子連れ番長も異世界から来るそうですよ?   作:レール

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皆さん、お久しぶりです‼︎
いよいよ原作三巻(本作第四章)に突入しますが、意外と導入部から手間取ってしまいました。まずは問題児たちの収穫祭参加を賭けたゲームとなります。

それではどうぞ‼︎


そう……巨龍召喚
収穫祭へ向けて


“魔遊演闘祭”から帰ってきて一週間。十六夜達は今後の活動方針を話し合うため、本拠の大広間に集まっていた。

大広間の中心に置かれた長机には上座からリーダーであるジン、十六夜、飛鳥、男鹿、耀、古市、ヒルダ、アランドロン、鷹宮、黒ウサギ、メイドであるレティシア、年長組の筆頭であるリリの順番で席に座っている。

 

「なぁ、なんで俺ら呼び出されたんだ?また何処(どっ)かから招待状でも届いたのか?」

 

開始早々、早くも怠そうに問い掛けたのは男鹿であった。このように全員が集められて話し合うというのは“魔遊演闘祭”の招待状が送られてきた時以来なので、男鹿がそう考えるのも仕方ないことである。

 

「Yes‼︎ 辰巳さんの言われた通り、なんと三つのコミュニティから招待状が届いているのですよ‼︎」

 

そして珍しく男鹿の予想が当たり、黒ウサギが嬉しそうに三枚の招待状を見せてきた。しかもうち二枚は“ノーネーム”にしては破格の待遇である貴賓客としての招待状らしく、彼女の喜びようは半端ではない。

 

「じゃあ今日集まった理由は、その招待状について話し合うためなのかしら?」

 

はしゃいでいる黒ウサギを余所に、飛鳥は今回集められた目的をジンに確認している。

 

「それも勿論ありますけど、その前にコミュニティの現状をお伝えしようと思って集まってもらいました。……リリ、黒ウサギ。報告をお願い」

 

「はい、分かりました」

 

「う、うん。頑張る」

 

ジンに促されて話し始めた黒ウサギとリリの報告によれば、一ヶ月前に戦った“黒死斑の魔王”が推定五桁の魔王に認定されたことにより規定報酬の桁が跳ね上がったため一年は生活に困らないことと、金銭とは別途に恩恵を授かることになったことが報告された。

さらに荒廃していた農園区もメルンとディーンの活躍によって全体の四分の一ほどが使える状態まで復興しており、植える農作物次第では数ヶ月後には成果が期待できると言う。

 

「そこで、復興が進んだ農園区に特殊栽培の特区を設けようと思うのです」

 

「特区とは有り体に言えば、霊草・霊樹を栽培する土地のことだな」

 

ジンがコミュニティの現状を報告し終えた後、今度は黒ウサギとレティシアが今後の方針について話し始めた。

彼女の言っていた貴賓客としての招待状の一つに、南側の“龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)”連盟から“アンダーウッドの大瀑布”と呼ばれる場所で開催される収穫祭がある。その収穫祭に参加し、特区に相応しい苗や牧畜を手に入れてほしいとのことだ。

 

「ーーー今後の方針についての説明は一通り終わりました。……しかし一つだけ問題があります」

 

全ての話が終わった後、ジンが困ったように言葉を続ける。

 

「この収穫祭なんですが、前夜祭を入れれば二十五日……約一ヶ月にもなります。“魔遊演闘祭”はまだ一週間と短かったですが、これほど長期間コミュニティに主力が居ないのはよくありません。そこでレティシアさんとともに二人ほど残って欲しーーー」

 

「「「「嫌だ」」」」

 

そしてジンが言い切る前に即答されてしまった。十六夜、飛鳥、耀が拒否することはほぼ分かっていたので話す前から困っていたのだが、まさかレヴィまでもが唐突に実体化して拒否してくるとは思わなかった。

 

「そんな面白そうなお祭り、黙って見過ごすわけにはいかないよ。ねっ、古市君?」

 

