IS学園特命係   作:ミッツ

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なかなか話が進まない…。
でも書きたいことがたくさんある。
今回はそんな話です。


入学式騒動

「おはようございます!」

 

「おはようございます、亀山君。今日はなんだかやけに機嫌が良さそうですねえ。」

 

「あ、わかっちゃいます?実はちょっといいことがあったんすよ。」

 

 IS学園赴任二日目の朝、亀山は最近ぎくしゃくしていた妻との関係を無事修復できたこともあって若干浮かれていた。いったいどうやって仲直りしたのか、あまり詳しく書くと成人向けになってしまうためここでは省かせてもらう。

 

「ところで亀山君、今日は午前中にIS学園の始業式が行われるため、僕たちも出席するように昨日芝浦先生に言われていたと思うんですがねえ。」

 

「ええ、覚えてますよ。新任の教師の紹介があるから簡単な自己紹介を考えてくるように言われてましたよね。大丈夫です。ここに来る間ちゃんと考えてきましたから。」

 

「いえ、自己紹介は特に問題ありません。亀山君、まさか君はその格好で式に参加するつもりなんですか?」

 

亀山の服装は使い込まれたフライトジャケットにトレーナー、それにカーゴパンツという普段通りの亀山のそれだった。警察官として仕事をしているときでさえこの格好なのだから、ある意味これが亀山の制服と言いてもよいのだが、式典などの場でふさわしい恰好とはとても言えない。

 当の本人はというといまいちピンと来ていないようだ。

 

「え?なんかまずかったですか、この格好。」

 

「いえ、少し気になったので。よくよく考えれば君は政治家のパーティーの席であってもその格好でしたので今回もまあ問題ないでしょう。」

 

 杉下はこの件に関して深く考えるのをやめた。どうせ替えの服などもってきていないだろうし、もし何か言われたら亀山だけ退席させればよい。

 そうこうしているうちにドアをノックして芝浦が二人を呼びに来た。芝浦は亀山の格好を見て一瞬眉をひそめたが、特に何も言わない。

 

「それでは今から始業式の会場に案内しますのでついてきてください。」

 

 そう言って芝浦は二人を先導した。

 IS学園の始業式は新入生の入学式と合同で行われる。式の内容は非常に簡素なもので他の学校で行われるような理事長や学校関係者の挨拶はなく、新入生や在校生を代表しての挨拶もなかった。杉下にはIS学園にとっての入学式とは新年度の連絡事項を伝える場という色合いが強いように思えた。

 ふとその時、杉下は何者かの視線を感じた。視線のもとを探ると、新入生の集団の中から水色の髪の少女が赤い瞳で杉下たちを探るかのように見ているのが分かった。少女は杉下に気づかれたことが意外だったのか少し驚いたそぶりを見せたが、すぐに面白いものを見るかのような目をすると口元を扇子で隠し杉下に向かって軽く会釈した。なぜか扇子には『お見事!』と書いてある。

 杉下が少女に対し会釈を返している間にも始業式は順調に進んでいく。そしていよいよ、新任教師の挨拶に差し掛かった。

 

「それでは次に、本年度より新しく学園に赴任した先生をご紹介します。まずは、本年度より1年1組の副担任に就任した織斑千冬先生です。」

 

 司会のを務める年生の学年主任の紹介で織斑千冬が生徒の前に出る。その瞬間、生徒たちの黄色い歓声が会場に爆発した。

 

「キャー!本物よ!本物の千冬お姉さまよ!」

 

「やった!私1組よ!これで毎日お姉さまと顔を合わせられるわ!」

 

「ウソー!なんで私3組なの!せっかくお姉さまがこの学園にいるのに!」

 

「あーん、千冬お姉さまー!こっちを向いてー!」

 

 女というのはこうもうるさくできるのかというほどの大歓声に杉下たちは思わず耳を手でふさいでしまっていた。

 一方その歓声を一身に受ける織斑は、一度深くため息をついたかと思うと一言、

 

「ピーピー、ピーピーうるさいぞ小娘ども!今すぐその騒がしい口をだまらせろ!」

 

 生徒たちの歓声に負けないほどの大声で織斑が怒鳴ると、それまでの騒がしさが嘘のように会場内は静まり返った。

 

