IS学園特命係   作:ミッツ

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今更ではありますがこの作品はフィクションです。
作中に出てくる事件・団体・国家は現実と全く関係ありません。

また、今回はいつも以上に独自設定・ご都合主義・gdgd展開が多くなってますのでご了承ください。


追うものと追われるもの

 実を言うと、亀山は今まで『女尊男卑』の風潮を肌で感じたことはあまりなかった。確かに家では美和子に尻に敷かれている部分はあるものの、それ自体はISが世に出る前からあったことだし、お互いに相手のことを尊重し合い対等な関係を築いているといってよい。ほかの女性にしても彼の周囲で女性の方が男性よりも偉いなどと主張する者は全くと言って程いなかった。

 

 また、警察組織というは男女間での地位が均等に保たれた昨今では数少ない組織なのだ。凶悪犯と対峙した場合、女性よりも体格や筋力で勝る男性を重宝するのは当然である。女性キャリアの数こそ増えれど現場に立つ刑事の多くは男なのだ。

 

 それに加え数年前、お台場で起きた連続会社役員殺人事件が大きく影響している。この事件で、当初現場の陣頭指揮を任された女性キャリア捜査官は俗にいう女性至上主義者であり、彼女は露骨に女性警察官を優遇し、男性警察官を蔑ろにする捜査方針で捜査を進めた。これにより、男女間で意思の伝達がうまくできなくなり情報が錯綜。犯人グループの予想外の動きもあって捜査本部は大いに混乱した。そしてついには、現場に出ていた一人の女性警官が犯人の凶弾に倒れる事態にまで発展し、犯人グループもその行方をくらませることになった。撃たれた警官は一時意識不明の重体になったものの幸いにして命に別条はなく、犯人グループも新しく捜査の指揮を任された別の捜査官によって立て直された捜査本部の努力もあって無事全員逮捕された。しかし、この事件において『女尊男卑』が現場に与えた影響は計り知れず、上層部でも行き過ぎた女性至上主義に対し警鐘を鳴らすきっかけとなったのだった。

 

「それにしたって、教師が生徒を差別するなんてとんでもないですね。」

 

「はい。普通に考えればISが使えるからと言って女性が男性より優れている理由にはなりません。それに、すべての女性がISを乗りこなせるわけではありませんからねえ。それでも、そういった考えが広まることで甘い蜜がすえるものからすればISというのは絶対的な力の象徴なのでしょう。」

 

 榊原から話を聞き終えてから杉下と亀山は部屋に戻って過去に名成中学の周りで何か事件が起こっていないか調べ始めた。流石に榊原も高原詩織がはっきりと女尊男卑の考えを持っていたかは明言しなかった。しかし、榊原の話が妙に気になった二人は学園の図書館に保管してある新聞をあさって、名成中学の周りで何か事件が起きていないか調べ始めた。そして探し始めて二時間後、二人はようやく一つの記事に行き当たった。それは高原詩織の死の約半年前、名成中学で一人の男子生徒が学校の屋上から転落し亡くなった事を伝えるものであった。

 

「亡くなった生徒の名前は柳原純一。当時15歳ってことは高原詩織の同級生ですね。」

 

「記事によると彼は学校の昼休みに屋上のフェンスを越えそのまま落下。遺書の類はなく、警察は事故と自殺の両面で捜査を進めているとのことです。続報はありませんねえ。」

 

 事件の詳細を調べるべく、この記事を書いた帝都新聞の記者に問い合わせたところ警察は既にこの事件を事故として処理しているとのことだった。しかし、電話で対応した記者は取材したときのことをこう話した。

 

『なんというか学校全体がとてもピリピリしてましたね。いやまあ生徒が学校で死んだんですから当然と言っちゃあ当然なんですけど。なんかね、教師が生徒に対して余計な事は話すんじゃないって雰囲気をバリバリ出してるんですよ。俺もこの事件には裏があるんじゃないかと思って取材をしようとしたんですが、ことごとくブロックされましてね。結局何もわからなかったんですよ。』

 

 ここにきて杉下たちの疑念は確信に近いものになっていた。名成中学は高原詩織と柳原純一の二つの事件に関して何かを隠している。それを明らかにすることこそこの事件の真相に近づくことになるのではないか。杉下は記者から柳原純一の住所を聞くと記者に礼を言って電話を切った。

 

「亀山君、僕は放課後になったら事件現場と柳原純一の家を訪ねてみようと思います。君はどうしますか?」

 

「もちろん、一緒に行きますよ。きまってるじゃないですか!」

 

