IS学園特命係   作:ミッツ

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何とか仕事の方が修羅場を超え、こうして感覚は開いてしまいましたが投稿をすることが出来ました。

しかし、チマチマと書いていたせいで詰め込みすぎてしまいました。
これ以上投稿機関が開くのもあれなんで、とりあえずこのまま投稿しますが後でまた編集するかもしれません。
あと、ISの原作キャラについて口調や性格がおかしいと思われたら、感想の方でどんどんご指摘ください。作者もそれを励みにします。


二つ目の厄介ごと

亀山家に一夏が来た翌日、放課後を迎えたIS学園の教官室では二人の男性教師と1年生の更識楯無がいつものように仲良く駄弁っていた。と言っても、実際は教師二人は事務作業をしており、くつろいでいるのは楯無一人である。

 

「じゃあ、織斑先生の弟さんは今、亀山先生の家で寝泊まりしているんですか?」

 

 楯無は茶菓子をつまみつつそう聞く。ロシアの代表候補生筆頭であり、ついこの間IS学園最強の称号である「生徒会長」になったばかりの彼女は何かと忙しいはずであるが、以前と変わらずこうして教官室を訪れ勝手にコーヒーや紅茶を入れてくつろいでいる。本来なら教師の前で堂々とサボっているのを注意するところだが、今のところ楯無は生徒会の仕事をそつなくこなしている。そのため、杉下も特に言う事はないと判断しているようで、楯無が教官室に入り浸ることを黙認している。

 

「ああ。いやぁ、本当に近頃じゃ見ないくらいのいい子でな。礼儀正しくて気遣いもできて、おまけに爽やか系のイケメンと来てるんだ。ありゃあきっとモテるぞ。」

 

 亀山は嬉しそうに笑顔で楯無に答える。その様子は、まるで自分の子供を自慢する親馬鹿のようだ。それを見て杉下は苦笑するほかない。

 

「それにしても、織斑先生の家に空き巣ねえ…。ねえ、杉下先生、そういえば今朝から織斑先生の姿が見えないんですけど何かあったんですか?」

 

「…実を言いますと、今朝IS委員会から呼び出しの連絡があり、織斑先生は急遽国連まで向かわれることになりました。」

 

「IS委員会からですか?」

 

「ええ、詳しい事情は僕たちも聞いていませんが、二、三日ほどの出張のようですよ。」

 

 楯無は杉下からそれを聞くと、持っていた扇子の先を顎に当て思案し始めた。

 

「ふーん、委員会がねえ…。あっ、もうこんな時間。じゃあ私は今日はこれで。」

 

「ん?もう帰るのか。せっかく一夏が持ってきた茶菓子がまだ残っているんだから、もう少しゆっくりしていってもいいんだぞ。」

 

 亀山が引き止めるが、楯無はそれを固辞する。

 

「ごめんなさい。そろそろ仕事に戻らないと虚ちゃんが怒っちゃうんで。お菓子はまた今度もらいますね。」

 

 そう言うと楯無は手に持った扇子を開きつつ、部屋を出て居てった。開かれた扇子にはなぜか『責任重大』と書かれている。亀山はそれを見て、そういえばあの扇子久々に見たな、などと思っていた。

 

 

 

こうして教官室には杉下と亀山の二人が残された。いつもであれば、二人はこの後残りの業務を済ませ、それぞれの家路へと向かうのだが、本日は千冬が出張となったために降ってわいた仕事を片付けなくてはならない。そういうわけで本日は二人そろってあえなく残業をすることとなった。そうして仕事をしていると、杉下は改めて千冬の異常さを思いしることとなる。彼女の仕事の量は4月に比べ確実に多くなっていたのだ。

 

 本来であれば、教師一年目の千冬には指導したり補佐する立場の人間がいてしかるべきなのだが、彼女は己の持つ才覚を示すことでそういった物は不要だと周囲に分からせた。勿論それは千冬が自分から言ったことではなく、彼女のこなした仕事の量と質を見て周囲が勝手に判断しただけである。千冬自身は自分の能力を誇ろうとせず、ただ黙々と業務を遂行しているだけだ。その姿が周りから評価され、気が付けば千冬は一年生のクラスの担任、学生寮の寮監、さらには二学期から学園の防衛責任者になり仕事量はほかの教師のそれの倍近くにまで増えていたのだ。