「いやまぁ、どうせなら参加したいですけど……なぁジン君。別に留守番くらいなら一人でも良いんじゃないか?なんでレティシアさんの他に二人も必要なんだ?」

 

確かにコミュニティが力をつけ始めた今、“フォレス・ガロ”のような子供を攫う犯罪組織や魔王が地域を襲う可能性を考えれば防備も固めなければならないだろう。

しかしそれらはあくまで可能性であり、現実的に考えて襲撃が起きる可能性は低い。古市は主力を三人も残しておくほどの必要性を感じていなかったのだが、ジンは違ったようだ。

 

「はっきりと言ってしまえば、用心するに越したことはないということです。万が一襲撃があった際には、子供達や本拠を守る役割と襲撃者を迎撃する役割が必要ですし……それに“ソロモン商会”の目的も依然として分かっていませんから」

 

“魔遊演闘祭”から帰ってきた一同と時を同じくして外界から帰ってきたヒルダ達であったが、彼女も予想していたように“ソロモン商会”の核心に迫るような情報は研究施設からは得られなかった。

拉致されていた悪魔達による証言を得られる可能性は高かったがそちらも核心に迫れるような情報はなく、その代わりと言ってはなんだが研究の内容については一端を知ることができた。

 

 

 

悪魔から魔力を抽出し、抽出した魔力を物質化する方法を確立させること。

 

 

 

その研究が意味することや“ソロモン商会”の目的までは分からなかったが、男鹿とベル坊、鷹宮とルシファー、古市とレヴィアタンといった“七大罪”とその契約者に注目していることは分かっている。その彼らが所属している“ノーネーム”にも手を出さないとは限らないのだ。ジンの言うように用心するに越したことはない。

 

「ということで残る側にも戦力を割いておきたいんですけど……辰巳さん、ヒルダさん、忍さんの意見はどうでしょうか?」

 

十六夜、飛鳥、耀、レヴィ(ついでに古市)には拒否されてしまったため残る三人にも訊いてみる。ちなみにアランドロンの能力は戦闘に向いていないので、残す戦力としては数えていなかったりする。

 

「俺か?あー、俺は別にどっちでも……」

 

「ダブッ‼︎」

 

男鹿が残ってもよさそうな発言をしようとしたところ、ベル坊が急に声を上げた。何事かと男鹿がベル坊に目を向ければ、ベル坊は首を振って何かを訴えるように机をベシベシと叩いている。

 

「なんだ、ベル坊は行きてぇのか?」

 

「アイ‼︎」

 

「坊っちゃまが行かれるのであれば私も御一緒するまでだ」

 

ベル坊が行くのならばヒルダも着いていこうとするのは当然であった。そしてベル坊が行くためには男鹿も行かなければならない。

最後に残った鷹宮はと言えば、

 

「興味ないな。好きにしろ」

 

最初の四人とはまた違った意味で予想通りの無関心であった。むしろ積極的に意欲を見せてイベント事に参加しようとする姿の方が想像できない。

 

「ではレティシアさんと忍さんには一ヶ月残ってもらうとして、残る一人はローテーションで決めさせていただいても大丈夫でしょうか?」

 

“ローテーション?”とその提案に首を傾げる一同にジンは内容を説明する。

 

「つまり前夜祭、オープニングセレモニーからの一週間、残りの日数と三人ほど順番に本拠に戻って欲しいんです」

 

「その三人はどうやって決めるの?」

 

耀の純粋な疑問に、ジンは席次順で決めると言いかけて咄嗟に口を噤んだ。

今話し合いで座っている並びがコミュニティの席次順であるため、上座に近いほど組織への貢献・献身・影響力のある席次ということで優先されるのだが、その箱庭では当たり前の決め方で外界から来た全員が納得するとは限らない。

どう説明したものかとジンが迷っていると、十六夜が机に身を乗り出して提案した。

 