 こうして二人は事件への核心に迫るべくいよいよ本格的に動き出すのだが、この行動が取り返しのつかないことを招くとはまだ二人は気づいていなかった。

 

 

 

 

「あ、杉下先生に亀山先生。もうお帰りですか?」

 

 放課後、杉下たちが教官室を出ると芝浦が何やら大きなボストンバックを肩に担いでいでいるのに出くわした。

 

「ええ、そうです。そのお荷物は何ですか?見たところかなり重そうですが。」

 

「ああ、これはISの整備のための道具です。これから整備課の方に顔を出さなきゃいけないんですけど、そのついでに教室の見回りをしておこうと思いまして。」

 

「なるほどそうでしたか。芝浦先生は元はISの整備をしていらっしゃったのでしたね。」

 

「はい、そうです。ところで杉下先生たちは部活動には興味はありませんか?今顧問に空きがある部がいくつかあるんですけど見てもらえないですか。ちょうど今頃どこの部も活動してると思うんでそれを見学してから決めていただいてもいいんですけど。」

 

「なるほど、そうですか。しかし、今日はこれから僕たちは予定がありますので、またの機会に見学させてもらいます。」

 

「そうですか。ぜひ考えておいてください。」

 

 そう言って芝浦と別れ、校門まで来ると二人は警備員によって手荷物をチェックされた。機密を多く保持しているIS学園では生徒や教師が学外に情報を漏らす事を警戒し、こうした手荷物のチェックが学園を出入りする時に義務付けられている。警備員が二人のかばんの中身を一つ一つチェックしている間、亀山は杉下にだけ聞こえるように耳元に顔を近づけてささやいた。

 

「右京さん…。」

 

「ええ、わかっています。芝浦先生と話している時からつけられてますねえ。」

 

 二人はこちらを監視している視線に目を向けぬまま話し合った。杉下は兎も角、亀山がこうして何者かの追跡に気づけたのは昼休みに更識と遭ったことが影響している。公安に関係があるかもしれない人間が現れたことで彼の警戒心がふだんよりも増すことになった。二人は校門から出ると、二人は突如として別々の方向に走り出した。二人を監視していた人影は一瞬反応が遅れたがすぐに杉下の方を追いかけだした。杉下は後ろを振り返らず走っていく。やがて、ビルの隙間の細い路地に入ると、杉下を追っていた人影もそのあとを追っていく。

 

「やっぱり君だったか。やっと追いついた。」

 

「ッ!?」

 

 一定の距離を保ったまま、それでも決して杉下の姿を見失わないように追っていた人影は、突然背後からかけられた声に驚愕する。振り返ると僅かに息を乱している亀山がまっすぐにこちらをにらんでいる。人影は確かに亀山が杉下と反対の方向に走っていくのを確認していた。いくら追跡に夢中だったとはいえ簡単に背後を取られるなど、

 

「右京さんの方を警戒するのはわかるけど、俺だって警察官だ。あんまりなめてもらっちゃ困るぜ。それに足には自信があるんだ。」

 

 野球部だったからな、と亀山は笑ってみせる。人影は思わず唇をかんだ。相手のことを嘗めていたわけではない。それでも、常に杉下の隣にいるこの男を、どこか杉下の腰巾着だと侮ってしまっていたのだ。その人影は知らなかった。亀山は人材の墓場ともいわれる特命係で最も長きにわたり、変人、杉下右京の相棒を務めていることに。

 

「どうやらうまくいったみたいですね。亀山君、ご苦労様でした。」

 

 

 いつの間にか戻ってきていた杉下が部下を労う。人影は細い路地で二人にはさまれた状況になった。

 

「ではお聞かせしてもらいましょうか、楯無さん。あなたの目的は何でしょうか?」

 

 

 

 

「……あら、レディの素性を探るなんて紳士としてあまり誉められたものじゃないと思うのですけど。」

 

「幸いそこの人はともかく、俺は紳士じゃないんでね。できればあんまり面倒なことはせずに質問に答えてほしいんだけど。」

 

 楯無の言葉に亀山はそう返す。楯無の表情は澄ましたものではあったが、その額にはわずかに汗の水滴がついている。

 

「では質問を変えましょう。楯無さん、あなた方は国家公安委員会と一体どのようなつながりがあるのですか?」

 

「?…国家公安委員会がなんで出てくるのよ?」

 

 楯無は素でそう答えてしまった。そこに演技をしている様子は一切見受けられない。どうやら本当に質問の意図が分かっていないようだ。

 

「えっと、君は公安の指示で俺たちを監視してたんじゃないのかい?」

 