 はっきり言って、杉下は学園を運営する者の正気を疑いたくなる。いくら仕事ができるとはいえ織斑千冬は今年23歳。大学を出たばかりの新社会人と同じである。その新社会人を日本政府は国が運営する重要施設の責任者に命じている。普通ならあり得ない事だ。このまま千冬に頼りきりの現状が学園に良い影響を与えるとは思えない。今はまだ千冬が仕事をこなせているから良いかもしれないが、このまま彼女に責任ばかりを背負わせていれば、いずれ取り返しのつかない事が起こるかもしれない…。

 

「とはいえ、彼女無では学園の業務が滞るのもまた事実…。」

 

 杉下は苦い思いを抱きつつも、千冬無しでは既定の業務時間で仕事を片付けられない自分たちの不甲斐なさに溜め息をつく。いくら杉下が優秀な警察官でも、ISは専門外のためどうしても周りに比べどうしても時間がかかってしまう。IS学園にきて半年がたつが、IS関連の事務処理能力に関しては杉下と言えど千冬との間に大きな隔たりがあるのだ。もっとも、今までISと無関係に過ごしてきた人間が僅か半年で生徒の操縦技術に関して的確なレポートをかけるようになること自体はかなりすごいことなのだが…。それでも、杉下と亀山が千冬を頼りきりと言ってもいいのが現状だ。

 

「これは本格的に今後について織斑先生と話し合う必要があるかもしれませんねえ…。」

 

「ん?右京さん、何か言いましたか?」

 

「いえ、ただの独り言です。」

 

 杉下はそう言うと気持ちを切り替える。彼の目の前には山のように各種様々な書類が積まれていた。

 

 

 

 それから一時間、二人は無言のまま書類と格闘していた。にも拘らず、書類の山はいっこうに減る気配がない。これはいよいよ深夜帰宅を覚悟しなくてはいけなくなった時、亀山のジーンズのポケットから着信を知らせるメロディが流れた。 終わりの見えない事務作業にイライラしているのか、亀山は舌打ち交じりに携帯を取り出す。だが、液晶の画面に表示された名前を確認すると表情を一変させた。

 

「よう、一夏どうしたんだ。そっちから連絡を入れてくるなんて。」

 

 亀山は嬉しそうに電話の向こうへ声をかける。先ほどまでの不機嫌顔がど声やらである。その姿は父親というよりも、孫と話せて嬉しい限りのおじいちゃんを彷彿させる。

 だが、電話越しに二、三言葉を交わすうちに亀山は顔から笑みを潜めた。代わりに真剣みの帯びた表情へと変貌していく。その様子に気づかない杉下ではない。さりげなく亀山の方へ注意を向けてくる。

 

「わかった。じゃあ、家で待っててくれ。すぐに俺も戻るから。俺や美和子以外が訪ねてきてもできる限り家に入れないでくれ。」

 

 そう言って電話を切ると亀山は杉下の方へ向き直る。

 

「すいません右京さん、ちょっと用事が出来たんで先に上がってもいいですか?」

 

「何やらただ事ではないようでしたが、事情を聴いてもよろしいですか?」

 

「…はい、なんか一夏が厄介ごとに巻き込まれたみたいで…。詳しい事情は家に帰ってから聞こうと思ってるんすけど。」

 

「でしたら、僕もご一緒しましょう。」

 

「えっ!右京さんもっすか!?」

 

「ええ。実は先ほどから少し気になることがあります…。もしかすると、一夏君の身に起きたこともそれに関連するのではないかと思いまして。」

 

 そう言うと杉下はそそくさと帰る支度を始める。書類の山は当然まだ片付いていない。亀山は慌てた。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!残りの仕事はどうするんですか?このままってわけには…。」

 

