巌谷中佐、スティングレイ隊への言い訳は任せました。

 

 

「任せたまえ、こんなこともあろうかと言い訳を七二通り作っておいた」

 

「「多いなおい」」

 

 

 昔何かのナレーションで聞いたことのあるセリフを思わず呟いたけど、その言い訳でザッと三〇〇枚分の枚数用意出来るのか?

 小説家でも思いつきで三〇〇枚とか用意出来ないぞ?

 

 

「とはいえ、思いつくのは脚部だけだから…霞ちゃんがいなくても大丈夫だろうよ。最終調整とかはそちらに任せても?」

 

「問題ない、流石に全て君達に押し付けるのは私としても容認出来ないのでね」

 

「足裏に機体+αの重量で走行しても耐えうると同時に、柔軟な動きに対応できるキャタピラとそれに耐えうる走行装置、少しでも負担を削る為に胴体を削るのか。違う意味で骨が折れそうだ…」

 

 

 こうして俺達は海神の改造に取り掛かった。

 2機有るので一方は潜水モード、もう一方を陸戦モードで置いといて、潜水モードを観察しながらの改造になった。

 海神は海中を移動するタイプだから、普段海中で殆ど戦っていなかった俺達には容易に弄れないので、脚部だけの改造になった。

 俺的にはあのシャキーンと構える手を活かしたかったんだけどなぁ…水圧の関係もあり、賢治もお手上げだったので触れなかった。

 足首から下はもろにポセイドンの足だ。

 キャタピラには丁度いい素材を帝国技術廠が開発していたのと、使用権限は巌谷中佐が一任していたので存分に使ってキャタピラを作った。

 キャタピラ走行をしてもバランスを崩さない様に後ろ足がちょっと太くなったのと、キャタピラの長さを太くした分まで伸ばした。

 あと、脚部の脛のところに両足四発分のマイクロミサイルを搭載させた。

 これで前線では負担が僅かながらも少なくなる筈とのことで俺が賢治に提案して改造した。

 突貫で作ったから改善点はかなり有るが、後はテスト走行で粗探し…と行きたいところなんだが、あまり俺達が目立つといけないので、これから先は巌谷中佐に任せることにした。

 あ~、海神を改造するのに昼跨いじゃったなぁ。

 

 

「寧ろ四時間で改造を施した君達に改めて脱帽だ」

 

「で、これ使ってる部隊はどこだっけ?」

 

 

 スティングレイ隊だ、賢治。

 

 

「では打ち合わせ通り、スティングレイ隊にこの【海神改】のテストをさせて改善点を纏め、私が君達に提出するという方針でいいんだな?」

 

「と言っても既に俺達がいることはバレてるからコソコソとする必要は無いんだけどな」

 

 

 限度ってモンがあるんだよ馬鹿野郎。

 全機体を俺達だけで改造したら上役が師団クラスで押し寄せてくるわ!

 

 

「へいへい」

 

 

 はぁ、本当に分かってんのかこいつは…後で先生に言っとこう。

 管制ユニット自体は弄ってないが、キャタピラ走行とマイクロミサイル発射のコードを賢治が上書きしたから、その使い方を巌谷中佐に口頭で伝えた。

 それじゃ、少し遅めの昼食を取ってから武器の改造と行きますか。

 俺達は帝国のPXに行くことは出来ないので、艸場中尉に頼んで三人分の昼食を持ってきて貰うことにした。

 

 

「そう言えば…君達はソ連に行ったことはあるかい?」

 

「へ? いや無いけど…何故に?」

 

「いやね、ソ連は日本を見下しているというのが昔からあるんだが、数年前からウチに浴槽や包丁等の家庭用品を注文して来た人物が居てね。君達なら知ってるかと思ったんだが…」

 

 

 思わず賢治と顔を見合わせるが、家庭用品を帝国技術廠に注文?

 ちと場違いじゃね?

 

 

「まあ数が部隊分だし、日本の企業も今はそれどころでは無いからウチに注文して来るんだ。こちらが代行して発注と輸送をしているだけさ」

 

「一部に親日が居るって事か。風当たりが強いだろうなぁ…」

 

 

 その前に突っ込むことがあるだろ賢治。

 部隊分ってドンだけだよ?

 

 

「部隊分ってどれぐらいだ?」

 

「一個大隊分だ。隊長がヤケに日本文化が好きみたいでね、一度ここに忍びで来日したことがあった。かなりの美人だったのと、後誰かを探していたんだ」

 

「「?」」

 

 

 一個大隊ってかなりあるぞ…

 それにこの時点でイベント発生の予感…ダメだ、わからん。

 ソ連とは前の世界で関わりはなかったから耳にした部隊も無い。

 横浜にもロシア国籍の人はいなかったと思うし…ん~?

 

 

「先生に確認すれば分かるか? 名前を聞いてもいいですか?」

 

「確か名前は―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――ソビエト連邦陸軍ジャール大隊隊長、フィカーツィア・ラトロワ中佐だったよ。

 

 

 

 

 




海神をポセイドンにしようと思ったのはスパロボをしている人なら何人かは思いついた筈です(キリッ

そして、賢治が介入したことによりオリジナルがちょいちょい含まれていきます。

感想、アドバイス等をお待ちしております!

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