「なら前夜祭までの期間で、誰が残るのかをゲームで決めるってのはどうだ?」

 

「あん?ゲームで?」

 

「ふむ。具体的にはどういった内容で勝敗を競うつもりだ?」

 

男鹿とヒルダもベル坊の要望に応える形で参加することになったとはいえ、やるからには負けつもりはない。さらに二人だけではなく全員が早くもゲームの内容へと興味が移っている。

 

「そうだな……“前夜祭までに最も多くの戦果を上げた者が勝者”ってのはどうだ?期日までの実績を比べて収穫祭で一番戦果を上げられる人材を優先する。……これなら不平不満はないだろ?鷹宮、お前も行きたくなったら何時でも参加していいからな」

 

「あぁ」

 

十六夜は一応鷹宮にも声を掛けておいたが、もちろん参加するしないは本人次第である。鷹宮の反応を見る限りでは変わらず残留するつもりなのだろう。

しかし鷹宮が参加しないのと参加する可能性があるのとでは大きな違いがあった。

 

「つまり、確実に収穫祭を楽しもうと思ったら上位二人に入らないと駄目ってことか」

 

仮に鷹宮が参戦した場合、三つに分けられた期間で二人残ることになるためローテーションする人数は一気に倍の六人に増えることとなる。古市の言う通り本気で全日参加しようと思ったら、鷹宮が参戦する可能性も踏まえて一位・二位にならなければならない。

 

「問題ないわ。それで行きましょう」

 

「面白そうだね‼︎ よーし、頑張っちゃうぞ〜」

 

「うん。……絶対に負けない」

 

こうして“ノーネーム”外界組主力陣による、“龍角を持つ鷲獅子”主催の収穫祭参加を賭けたゲームが開始されたのだった。

 

 

 

 

 

 

収穫祭の参加を賭けたゲームが開始されてから数日後。男鹿とベル坊はある場所へと訪れていた。

 

「なんかギフトゲームやってねーか?デカイやつがいいんだけどよ」

 

「ダッ」

 

「……わざわざそのために北側まで来られたのですか?まぁ貴方はベルゼブブ様の親戚のようなものですし、皆も構わないとは思いますが」

 

男鹿の話し相手ーーーフルーレティは少し呆れたような声音で、アポイントメントもない突然の男鹿の訪問に対応していた。

どうして男鹿が再び北側へと赴いているのかというと、二一〇五三八〇外門……つまり“ノーネーム”の地元でギフトゲームに参加することができなかったからだ。

もちろんギフトゲームが開催されていないわけではなく、“打倒魔王”を掲げるコミュニティ、ジン=ラッセル率いる“ノーネーム”として評判が広がると同時に男鹿の戦歴が広まり始めていてゲームの参加を拒否されたのである。

 

五桁のコミュニティ・“ペルセウス”のリーダーであるルイオス=ペルセウス。

“七つの罪源”の魔王級悪魔であるルシファーと契約し、“黒死斑の魔王”・ペストと同等以上の関係を持っていた“紋章使い”である鷹宮忍。

“七つの罪源”に属する“罪源の魔王”である“嫉妬の魔王”・レヴィアタン、“暴食の魔王”・ベルゼブブ。

 

実際の実力差や明確な勝敗はともかく、これだけの肩書きを持つ面々と戦ってきた男鹿を相手に最下層の、それも“世界の果て”と向かい合っているような箱庭の最も外周に位置する地域に対等なギフトゲームを開催できる主催者がいなかったのだ。

ついでに言えば、男鹿以上の戦歴を持つ十六夜も地元でのゲームの参加を拒否されていたりする。

 

「しかし、ギフトゲームの紹介ですか……“罪源の魔王”様達を含め、“魔遊演闘祭”に来られていた方々も大部分が既に帰られていますから、大型のゲームをすぐさま紹介できる方が残っているかどうか……」

 

