子連れ番長も異世界から来るそうですよ?   作:レール

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なかなかに筆が乗らずに遅くなってしまいました。
今回の話でヴェーザー戦・ラッテン戦を終わらせる予定でしたが、タイトル通り予想以上にヴェーザー戦が長引いてしまいました。

それではどうぞ‼︎


vsヴェーザー戦

召喚されたヴェーザー河の周囲はもはや原形をとどめていなかった。

他に組まれた対戦カードの面々とは違って十六夜とヴェーザーは無駄な話をせず、お互いを叩き潰そうと一撃必殺とも言える威力の攻撃を繰り出し合っていた。

 

片や山河を打ち砕く力を宿した身体を第三宇宙速度で叩き込む規格外の人間。

片や地殻変動に比する力を大地や河を操りながら叩き込む神格を得た悪魔。

 

そんな二人がぶつかり合えば結果は言わずもがな、というより最初に説明した通りである。

しかし戦局が拮抗しているかといえばそうではない。

 

「しゃら、くせぇ‼︎」

 

襲い来る数多の水柱と岩塊を十六夜は気合を乗せた拳で弾き飛ばす。

その隙を突いて接近したヴェーザーが巨大な笛を横薙ぎに振り抜いてくるのを敢えて避けずに足裏の蹴りで迎え撃ち、相手の力を利用して距離を空ける。

吹き飛ばされた十六夜を追い掛けて追撃するヴェーザーの目に、先程にはない危険な光が宿っているのを捉えた十六夜は今度は受けるような真似はせず、計算して飛ばされた体勢から地面を蹴って方向転換することで回避した。

 

十六夜にとっての誤算は相手の力が予想を遥かに超えて増幅していたことだ。

 

一週間前は全てにおいて自分が上回っていたように思えるのに対し、今は力では互角以上の差が開き、速力では優っているものの少しでも気を抜こうものなら追いつかれる程度の差しかない。

自身の力が劣っていると言っても圧倒的破壊力を宿していることに変わりはないので、速力差を活かして仕掛けるも何かしらの奥の手を隠しているようで迂闊に飛び込むこともできない。

 

オマケに訳の分からない紋章がどういうものか気になって仕方がない。もしあれが契約印ならば、契約悪魔がいて二対一という展開も考慮しなければならず、ヴェーザーへ捨て身の特攻で勝ちを狙いにいって怪我をするのは得策ではない。

 

「どうした坊主。えらく慎重な戦闘運びだな」

 

「ハッ、この俺が慎重にならざるを得ないなんてな。素敵なパワーアップをありがとよ」

 

ヴェーザーの問い掛けにあくまでも不敵な笑みを浮かべて答える十六夜。

しかし、内心では予想以上にヴェーザー相手に時間を費やす結果になってしまったため他の戦闘が気になり始めていた。

 

(他の連中が相手してる奴らも同程度にパワーアップしているなら少しヤバイな。いい加減に腹括って勝負に出るか?)

 

もう控えの契約悪魔の可能性や次の戦闘などは考えず、ヴェーザーに集中して負傷上等の勝負に出ようと考えていたところ、

 

 

 

「なるほど、貴様が苦戦していたのは“王臣紋”が原因か」

 

 

 

割り込むようにしてヒルダの声が耳に響いてくる。

 

“御チビ達の護衛はどうした”とか“加勢なら俺はいいから他に行け”とか色々と言いたいことはあるが、とりあえず一番気になったことについて言及する。

 

「おいヒルダ、“王臣紋”ってのはなんだ?」

 

「“王臣紋”とは、生涯かけて王に付き従うと決めた者にのみ与えられる戦士の称号だ」

 

“戦士の称号”ということは契約印ではなさそうだ。ならば契約悪魔はいないと判断して十六夜は質問を続ける。

 

「さっき苦戦の原因が“王臣紋”って言っていたが、その効果はなんだ?」

 

「一言で言えば、“王臣紋”を与えた契約者からの魔力供給だ」

 

その説明を聞いて十六夜はヴェーザーの急激なパワーアップに納得する。大まかな魔力については以前に聞いているし、人間である男鹿でさえ魔力を使って戦えば規格外だと自負している十六夜と多少なりとも殴り合えるまで強くなるのだ。

それに加えてヴェーザーは神格を得ているので、神格に劣化神格を重ね合わせていると考えればその強さは不思議ではない。

 

「解説ありがとよ。けどなんで俺の所に来たんだ?」

 

これは十六夜がヒルダに対して低い評価をしているわけではなく、純粋に力不足だと判断したから出た質問だ。一度だけ見た“ペルセウス”の騎士達との戦闘だけでも強いのは分かるが、自分達のような規格外が相手だと通用するとは思えない。

 

