まぁ、どっちでもいいというのが大半でしょうけど。
取り敢えず、第二予選ギフトゲームの大枠が決まりましたので本編に戻ります。
それではどうぞ‼︎
「第一予選、一組目の勝者は“ノーネーム”男鹿辰巳・レティシア=ドラクレアチームです‼︎ 圧倒的な実力を見せつけて勝利を勝ち取りました‼︎」
地下都市から強制転移させられて脱出した後、男鹿の耳に真っ先に聞こえてきたのは黒ウサギの勝利宣言だった。
「っと、帰ってきたのか」
男鹿は着地と同時に周りに目を向けて状況を確認する。周囲では壇上に現れた男鹿達に向けて歓声が上がっていた。
「・・・辰巳、そろそろ降ろしてくれないか?」
「ん?おぉ、
脇に抱えられたままだったレティシアが抗議する。流石に大勢の前で抱えられたままというのは情けないのだろう。
降ろしてもらったレティシアはリボンを着けて少女姿となり、男鹿と一緒に壇上を降りる。
「よっ、お疲れさん」
降りてきた二人に労いの言葉をかけたのは十六夜だ。
「おう。お前らも予選で負けんじゃねぇぞ」
「誰に言ってやがる。本戦で待ってな、“火龍誕生祭”での続きといこうぜ」
そう言って不敵に笑いながら二人は拳をぶつける。実に熱い雰囲気で火花を散らしているが、二人とは対照的に他の観戦していた“ノーネーム”の参加メンバーは引いていた。
「いやいや、やり過ぎだろ・・・」
「もう地下都市がただの地下空洞だわ・・・」
「というか誰か死んでない・・・?」
古市、飛鳥、耀が空間の亀裂を覗きながら呟く。そこに映っているのは粉塵立ち込める廃墟に倒れ伏している参加者達だ。
「手加減したし大丈夫だろ」
それらを客観的に見て事も無げに“手加減した”などという男鹿に、三人はもう何も言えなくなる。
少し考えれば分かることだが、攻撃を拡散させたのだから一撃の威力が落ちるのは当然だろう。その上で地下都市の惨状を作り出しているのだから魔力増幅法使用時の実力は計り知れない。
「男鹿辰巳選手の攻撃によって地下都市は見る影もありません‼︎ 果たして何組のチームが生き残ってーーーあっ‼︎」
黒ウサギが空間の亀裂からギフトゲームの実況をしていたのだが、台詞を切って声を上げたのでそれにつられて男鹿達も黒ウサギが解説していた空間の亀裂へと視線を向ける。
そこには土煙から何かが高速で飛び出し、レティシアが示していたもう一つの脱出口へとロープを伝って一直線に突き進んでいく映像が映し出されていた。かなりの速さで登っていくので解説する間も無く人影は鍾乳石に触れて消えてしまう。と同時に壇上に現れる二人の人物。
「イェーイ、これで儂らも本戦進出じゃわい」
「ま、当然だろ」
そこには身体の表面が煤けて服がボロボロながらも、軽傷しか負っていない赤星とベヒモス(仮)が立っていた。
「ま、まさかの“サウザンドアイズ”赤星貫九郎・ベヒモスチームが二組目の勝者です‼︎ 地下都市を廃墟にしてみせた男鹿辰巳選手に狙われた筈なのにピンピンしております‼︎」
黒ウサギは実況を続けながらも驚愕していたが、それは男鹿や鷹宮、古市を除く“ノーネーム”一同も同じ気持ちだった。男鹿はその実力を知っていたから。鷹宮はいつも通り。古市は驚愕よりも疑惑の眼差しを向けていた。
「まさか、あれさえも受け止めたというのか・・・」
直接相対していた筈のレティシアでさえもこれには驚愕を隠せない。そんな風に眺めていると壇上から降りてきた二人と目が合い、彼らはそのまま此方へと歩み寄って来た。
「よぉ男鹿、と・・・そういや名前知らねぇな。出口教えてくれて感謝してるぜ」
赤星は目の前まで来ると感謝の言葉を述べる。戦闘が始まる前に話していた二人の会話をしっかりと聞いて覚えていたようだ。
「あぁ、確かに私だけ名乗っていなかったな。レティシア=ドラクレアだ。出口については我々が勝手に話していたことだから礼など必要ないさ」
「そういや、何で出口が分かったんだ?後で説明するって言ってただろ」
男鹿は今思い出したようでレティシアに問い掛ける。まさか一番分かりやすかったからなどという理由ではあるまい。
「別にレティシアは出口を特定できたわけじゃねぇと思うぜ?確率的にあの二つが有力だったってだけだろ」
と、レティシアが答える前に十六夜が自分の考えを言う。それを聞いた男鹿は無い記憶力を振り絞ってその時のことを思い返す。
「あ〜?なんかレティシアも似たようなこと言ってたような・・・」
