それに伴い、4月から約一か月間ほどネット環境の無いところでの生活となり、その間投稿が出来なくなると思います。
それまでは、1週間に1~2話をどのペースで投稿していきますので何卒よろしくお願いします。
※追伸
日間ランキングで1位になりました。深夜にランキングを見て眠気が吹っ飛んだ今日この頃です。今後とも当作品をどうぞよろしくお願いします。
チャイニーズ・アタック
それは、突然現れた。
一夏とセシリアの模擬戦から数日が過ぎた日の昼休み、特命係の仕事部屋には亀山と杉下、そして1年1組の副担任である山田真耶の姿があった。一夏の周辺の現状報告がてら、昼食を一緒に取る事を亀山が提案したのである。本当なら、千冬もこの場所にいてほしかったのだが、中国から編入してくる生徒がいるとかでその調整に追われているため参加できなかった。
「へー、それじゃあオルコットと一夏は仲直りできたんっすね。」
そう言いながら、亀山は購買で買った焼きそばパンにかぶりつく。IS学園の購買は流石は国立の施設と言えるだけの品揃えがされており、味のレベルも良家のお嬢様方が満足できるものが成されてある。亀山自身も味自体には何の不満もないのだが、女性を対象に作られているためか、若干市販のものに比べ量が少なめになっているのが気になるところだ。
「はい。今日も放課後は一緒に訓練をすると言っていましたし、お二人の間に蟠りはないみたいです。」
真耶は自分のお弁当をつつきながらそう答える。小さめのお弁当箱に入ったそれは、女子らしいカラフルな装飾もさることながら、栄養バランスを意識した機能性も兼ね揃えられている。更に、亀山が一口味見をさせてもらったところ、味も保証できるものであった。聞けば、このお弁当は真耶が自作したものであるらしい。それを聞いた亀山が「山田先生は良いお嫁さんになりますよ」と言ったところ、真耶はわずかに顔を暗くし「本当にそう思います?」と聞いてきた。
その反応に疑問を覚えた亀山が詳しく話を聞くと、どうやら真耶には気になる異性がいるのだが、その男性は非常に料理がうまく、先日彼の料理を食べさせてもらった真耶は少々自信を失ってしまったそうだ。亀山からすれば、真耶の料理も十分美味に入るレベルだと感じたのだが、乙女心というのは何とも難しいものである。
そんなことよりも、真耶に意中の男性がいたことの方が驚きだった。普通に考えれば真耶くらいの女性に彼氏がいる事くらい普通なのだが、ISに関係する仕事をする女性の独り身率は非常に高く、IS学園の職員室も独身女性の園である。
もっとも、真耶とその男性の関係も彼氏彼女というよりは今はまだ偶に食事を共にする仲の良い異性というものであり、今後どうなっていくかはまだわからない。亀山は真耶に『頑張ってください。』というと、真耶は顔を赤くしながら「ありがとうございます…」と言ってはにかんだ。
閑話休題
「けれど本当に良かったっすよ。周りがみんな女子ばっかりでしょ?正直友達を作る事さえ難しいんじゃないかと思ってたから、一夏がクラスに馴染めているみたいで何よりです。」
「そんな、心配しすぎですよ。織斑君は良い子ですから、クラスのみんなともすぐに仲良くなったみたいですよ。」
「まあ、あいつは自分からトラブルを起こすような奴じゃないですからね。でも、寮で一夏と篠ノ之が喧嘩したって聞いた時は肝が冷えましたよ。扉にでっかい穴まで開いてるんですから。」
ちなみにその穴は亀山が修理しました。
「あれ以来、特に問題は起きていません。食堂でも、二人が一緒に食事をとってるのをよく目にしますし。」
「そう考えると、織斑先生の決定は当たってたみたいですね。最初はどうなるかと思ってましたけど、うまくいってるみたいでよかったですね。」
亀山は満足げにうなずく。模擬戦以来、一夏を見る周りの目が変わった。それまでISを扱える男子という事で珍獣に近い見方ばかりされていた一夏であったが、模擬戦で代表候補生相手に善戦したことで彼のことを認める空気が出来つつある。このままいけば、予想よりもずっと早くIS学園に馴染めるだろう。
すると、一足早く昼食を終えティータイムを楽しんでいた杉下が口を開く。
「それはそうと、いよいよ今週末にはクラス対抗戦がありますねえ。山田先生、1組はセシリアさんが辞退したため一夏君が代表になったようですが、優勝の可能性はありそうですか?」