「いいか、私の仕事はこの学園に受かったくらいで自分は選ばれた人間だとでも思っている浮かれきったお前たちの根性を鍛えなおし、実戦で弾除けくらいには使えるようにすることだ。私から見たらお前たちなどスプーン使い方さえわからん赤ん坊に等しい。私はできないものを手とり足とり面倒を見てやるなど真っ平御免だ。だめだと思ったら即座に切り捨てる。もしそれが嫌なら泥をすする覚悟でついて来い。解ったら返事をしろ!」

 

「「「「「「はい!」」」」」

 

 生徒たちの非常に統率のとれた返事によって織斑千冬の紹介は終わった。

 亀山はその様子を見て呆然としてしまっていた。

 

「え、えーと、続きまして本年度より本校の体育教師に就任した亀山薫先生です。」

 

 司会の声で現実に戻ってきた亀山は慌てて生徒たちの前に立つ。

 

「えー、みなさん、こんにちわ!」

 

 何事もまずはあいさつから。それを実践しようと亀山は元気な声であいさつをしたのだが、織斑の後ということもあってか亀山に挨拶を返事をした者は一人もいなかった。

 

「あ、えーと、俺とこっちにいる右京さん…じゃなっかった杉下先生は体育の授業を受け持つんだけどみんなは運動は好きかな?俺は昔野球をやっていたんだけど…。」

 

 その後も亀山は、出勤途中で考えて来たという自己紹介を必死になって語ったがあまりにも静かな生徒たちによってだんだんと居た堪れなくなり、結局まったく反応がないまま自己紹介を終えた。

 ちなみに杉下はとても無難な自己紹介をしたという。

 

 

 

「俺もうダメかもしんないっす…。」

 

 朝の元気はどこへやら。教官室の机に突っ伏し、亀山がそうつぶやく。

 

「まだここにきて二日しかたってませんよ。」

 

「そうなんすけど、なんかここに来てからというもの精神的に疲れることが多くて。このままじゃ俺、胃に穴が開いちゃいますよ。」

 

「それならせめてISの基礎を覚えてから入院してください。」

 

 そういうと、杉下は亀山のノートに間違ったところを指摘した。始業式が終わった後、生徒は各クラスに戻って授業を受けている。新入生も例外でなく、入学初日にも拘らずISの基礎の復習をしているとのことだ。流石に体育の授業はなかったのでこの時間を利用し杉下による亀山の個人レッスンが行われることになった。正直、亀山がISのことについて解説できるようになるには時間がいくらあっても足りないのだ。

 

「おやおや、気付いたらもうお昼になっていましたねえ。頃合いですし、僕たちも休憩をとるとしましょう。」

 

 休憩に入ると杉下は紅茶と学校に来るとき買った弁当を、亀山は美和子が朝早起きして作ってくれた愛妻弁当を珈琲と一緒に食べ始めた。

 杉下が食事を済ませた頃、突如として杉下の携帯が鳴った。杉下は画面に表示された名前を確認すると、そこには二人がよく知る人物の名が表示されている。

 

「どうもお疲れ様です、米沢さん。例の事件の資料纏めていただけましたか?」

 

『ご無沙汰しております。今しがたそちらのパソコンに送ったところです。確認してもらってもよろしいですか?』

 

 杉下がパソコンを立ち上げ、メールを確認するとファイルが添付してあるメールが届いていた。

 

「ええ、今確認しました。米沢さんどうもありがとうございます。」

 

『いえいえ、ほかならぬ警部殿の頼みと有らばこそです。それにあんないい席をとってもらったんですからこれくらい当然です。』

 

「いずれまたご一緒しましょう。では。」

 

 電話を切ると杉下は早速ファイルを開いた。そこには女子中学生殺人事件の詳細が記されていた。

 

「これが例の殺しの資料ですか。」

 

「ええ、そのようです。一つ一つ見ていきましょう。」

 

 まずは凶器について。

 凶器は都内の量販店などで販売されている刃渡り15センチのナイフ。大量生産されたもので凶器から犯人にたどり着くのは困難である。凶器は被害者の胸に柄の部分を上にして斜めに刺さっており、犯人は上から振り下ろすように被害者に凶器を突き立てたと思われる。刃は被害者の心臓にまで到達しており、強い力で刺されたとされる。被害者の体にはそれ以外に傷はなかった。また、凶器の柄の部分にはひびが入っており、かなり強い圧力を受けてできたものであると考えられる。

