子連れ番長も異世界から来るそうですよ?   作:レール

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祝日で学校がなく、台風でバイトもなくなったので空いた時間に一気に仕上げました。

とうとう決着です‼︎
それではどうぞ‼︎


全ての決着

黒ウサギの言葉とともにハーメルンの街から消えたペストと主力陣は、石碑のような白い彫像が数多に散乱する月の神殿ーーーそう、月にいた。

 

「チャ、“月界神殿(チャンドラ・マハール)”‼︎ 軍神(インドラ)ではなく、月神(チャンドラ)の神格を持つギフト・・・‼︎」

 

流石のペストも驚愕を隠せずにいる。“月の兎”の逸話から軍神のギフトは予想できても月神のギフトは予想外だった。

それに何より、

 

(ハーメルンの街から離れ過ぎだわ・・・これでは魔道書の力も忍からの魔力も供給が途絶えてしまう‼︎)

 

かなりの距離ができてしまったためにペストの力を底上げしていたリンクが切れてしまったのは痛い。供給されていた力はすぐに消滅するわけではないが、このままではジリ貧もいいところだ。

ペストならば自力だけでも十分に戦えるが、底の知れない最強種の眷属である“月の兎”とギフトを砕く十六夜だけは勝てるとは断言できない。

 

「こうなったら魔力が底を尽く前に終わらせる・・・‼︎」

 

「ハッ、やれるもんならやってみな・・・‼︎」

 

ペストが戦闘態勢をとった瞬間に十六夜とサンドラが迎え撃ち、黒ウサギと飛鳥は後方で何かのやり取りをしている。

ペストは黒い風を衝撃波に変えて放ち、十六夜は“その程度の攻撃は問題ない”とばかりに突進して右拳を振るう。

そんな十六夜に対し、ペストは躱さずに両手を重ねて受け止めた。

 

ヴェーザーとの戦いで十六夜が疲弊していたこともあるが、ペストは残った魔力による身体強化に加えて自らの黒い風で背中を後押しすることでその場に踏み止まったのだ。

 

そして受け止めると同時に防げないように殴り掛かった右腕の方向から衝撃波を叩き込む。ペストはそのまま十六夜の腕を離さず、ジャイアントスイングの要領で延々と衝撃波を浴びせ続けた。

どうやら実力の分からない十六夜から潰すつもりのようだ。

 

「その手を離せ・・・‼︎」

 

最初に十六夜が切り裂いた死の風の隙間を縫ってサンドラが近付き、十六夜に攻撃が当たらないように炎を掌で槍状に変化させて回転の中心にいるペストへと真上から投げ放つ。

 

「鬱陶しいわね」

 

放たれた炎槍に向けて死の風で防壁を作る。

黒ウサギの“疑似神格・金剛杵”の雷撃でさえ霧散させた死の風だ。サンドラの豪炎も等しく霧散させて追撃を放つ。

 

「しゃらくせぇ‼︎」

 

そしてサンドラの援護によって衝撃波が緩まった一瞬で掴まれた腕を軸に身体を回転させ、サンドラへ追撃を掛けた死の風ごと踵落としをペストの脳天に叩き込もうとした。

 

「チッ」

 

ペストは舌打ちしながら手を離して踵落としを防ごうとする。しかし小細工なしでは流石に衝撃を殺せずに吹き飛ばされ、月面に新たなクレーターを作り出した。

多少の打撃は与えられたが、クレーターの中心にいるペストは何事もなかったかのように再生しながら死の風に乗って飛んでくる。

 

「ったく、これ普通にやって倒せんのか?」

 

十六夜がボヤきながらも再び突撃しようとした時、後ろから追い抜いた黒ウサギが生身で単身ペストへと突っ込んだ。

 

「死の風を吹き飛ばします‼︎ お二人は援護を‼︎」

 

一人突っ込んでくる黒ウサギにペストは残り少なくなった魔力を乗せた死の風を浴びせ掛けた。“月の兎”さえ倒すことができれば魔力が尽きてもペストに勝機はある。

 

