子連れ番長も異世界から来るそうですよ?   作:レール

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テストが迫っていたので少し遅れてしまいました。
サブタイトルに苦悩している今日この頃、とうとうお気に入り件数が七OOを超えて嬉しい限りです。

それではどうぞ!


鷹宮の過去

それぞれ別の戦場でヴェーザー、ラッテンを撃破した時から少し遡る。

 

「オォォラアァァッ‼︎」

 

男鹿の一撃が鷹宮を捉えて空中で殴り飛ばす。しかしそれが決定打にならないことは今までのやりとりで分かっていた。男鹿は続けて仕掛けようとしたが、またしても突然身体の自由を奪われて振り回される。

鷹宮が掌を向けたまま腕を振り下ろし、空中にいた男鹿は円を描くように下回りに引き寄せられる。そして男鹿によって殴り飛ばされて距離が開いていたために引き寄せられる軌跡は大きくなり、レンガ造りの家屋に突っ込まされる。そこで止まらずに家屋を破壊して突き抜け、今度は下から迫る男鹿を殴るために拳を振り下ろして地面に叩きつけた。

 

「今の一撃はよかった。次はこちらから行くぞ」

 

鷹宮は空中から落下の勢いのままに踏みつけようとしたが、男鹿はバク転の要領で地面から起き上がって回避する。

それに対して再び鷹宮の掌を向けられたので男鹿も身構えたのだが、

 

「・・・?」

 

身体には何も起こらない。

 

「男鹿、面白いものを見せてやる」

 

訝しんでいる男鹿にそう言うこと数秒、周囲の空気が不自然な流れを作り出していることに気付いた。

そしてその流れは鷹宮の突き出された掌を中心に形成されている。

 

「そいつは・・・春日部と同じ、グリフォンって奴のギフトか?」

 

「の、真似事だな。風を操っているわけではない。引力で風を引き寄せ続けて圧縮しているだけだ」

 

真似事とはいうが、空気が圧縮されているという掌が台風の目のように感じられる程度には暴風と化している。

 

「悪魔の力は魔力からただ力を発するのではなく、その使い方次第でいくらでも応用が効く」

 

それには男鹿も同意するしかない。

男鹿の“魔王の咆哮(ゼブルブラスト)”一つをとっても普段使用している収束型、ペルセウス戦で使用した放散型、ジャバウォック戦で使用した閃光型と使い分けて使用していたのだから。鷹宮の引力についても人間を引き寄せるのと風を引き寄せるのを使い分けているのだ。

 

「特に箱庭では様々な力が存在するからな。参考にするのには困らない」

 

解説は終わりとばかりに鷹宮は空いている方の掌を男鹿へと向けて、今度こそ身体を引き寄せる。流石に何回もされれば慣れるというものだが、近距離で引き寄せられれば反撃に出る余裕はない。

男鹿は暴風を纏った掌底が打ち出されるのを防ぐしかなかった。

 

()()()()

 

鷹宮が掌底とともに圧縮していた風を解放する。

合わさった二つの力により今までの比ではない距離を飛ばされた男鹿は歩廊を砕き、何軒もの家屋を貫き破壊してからやっと止まることができた。

 

「クッ、あのボケ。ばかすか人間を飛ばしてんじゃねぇよ・・・」

 

男鹿も人のことは言えないと思うが、少しふらつきながらも瓦礫に手を掛けて立ち上がる。

と、そこへ、

 

「辰巳さん‼︎ 大丈夫ですか⁉︎」

 

男鹿を心配する声が聞こえ、その方向から黒ウサギが近付いてきた。

 

「あ?なんでお前がこんな所にいんだ?」

 

「それは此方の台詞です‼︎ いきなり黒ウサギのウサ耳圏内に入り込んだかと思えば、すごい勢いで街を破壊しながら吹き飛んできたんですから‼︎」

 

黒ウサギは“月の兎”として箱庭の中枢と繋がっているため、審判時ならゲームの全範囲、プレイヤー時なら一kmの範囲まで情報収集ができる。黒ウサギと男鹿は比較的離れていたのだが、どうやらお互いに飛び回ったり吹き飛んだりしているうちにかなり接近していたようだ。

 

「ーーー二人とも避けてッ‼︎」

 

話をしている上からサンドラの大声がした。

ハッ、として男鹿と黒ウサギが見上げると黒い風が眼前に迫っていた。二人は目視すると同時に瞬間的に飛び退く。

 

そう、黒ウサギやサンドラがいるということは当然ーーー

 

「あら、忍はいないのかしら?」

 

二人が対峙していた“黒死斑の魔王”もいるということだ。

ペストがキョロキョロと辺りを見回していると、以前にも審議決議の時に見た黒い歪が空間に現れ、鷹宮が転移してきた。

 

「忍、いいの?転送玉をこんなところで使用して」

 

