IS学園特命係   作:ミッツ

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なんというか…すごい難産の回です…

もしかすると、あとで大幅に書きなすかもしれません…。
最終的には読者の方々の意見を参考にしたいと思っているのですが、何か意見がありましたら感想の方で言ってもらえれば助かります…。
なにぶん、創作経験1か月半の作者ですのでよろしくお願いします…。


罰せられる関係

IS学園の隅にある一室。そこで一人の女性が黙々と作業していた。周囲に人の姿はなく、その女性の周りは静寂で包まれていた。

 その静寂を破る足音が聞こえてきたのは彼女が仕事を一段落させ、休憩を取ろうとした時であった。女性が足音のした方を見ると、三人の男女が部屋の入り口に立っている。一人はフライトジャケットを羽織った体格の良い男性。その横に立つのはサムライのような雰囲気をまとった女性。そしてその二人を従えるのは、柔和な笑みを浮かべつつも、油断無く女性を観察するスーツ姿の男性であった。スーツの男性は女性が三人に気づいたのを確認すると、一歩ずつ女性に近づいていく。

 

「どうもこんにちは。勝手ながらお邪魔しています。実は折り入って、あなたとお話ししたいことがあるのですが、少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」

 

 女性が承諾の意思を示すと、杉下は恭しく頭を下げる。スーツの男は部屋の中心まで入ってくると、静かに語り始めた。

 

「ロシアIS委員会会長であるタチヤーナ・マトーリンさんが殺害された事件。その現場ではマリア・シミュノヴァさんによく似た人物が目撃されています。その人物こそ、マトーリンさんを殺害した真犯人です。また、現場では間違いなくマリアさんを見たという目撃証言もありました。このことから、警察はマリアさんを重要参考人として捜査を始めました。しかし、彼女は犯人ではありません。では、彼女とよく似た人物は誰なのか?僕は当初、真犯人がマリアさんを犯人に仕立て上げようとしたのではないかと考えていましたが、そうなると一つの疑問が浮かび上がってきます。」

 

 そこで男は一旦言葉を切り、女性の反応を確かめるように、じっと女性の方を見つめる。女性は特に反応を示さなかったが、その心臓は早鐘を打っていた。

 女性の内心を知ってか知らずか、男は再び言葉を紡ぐ。

 

「犯人はいつ、マリアさんの行動を把握したのでしょうか?こう言っては何ですが、マリアさんはあまり交友関係が広い方ではないようです。普段の学園生活の中であまり親しい人はいなかったと聞いています。事件当日、彼女が現場となったホテルに行ったことを知る人物は一人を除いて他に誰もいませんでした。外出許可書の理由も真っ赤なウソです。ではなぜ、犯人は彼女に罪を被せるような真似が出来たのか?そう考えたとき、全く別の考えが頭に浮かんできました。」

 

「マリアさんには動機や目撃証言などの状況証拠が多岐にわたって集まりました。しかし、彼女の犯行を示す決定的な証拠というのは何一つ見つかっていません。つまり、現段階ではアラスカ条約に守られ、警察は彼女に手を出すことが出来ないという事です。この状況こそ犯人が作り出したかったものではないでしょうか。目撃証言などから警察はマリアさんをマークする。しかし、犯人ではない彼女からは決定的な証拠は出てこない。その間に真犯人は凶器などの証拠を処分することが出来ます。つまり、犯人は始めからマリアさんを犯人に仕立て上げるつもりはなかった。あくまでも、マリアさんとマトーリンさんの因縁を利用したに過ぎないのです。もし犯人に始めからマリアさんを嵌める意図があったならば、現場にマリアさんの痕跡を残すくらいやっていてもおかしくありませんからねえ。」

 

「ただ、マリアさんへの疑惑があまりにも早く払しょくされるのも犯人にとって不都合。犯人の目的は警察の眼をマリアさんに向けさせ、初動捜査を遅らせることなのですから。もし仮に、事件当日マリアさんが学園内にいたことが証明されれば、警察は早々に彼女を容疑者から外すかもしれない。犯人もそのことを懸念していたのではないでしょうか。」

 

 4月以降、IS学園の警備は以前にも増して徹底されている。外部と繋がっていたトンネルも、今は厳重に塞がれ立ち入ることはできない。正式な手続きを踏まない限り、IS学園に入ることも、出ることもできないのだ。

 

「そこで犯人はマリアさんをIS学園から連れ出そうとしたのではないでしょうか?例えば、専用機について報告したいことがあるので研究所に来てほしいと。しかし、彼女はその日、親族と会う約束があるので無理だと言って断ります。その理由は、事務に提出された外出許可書にも書かれています。そして、理由を知っていたのは担当の事務員以外に一人しかいませんでした。ロシア国際ISチーム専属整備員、ソフィア・グラノゾフさん、あなただけです。」

 

 

 

 

「………全部、想像ですよね?」

 

 杉下の推理を聞き終え、ソフィアは静かにそう答えた。そこに、焦りや動揺の色は見えない。先ほどまで早鐘を打っていた心臓も、杉下の話を聞くうちに正常な鼓動に戻っていた。

 

「杉下さんって言いましたっけ?今あなたが話したことはすべて憶測です。何一つ証拠が無いじゃないですか。」

 

「ええ、そうです。僕たちにはあなたを真犯人だと決定図ける証拠は何一つありません。」

 

「だったら、変な言いがかりはやめてもらえます。大体、私には会長を殺す理由が―。」

 

「動機はマトーリンさんが探っていたというスキャンダルではないですか?」

 

 その言葉にソフィアは驚愕した。…この男は私たちの秘密を知っているのか?私たちの関係に気づいているのか?