「何も今日中にすべて終わらせなければならないものではありません。それとも君は僕に残りの仕事をすべて押し付けるつもりですか?」

 

「いや、そういうわけじゃないっすけど…。」

 

「でしたら後日改めて片づければいいだけです。さあ、一夏君も待っていることですし、急いで君の家に向かいましょう。」

 

 杉下はそのまま上着にそでを通し、荷物を掴むとさっさと部屋を出てしまった。こうなると、亀山は顔を顰めて頭を掻くと急いでその後を追うほかなかった。

 

 

 

 

 亀山の自宅であるマンションに二人が付いた時には日は完全に沈み切っていた。亀山が玄関を開け杉下を招き入れると、一夏と美和子が夕食を用意していた。

 

「あ、こんばんわ。どうもご無沙汰しています右京さん。すいません、急だったせいで簡単なものしか用意できていませんけど」

 

 事前に杉下が来ることを連絡していたためか、美和子にはあまり驚いた様子がない。

 

「いえ、お構いなく。無理を言って突然押しかけたのは僕の方ですので。ところで…。」

 

 そう言うと杉下は美和子の後ろに立つ人物に目をやる。

 

「君が織斑一夏君ですね。どうもはじめまして。杉下右京です。」

 

「は、初めまして。織斑一夏です。えーと、杉下さんは千冬姉の…。」

 

「はい、僕は亀山君と同様、織斑千冬さんの同僚です。上司や部下などではなく同じ立場の同僚ですので安心してください。」

 

「あ、そうなんですか。てっきり偉い人なのかなって…。」

 

どうやら一夏は杉下の見た目から姉の上司に当たる人だと思い込み、緊張していたらしい。杉下が訂正したことでわずかに体から硬さが取れる。

 

「じゃあ一夏、早速で悪いけど俺たちに事情を説明してもらってもいいか?」

 

「ええと、それは杉下さんにもですか?」

 

 一夏は心配そうな視線を杉下に向ける。初対面の相手に今日自分の身に起きた面倒事について話せと言われて躊躇するのは当然の反応だといえよう。

 

「まあ、いきなりだったから緊張するのは仕方ないけどさ、右京さんは信頼できる人だし、こういう事には慣れてるから助けになると思うから。」

 

 亀山の言葉に一夏は杉下に対する警戒を解いた。どうやら昨日一日でこの二人の間にはかなりの信頼関係ができたようだ。

 三人はリビングのソファーに腰を掛けると、今日の出来事について一夏の口から説明を受けた。

 

 

 

 

 

 一夏によると、今日学校を終えてすぐに一夏は自宅へと向かったらしい。空き巣の被害を受けてから二日間、彼は自宅に戻っていない。警察が現場検証を終えて家がどのような状況になったのかも気になったが、一課が最も気にかかったのは冷蔵庫の中の食料品であった。普段は基本的に一人分の食事しか作らないためあまり中身は多くないとはいえ、生鮮野菜や牛乳など賞味期限が心配なものも存在する。処分してしまうのも勿体ないため、いっそのこと亀山家に運び込んでもいいか美和子さんに聞いてみるのも一つの手かもしれない。そのようなことを考えていると、二日ぶりにわが家へと到着していた。

 さっそく玄関を開け、家の中に入ろうとした時、背後から人が走ってくる気配がした。

 

「君、織斑一夏君よね?」

 

 声をかけてきたのは白人の若い女性であった。急に見知らぬ人から声を掛けられ狼狽しつつも、一夏は何とか首を縦に振り肯定を示す。

 それを確認すると女性はホッとしたように息をつき、懐からUSBメモリを取り出した。

 

「一夏君、あなたにお願いがあるの。このデータをできるだけ早くあなたのお姉さん、織斑千冬に渡してちょうだい。」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!いきなりそんなことを言われても!大体あなたはいったい…。」

 

「お願い!これは君にも関係していることなの!とにかくそれを織斑千冬に渡してね。ほかの人には絶対に渡しちゃだめよ。いいわね!」

 