「ただの短距離転移だ。残存魔力に問題はない」

 

鷹宮の雰囲気が審議決議の時とガラリと変わっていることに黒ウサギとサンドラは戸惑っていたが、今は気にしている場合ではない。

 

「・・・辰巳さん。お身体の方はまだ大丈夫ですか?」

 

「大丈夫じゃないように見えんのか?」

 

聞き返された黒ウサギの目には大丈夫に見えるが、事前に気付けなかった黒ウサギには男鹿の返答だけでは判断できない。

だが長期戦には不確定な要素でも、作戦のためにも戦力的にも今は男鹿を信じて耐えるしかない。

 

黒ウサギはそんな風に考えていたのだが、鷹宮とペストの表情が変化したのを見て身構える。

 

「どうやらお前達を過小評価していたみたいだな」

 

「どういう意味です?」

 

「ヴェーザーとラッテンがやられた」

 

鷹宮から突然知らされた情報に黒ウサギ達は喜色の表情を浮かべる。

 

「まぁそれが今、この場にとっていいことかどうかは別だがな」

 

しかし、鷹宮の不吉な一言によって気を引き締め直す。

その視線は今も黙ったままでいるペストへと向けられていた。

 

「ーーー・・・止めた」

 

さっきまでの悠々とした態度は鳴りを潜め、寒々とした声色を発するペスト。

 

「時間稼ぎは終わり。白夜叉だけを手に入れてーーー皆殺しよ。忍」

 

「あぁ、いいぞ」

 

名前を呼ばれた鷹宮が返事をすると、その場の空気が重くなったのを感じる。先程のような物理的なものではなく、魔力による感覚的な圧迫だ。

 

「すまないな、男鹿。うちの魔王様がこう言ってるんでそろそろ本気を出すことにしよう」

 

まだまだ高まる魔力は黒ウサギにもサンドラにもはっきりと感じ取れる程だ。

 

「そもそも根本的に違うのだ。お前が教わった魔力の引き出し方とは違い、俺が習ったのはーーー己の身すら蝕む程の魔力の抑え方だ」

 

言い終えると同時に、鷹宮を中心に圧倒的な魔力が吹き荒れて男鹿達は吹き飛ばされた。それに留まらず、周りの家屋の窓は今にも割れそうに振動している。

 

「な、なんですかいったい・・・⁉︎」

 

「くっそ、なんつー魔力だ。これがルシファーって奴の力なのかッ・・・」

 

今はステンドグラスと一緒に消えている、無機質な表情を浮かべた少女を思い浮かべる。

男鹿がそんなことを考えていると、膨大な魔力に当てられているうちに頭にノイズのようなものが過り、知らない風景が浮かび上がる。

 

「ーーーあ?なんだ?」

 

何処かの山奥の村の一軒家。

全身を黒色で揃えた服を着た大人三人と大きな木箱。

そして一人の老人女性の背後に隠れた、忍と呼ばれている小さな子供。

 

(ーーーこれは、鷹宮の記憶・・・⁉︎)

 

 

 

記憶は進み、木箱が開けられる。

そこには、服の中央に大きな花をあしらったドレスを着た西洋人形のような、幼い容姿に腰まである銀髪の少女ーーールシファーが眠りに就いていた。

 

《この子がルシファー・・・》

 

小さい鷹宮が興味からか、ルシファーに手を伸ばす。

すると今まで眠っていたルシファーの瞳が開き、銀の双眸を鷹宮に向けて伸ばされた手を握る。

と同時に覚醒した魔力が溢れ出てきた。

それを感じ取った大人は対処しようとしてルシファーに近付き、攻撃を受け、死んではいないものの血の海に沈む。

 

 

 

記憶の場面が切り替わり、埃っぽい納屋であろう場所で椅子に座っている鷹宮と傍にいるルシファー。

人を傷付けてしまったルシファーを外に出さないように、契約者となった鷹宮はルシファーと一緒に外界との接触を避けるように閉じこもっていた。

しかし閉ざされていたその場所の扉が開かれ、差し込む光の中にいる煙草を咥えた男ーーー今よりも若い早乙女禅十郎が言う。

 

《クソったれ・・・出るぞ坊主。世界は広い》

 

 

 

更に時は進み、現在の鷹宮と同じ姿の状態で見覚えのある街並みーーーK県Y市にいる。

 

《男鹿が消えた?》

 

《正確にはこの世界から、ですが》

 

その隣には一言で言って黒いトランプマンのような男がいる。

 

《今の男鹿がいる世界はどうやらこの世界よりも強い者達で溢れかえっているそうですが、どうしますか?》

 

男が鷹宮を試すように次の行動を促す。

 

《どのみち、男鹿とは戦いたいからな。今は“商会”の流れに乗ってやる》

 

