………………………………………俺は……………………………………………………
…………………………誰だ………………………………………
俺は……!!
誰なんだ!?
………………………………………………………………………………………
なんだキサマらは!?
………………………………
なにを
一体なにをした!?
………………………
………………………………
俺の体……
俺の体に!!
……れが例の?
適合したのが………素体………
キヒヒヒ お前が■■■■か?
…………………………………………………………………………………………………………
や、止めてくれ 降参するっ だから
た助け………
…………………………………………………………………………………………………………
…………………………………………………………………………………………………………
……命令を無視…
やはり出来損ない≪ミスクリエーション≫か
……………………………………………………………………………
裏切るのか■■■■!!
≪メモリー≫の消去は……
……御不能、臨界!!
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…………………………………………………………………………………………………………
…………………………………………………………………………………………………………
我が導きに応えなさいっ!!
治療を…急いで……
せっかく私が召喚したんだから
誰だ……
俺を……呼ぶのは…………
…メイジを………早く…
ミス…………―ル無理は
………そうか
だったら
何でよ
死んじゃうなんて絶対に許さないんだから
一人に……………しないでっ
行かなきゃ
――――――――――――――――――――――――――――――――――
ぱちり、と目を覚ます。
「ハァハァハァハァ」
荒い呼吸のまま上体を起こす。ひどく喉が渇いていた。
白い部屋。高い天井。石積みの壁。
その部屋の窓際のベッドの上。顎に伝う汗を手の甲で拭う。ひどく魘されていたらしくシーツは皺だらけで、じっとりと湿っていた。
悪夢。そう、悪夢だ。
妙に現実味を帯び過ぎた、まるで実体験のような幻。自分が自分で無くなるような、自分の意志に関係なく未来を確定されていくような。夢の内容を思い出そうとするほど、詳細はあやふやに、内容は不鮮明になってゆく。
そういえば夢にしてはやけに、はっきりときこえた声。あれはいったい……
ふと何気なく、首だけ動かして窓の外を見る。外は暗く、濃い闇が景色を真っ黒に塗りつぶしていた。見上げれば、薄雲がかった夜空に浮かぶ二つの月。
錠を外して窓を開けると、ひんやりとした夜気が室内に流れ込んできた。今一度、夜空を見上げる。
――月は……二つ、だったか?
正常な判断も下せず呆然としていた男が、何かに反応したのは、それからしばらくしてからだった。
それは音。
二組の足音が、こちらに近づいてくる。
灯火の小さな明かりでも、足元を照らすには充分な光量なので、コルベールは当直の晩にいつもそれを愛用していた。小さな灯であろうとも夜の闇においては、見る者を安心させ、ぬくもりを分け与えてくれる偉大な存在だ。破壊ばかりが炎の真価ではない。それがコルベールの信条だった。
普段は一人で行う当直だが、今夜は連れがいた。
「ミス・ヴァリエール、あなたは無理をしなくてもよいのですよ?私は今夜当直なので仕方ありませんがあなたは………」
「いいえ平気です。無理なんかしていません」
ルイズは前を向いたまま答える。
「しかし本当にいいのですか?彼が召喚されてからもう三日、まともに寝ていないのではないですかな」
「…………」
ルイズはこれっきり黙ってしまう。
コルベールは知っていた。ルイズが召喚された使い魔のために屋敷を買えるほど高価な水の秘薬を取り寄せたことを。昼夜問わず医務室に通い続け必死に看病したことを。何でもないように口では言うが疲労は確実に溜まっているはずだ。
「しかし目覚めているといいですな、彼。まだ契約を結んでいないのでしょう?」
少々強引だが、話題を変える。医務室にはまだ遠い。
「気にすることはありませんよ。使い魔召喚≪サモンサーヴァント≫とはいわば魂と魂の契約、自分の中に眠る素質が使い魔を呼び寄せるのです。まあ人型をした使い魔が召喚されたというのは聞いたことがありませんが、この出会いにはきっと何か意味があるはずですぞ」
「ミスタ・コルベール。やっぱりもう一度儀式を――」
「召喚の儀式は神聖なものです。やり直すことは許可出来ませんよ。召喚に成功した以上、人間であろうと彼があなたの使い魔です。」
冷たく、突き放す。しかし教え諭すように。
「私は先程、意味がある、と言いましたね。使い魔との出会いとは決して偶然ではないのです。始祖ブリミルによる神聖な召喚の儀式により億千の可能性の中から、偶然と思えてしまうような出会いをあなたはあの彼と果たした。またタイミングがずれれば、何かかが欠けていたとしたらそれさえもなかったはずです。
こうなれば必然、いや『運命』ではないかと、私は思うのです。」
「ミスタ・コルベール……」
コルベールは微笑みながら言葉を続ける。
「さあ、お顔をお上げなさい。もしあの彼が目を覚ましていたら、あなたは契約を結ぶのでしょう?ならば堂々としていないと。一生を共にするパートナーとの『出会い』というからには、最高の『出会い』にしなくては」
気付けば、医務室の扉の前。
「いない……」
入室し目にしたのは、空になったベッドと。
全開になっている、窓。