「はい!私は織斑君が優勝する可能性は結構あると思うんです。2組と3組には専用気持ちはいませんし、4組の専用気持ちの子は代表を辞退しちゃったみたいですから。模擬戦で見せた動きが出来れば、織斑君が勝つことも十分あり得ます!あ、でも確か、2組は今日の朝に代表の変更申請があって…」
その時である。ノックもなしに部屋の扉が勢いよく開かれ、ガンッ!!という音が部屋の中に響く。その音に亀山は思わず身構え、真耶は「キャッ!」と小さく叫ぶと音の発生源である扉の方へ顔を向ける。
するとそこには、髪をツインテールに纏めた小柄な少女が仁王立ちしている。亀山は少女がIS学園の制服を着ていることに気づき、声をかけた。
「えっと、君はいったい…」
どこのクラスの生徒だ、と亀山が続きを口にする間もなく、少女は部屋を見渡すと亀山の方に目を止め、ずんずんと歩いてくる。そして亀山達の傍まで来ると、腕を組んで再び仁王立ちのポーズを決めた。
「あんたが亀山薫?」
「え?あ、えっと、その…」
「なんだか一夏の世話をしてっるって話だけど、あんまり深い関係になるのは拙いんじゃないの?あんたもIS学園の職員なんでしょ。いい大人が未成年に手を出してるんじゃないわよ!もし、あいつに何か変なことをしようものなら私が許さないんだからね!」
そう言って少女は、真耶に向かって指を突き立てた。
「え、えー………」
真耶は困惑したように声を漏らし、亀山は唖然と口を大きく開き、杉下は感知せずといった様子で紅茶を飲んでいる。何とも言い難い気まずい雰囲気が場を支配する。
どうやらこのツインテールの少女は決定的な勘違いをしているらしい。その勘違いを如何にして解いてやるべきか、大人としての手腕が問われる状況と言ってもよいだろう。
そんな気まずい沈黙を破ったのはIS学園唯一の男子生徒の声だった。
「すいません薫さん!今ここにツインテールの女の子が…ああっ!やっぱりここにいたのかよ、鈴!」
「何よ!私がここに居ちゃ悪かった?」
「そうじゃなくてだな、いきなり薫さんに釘を刺しに行くとか言って食堂を飛び出していくからこっちは心配したんだぞ。まさか、何か失礼なことをしたんじゃないだろうな?」
「ふん!別にあんたが気にすることじゃないじゃない!大体、いくら仲がいいからって女の人の家に出入りするってどういうことなの!それとも胸?やっぱり男は巨乳がいいのかー!!!」
「はぁ?マジで意味が分からねえぞ!」
なんというか、完全に亀山達は一夏と少女の言い争いに取り残されていた。亀山は杉下に目を向けるが杉下は完全に無視を決め込み、この諍いに関わろうとしていない。真耶の方は胸元を手で庇い、顔を赤くしてあうあう言っている。
現状この場を収められる人間が自分しかいない事を悟ると、亀山はため息をつき二人の間に割って入った。
「ええと、つまり君、凰 鈴音は一夏と中学時代の友達で中国の代表候補生として今日からこの学園に編入してきた。で、久々に会った一夏と話をしていると、一夏が亀山薫っていう人物と最近仲がいい事を知った。そして君は、薫という名前から一夏の相手を女だと判断し、一つ釘を刺してやろうと乗り込んできたわけだ。」
「ううう……」
「まあ確かに、薫って名前は女性の名前に聞こえるよ。それで勘違いするのも分からないでもない。でも、人の話はちゃんと聞いて、確認はしっかりしておかなきゃいけないだろ。それで損をするのは自分なんだから。」
「ご、ごめんなさい…」
鈴はしゅんとした様子で謝罪の言葉を口にした。心なしか、トレードマークのツインテールも萎れているように見える。
それを見て、亀山は今回の一件については終わらせようと決めた。もともと悪意の無い早とちりが原因であり、何より本人が心から反省し謝罪の意思も示している。これ以上、罰則を加える必要はないと判断し、注意だけに留めることにした。
「薫さん、鈴の奴が本当にすみません。こいつ、少しそそっかしいところがあるんです。」
「う、うるさいわね!元はと言えば、一夏が紛らわしい言い方するのが悪いんでしょ!」
「別に紛らわしい言い方なんてしてないだろ!」
「したじゃない!」
一見言い争っているように見えるが、亀山には二人の関係が険悪なものとは思えなかった。むしろ、お互いに勝手を知る中だからこそできる言い争いのようだ。とはいえ、このままでは無駄に時間を浪費することになるので、亀山は止む無く二人の仲を仲裁した。
「こらこら、喧嘩しない喧嘩しない。俺も別に怒ってないから、今回の件はこれで終わり。というか、もうすぐ昼休みが終わるんだから、お前たちは早く教室に戻れ。さもないと、織斑先生からまた怒られるぞ。」