「無駄です。貴女が太陽を憎む原因となった黒死病、寒冷期に猛威を振るったその最大の弱点。それはーーー」

 

黒ウサギは言いながら、黄金の鎧が描かれた紙片ーーーインドラに縁のある武具を召喚するギフト、“叙事詩・マハーバーラタの紙片”を掲げる。

 

 

 

「寒冷期に存在しなかった、太陽の輝きです・・・‼︎」

 

 

 

召喚された武具は黄金の鎧、それもただの鎧ではない。太陽神であるスーリヤとその息子であるカルナが纏ったという不死の鎧であり、限りなく太陽の光に近い黄金の輝きを放つ鎧だ。

その光に触れた死の風は一瞬で霧散して消えてしまう。

 

「クッ、軍神に月神に太陽神・・・‼︎ 護法十二天を三天までも操るなんて・・・⁉︎」

 

いきなり現れた太陽の光に対して咄嗟に腕で目にかかる光を遮りながら大きく後退したペストに止めを刺すべく、黒ウサギはこの場にいる最後の一人、後ろに控える飛鳥へと向かって叫んだ。

 

「撃ちなさい、ディーン‼︎」

 

「DEEEEeeeeEEEEN‼︎」

 

黒ウサギの叫びに応えるように飛鳥は指示を出し、ディーンはその手に持つ槍ーーーカルナが持っていたとされる太陽の鎧と同じく、“叙事詩・マハーバーラタの紙片”から召喚された穿()()()()()()()()()必勝の槍をペストへと投擲する。

これこそが飛鳥が黒ウサギから授けられた切り札だ。

 

その時、黒ウサギ達は確信していた。これは避けられないと。

その時、ペスト自身も確信してしまった。これは避けられないと。

だから次に起こったことは偶然であり、またペストの最後の足掻きだった。

 

 

 

奇しくも太陽の輝きを防いでいたことから腕は前に構えられ、そこへ向けて真正面から飛来した槍。

それを残り少ない魔力で強化された肉体が反射の領域で掴み取ったのだ。

 

 

 

「ハ、アアアァァァアアア‼︎!」

 

掴んだと認識した瞬間にペストは槍の生み出す莫大な推進力に抗うために最後の魔力を振り絞る。しかしそれでも残りの魔力が足りないのか、徐々に腕を押し込まれていく。

 

「私はッ‼︎ こんなところで負けられないッ‼︎」

 

またしてもペストの最後の足掻きか、または必然か。“火事場のクソ力”とでも言えるかもしれない。

鷹宮とのリンクが途切れて消費されるだけだった魔力が、ペストの内から湧き上がってきた。

 

八〇〇〇万の悪霊群ーーーそれは男鹿達の世界で言われる下級悪魔の大群であり、箱庭の世界で言われる有象無象の悪魔の一形態であり、魔力など扱えようもない存在だった。

しかし、扱えないだけで悪魔の核であるともいえるエネルギーを外部からの供給という形で扱ったペストは、魔力の扱いを曲がりなりにも可能にしたのだ。

 

「こ、この・・・程度、なんかで・・・‼︎」

 

自分でも感覚でやっている魔力の引き出しにより、迫る槍の進行と拮抗する力を生み出したペスト。あとは推進力が衰えるまで我慢できればペストの勝ちだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな状況をわざわざ見守るほど、彼らは甘くも優しくも間抜けでもない。

 

 

 

「第二射。飛ばしなさい、ディーン‼︎」

 

再びの飛鳥の指示にディーンは槍ーーーではなく掌に乗せた十六夜を投げつける。

十六夜はディーンに投げられた慣性を味方につけ、疲弊している身体でありながらも第三宇宙速度を叩き出した。

 

「お前の努力を無下にはしない。が、今回はこれで終わりだ‼︎」

 