「心配するな、彼我の力量差が分からぬほど愚かではない。貴様が奴を倒せ。私がサポートする」

 

「いや、俺が言ってるのはーーー」

 

「私が力でも速さでも貴様らに劣っていることは分かっている。だが、貴様らの“武力”に対抗できるだけの“武術”は会得しているつもりだ」

 

総力では勝てなくとも、勝負に勝つだけの術は身に付けている。

そう豪語するヒルダを前に、十六夜も言い返すことを止めた。

 

「分ぁったよ。本当はサシで()りたいが、俺も時間を掛け過ぎちまったからな。今はチーム戦だ、文句は控えるぜ」

 

「ーーー話は纏まったか?」

 

今まで黙っていたヴェーザーが肩に笛を担ぎながら聞いてくる。

 

「うむ、中断して悪かったな。今からは私達が相手だ」

 

そう言いながら抜刀した剣を右手で構え、左手で前髪を掻き分けると今まで隠れていた左眼が露わになる。エメラルドのような緑色の右眼とは対照的にサファイアのような青色の左眼だ。

 

「へぇ、オッドアイか。てか見えるのか?」

 

「あぁ、見え過ぎるくらいだ。諸事情によりできる限り短期決戦でいくぞ」

 

まずはヒルダからヴェーザーに突っ込んでいく。ヴェーザーからすれば未知数の相手を測る意味でも数合だけ剣を受けてみるが、会話を聞いていた通り十六夜に比べれば随分と軽くて遅い攻撃だ。

難なく倒せると判断したヴェーザーが攻勢に転じた瞬間、二人の均衡が崩れた。

 

 

 

振り上げた笛を振り下ろそうとする前から剣が添えられ、力を乗せる前から軌道を逸らされる。

 

 

 

ヴェーザーは驚愕の表情で笛を振り下ろしたが当然ヒルダには当てられず、逸らしたままの剣を滑らせてきて柄で顎をカチ上げられた。

 

(ありえねぇ⁉︎ 確かに動きは小僧に比べれば遅いし攻撃も弱い。だが反応が速すぎる‼︎ 動き出す前から動きを読んできやがる‼︎)

 

「ーーーお前の相手は二人だぜゴラァァアア‼︎」

 

カチ上げられた際に浮いたヴェーザーの身体目掛けて、十六夜が遠心力を乗せた後ろ回し蹴りを繰り出す。

 

笛は振り下ろし、身体は足の着かない空中。

 

防御も回避もできずにそのまま蹴りを食らい、吐血しながらヴェーザー河へと叩きつけられる。

 

「なんだよさっきの異常な見切り。その左眼の力か?」

 

「その通りだ。この目にはコンマ数秒が数十秒に止まって見える。その左右差に酔ってしまうために普段は閉じているがな」

 

周囲を警戒しながら会話する二人だったが、その後ろの地面がせり上がって身体を丸ごと呑み込もうとする。

反射的に避けた二人を見ながら、水濡れとなったヴェーザーが河から上がってきた。

 

「ペッ。なるほど、確かに厄介だな」

 

口の中の血を吐きながら再び笛を構える。

ヒルダの見切りを警戒して直接殴りにはいかず、地面を掬い上げるようにして土砂を散弾の如く打ち出した。それを十六夜は拳一つで吹き飛ばし、ヒルダは土砂を剣で弾いたり大きく避けたりすれば隙ができると考え、魔力を手足のように操って動かずに弾いていく。

それを見たヴェーザーは、自身の後ろの河とヒルダの後ろの地面を操って今度は弾くことのできない攻撃で挟みかける。

 

まずは戦闘力で張り合える十六夜よりもヒルダを排除すべく、ヒルダへと集中的に攻撃を仕掛ける。防ぎ切れないと思ったヒルダは上に跳躍して回避するが、そこを狙ってヴェーザーが突撃し、迎撃するように十六夜も跳躍した。ヒルダの眼前で二人の拳と笛がぶつかり、必然的に力の強いヴェーザーが打ち勝つ。

しかし十六夜が打ち落とされた一瞬の間で、剣にブラックホールにも似た魔力を纏わせてヴェーザーに叩きつけた。今度は防御に成功し、空中で攻撃に押されながらも地面に着地して踏ん張る。そして動きが止まったところに打ち落とされた十六夜が戻ってきて再び拳を振るう。

 

「チッ」

 

舌打ちしたヴェーザーは、踏ん張ることを止めて魔力の奔流に呑み込まれる。十六夜とヒルダの一撃を天秤にかけて被害の少ない方の攻撃を受けたのだ。

魔力と巻き上げられた土煙が晴れた場所には、全身に擦り傷を負ったヴェーザーが面倒臭そうな顔で溜息をついていた。

 