 

 次に被害者について。

 被害者の高原詩織は事件当時都内の私立中学、名成大学付属中等学校に通う中学三年生であった。学校での成績は非常に優秀。部活動でもテニス部に所属しインターミドルにも出場している。友人も多く、学校関係者の聞き込みでは彼女のことを悪く言う声はひとつとしてなかった。家族関係も極めて良好。貿易会社を経営する両親とは長期休暇を利用し頻繁に海外に行くなどしていた。ほかに兄弟はいない。将来の夢としてISのパイロット目指していることを周囲に話していた。ISの適性検査でもかなり良い結果を出しており、IS学園を受験している。

 

 そして、次の現場の状態の項についた時、杉下の手が止まった。

 

「右京さん、どうしました?」

 

「…亀山君、ここを読んでもらってもいいですか。」

 

 杉下が指をで示した場所、そこは現場の見取り図が示されている部分だった。

 そこには現場となった場所は監視カメラの死角となっている場所であり、周囲の監視カメラには不審な人物は映っていなかった、と記されている。

 

「これがどうかしたんですか?現場がカメラの死角になる場所なら、カメラに犯人が写ってないのは当然だと思うんすけど。」

 

「重要なのは現場の周辺のカメラの配置です。いいですか、この見取り図を見る限り監視カメラは被害者の周りを囲むような配置になっています。それなのに死角になっているということは、おそらく犯人はあらかじめカメラの位置と数を下調べしたうえで、この唯一と言っていい死角を見つけ出したのでしょう。しかし、たとえカメラに映らず犯行を行ったとしてもこの状態なら犯行を行うため被害者に近づく姿と、犯行現場を去る姿がどこかに映ってなければいけません。にも拘らずこの資料にはカメラに不審な人物は映っていなかったとあります。」

 

 いったんそこで言葉を切ると、杉下は亀山の方を向いていった。

 

「ここに書いてあることが本当ならば現場は複数の監視カメラに作られた密室ということになります!」

 

 密室

 

 推理小説では定番の舞台装置が目の前の資料に記されている。無論、米沢の資料集めに不備があった可能性もあるが、あの優秀な鑑識がそんな初歩的なミスをするとは思えない。ならば、ここに書いてあることは本当のことであり、密室は実際に存在したことになる。

 

 だが、亀山には杉下の推論にどこか引っかかるところがあった。

 果たして本当に現場は密室だったのだろうか?

 そう考えているうちに亀山の脳裏にある一つの推論が浮かんだ。

 

「右京さん、もしかしたら現場は密室じゃなかったかもしれませんよ。」

 

「はい?亀山君、それはいったいどういうことですか?」

 

「空ですよ。犯人は空から降ってきたんです。」

 

 亀山は上を指さし自分の推論を語った。

 

「犯人はISを使って空を飛んで現場まで移動したんすよ。そして現場の上空で被害者が来るのを待ち構えて、被害者が監視カメラの死角に入った瞬間上から襲ったんすよ!凶器が上から振り下ろされた状態だったのもこれで説明がつきます。あとはまた空を飛んで現場を離れればいいんすから、カメラに映らずに犯行が」

 

「残念ながらそれは不可能よ。」

 

 亀山の推理は突然現れた第三者の声によって遮られた。

 

「学園外でISを利用したりすればIS反応が出て一発でばれちゃうわ。実際に事件があった日、学外ではIS反応は出ていなかったそうだから亀山先生の言った推論はまずあり得ないわ。」

 

「おや、あなたは。」

 

 声の主は入学式の時に杉下たちのことを観察していた水色の髪の少女だった。

 

「こんにちは、杉下警部、亀山巡査部長。1年4組の更識楯無です。私のことは親愛を込めてたっちゃんとでも呼んでくださいね。」

 

 そう言って盾無は手に持った扇子を開いた。そこには『よろしくね!』と書かれていた。




亀山君の扱いが悪いと思う方がいるかもしれませんが原作でも結構ひどい目に合ってるんですよね。
人質になったり、殺されそうになったり、美和子さんを寝取られたり、懲戒免職されそうになったり、etc…
上条さんばりの不幸体質ですよね。

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