槍の推進力に抗っているペストにはそれを見ていることしかできず、十六夜の蹴りが柄の先端部分を捉えて押し込まれる。

押し込まれ穿たれた必勝の槍は千の天雷を迸らせ、万、億の天雷へと増えていき敵を焼き尽くす。

 

「ーーーさようなら、“黒死斑の魔王”」

 

その光景を前に飛鳥は別れを告げ、一際激しい雷光に包まれたペストは遂にその姿を消した。

 

 

 

 

 

「ーーー黒ウサギ、ゲームはどうなった?」

 

ペストが消滅した静寂を破ったのは十六夜だった。

黒ウサギは急いで手元の“契約書類”を確認する。

 

「・・・まだ勝利条件は一つも満たされていません」

 

やはり十六夜の推測は正しく、設定されたゲームマスターは鷹宮だったということだ。

 

「なら急いで地上に戻りましょう」

 

報告を聞いた飛鳥がすぐに提案し、主力陣は再びハーメルンの街へと転移するのだった。

 

 

 

 

 

 

十六夜達が月面でペストを相手に奮闘している頃。

 

「なんとか間に合ったな」

 

レティシアはシュトロムとの戦闘で自らもボロボロになりながら、自分以上にボロボロになっている男鹿を間一髪で救えたことに安堵の表情を浮かべていた。

 

「“ノーネーム”の吸血鬼か。王臣という報告は聞いていなかったが・・・まぁいい。それよりも邪魔をするな」

 

鷹宮はレティシアの王臣紋を一瞥するも、今は興味がないので退くように言う。

それに対してレティシアは男鹿に向けていた表情を切り替えて鷹宮を睨み付ける。

 

「お前がルシファーの契約者か。随分強気のようだが、今のお前ならば私一人でもなんとかなるぞ」

 

レティシアは槍を構え、影を伸ばしながら威嚇するように敵意を向ける。確かにレティシアもボロボロだが、今の男鹿と鷹宮に比べれば軽傷といえる程度の傷だ。

 

「心配するな。お前如き今のままで十分だ」

 

鷹宮は振りまいていた魔力を抑えながら右手に紋章を浮かばせる。

男鹿に対抗するために諸刃の剣たる魔力の引き出しをしていたのだが、レティシアを相手取るのにその必要はないし、男鹿が弱って空間の制御が落ちている今ならば同系統の紋章術であれば使えると分析していた。

もちろん実際には流石の鷹宮もそこまでの余裕はないかもしれない。だがハッタリも立派な戦術の一つ、そんなことは微塵も思わせない。

 

「ーーー退け、レティシア」

 

「なっ」

 

レティシアが攻撃を仕掛けようとしたその時、その左肩に手を置いて鷹宮と同じことを言う男鹿に押し退けられた。

 

(わり)ぃな鷹宮。続けようぜ」

 

口元の血を拭いながら前に出る男鹿。

今度はレティシアが男鹿の右肩を掴んで制止する。

 

「何を言っているんだお前は‼︎ もう身体が限界なのは見れば分かる。奴も似たようなものだ、私一人でもやれる。だからお前は下がれ」

 

どうにか説得を試みるが男鹿が下がる気配はない。どころか掴まれた肩の手を振り解こうとする男鹿にレティシアも声を荒げてしまう。

 

「いい加減にしろ‼︎ ギフトゲームはお前だけの戦いではない。何故無理をしてまで一人で戦おうとするんだ‼︎」

 

それを聞いた男鹿は力を緩め、それでも前をーーー鷹宮を見据えながらハッキリと答えた。

 

 

 

「確かにギフトゲーム(そっち)は俺だけの戦いじゃねぇんだろうな。けど鷹()との()嘩は俺の戦いだ。俺が()らなきゃ意味がねぇ」

 

 

 

男鹿もギフトゲームとして鷹宮を早く倒そうともしたが、今回の戦いは最初から最後まで男鹿と鷹宮の決闘だ。途中で黒ウサギ達と合流した時もお互いしか攻撃しておらず、お互いにしか攻撃を受けてはいない。

 