「要するにだな、最も長いロープか最も短いロープの二択のうち、長いロープの方が分かりやすかったってことだ」
まさかの省いた可能性が正解だった。それはさておき十六夜の解説は続く。
「あのギフトゲームには二つの解釈ができるんだよ。“蜘蛛の糸・極楽を目指せ”、これは芥川龍之介の有名な短編小説の一つを元にされてるんだろうが、ざっくり説明すると極楽から垂らされた蜘蛛の糸を伝って地獄から脱出しようとする話だ。だがここで選択が分かれる」
十六夜は指を二本立てて解釈を述べる。
「まず一つ目は
「まぁロープの短い方とは言っても微妙な差は天井に近付かないと分からないから、我々のように空中で留まることのできる例外を除いて参加者はベヒモス殿のようにロープを跳び移って出口を目指すのが最善の攻略方法だったのではないか?」
「なるほどな」
「へ〜」
十六夜の説明やレティシアの補足を聞いて納得している赤星と生返事をする男鹿。男鹿の方は理解できたのか少し疑問である。
そんな風に赤星が“ノーネーム”のメンバーに加わって話している中、ベヒモス(仮)は残りの“ノーネーム”のメンバーに捕まって話していた。
「ベヒモスさんってかなり強かったのね。“七つの罪源”の魔王達とは古い仲みたいだから、何となく予想はしてたけど」
「うん。辰巳の攻撃も凄かったけど、ほとんど無傷のベヒモスも凄いと思う」
「ホッホッ、あの程度は当然・・・と言いたいのじゃが、流石に初見のアレを無傷で凌ぐのは儂でもちょっと厳しいわい」
飛鳥と耀の称賛に対してベヒモス(仮)は尊大に答えたかと思えば、一転してそれらの称賛を軽く否定する。
「でも現にほぼ無傷じゃない。無傷じゃなくて軽傷だって言いたいの?」
「いやいや、本来ならもう少し血を流しておったよ。そうなっておらんのはちょっとしたドーピングとでも言っておこうかの。ギフトゲーム中なのでネタバレは無しじゃが」
どうやら男鹿の攻撃に対して軽傷で済んでいるのには何か秘密があるようだ。それを追求できない状況に飛鳥も耀もむず痒い思いで質問するのを断念する。
「・・・一ついいっすか?」
そこへ今まで一言も喋らずに何かを考えていた古市がベヒモス(仮)へと声を掛ける。
「何じゃ?」
「アンタ、ベヘモットだろ。箱庭で何してんの?」
「「ベヘモット?」」
“何処かで聞いたような・・・”と彼女達は少し考えて、思い出した。“火龍誕生祭”で“黒死斑の魔王”とのギフトゲーム、その休止期間中に古市達が話してくれたのだ。
魔界屈指の戦闘集団、ベヘモット三十四柱師団のことを。
「じゃあ、ベヒモスは柱師団の団長さん・・・元だったっけ?なの?」
「何じゃ、色々知っとるみたいじゃの。お嬢ちゃん達には儂が此処にいる理由も言うたと思うが?」
「そうなの?」
ベヘモットの言葉に古市は彼女達へと目を向けた。その疑問には飛鳥が答える。
「そう言えば聞いたわね。“うちの坊ちゃんがギフトゲームに興味をもって”とかなんとか」
「坊ちゃんって・・・まさか」
古市は嫌な予感に駆られて観客席をキョロキョロと見回す。“どうか杞憂でありますようにっ‼︎”という思いも虚しく、予想した人物が目に入る。
緑髪の少年とヒルダそっくりの女性ーーー焔王とヨルダだ。
流石に距離が遠くて何を話しているかは聞こえないが、見間違えようもない二人だ。そこで、ふと古市は違和感を覚える。
「・・・ヨルダさんだけ?イザベラさんとサテュラさんはどうしたんだよ?」
「その二人は留守番じゃよ。ヨルダの転送能力で箱庭へと送れる人数をオーバーしたんじゃ」
「ちなみに容量は何人まで?」
「自分を含めて六人じゃの」
「・・・あとの二人は?」
判明しているのはベヘモット、赤星、焔王、ヨルダの四人まで。人数がオーバーしたということは六人まであと二人残っている。
しかし、ベヘモットは答えずに親指で自分が被っている仮面を指差し、
「そのための仮面じゃよ。探してみればどうかの?」
と言って教えてはくれなかった。
「・・・取り敢えずもう正体分かってるんすから仮面外せばどうっすか?」
「それもそうじゃの」
そう言って仮面を外し、懐から取り出した眼鏡を掛ける。飛鳥達は昨日も見た顔だが、紛れもない古市の知るベヘモットの顔だ。
「はあぁ⁉︎ 何でベヘモットが此処にいんだよ⁉︎ てかお前がカイワレBOY⁉︎」
「此処にいる理由はもう説明済みじゃ、後で誰かに聞け」
