IS学園特命係   作:ミッツ

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自分は基本的に二次創作をやる以上は原作と同じ文章や展開は極力書かない方がいいと思っています。
原作と同じ展開じゃ、書いてる方も読む方も面白くないと思うからです。

つまり何が言いたいかと言うと、ラウラ戦、VT戦は序盤を除いて大胆全カットです!


過去との邂逅

 学年別タッグトーナメントは1週間にわたって開催される。

 大会初日から3日目までは各学年の一回戦が行われるが、記念すべき大会第一試合は 織斑一夏 シャルル・デュノア組対 ラウラ・ボーデヴィッヒ 篠ノ之箒組と言ういきなり注目度の高いマッチメークとなった。

 

 現在第一アリーナの中央にはISを装着した一夏、シャルロット、そしてラウラ、箒の4人がそれぞれ無言で対峙している。

 そんな重苦しい沈黙を最初に打ち破ったのは意外にもラウラであった。

 

「まさか、初戦から貴様と当るとはな。果たして偶然かどうか…」

 

「ああ。でも俺にとっちゃ好都合だったぜ。俺は少しでも早くお前と戦いたかった。お前もそうじゃないのか?」

 

「フッ。違いない。」

 

 ラウラは苦笑気味に笑うと、一夏の言葉を肯定した。これには一夏も驚く。しかし、ラウラの表情はすぐに愁いを帯びたものになる。

 

「教官は私に、以前の自分は指導者として未熟だった。今自分はこの学園に最も合った指導を行おうとしている。そう何度も言った。今はまだ、試行錯誤の真っただ中だとも。」

 

「…………」

 

「正直私には教官が未熟だとは思えないし、ここでの訓練の温さは理解に苦しむ。だが、…教官が何か大きな挫折をした事は分かった。過去の自分を否定したくなるほどの挫折を…」

 

 自分の過去を否定したくなるほどの挫折。それはラウラ自身も経験し、いやと言うほど味わったものである。

 ラウラと話をする時の千冬は時折過去の自分を責めるような素振りを見せる。その時には決まって千冬は辛そうな顔になるのだ。ほんの僅かな表情の変化だが、ラウラにはそれが分かった。

 その表情がラウラはこの上なく嫌いだった。

 

(あんな表情はあの人が浮かべていいものでは無い。)

 

 だから…

 

「私がどん底から這い上がることが出来たのは教官の教えのお蔭だ!私がここに居れるのは教官がいたからだ!私はこのトーナメント、お前に、いや、立ち塞がる全ての者に勝利し、教官の教えが正しかった事をここに居る全員に解らせる!」

 

 それは紛れもない宣戦布告。

 それも以前一夏が千冬の前でやっと様な個人に対してのものでは無く、1年生全員、いわばIS学園の教育方針そのものに向けての途方にもない挑戦状であった。

 このラウラの宣言に観客席のテンションが嫌が応にも高まる。それは、ラウラと対峙する者も同じだった。

 

「…そうか、お前には譲れないものがあるんだな。けどそれは俺だって同じさっ!」

 

 織斑一夏は姉の変化を感じていた。姉は元々そこまで口が上手な人では無い。見るよりやれ。習うより慣れろを地で行く人間である。も

(その千冬姉が自分から人にアドバイスを送るようになったんだ。)

 

 織斑一夏は姉がドイツでどのような指導を行っていたのかは知らない。しかし、かつて通っていた道場でどのような振る舞いをしていたのかは知っている。

 板張りの道場で、わき目も振らず無心で木刀を振っていた姉の姿を一夏は昨日の事のように思い出せる。当時の千冬は周囲の人間との間に壁を作り、ただ自分の力を高めることに心血を注いでいた。

 その姿は鍛え抜かれた日本刀のような鋭さと美しさを持ちつつも、どこか空虚な恐ろしさを持っていた。

 

(あの頃に比べた千冬姉は変わった…いや、今も変わろうとしている。)

 

 口下手で、他人に本心を伝えるのが苦手な姉が積極的に生徒と関わって自分の技術を伝えようとしているのだ。

 言葉が足らず上手く伝えきれない事もあるし、不遜な物言いで相手を恐縮させることもある。だが、姉が必死である事は理解できた。

 家族が自分を変え他人の為に頑張ろうとしているなら、それを応援してやるのが家族の務め。そして…

 

「先生が生徒の為に必死に頑張ってるなら、教え子はそれを信じるしかねえだろ!」

 

 以前の指導法なんて関係ない。過去に何があったかなんて知った事じゃない。

 

「俺は今を信じる。今IS学園でISについて教えてくれる織斑先生を信じる!だからラウラ・ボーデヴィッヒ、俺はお前に絶対負けない!」

 

「……面白い事を言う。だったら貴様のその信念、このシュヴァルツェア・レーゲンで打倒してくれるっ!」

 

「やってみやがれぇ!いくぞっ、ラウラ・ボーデヴィッヒ!!」

 