「油断しました……まさか脱走するとは」
ベッドを探り。
「まだ温かい……そう遠くへは行っていないはず」
「私ちょっと見てきますっ」
「見てきますって……あっ待ちなさい!!」
ルイズは飛び出していった。窓から。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
走って、走って、走る。
マントを翻し、夜露を蹴散らし、何かに足を取られそうになっても構わず走る。
誰かが、今の私の様子を誰かが見ていたらなんというだろう。いつもからかってくる連中だったら、またバカにしてくる。家族だった場合には小言と説教だけで月と太陽が一回は確実に交代するに違いない。
走って、走って、また走る。広場を、ダンスホールを、いまこの道を。
残る場所はあと一つ。中央、中庭のみ。
汗で額に髪がへばりついて気持ち悪い。
急に走ったせいで脇腹が痛くなってきた。こんなことなら乗馬以外にもう少し運動を嗜んでおくべきだった。
それでもかまわず、走る。
学院内にいるとは限らない。ひょっとしたらもう学院の外にでてるかもしれない。向かう場所は、きっとあいつの故郷。
その気になれば、あいつを見捨てて、もう一度儀式をやり直せばいい。もっと高等な幻獣を呼び寄せるかもしれない。たかが平民。この国にいくらでもいる。
平民なんて、ひょっとしたら召喚されるかもしれない犬猫よりも価値が、ない。
そう思ってた。
でも、コルベール先生の言った、あの言葉を聞いてから。
この『出会い』を、信じてみたい。
必然だというのなら。『運命』だというのなら。
諦めたくなかった。
今、この曲り角を駆け抜けたその先に。
そこに――いた。
中庭の、その真ん中。
たったひとつ、月を見上げて佇む影。
息を整えながらルイズはゆっくりとその影に近づく。五歩ほどの距離を開けて立ち止まった。
「ようやく見つけたわ。ここにいたのね」
影はゆっくりとこちらに振り返る。月明りの逆光で、相手の表情が見えない。
「どうして逃げ出したの?」
まだ黙っている。こいつに答える気がないなら別にそれでいい。やるべきことは他にある。
「これから契約よ。そこに跪きなさい」
「……声」
「は?」
ようやく喋ったと思ったら何言ってんの?こいつ。
「夢の中で俺を呼ぶ声が聞こえた。何となく、お前の声に似ている気がする。あれはお前だったのか?」
「……何よそれ」
「答えろ。俺を呼んだのは、お前なのか?」
こいつは私より背が高いから、あくまでも私を見下ろす。でも違う、ご主人様になるのはこの私だ。
「ええそうよ。何のことを言っているのかわからないけどあんたは私が『喚んだ』。貴族である私が、わざわざあんたなんかを召喚してやったんだから感謝くらいしなさいよね」
「そう、か」
それだけ言ってまた空を見上げる。
いい加減イライラしてきた。平民が私をなんだと思ってるのかしら!と思って何か言ってやろうとしたら、向こうが先に喋った。
「空っぽなんだ。俺は」
「はあ?空っぽ、って何それ?」
「召喚された、というからには、きっと俺はどこからか呼び出されたのだろう。けれど何も思い出せない。自分の正確な名前すら、どこに住んでいたのか。誰と一緒にいたのかさえわからない。頭の中になにも、ない。
記憶≪メモリー≫すらも。俺は……」
ふと、私の方を向いて。
「『ゼロ』なんだ。」
ぷっちーーーん
こいつ最後になんて言った?ゼロって?さっきからくだらないことをごちゃごちゃと黙って聞いやってれば好き放題い、い、い、言ってくれるじゃない?
わなわなと肩を震わせ。
さんざん無視してくれてもう我慢できないっ!
「私はねあんたの過去なんて微塵の興味も無いの一人語りもいい加減にしなさいよメモリーでもなんでも私の使い魔になればくれてやるわよってゆうかさっきさりげなくゼロって言ったわねあんた私をバカにしてるの!?だいたいあんたは背ぇ高すぎるのよ私が届かないじゃないいいからさっさとそこに跪きなさい契約だって言ってるでしょう!!」
男の顔が、ほんの、ほんの少しだけ驚きの色を混ぜる。
「本当に……くれるのか?」
あれ?何をあげるって言ったんだっけ?勢いで怒鳴って何言ったか覚えてない……まあいっか。
「ええ確かに言ったわ。だからさっさと跪きなさい」
言われた通り跪く男の前に、ルイズは立つ。そして杖を向けて契約の呪文を唱える。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
ルイズは男の頬に手を添え、顔を寄せる。
「……?」
「いいからじっとしてなさい」
ゆっくりと唇を近づけ、唇をそっと重ねた。そしてすぐに離れる。
なぜか男の顔を直視できずそっぽを向く。何か変だ。こいつはただの使い魔なのに。頬が心なしか熱いのは、気のせいだろう。
「これで契約は完了したわ。光栄に思いなさいあんたはたった今から私の使い魔よ」
立ち上がりながら。それと同時に、彼の左手に契約のルーンが輝く。
「なんだって……やってやるさ。俺に記憶≪メモリー≫をくれるのならばな」
「あんたの名前聞いてないんだけど、本当にそれも忘れちゃった?」
「いやそれだけは覚えている。こう呼ばれていた」
「HOPPER、と」
艶やかな月夜の下、後に最強と伝えられる使い魔が、今ここに誕生した。
おまけ
「ところであんたが今身に着けてるのって医務室にあったシーツよね?一応聞くけどその下にちゃんと服、着てるんでしょうね?」
「……これか?」
「シーツのことじゃ無くて!!って、あんたまさか」
もぞもぞ
「脱ぐなああああああああああ」
空を飛びたい