 

「マトーリンさんはマリアさんを国家代表から降ろすための材料を探っていたようです。果たして、彼女が探っていたスキャンダルとは何だったのか?犯罪や不正の類はマリアさんが学園内で生活している現状から難しいと判断されます。異性との交遊も同様です。しかし、逆にそうした女性のみで構成された閉ざされた空間の中で、芽生えやすくなるものもあります。そう、例えば同性に対しての恋愛感情などが。」

 

「…………。」

 

「ロシアではいまだに同性愛者に対しての偏見は根強くあるそうですねえ。最近でも18歳未満の者に対する同性愛の助長にかかわった場合、罰金を科すという内容の法案が成立してます。国家代表が同性愛者であることはスキャンダルの対象として十分に機能します。」

 

 ISが世に広まる以前から、同性愛を肯定する流れが欧米を中心に広まっていた。しかし、ロシアでは国民間で同性愛に対する嫌悪感が依然として強く、同性愛を告白した者への襲撃などの憎悪犯罪(ヘイトクライム)が起きている。ISが世界の主流だと知っていながら、それを受け入れられないイスラム諸国のように、同性愛は多くのロシア国民にとって意識の底で忌避されるものなのかもしれない。

 

「あなたとマリアさんが恋人関係である事を知ったマトーリンさんはその事を世間に公表することでマリアさんの持つ国民的人気を落とし、彼女を代表から降ろそうとしていたのではないでしょうか?それを知ったあなたは彼女を現場となった倉庫へと呼び出し、自分は金髪のかつらを着けマリアさんに変装し倉庫へと向かい、マトーリンさんを殺害した。そして、警察の捜査の眼がマリアさんへと向いている間に凶器と変装に使った道具を処分してしまう。以上が、あなたが行った殺人計画です。」

 

杉下が推理を言い終えると、整備室内は不気味な静寂に包まれた。ソフィアは下を向き何一つ答えようとせず、亀山と千冬も言葉を口にすることが出来ない。

 

「……ふふっ。」

 

 静寂を打ち破ったのはそんな笑い声であった。見れば下を向いたソフィアが小刻みに肩を揺らしている。そして、面を上げた彼女の表情にはひきつった笑みが浮かんでいた。

 

「杉下さん、いい加減にしてくださいよ。今話したことも全部想像で証拠は何一つないじゃないですか。私とマリアが恋人同士ですって?バカも休み休み言ってください。それともなんですか?そんな妄言一つで私を逮捕できるとでも?」

 

「残念ながら、証拠がない以上あなたを警察へ告発することはできません。」

 

「じゃあもうこの話は終わりです。まだ仕事があるんで、どうぞお帰りください。」

 

 そう言ってソフィアは杉下たちを扉の方へと促す。しかし、杉下はその場から去ろうとはしない。

 

「…グラノゾフさん、一つあなたにお伝えしなければならないことがあります。現在マリアさんは学園によって身柄を拘束されています。」

 

「…えっ!?」

 

「そして、このままでは間違いなく殺人犯として国際IS委員会に身柄を移されることでしょう。」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!なんでそこでマリアが出てくるんですか!?しかも、殺人犯だなんて…。おかしいじゃないですか!」

 

 ソフィアは焦ったように杉下を問いただす。彼女からすれば証拠が出てこない以上、何人も自分には手が出せないと思っていたはずだ。それがどうしたことか、国際IS委員会をマリアを殺人犯だと断定するというのだ。混乱しない方がおかしい。

 

「マリアはな、事件のあった日、現場にいたんだ。」

 

 いつになく真剣な表情で亀山がそう告げるがソフィアは混乱しているため亀山の言葉の意味がよくわからなかったらしい。

 

「事件のあった日、マリアさんもあなたと同じように現場となったホテルにいました。そのことは現場にいた複数の目撃者により確認してあります。おそらくその時、マリアさんはあなたの姿を目撃したのではないでしょうか?そして彼女は、あなたがマトーリンさんを殺害したことを悟り、その罪を自ら被ろうとしています。」

 

「ど、どういうことですか?」

 

 ソフィアは震える声でそう聞くしかなかった。その姿はこれから判決を下される罪人のようである。

 

「マリアさんはマトーリンさんを殺害したのは自分だと証言しています。自白が出た以上、マリアさんの身柄をこれ以上IS学園内に置いておくことはできません。」

 

 杉下の口から語られる無情な判決に、ソフィアは床に崩れ落ちる。杉下は彼女に近づき、身をかがめて目線を合わせると、厳しい口調で彼女を追い詰める。

 

「どうしますか?このままではマリアさんは殺人犯の汚名を着せられ、明日をも知れぬ身になるかもしれません。あなたはそれでもいいんですか!」

 

 杉下が声を張り上げソフィアを問い詰めると、彼女は顔を歪め首を横に振った。

 

「そ、そんなことできません。全部、わ、私が一人で、やったことです!」

 

 叫ぶようにそう言うと、彼女は床にひれ伏し慟哭を上げた。杉下は立ち上がると、泣き続けるソフィアに厳しい視線を向ける。

 

「あなたは二つの間違いを起こしました。一つは殺人という手段を使ってしまったこと。もう一つは、大切な人をそれに利用したことです!」

 

 杉下の叱責の声が響く中、ソフィアは尚も涙を流し続けた。




というわけで解決編でした。次回はエピローグとなります。

作中に出てきたロシアの同性愛に関する法律ですが、実際にロシアで昨年成立した法案です。同性愛は欧米では寛容というイメージがありますが、ロシアでは外国人が同性愛者であることをアピールした場合、国外退去させられる恐れもあるそうですよ。
今回のエピソードでは、ISを巡るお国事情を中心に書きたかったので、そういったマイノリティへの偏見を入れてみました。
なお、相棒本編に出てくるピルイーターは一切関係ありません!

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