「来いっ、織斑一夏ぁ!!」

 

 二人の叫びに呼応するように試合開始のブザーが鳴り、過去と現在がぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 

 

 学年別タッグトーナメント一回戦第一試合は大方の予想をはるかに裏切る展開で進んで行った。

 序盤はラウラが代表候補生としての実力を存分に発揮し一夏を圧倒。このまま押し切るかと思われた。

 しかし、箒の相手を務めるシャルロットがここぞというタイミングで一夏の援護に回りラウラの追撃を許さず、試合は膠着したものとなる。

 試合が動いたのはシャルロットが箒のエネルギーを0にしてからだった。

 それまで守勢に回っていた一夏はここぞとばかりにシャルロットとのタッグワークでラウラを責めたて、一気に主導権を握る。

 ラウラも必死にしのぐが多勢に無勢、ついに一夏達の攻撃をしのぎ切れなくなってしまう。

 だが、一夏達の勝利が目の前になった時、突如として黒い繭がラウラの機体を覆った。

 明らかな異常事態に際し、杉下は即座に試合の中止を宣言。万が一を考え観客の避難を促し、一夏達に対してラウラから離れて待機することを命じた。

 

 やがて繭の中から姿を現したのは第一回モンド・グロッソで旋風を巻き起こしたIS、暮桜の姿を模した真黒な戦乙女(ヴァルキュリア)であった。

 黒のISは一夏達を視認すると、漆黒の太刀を手に彼らに襲い掛かった。一夏とシャルロットはそれを迎撃する。

 ここにおいて杉下と千冬は緊急事態宣言を発し、事前のマニュアル通りに待機していた教員に連絡を取り、一夏達の保護と黒いISの鎮圧に向かわせた。

 

 だが、事態ここでさらなる急展開を見せる。

 なんと一夏とシャルロットは杉下が連絡して教員たちが現場に到着するまでのわずかな時間で黒いISを倒してしまったのである。

 教員たちが現場に到着した時、現場では一夏が黒いISから解放されたラウラを抱きかかえていたという。

 

 結果として大した混乱も起きず事態が収束したことにより、それ以降の一回戦も予定通り行われ学年別タッグトーナメント1日目は滞りなく終了した。

 織斑一夏 シャルル・デュノア組対 ラウラ・ボーデヴィッヒ 篠ノ之箒組の対戦は一夏、シャルル組の勝利となり、二人は4日目から行われる2回戦に駒を進める事が出来た。

 

 

 

 

 

 

 そして現在、診断を受けた一夏とシャルロットは杉下に呼び出され、職員室隣の会議室へと来ていた。部屋にはすでに杉下が椅子に坐している。

 二人が来たのを確認すると、杉下は恭しく礼をする。

 

「お疲れのところ申し訳ありません。お二人にどうしても同席していただきたかったものでして。」

 

「別にかまいませんよ、右京さん。でも、どうして俺たちが呼ばれたんですか?今日の試合の聞き取りなら、さっき千冬姉から一通り受けましたけど…」

 

「実を言いますと、デュノア社の社長夫妻が本日の試合を観戦しに来ているんです。夫妻共に日本に居られるのは今日1日限りという事でしたので、シャルロットさんが入学した経緯について今日中に決着を付けようと思うんです。」

 

「シャルの親がですか…」

 

「ええ。しかしながら、関係者とは言えシャルロットさんには心苦しい話をお聞かせすることになるかもしれません。もし聞くに堪えないと思われたのであれば、この場を辞していただいても…」

 

「構いません。僕は真相究明に協力すると約束したんです。最後までここに居ます。」

 

「…分かりました。あなたの意思を尊重しましょう。」

 

 決意を込めたシャルロットの言葉を聞いた杉下の表情を見て、一夏はふと違和感を感じた。杉下の瞳の中に憐みの色を見たからだ。

 

 やがて会議室のドアがノックされ亀山が部屋に入ってくる。その後ろには中年の男女がいた。

 

「失礼します。デュノア社長夫婦をお連れしました。」

 

「ありがとうございます亀山君。初めましてデュノアさん。IS学園特命係の杉下です。」

 

「…初めまして、アルベール・デュノアです。いったい何の御用でしょうか?私たちは今夜にでも国へ帰らないといけないのですが。」

 

 デュノア社長は一切の感情を見せぬ様子で杉下に問いかける。その隣にいる夫人は厳しい表情のまま佇んでいる。二人ともシャルロットへは入室した時から視線すら向けていない。

 

「では率直に申し上げます。シャルロットさんが全てを告白してくれました。」

 

 それはデュノア社のたくらみをすべて把握していると宣言したも同義である。しかし、デュノア夫妻の表情にはいまだ感情の揺らぎが見て取れない。

 

「ほう。そうですか。つまり、白式のデータは得られなかったわけですな。」

 

