まっちんぐっ!   作:やと!

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第2話

 

 

 

 

 

 

 

 

今日も今日とて食い扶持を稼ぐために流星街統治会支部の職業安定所もどきに向かう。もどきというのも所詮流星街の中で非力な子供がまともな職業に就けるわけがなく、あるのは廃品回収やお手伝いの募集、まれに同胞殺しの始末などが依頼板に上がっていることもある。

 

いつも通り廃品回収の依頼書を取ってガスマスクをかぶった受付に持っていき、依頼を受ける。

 

「毎日毎日ご苦労なことだ」

 

ガスマスクのせいか、すこしこもった声で受付から声がかけられる。さすがに二週間の間毎日廃品回収を行っていたせいで顔を覚えられてしまったらしい。

 

「まあね、普通に食糧漁るよりよっぽどいいわ」

 

「本来お前のような子供に達成できるような依頼ではないんだがな」

 

そう、廃品回収とはいっても多くがテレビやパソコン、冷蔵庫といった家電機器だったり、廃材、武器各種、原料になりそうなもの各種と、子供の身体で回収するのは難しいのである。この依頼は多くが成人数人がリアカーといった運搬要素を使って行うもので、その分入りも大きい。今のあたしは記憶から7歳ほどだろうと考えられ、普通ではまずありえないためにこの受付にも覚えられてしまった。まああたしは当然ながら普通ではなく念の修行も兼ねて、このかなりの力仕事をこなしているのだが。

 

「じゃあいつも通り戻ってくるのは夜になるから」

 

「あいよ、まあ無理すんじゃねえぞ」

 

あたしは周りの目も考えてなるべく人の少ない夜に回収依頼を終えるようにしている。あまり目立ってクロロの耳に怪力少女の噂が耳に入ったりしたらたまったものではない。リアカーを使ってそこそこの廃品を回収したら、あとは修行の時間に当てるのである。

 

受付の声を耳にしながら、支部を抜けリアカーを引いてゴミ山の中のあたしの住処へと向かった。

 

 

 

 

目立たぬ程度のスピードで現在のあたしの住処につくと近場で廃品漁りにいそしむ。辺り一面ゴミの山、ポジティブに考えれば廃品の山なので念さえあればくいっぱぐれることはない。

 

そもそも一体どうすればこれほどたくさんのゴミが溜まるのか非常に疑問だったのだが、ここで暮らしているとその疑問はすぐに解消された。それはこの世界に来て、「俺」が「私」に混ざり合った翌日だったが、突然流星街上空に大きな飛行船が現れ警告音をならすと、空中からゴミを大量にばらまいたのだ。聞けば本当にあらゆる種類のゴミ(廃品から糞尿まで)を捨てていくらしい。警告音を鳴らすのは、ゴミの下敷きになって流星街の住民が死ぬと報復される恐れがあるからで、人を殺しうる毒物等も廃棄されることはないそうだ。この世界に環境保護の精神は存在しないらしい。それからもひっきりなしに、飛行船が現れ流星街にゴミをまき散らしていった。さすが「何を捨てても許される場所」とは言ったものだ。

 

依頼自体も専門知識が無くても済むようにかなり大雑把な内容で、あたしでもこなすことができ大助かりである。

そして廃品をあさりながら自分に何か役に立つものがないかも同時に物色する。

しかしながら

 

「今日も特別な収穫はなし、か」

 

そう都合よく役立つものは見つからず、しばらくしたのち回収を止め、念の修行に移行する。この世界において、戦えない者の死亡確率は「俺」の世界とは桁が違う。大都会であるヨークシンシティでさえマフィアの抗争なんてふざけたものがあるのだから一般人にはたまったものじゃないだろう。そのうえマフィアでさえこの世界では圧倒的弱者なのだから、本当に救いようがない。そんな世界だから強くなるための修行は最重要課題だ。

 

まず行うのは基本となる「四大行」である。

「四大行」とは念の修行において最も重要な基礎部分であり、体から噴出するオーラを体の周りにとどめておく「纏」、体から出るオーラを絶つことで気配を消す「絶」、「纏」で体にとどめたオーラすなわち「顕在オーラ」を一気に増幅させる「練」、最後に「練」で練り上げたオーラを使って様々な「念能力」を行使する「発」の四つである。

 

この四大行は念の修行において必須のものであるが、念の修行法はハンターによって基本独占されているため独自に念に目覚めてしまったものは修行法も知らずに念で得た力に驕り、天空闘技場にいた新人狩りのような井の中の蛙になってしまう者が多い。