北側に訪れた男鹿がまず最初に向かった先は、“魔遊演闘祭”で運営本部となっていた街の中心にある城であった。というより城以外に男鹿が知っている場所は宿泊していた宿屋とその周辺くらいなので、自ずと城に向かうしかない。そこで男鹿の姿を見つけたフルーレティが声を掛けたのだ。

“ノーネーム”と面識のあるフルーレティではあったが、実は男鹿との直接的な面識は一切なかったりする。当然、話し掛けられた男鹿は“誰、お前?”という状態だったので彼女は自己紹介をし、用件を確認したところで冒頭の言葉が返ってきたのだった。

だが、東側であろうと北側であろうと下層であることに変わりはない。むしろ“魔遊演闘祭”で実力を直接披露している分、噂だけで参加を拒否されていた東側より拒否される可能性も考えられた。

男鹿の事情を聞いていないフルーレティには詳しいことは分からないが、わざわざ北側に来るだけの理由があるのだろうと彼女なりに推察して男鹿の要望に応えようとする。

 

「ーーーおぅい。どないかしたんか、フルーレティのお嬢ちゃん」

 

そんな風にフルーレティがどうしたものかと考えていたところで、後ろから彼女の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。振り返ってみればそこには、眼鏡を掛けた白髪の男性が柔和な笑みを浮かべながら歩いてくるところだった。

名前を呼ばれたフルーレティは、意外な人物がまだ残っていたと感じながら返事をする。

 

「これはアスタロト様。まだ此方にいらしたんですか?」

 

「おぉ。久しぶりの温泉街でな、色んな温泉を練り歩きながら満喫しとったんよ」

 

アスタロト……以前にも説明したとは思うが、グリモワールの一つである“大奥義書”の階級構造においてルシファー・ベルゼブブと並ぶ地獄の支配者の一人だ。“七つの罪源”における参謀のような立ち位置におり、どちらかと言えば武力よりも知力に優れている人物である。

立場的にも実力的にも頼れそうな人物の登場に、フルーレティは男鹿の用件を伝えて助力を仰ぐことにした。

 

「ほぉ、なるほどなぁ……で、どんなゲームやら賞品やらを探しとるんや?もし条件合うのがあったら紹介したるで?」

 

「お、いいのか?」

 

「うん、ええよ。まぁギフトゲームなんてお駄賃をあげて仕事を手伝ってもらう口実みたいなもんやから、取り敢えず深く考えんで要望を言ってみ?」

 

“魔遊演闘祭”を通じてアスタロトが男鹿の事を知っていたというのもあり、大魔王の関係者という事と合わせてあっさりとギフトゲームの紹介を引き受けてくれた。

彼の口振りからするとギフトゲームというよりは雑用を押し付けられる可能性が無きにしも非ずだが、賞品がもらえるのなら結果オーライだ。男鹿も言われた通りに要望を言ってみることにする。

 

「じゃあゲームはあんま頭を使わねぇやつで、欲しいもんは……どうすっかな……なんか畑で使える感じのもんがいい」

 

咄嗟に男鹿が思いついた欲しいものは、黒ウサギ達が言っていた農園について役立つものだった。現状の“ノーネーム”の方針とも合致しているし、農耕関係というのは悪くない選択肢だろう。

 

「ふむ。力関係のゲームで、農耕関係の賞品か……よっしゃ、任しとき。ちょうどええのがあるわ」

 

男鹿の要望を聞いて少し考え込んでいたアスタロトだったが、すぐに適当なものが思い浮かんだのか要望を承諾してくれた。アスタロトは踵を返して男鹿に着いてくるように言い、残るフルーレティに別れを述べてから歩いていく。

男鹿もフルーレティに一応の感謝と別れの言葉を掛け、行き先や内容も告げず先を行くアスタロトに着いていくのだった。




ちなみに北側へはアランドロンの転送で送ってもらいました。
漫画などではどの程度の場所まで転送が可能なのか分からないので、取り敢えず記憶や知識から転送される本人が認識できる範囲まで転送できることにしてます。

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