鷹宮の返答は男にとっても満足のいくものだったようで、口元に笑みを浮かべながら懐から取り出した転送玉を手渡した。

 

 

 

《貴方達は誰かしら?》

 

鷹宮と男の前には斑模様のワンピースを着た少女ーーーペストが警戒心を露わに手元から黒い風を放出している。

 

《そう臨戦態勢では話し合いもできないな》

 

鷹宮がペストへ向けて紋章を展開すると、黒い風は消え、ペストの動きが止まる。

紋章術の基礎、“縛紋”だ。

 

《マスターッ‼︎》

 

《落ち着きなさい、ラッテン、ヴェーザー。・・・抜け出すのは大変そうね。それで、話って何かしら?」

 

神霊であるペストには束縛された不快感よりも、容易く自分を封じた相手への興味の方が大きかったようだ。

 

《お前達の目的と俺の目的が一致しているので手を組もうと思ってな》

 

鷹宮の言葉を聞いたペストの表情が、先程までの興味を塗り潰すように憎悪に満ち溢れていく。

 

《・・・“八OOO万の悪霊群(わたしたち)”の目的は黒死病を蔓延させた太陽への復讐よ。貴方の目的がどう関係するというの?》

 

《そう、箱庭ではそんな不可思議な復讐も可能。ーーーだったら俺は、俺を受け止めきれなかった世界へと反抗する程の強さを手に入れる。それに俺が戦いたい男が白夜叉という奴と行動する可能性がある》

 

戦いたい男ーーー男鹿と戦って更なる強さを求める鷹宮。

白夜叉ーーー太陽の主権を持つ、最も復讐に値する星霊を目的としていたペスト。

 

確かに鷹宮の言う通り、彼とペストの目的は一致している。

鷹宮は“縛紋”を解き、ペストの返答を待つ。

 

《ーーーいいわ。交渉成立よ》

 

 

 

そこで記憶の流出は止まった。

感覚的には一瞬の間だったらしく、周囲に変化は見られない。いや、黒ウサギとサンドラの表情に驚きが浮かんでいるところを見ると、男鹿と同じものを見たのだろう。

 

最初の変化として、ペストの手から今までの黒い風に似た、見ただけで悪寒を感じる禍々しい黒い風が溢れ出ていた。

 

「先程までの余興とは違うわ。触れただけでその命に死を運ぶ風よ・・・‼︎」

 

鷹宮の魔力に呼応して魔力を纏ったペストが手を掲げ、黒い風の奔流を霧散させようとした刹那、

 

「クッ、これは・・・‼︎」

 

その足元に蠅王紋(ゼブルスペル)が現れる。記憶の鷹宮に出てきたものと同じように、“縛紋”を男鹿が掛けたのだ。

すぐに鷹宮によって解除されたが、そんなことはお構いないしに男鹿は話し始める。

 

「あー、ったく。じめじめうじうじしやがって。お前らの過去も目的もなんとなく、フワーッとだが分かった」

 

何も話していないに“分かった”発言に不審を抱く鷹宮とペスト、記憶を垣間見て同じくなんとなく“分かった”黒ウサギとサンドラの思考は一緒のものだった。

 

“フワーッてなんだ・・・”

 

「要するに拗ねちまった、ただのガキじゃねーか」

 

その発言に二人の表情は険しくなるが知ったことではない。

確かに気の毒だとは思うだろう。だが、そのことを理由に暴れ回って目的がどーのこーのと理屈付けているのは、自分が不幸だと宣い、自分をしっかり見て欲しかったと求めているようにしか男鹿には感じなかった。

 

「生憎だがよ。ガキのお守りは一人で間に合ってたっつーのに、こっちに来てから更に増えちまってんだ。てめーら自身のことは自分で考えな」

 

男鹿は右手と左手を合わせて力を込める。

 

右手の契約刻印は光り輝き、左手の紋章が腕全体に広がっていく。

 

そのまま力を込め続ける男鹿の頭上に、一回り大きな紋章が現れた。

さらに力を込め続けていくと紋章は拡大し、男鹿達のいる一区画を覆いこむ程の大きさになり、その下は太陽の顕現が如き光に包み込まれる。

 

 

 

「だが、一つぐらいなら俺が教えてやるよ。世界は広いってな」

 

 

 




やっとこの章も佳境に入りました‼︎
鷹宮って原作ではルシファーの力を自分では使ってませんが、普通なら男鹿と同じく使えるだろ?ということで使用しています。

いよいよ終わりに近づいていますが、次の章はオリジナルにしようと思っています。
そこで私の作品は戦闘描写が多いので、次はコメディー感を多くしようかな〜と思っているのですがどうでしょうか?
活動報告の方でアンケートを取りたいと思いますので、詳しいことはそちらに書きます。よければ意見を聞かせてください‼︎

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