 

あたしが思うに幻影旅団の団員もあれほどの強さなら、どこかでこの概念は知るのだろうと思うが、はじめから知っていたわけではないと思う。あたしとしては流星街はあの旅団やキルアの母親を輩出した場所ということもあり、念能力者がそこそこいるのかと思っていた。しかし実際は念能力者など一人もおらず、教えを請う人物がいないことにがっかりすればいいのか、危険な人物がいないことに喜べばいいのか判断に迷った。

 

そんな中、今のあたしが四大行含め「ビスケ」がゴンとキルアに教えたことを一通り知っているのはかなり大きいアドバンテージである。物語でのあたしは正直旅団の中ではあまり強いキャラではなかったようにも思える。念の初心者のキルアの不意打ちで負傷していたことを考えれば、彼女自身の戦闘能力は高くなかったのだろう。しかしヒソカと対等に話したり旅団内できちんと活躍できていたのだから、おそらく潜在的な能力は相当高いはずだし戦闘以外の裏方の能力を中心に身につけたのだろう。

しかしながら、物語の彼女はたとえ戦闘力が乏しくても旅団のほかのメンバーが協力してくれたから問題はなかっただろうが、今のあたしはなるべく戦闘力特化の強さを求めた方がよい。すべての修行を戦闘力向上に当てるべきだと思う。旅団以外にもこの世界には危険が多すぎるし、あたしがここに来た理由含めて謎が多すぎる。戦闘能力を上げておいて損はないだろう。

 

その上で原作のあたしの念能力は確実に戦闘向きではない。「糸」って……、「糸」って一体どう戦闘に使えばいいのだろうか。正直「糸」でヒソカとかクロロとかと渡り合える気がしない。

そう思いはするのだが、問題なのは「マチ」=「糸」のイメージがあまりにも強すぎて、それ以外の能力を考えようとしてもなんだかしっくりこない。

 

「しっくりこない」なんていうのは最悪の弱点になってしまうだろう。念は想像と、精神力が非常に重要なのだ。たとえ何があっても「これさえあれば」というくらい自分の精神の柱になってもらわなければ困る。念なんてのは生命エネルギーの権化なのだから。

 

というわけで今はどのような「発」にするべきか考えながらの基礎固めである。

 

「……っふう」

 

纏を解いて、ひとまず休憩する。

 

「はあ、やっぱり先は長いわね」

 

とてもじゃないがまだ堅なんて使えない。最近になってようやく「纏」の持続時間が2時間を超えたところだ。これが一体どれくらいの成長率なのかはわからないが、できるかぎり早くに堅だけでも30分くらいは使えるようになりたい。

 

「次は絶か……」

 

顕在オーラを内側に押しとどめるイメージ。正直まだまだ戦闘に耐えられない今、最重要なのは「絶」を完璧にすること、それによって敵からの逃走成功率を上げねばならない。オーラを外に一滴も漏らさないよう、強くオーラを抑え込む。理想は意識せずとも絶ができるようになるのがベストだと思うが、さすがにいくらこの体のスペックが高くても融合前のマチはただの少女だったし、本格的に修行を始めてから二週間しかたっていないのだから未熟なのは仕方ない。

 

オーラが次第に内側に引っ込む。十秒ほどで多少の漏れはあるものの、だいたいの念を抑えることに成功する。この状態でどれだけ行動することができるようになるかが問題だ。もう少ししたら居住区で絶を試してみよう。まだまだ先は長い。

 

そして念の修行を一通りこなしたら、次に体力と筋力づくりにいそしみ、それを一通り終えたら再び纏と絶の修行を行う。もう一歩も動けなくなってからはひたすらに、心を鍛える「燃」の方を行い続ける。子供の身体には負担が大きいかと思ったが念を覚えた体は、回復もかなり早いようで助かっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて今のあたしは7歳ほどだが確かクロロが幻影旅団を立ち上げたのは彼が13歳くらいだった。それを考えると彼との年齢差がたとえ1、2歳だとしても、「私」はもしかするとクロロと接触する寸前の状況だったのではないだろうか。「俺」、よくやったわ!

 

それがあってるとするとクロロは原作中では26、7歳だった気がするから、原作まではあと20年弱といったところかな?そして旅団設立まで4、5年か。

 

時間はたっぷりある、がやっぱり早く流星街から抜け出したい。

 

 

 

 

 

 


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