詩乃と一緒にバイクに乗って旅に出る事にしてから少しして準備が整った。次の日、一緒に詩乃の実家を目指して出発した。高速道路に乗って進む事数時間。朝早くに出発したのでそろそろお腹が減ってきたし休憩するべきだろう。
『そろそろどこかで休むか』
『そうね。そろそろ8時だしご飯にしようか』
俺の背中に身体を押し付けて身を預けてくる詩乃がヘルメットに装着されたイヤホンマイクから声を伝えてくる。
『どこにするか……』
『ここから36キロ先にサービスエリアがあるみたいだし、そこでいいんじゃない? 美味しいハンバーガーショップがあるみたいだし』
『そうだな。そこでいいか』
ヘルメットのバイザーの一部にナビゲーションシステムが映し出されている。それを見て詩乃が探してくれたのでそこにする。このヘルメットはリタやドクターが作成した特別な物で、色々と改造されている。高速道路や一般道などに張り巡らされているネットワークを通じて情報を収集して解析し、物体を予測するシステムも搭載されているので事故の確率をかなり低くしてある。こちらは実験中で発売されれば大ヒットだろう。この他にもVRシステムが搭載されているのでゲームすら可能だ。もちろん、動体センサーが搭載されて運転中には使用ができない設定になっている。旅行とかの事を相談したら搭載してくれたのだが……あの2人の技術力は異常という言葉がぴったりだ。
少ししてサービスエリアに入る為に速度を落としていく。側道に入って行くと海が視界一面に広がった。
『綺麗だね』
『うん。そういえば、海産物もいいのがあるみたい』
『ならお土産に何か買う?』
『そこまでお金はないよ』
『俺が出すよ』
『悪いわよ』
『気にしなくていいよ。詩乃は俺の彼女だし』
『でも……』
『それに詩乃は俺のモノなんだし、詩乃の物は俺の物、俺の物は俺の物だし』
『むっ……わかったわよ』
詩乃が折れたくらいで丁度駐輪場に到着したのでバイクを止める。詩乃が降りてから、俺も降りる。ヘルメットを脱ぐと一緒に脱いだ詩乃のいい匂いがこちらに届いてくる。
「どうしたの?」
「いや、なんでもないよ。それじゃあ、行こうか」
「うん」
バイクのキーを抜いてロックを掛けてから帽子を被って髪の毛を後ろでまとめて詩乃と一緒に手を繋ぎながら移動する。
「んっ。やっぱり、恥ずかしいわね」
「でも、いいじゃないか」
「そうね」
顔を赤くした詩乃と共にお店に入る。ここはレストランとお土産などの売り場が一緒になっている。
「朝ご飯はどうしようか?」
「じゃあ、適当に買って来るから席を取って待ってて」
「わかった」
詩乃に席を任せて買い物に向かう。ラーメン、うどん、お寿司、ハンバーガー、普通のパンなど。とりあえず、朝だけどしっかりと取りたいのでサラダとハンバーガー、パンを少々。後は美味しそうなデザートかな。
適当に買い物が終わり、戻ろうとした時に見覚えのある女の子を見つけた。茶色の髪の毛を持つ綺麗な少女。
「結城明日奈……」
「え?」
俺の言葉に反応した彼女はこちらを振り向いて見詰めてくる。
「あ~」
「えっと、誰かな?」
失敗したな。しかし、こうなると……いや、いいか。誤魔化せばいいんだ。それに知っていても問題ないし。
「俺は桐ヶ谷和人。貴方のお父さんと仕事の関係で何度か一緒した事があってね」
帽子を取って名乗る。
「お父さんの……あ、モデルとかしてる人!」
「そうそう。VR関係でも色々とやっていたので」
「何時も父がお世話に……」
「いえいえ、こちらこそ……」
色々と話してお互いに待ち人が居るとの事で一緒に向かう。
「そういえばアルヴヘイム・オンラインを買い取ったのは貴方達でしたよね?」
「そうだね。ソードアート・オンラインのデータもあるよ」
「っ!? 本当ですか!」
「そっちはアルヴヘイム・オンラインと合わせて準備してるよ。もうすぐリリースするから」
「よかった。あそこには娘と会える大切な所があるので……」
「ゲーム内での娘か……リアルでも会いたい?」
「それはできれば」
「じゃあ、後ほど連絡を入れるよ。ヒューマノイドの開発を行なってる人がいるから、身体を用意できるかも」
「わかりました。期待して待ってます」
そんな会話をしながら食堂に向かう。
「おーい明日奈! こっちだ!」
「和人、こっち」
俺達を見つけた人から声がかかる。ただ、お互いに俺達を見て微妙な表情をしている。そんな2人に近付いて紹介する。
「明日奈さん、こっちが俺の彼女の朝田詩乃。彼女は仕事先の社長の娘さん」
「……よろしく、お願いします」
「結城明日奈です。こちらが私の彼氏の壷井遼太郎さんです」
「おう、よろしくな!」
まさかの事だった。明日奈を射止めたのが、転生者とかじゃなく、よりによってこの人とは。いや、憑依者の可能性もあるかも知れないが、ありえねー。
それからアルヴヘイム・オンラインやソードアート・オンラインの事を色々と教えて貰った。共通の友人でもあるエギルさんの話でも盛り上がった。その後、食事を終えてドライブ中の彼らと別れて俺達もバイクで進んでいくのだった。