「…その様子だと、計画が露見することも予想されていたようですねえ。」

 

「大方失敗するだろうとは思っていました。人員も、時間も、予算も、根回しさえも不十分でしたからね。」

 

「その失敗する可能性の高い計画を実行に移したのはいったいなぜでしょうか?」

 

「…政府から第3世代型ISの開発進めるよう圧力がかかってましてね。早急に開発できない場合はISを開発するライセンスを剥奪すると。残念ながら我が社はシステムプランすらまともにできていませんでした。ライセンスが剥奪されたら我が社は破綻する。どうせ破綻するなら少ない可能性に賭けてみようと思ったんです。結果、賭けには負けたようですが。」

 

 抑揚のない声でデュノア社長は動機を説明する。それは以前シャルロットが語ったものとほぼ同じ内容であった。

 

「…おい、なんでそんな風に他人事なんだよ。」

 

「一夏君。」

 

「会社の為なら子供に何させたっていいってのかよ!あんたのせいでシャルは危うく犯罪者になるところだったんだぞ!」

 

「落ち着け一夏!」

 

 デュノア社長に掴みかかろうとする一夏を亀山が押しとどめる。暫くすると一夏は何とか冷静さを取り戻した。

 それでも胸の内の怒りは収まらないのか、憮然とした表情でデュノア社長を睨み付ける。そんな彼の隣で、シャルロットは何も言わず顔をうつむけ続けていた。

 

「…一夏君の言う通り、あなたがシャルロットさんにさせようとしていたのは明確な犯罪行為です。しかし、そうなるとどうしても不自然な点があるんです。」

 

「不自然な点?」

 

「ええ。あなたがシャルロットさんに渡したというUSBについてです。」

 

 杉下はそう言って懐から黒いUSBを出す。それを見て、デュノア社長の眉がピクリと反応した。それは彼が会議室に入ってから初めて見せた感情の揺らぎであった。

 

「こちらのUSBですが見た目は市販の物と何ら変わりません。調べてみたところ、中身の方も市販の物と変わりありませんでした。それどころか、いわゆる屑データというものが詰め込まれており、これ以上データを記憶する事は出来ないそうです。」

 

「ちょっと待ってください。それじゃあ、そのUSBを使ったって白式のデータは盗み出せないんじゃ…」

 

「ええ、その通りです。例えシャルロットさんがこのUSBを使って白式のデータを盗み出そうと試みたとしても、不能犯が適応され罪に問われることはないでしょう。」

 

「不能犯?」

 

 不能犯とは、犯罪的結果の発生を意図したにもかかわらず、その行為の性質上、当該結果を発生させることがないため、犯罪が成立せず、刑罰の対象とならない行為のことをいう。結果発生の危険がないため、未遂犯にもならない。

 具体例を挙げるなら、とある薬を毒薬だと信じ込んだAが殺意を持ってBに対して毎食Bの食事にその薬を混ぜていた。だがその薬がただの栄養剤であった場合、AはBを殺害することは不可能であり殺人未遂に問う事も出来ないというものだ。

 

「つまり、どう転んだところでこのUSBを使う以上はシャルロットさんは刑罰に処せられることはないです。なぜなら、このUSBでは白式のデータは抜き出せないのですから。」

 

「で、でもそれだと全く話が違ってくるじゃないですか!その人やシャルの話じゃ、白式のデータを盗むためにシャルはIS学園に来たんだから…」

 

「ええ、そうです。白式のデータを盗むというのは表向きの理由。真の目的はシャルロットさんを男装させてIS学園に入学させることだったんです。デュノアさん。」

 

 そう言って杉下はデュノア社長に近づいていき、ぶつかる寸前で足を止めた。よく見るとデュノア社長の額には汗がにじんでいる。

 

「あなたが会社とその身を犠牲にしてまでシャルロットさんをIS学園に入学させたのは、シャルル・デュノア君の為だったんですね。」

 

「もうやめてくださいっ!」

 

 突然、デュノア社長のものでは無い叫び声が会議室に響く。見ればデュノア夫人が床に膝をつき、顔を手で覆って涙を流している。

 

「夫のせいじゃないんです!全部…全部私が悪かったんです…シャルルの事も、シャルロットの事も…」

 

「イザベラ…君は悪くない。私が勝手にやった事なんだ。」

 

 泣き崩れる妻の肩を抱き、デュノア社長は優しく語り掛ける。その表情は沈痛なものに変わっていた。

 デュノア社長は再び杉下に目を向ける。

 

「…杉下さん、あなたはいったいどこまでご存じなんですか?」

 

「書類から読み取れることはなんとなく想像することが出来ました。ですが、あなた方の心内にどのような葛藤があったのかまでは…」

 

「そう…ですか……でしたら、最初からお話ししなければならないですね。すべての…始まりから。」

 

 そう言うと、デュノア社長はシャルロットの方へ顔を向け、酷く悲しそうな顔をした。

 


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