亀山の言う通り、壁に立てかけられた時計の針は間もなく昼休みの終了を知らせようとしている。
「うわっ!ほんとだ。鈴、急いで教室に戻るぞ。」
「わかってるわよ!あ、それと…」
一夏に釣られる様に立ち上がった鈴は一瞬出口に向かって駆け出そうとするが、思い出したかのように亀山の方に向き直った。
「私の事は鈴って呼んで。一夏の事も名前で呼んでるみたいだし。」
「ん?いいのか?」
「うん。私も名字で呼ばれるよりかは名前で呼ばれる方が好きだし。じゃあ、また。」
「薫さん、杉下さん、また放課後。ほんと、いろいろご迷惑をおかけしました。」
そう言い残すと、一夏と鈴の二人は慌ただしく廊下をかけていった。その後姿を見送りながら杉下がしみじみと呟く。
「なんとも賑やかな人でしたねえ。一夏君とも既知の間柄のようですし、彼の学園生活の助けになってくれるとよいですね。」
「右京さん…そう思うなら最初から協力してくださいよ。危うく山田先生が変な誤解を受けるところだったんですから。」
「…そういえば、凰さんは今日編入してきたと言ってましたが、もしや2組の代表が変更になった件と何か関係があるのでしょうか?」
「は、はい、実は2組の新しいクラス代表っていうのが凰さんなんです。」
無理やり話題を変えた感がある杉下の質問に、真耶は真面目に答える。
「しかも凰さんは中国の代表候補生で専用気持ちなんです。IS適性はA。僅か1年で代表候補の地位まで上り詰めたというんですから、間違いなく天才です。」
「と、言うことは一夏君には勝手を知る強力なライバルが出来たことになりますねえ。今週末のクラス代表戦、ますます興味がわいてきました。」
昨年度は楯無の圧勝で終わったクラス代表戦。今年は織斑一夏というイレギュラーの存在で結果の予想が非常に困難なものになっている。願うならば、参加者全員が実力発揮し尽し、怪我なく無事に終了してほしい。
そんな杉下たちの思いと裏腹に、クラス代表戦の裏側では『天災』の黒い影がうごめいていた。それはIS学園にとって激動となる一年の真の幕開けを知らせるものとなる。
「ていうか山田先生。山田先生は早く授業に行かなくていいんすか?」
「………あ。」
無情なチャイムが校舎に響く。
おまけ その時、食堂で何が語られたか
「まったく、あんたがISを動かしたって聞いた時は目が飛び出るほど驚いたわよ。」
「いやぁ、俺自身も驚きっぱなしで…おまけに半ば強制的にこの学校に通わされることになったから…」
「そういえば、そこら辺の事は大丈夫なの?周りが女ばかりなんて結構キツイんじゃない?」
「結構どころか正直マジでキツイ。でも、慣れるしかないんだよなあ。」
「へー、やっぱり大変みたいねえ。まあ、私が来たからには安心して私を頼って…」
「あ、でも生活面じゃ薫さんがサポートしてくれるみたいだし、そこは心配ないかな。」
「…………ねえ一夏、その薫さんていうのは誰?」
「ん?薫さんってのは半年くらい前から俺が世話になってる人だぞ。この学園で特命係って役職についてるんだけど、プライベートでも色々と世話になってるんだ。たまに家に遊びに行ったり、泊めてもらったりしてるんだけど、凄くいい人でさ、なんていうか大人の魅力ってやつなのかな。優しくて頼りがいがあって、俺の事も家族みたいに扱ってくれるんだ。包容力があるっていうかさ。ほんと、薫さんがIS学園にいてよかったよ。」
「へー、そんないい人がいるんだ…………」
少女妄想中………
『こんにちは、薫さん!遊びに来ました。』
『あら一夏君、今日も来たのね。』
『はい…薫さんにどうしても会いたくて…』
『フフフ、嬉しいこと言ってくれるわね。お礼に、今日はとても良い事を教えて、あ・げ・る♡』
『えっ!い、良い事って…』
『とっても気持ちの良い遊びよ。大丈夫。時間はたっぷりあるはずよ。だって一夏君…』
『今夜は泊っていくつもりなんでしょ?』
妄想終了
「どうしたんだ鈴?急に立ち上がって。」
「ちょっとやらなきゃいけない事が出来たから行くわね。大丈夫、薫って人に釘を刺しに行くだけだから。」
「はあ!薫さんに釘を刺しに行くって…おいちょっと待てよ!鈴っ!」
この後、鈴は偶然廊下で会ったクラスメイトに半ば脅す形で特命係の部屋の場所を聞き出し、そこに乗り込むことになる。心の中に間違った亀山薫像を描きながら。
今回の話の没頭の5分前の事である。