 そう言い残し、女性は周囲を警戒するように見渡すと足早にその場を後にした。残された一夏はUSBを片手に茫然としていた。われに帰り、とりあえず姉に連絡しようと試みるも、姉は携帯の電源を切っているのか連絡がつかない。どうしたものかと悩んだ結果、一夏は昨日知り合ったばかりの姉の同僚に相談することにしたのだった。

 

 

 

 

「そしてこれがそのUSBメモリってわけか。」

 

 亀山はテーブルの上に置かれたそれを手に持つ。パッと見た限り、市販されている物と何ら変わりない。無機質な白を基調とした外観に企業名と製品名が書かれているだけである。

 

「少し見せてもらっても構いませんか?」

 

 亀山の横から杉下が声をかける。亀山からUSBを受け取ると、杉下はそれをじっくりと観察した。

 

「…特に変わった点はありませんねえ。ここはひとつ、中のデータを確認するほかないでしょう。」

 

「えっ!勝手になかを見るんですか!それは流石に不味いっすよ。」

 

 杉下の提案に亀山は思わず声を上げる。いくら出所不明の一品とはいえ、他人の個人データの中身を勝手に覗くのはいかがなものだろうか。自分たちは現在警察官とは違う立場にいるのだ。それに、本来これは千冬へ渡すように一夏が頼まれたものである。

 

「しかしながら、このまま何もしないままというわけにはいきません。一夏君の話によれば、件の女性は一刻も早く千冬さんにこのUSBを渡すように頼んだそうです。彼女と連絡が取れない以上、緊急か否かを判断するには中のデータを確認するほかないと思いますよ。」

 

 どうやら杉下の中では既にデータを確かめることは決定しているらしい。亀山は諦めたようにため息をつく。

 

「わかりました。俺も腹を決めます。」

 

 そう言うと亀山は席を立ち自室へと姿を消した。しばらくすると、亀山が自分のノートパソコンを持ちリビングへと戻ってきた。

 

「亀山君、どうもありがとうございます。」

 

「いえいえ、実を言うと俺も少し興味はありましたから。」

 

 パソコンを起動させながら亀山は堪える。パソコンが立ち上がると杉下はUSBをパソコンに繋げ、ファイルを開いていく。その様子を亀山は横から眺めている。そして二人の背後からは、一夏と美和子が興味深そうに画面をのぞき込んでいる。

 ファイルの中には一つだけデータが存在した。杉下はそのデータを迷いを見せずに開く。

 

「なんすかこれ?英語…じゃないみたいっすけど…。」

 

 ファイルの中身は亀山には理解できない言葉が羅列されていた。一見英語のようにも見えるが、よく見れば理解不能な単語が散見し、文法も微妙に違っているようだ。

 

「…どうやらこれはドイツ語で書かれた文章のようですねえ。少し待ってください。ななめ読みしてみますので。」

 

「あれ?右京さん、ドイツ語出来るんっすか?」

 

「ええ、まあ、多少は。」

 

 そういうと杉下は画面上の文章を黙読し始めた。それから約5分ほどして、杉下はこの文章の概要について把握することが出来た。

 

「ふむ。なるほど、そういったものでしたか…。しかしなぜこのようなものを…。」

 

 杉下はひとり納得したと思えば、パソコンの画面を見つめたまま黙考に入った。横と後ろの三人は完全に置き去りである。

 

「…あ、あの、杉下さん。結局ここには何が書いてあったんですか?」

 

 最初に声を上げたのは一夏であった。本来このデータは一夏が千冬に渡すように頼まれたものである。にも関わらず、今のところ一夏は完全に蚊帳の外状態だ。むしろよく今までよく口を出さなかったものだ。あるいはそれだけ亀山のことを信頼しているとも言ってよいのかもしれないが…。

 

 杉下は一夏の声に反応し、画面から目を話して一夏達の方へと向き直る。

 

「ここに書いてあるのは要人の警護システムに関することです。」

 

「要人の警護システム?」

 

「ええ。それも、二年前、ドイツで行われた『第二回モンド・グロッソ』。その決勝戦当日に会場にいた日本人の要警護対象人物と、その警護方法に関し日本の外務省がまとめたものです。」


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