別グループで会話していた男鹿がベヘモットに気付いて声を上げる。それに釣られるように赤星達もそちらへと顔を向ける。
「なんだ、もう仮面外したのか」
「正体もバレたことじゃしいいかと思っての。お前さんも元から面識がないんじゃから外してもいいのではないか?」
「それもそうだな」
ベヘモットに言われて赤星も仮面を外して顔を露わにする。
「おぉ、お前ら瓜二つだな」
それが赤星と並んでいた男鹿の二人を見た十六夜の感想だが、それに異を唱える者がいないくらいには的を射ていた。
「本当だな。違うのは左目の下にある傷と髪型くらいではないか?」
「でも貫九郎君の方が知的に見えるわよ?」
「うん」
「ほっとけ」
女性三人の評価にとばっちりを受ける男鹿であった。
第一予選の勝者グループとして周りから注目されていたがそんなことはお構いなしに会話していたところ、
「皆さんお待たせしました‼︎ ようやく第一予選会場でリタイアしてしまった参加者達の治療室への収容が完了したようです‼︎」
どうやら思っていた以上に話していたようだ。
ちなみに半分以上の参加者が気絶、もしくは覚醒していてもすぐには立てなかったりフラフラしている程の怪我を負っており、担架が行ったり来たりと大忙しだった。収容されなかったのは“魔王光連殺”によって降り注ぐ光の隙間にいたり地下都市の外周にいたりして直撃せず比較的軽傷で済んだ参加者だけだ。
「それでは第一予選の感想を主催者の皆様に聞いてみましょうか?」
黒ウサギの振りにはサタンが答えた。
「俺達と名を同じくする悪魔の契約者達だ、勝ち上がる予想はできた。惜しむらくは力の一端のみで本気を見れずに終わったところか」
「そこは本選のお楽しみだろ。それにベヘモットの爺さんや魔力を持った吸血鬼なんて珍しいもんも観れたんだから、予選としては上々だな」
サタンの固い事務的な感想に対して、レヴィアタンはそれなりに砕けた感想を返す。共通する感想は先が楽しみであるといったところか。
「それじゃ、次、どうする?」
ベルフェゴールは早々に感想を打ち切って先を進めようとする。怠惰を司っている彼が能力柄とはいえ一番働く羽目になっているのは皮肉としか言いようがない。
「じゃあ今度は私が行こうかしら」
並んでいる罪源の魔王から主張してきたのは、美しいという以上に艶かしいと表現できる女性だった。黒ウサギがまだ幼い雰囲気を残しているのに対し、その幼さを取り除いてモデルのように整えられたプロポーション。腰まで届きそうな漆黒の長い髪を左のサイドテールにしており、黄色の瞳が楽しそうに細められている。
「ふぅん。今度はアスモデウス、かぁ。程々にしなよ?」
「分かってる、あくまでも予選のレベルで行くわ。雪だるまを二人連れて来てくれる?」
ベルフェゴールが言う通り、この女性が色欲の魔王・アスモデウスだ。彼女が言い終わると裏で控えていた二体の動く雪だるまが壇上に現れる。それを確認してから彼女は魔力を発し、次の瞬間には二体の雪だるまが二人のアスモデウスに変化していた。
「準備完了よ。二人と次の参加者を送って頂戴」
「りょうか〜い」
アスモデウスに言われてベルフェゴールは力を行使し、再び参加者の四分の一がその場から転移させられた。“ノーネーム”からは鷹宮達が転移している。
新たに発現した空間の亀裂には、海に囲まれ孤島が映し出されている。とはいっても水平線が見えるようなものではなく、直径二km位の隔絶された空間に存在する海と孤島だ。
「第二予選は力をセーブされるとはいえ、色欲の魔王・アスモデウス様が自ら参戦されます‼︎ 第一予選とはまた違った趣向となっていることでしょう‼︎」
実のところ、予選・本選のゲーム内容には“七つの罪源”の魔王達がそれぞれ自分の匙加減で手を加えている。第一予選はベルフェゴールの力を元に考えられたギフトゲームであり、第二予選はアスモデウスの力を元に考えられている。
「それでは第二予選、“惑わしの逃走者”を開始します‼︎」
黒ウサギの宣言とともに再び“契約書類”が現れ、“魔遊演闘祭”第二予選の始まりを告げた。
ようやくベヘモットと赤星の顔出し、焔王とヨルダの登場を果たしました。残る二人はいったい何時になるのやら・・・。
あと細かいことですが、最後の方で雪だるまを“二人”、“二体”と二種類で表記しているのは誤字ではありません。ほんのちょっとした伏線です。