「ハァ、もういい。確実に防げない一撃で沈めてやるよ」

 

己の霊格を解放して笛を掲げ、円を描く様に乱舞する。それに応じて地鳴りと震動が発生し、そのエネルギーが笛の切っ先に集まっていく。

 

「おいおい、なかなかにヤバそうな一撃じゃねぇか。アイツの取って置きってやつか?」

 

「だろうな。見切ることができても逸らすことのできない、圧倒的な力で攻撃するのだろう」

 

「いいねいいね、最っ高に燃えてきたぜ・・・‼︎」

 

十六夜は腰を落として右腕を引き、身体を捻じって全パワーを絞り出す態勢で迎え撃とうとする。

 

「逆廻。防御も回避も、突撃することさえ考えるな。攻撃のみに集中しろ、私が合わせる。まずはーーー」

 

最後の激突を前に簡単に打ち合わせて準備を整える。

その間にヴェーザーも力を溜め終わったようだ。

 

「OK。死ねガキども」

 

ヴェーザーが全力全速の力で二人に向かっていく。十六夜はカウンターで力を倍増させるために待ち構え、ヒルダは魔力を蔦でも伸ばすように張り巡らしていく。今更そんなもので凌げる攻撃ではないとヴェーザーは無視して笛を振りかぶった。

この段階になっても動こうとしない十六夜達をヴェーザーは不審に思うも、この攻撃を受け止められるわけがないとそのまま動きを止めなかった。今から動いてもどうすることもできないと考え、当たると確信した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、十六夜は一切動かず、筋の一筋も緩めていないのに音もなく身体が後方にずれて躱されてしまう。

 

 

 

「何ッ・・・⁉︎」

 

攻撃は空振り、十六夜は溜めに溜め込んだ力を解き放とうと動き始める。ヴェーザーはいったい何が起こったのか分からず目を見開いていたが、空振りの際に発生した風が十六夜の服を煽り、その下に魔力の蔦が絡みついているのが見えた。

ヒルダが周囲に張り巡らしていた魔力はカモフラージュで、本命はコレかと考える。

 

凌げない攻撃ならば凌がない方法で迎え撃つ。ヒルダが最初に宣言した、力に対抗するための(すべ)そのものだ。

 

「これで終わりだ、ヴェーザー・・・‼︎」

 

全身全霊、攻撃だけに全てを込めた十六夜の拳が唸りをあげて振り抜かれた。ヴェーザーは咄嗟に防御に転じたが笛を砕かれ、そのまま星をも揺るがす一撃を受けて空高く打ち上げられる。

しばらくして落下してきた、仰向けに倒れているヴェーザーの顔は何処か清々しいものだった。

 

「フゥ、完敗だ。俺の負けだよ」

 

「こっちは二人掛かりで、一歩間違えれば大怪我間違いなしの賭けだったんだ。とてもじゃねぇが勝ち誇れねぇよ」

 

十六夜が肩を竦めてそう言い、ヒルダは少しフラつきながらも毅然と立っている。

実はヒルダの張り巡らした魔力は、カモフラージュ以外にヴェーザーの動きを完璧に捉えるためにも使われていたのだ。圧倒的突進力をほんの少しでも抑えながら、目視以上に動きを察知するため全力で魔力を行使した結果、怪我はなくても疲労はかなり大きくなってしまっていた。

 

そうこうしているうちにヴェーザーの身体が光の粒子となって崩れていく。

 

「・・・消えるのか?」

 

「あぁ。召喚の触媒が砕かれたんだ。こうなるのは不思議じゃねぇ」

 

「そうか、久しぶりに本気で戦えて楽しかったぜ。安らかに眠れよ」

 

「悪魔が安らかに眠ってもいいのかね。ま、そっちも達者でな」

 

最後に満足そうな声を残してヴェーザーはそのまま消え去っていった。

 

「・・・さてと。俺はこのまま黒ウサギの所に向かうが、お前はどうする?」

 

少しの間、黙ってヴェーザーが消えた場所を見つめていた十六夜は疲れ切っている様子のヒルダに問い掛ける。

 

「私は疲れた。少し休憩してから向かうとしよう」

 

「了解。なんなら終わりまで休憩してろよ」

 

もう敵が襲ってくることはないだろうとヒルダをその場に残し、十六夜は次なる戦場へと向かっていく。




やっと一つの戦場が幕を閉じました。次はラッテン戦から始まると思います。

ヒルダのオッドアイ、青眼は独自設定です。前回のルシファーの時も思いましたが何処かに公式カラーイラストは無いんですかね?

それと今週で私の夏休みも終わりです。そういうわけで更新速度は一週間に一話か二話にしてましたが、これからは一週間か二週間に一話ぐらいになるかもしれません。

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