「はあ?なんで私たちが公安の指示を受けなきゃいけないの。むしろ、あなた達の方が公安から指示を受けてたんじゃないの。」

 

「はあ?なんで俺たちが。」

 

 どうも会話がかみ合わない。杉下はそんな亀山と楯無の様子を見てひとり納得したように頷いた。

 

「なるほど、どうやら僕たちは何か勘違いをしていたようです。そちらにいる楯無さんの方も。どうでしょう、ここはお互いに自分たちの素性を明らかにするというのは。」

 

 杉下の提案に楯無はしばらくの間、あごに手を当て悩んでいる様子だったがやがてため息をついた。

 

「わかりました。その提案に乗りましょう。」

 

 そして、楯無は自分たちの組織について説明を始めた。それによると楯無家は政府から完全に独立した組織であり、その仕事は主に政府からの依頼を受けて国の重要施設や最重要人物の警備などだそうだ。戦時中までは国内の不穏因子や海外からのスパイの取り締まりに従事していたらしいが、現在は民間の警備会社と何ら変わりはないとのことだ。ただ、歴史が古いだけに裏の世界にも通じており、対暗部用暗部として今も政府からも重宝されているらしい。

 

「そして、今回の任務はIS学園に潜入し、学園と生徒に危害を加えようとするものを事前に排除する事よ。」

 

 IS学園は各国の軍事機密の宝庫である。各種ISの機体データなどは工作員からすれば宝の山のようなものだ。それに加え、反IS団体の存在もある。ISが軍事の花形になってからというもの各国はISの研究に投資するようになり、それまでの軍事予算は切りつめられることになった。その結果、世界各地で職にあぶれる兵士が生まれる。彼らの一部は傭兵となって生計を立てる一方で、自分たちから活躍する場を奪ったISを憎み、ISの関連施設を襲うテロリストに身を落とした者たちもいる。彼らからすれば、IS学園も憎きISの根城である。もし、IS学園内で諸外国のIS、または留学生がいずれかの組織の手によって危害が加えられた場合、学園を運営する日本がその責任を問われかねない。

 

「最悪、日本にIS学園を運営する能力はないと判断され、IS学園は閉校される恐れもあるわ。そうならないために政府は更識家に依頼して、私がIS学園に入学することになったってわけ。」

 

「なるほど、そうでしたか。ではなぜ我々を監視していたのでしょうか?確かに男性教師は珍しいとは思いますが何も後をつけるようなことは…。」

 

「それはもちろん、あなた達が小野田官房長の手駒だからよ。」

 

「えっ!なんでそこで小野田さんが出てくるんだい?」

 

「あら、知らなかったの?小野田公顕といえば警察庁でも反IS派と噂される人間よ。」

 

 これは杉下も初耳であった。楯無の話によれば、現在警察組織が女尊男卑に染まってないのは小野田が裏で動いているからという話は暗部の中では有名らしい。また警察組織にISが配備されないのも小野田がISは警察には過剰な戦力だと主張しているからだという。

 当然楯無もこの噂を知っていたわけで、当初から小野田が送り込んだという二人の警察官のことを警戒していた。まずはその目的を探るべく昼休みに鎌を掛けてみようと彼らの部屋を訪れた。すると何やら密室がどうだの殺人がどうなどと物騒な会話を繰り広げている。ついには学園のISを利用し殺人が行われたなどと言い出したため思わず彼らの会話に割り込んでしまったのだった。更に放課後になるとどこかに用があるなどと言って早々に学校を出ようとしたため、慌てて後を追ったところ今に至るというわけだ。

 

「はあ…。自分で話してて本当に情けなくなるわ。まだまだ私も修行不足ね。」

 

「いえ、あなたは十分に優れた人物だと思いますよ。そうでなければ一人でIS学園に潜入しようなどとはならないはずです。」

 

「…実は私以外にも更識の人間はいるんだけどね。」

 

「おっと、そうでしたか。」

 

 それは失礼、と杉下は頭を下げてみせた。それを見て楯無は少しだけ笑った。

 

「そんなことよりも杉下警部。あなたたちは殺人事件について捜査しているのよね?」

 

「ええ、そうですが。それが何か?」

 

 楯無は初めて二人に会った時と同じ誰をも魅了するような笑顔を作るといった。

 

「その捜査、私も参加させていただいてもいいかしら?」




なんか中途半端なところで終わってしまいましたね。

最近何かと忙しくなかなか執筆する時間が取れません。それでもゆっくりでいいんで簡潔に向けて頑張っていきます。

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