そんな男鹿の決意を見せられたーーー魅せられたレティシアは掛ける言葉を失ってしまった。

 

「それに俺は一人じゃねぇよ。なぁベル坊」

 

「ダァッ‼︎」

 

男鹿の問い掛けに応えるようにベル坊も強い返事を返す。

いつもならここまで言われればレティシアも引いていたかもしれない。自分の誇りを賭けるような決闘だ。それは時にギフトゲーム以上の価値を生み出すことを古参のレティシアは理解している。

 

それでも今の二人は対等ではない。

黒死病に侵された男鹿は魔力を引き出すこともできるのかと疑える程に身体を蝕まれている。見れば戦闘で敗れた服の下には黒死病の証たる黒い斑点がギフトゲーム前に見た時よりも広がっていた。

 

そして見ていたからこそ、レティシアはその変化にすぐに気が付いた。

 

「辰巳、腕が・・・」

 

その呟きに男鹿も自分の腕を見ると、黒い斑点が見る影も残っていなかった。

黒死病の呪いが解かれたのだ。それが意味することは・・・

 

「ペストもやられたか」

 

鷹宮が端的に述べる。

これでレティシアが心配していた二人の差はほとんどなくなった。これなら魔力を過剰に引き出しても決着を付ける分には問題もないはずだ。

 

「・・・分かった、もう何も言うまい。全力を尽くして戦ってくれ」

 

レティシアも男鹿を信じて待つ覚悟を決める。

“だが”と続けて、

 

「これは返させてもらうぞ」

 

肩に置いていた手をずらして背中に合わせる。そしてレティシアに供給されていた魔力が彼女の意思によって男鹿に戻された。

これで本当に二人の差はなくなり、対等な存在となる。

 

「ご武運を、マイマスター」

 

レティシアは数歩下がって見守る態勢を取った。

 

 

 

 

 

「待たせたな、決着を着けようぜ」

 

とは言っても二人とももう限界なのに変わりはない。男鹿は止めを刺される寸前まで弱って追い込まれ、鷹宮は追い込みながらも左腕は使い物にならない状態だ。

 

故に最後の衝突は一撃のみ。

その一撃に残りの全てを込めて相手にぶつける。

 

「「ハアァァァァアアアアッッ‼︎!」」

 

男鹿と鷹宮は同時に声を上げて走り出す。

お互いの今出せる限界まで魔力を引き出し、右腕を振りかぶって相手の顔に狙いを定める。

防御も回避も考えない。防御に力を回すくらいなら攻撃に力を回し、回避に力を回すくらいなら更なる攻撃に力を回す。

 

「鷹宮ぁぁーーッ‼︎!」

 

「男鹿ぁぁーーッ‼︎!」

 

拳の射程に入り、お互いの拳が相手の顔に突き刺さる。

拮抗は一瞬、次の瞬間には片方の拳は振り抜かれ、片方は殴り飛ばされて仰向けに倒れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・チッ。強い、な。男鹿」

 

 

 

仰向けに倒れたのは鷹宮。

最後の力で男鹿に言葉を向けて気を失った。

 

 

 

「・・・てめぇもな。鷹宮」

 

 

 

拳を振り抜いた状態の男鹿。

最後の力で鷹宮に言葉を向けて同じく気を失う。

 

本当に限界だったのだ。

決着と同時に男鹿も膝から崩れ落ちるが、地面に倒れることはなく横から伸ばされた腕によって優しく受け止められた。

 

「お前の勝ちだ、辰巳。ゆっくりと休め・・・」

 

気を失った男鹿をレティシアは受け止め、ゆっくりと地面に横たわらせる。

こうして全ての戦闘は決着を迎えたのだった。




戦闘終了ッ‼︎
流石に原作二巻目でこれは自分でも長いと思いましたが、やり終えた達成感が半端ないです。

王臣紋も原作と多少変わっていますので、本作設定に追加しておきます。

後はゲームの終わりまでのやり取り、後日談、次章からの伏線などなどになります。

それではまた‼︎

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