IS学園特命係   作:ミッツ

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勘のいい人なら事件の真相はもうわかったんじゃないでしょうか?
今回はいよいよ事件の核心に迫ります。


学園にいる理由

芝浦真紀子 42歳

 彼女の始めてISに関わったのは日本初の第一世代のISを開発するプロジェクトメンバーに抜擢されてからだ。それまで彼女は大学の研究室で医療ロボットの研究に携わっており、その実力を買われ政府からヘッドハンティングされた。その後、第一回『モンド・グロッソ』において日本代表専属整備班のリーダーに就任し、織斑千冬などの機体を担当。彼女の総合優勝を陰ながら支えた。IS学園が設立されると、自ら立候補し指導者の道に進む。整備科設立に尽力し、以来整備科の責任者を務める。織斑千冬がIS学園の教師になるにあたり、学園長の要請で彼女の指導員兼一年学年主任に就任する。24歳の時、大手建設会社に勤める柳原和美と結婚し26歳の時、長男純一を出産。夫婦は別姓を名乗り息子には夫の名字を名乗らせている。

 

 楯無はIS学園に戻る車の中で芝浦真紀子の整理していた。そこで分かったのは彼女が行方不明になっている柳原和美と結婚していること。そして、名成中学で高原詩織からいじめを受け、学校の屋上から転落死した柳原純一の母親であるということだった。

 そこから導き出されるのは、芝浦真紀子には高原詩織を殺す動機。状況は限りなく彼女をクロだと言っている。彼女には動機があり、学園から高原詩織を殺すことができ、実際にそれを行った可能性が高い。

 それと、あの家から発見された爆弾の原材料が気にかかる。状況からみて爆弾を作る前でしたということではないだろう。すでに、爆弾は完成していると考えた方がよい。では何のために?可能性が高そうなのは柳原純一がいじめられているのを無視していたという名成中学に対しての復讐のため。しかし、それならばなぜ高原詩織が在学中に犯行を行わなかったのか?そして、なぜ彼女だけIS学園に呼び出すような真似をして殺害したのかという疑問が残る。高原がいじめを行っていた主犯格だと知っていたとして、わざわざISを使ってまで行う意味があったのか?とにかく情報が足りないのだ。楯無は可能な限り情報を集め思考を巡らせ続けていた。車内は不気味な静寂でおおわれている。

 

「右京さん、これから学園に戻ったとして何をすればいいんすか?」

 

 その沈黙を破ったのは亀山だった。亀山はこの気まずい空気に耐えられなくなり、今後の対策を練ることも兼ねて杉下に声をかけたのだった。

 

「まず大切なのは芝浦先生の身柄を確保することです。そして、多少強引な手段を使ってでも彼女から話を聞くべきでしょうねえ。」

 

「確保って…。右京さん、ちょっと早急すぎるんじゃないですか?まだ、彼女が殺人犯だって決まったわけじゃないんですから…。」

 

 亀山は杉下の言葉を聞いて困惑したように言った。亀山からすればIS学園に来て最初に出会ったあの優しそうな笑みを浮かべた女性が非道な犯罪者だと思い難かった。それに加え、彼女の息子である純一が被害者から受けた仕打ちを考えれば、どうしても一方的に芝浦が悪人だとは言い切れなかったのだった。

 

「…右京さん、俺は芝浦先生が意味もなく人を傷つけるような人じゃないと思います。だから、いきなり確保するとかじゃなくてきちんと話をしてもらえるように説得した方が…。」

 

「亀山君、芝浦先生が高原さんを傷つける理由、つまり動機は既に上がっています。これまでの状況証拠から彼女が何らかの形で事件に関わっているのは間違いないでしょう。であるならば、あの家で作られたと思われる爆弾を彼女が保持していることも視野に入れ、爆弾が最悪の形で使用される前にこちらから先手を取る必要があります。」

 

「ですけど!」

 

「…私も杉下先生の意見に賛成です。」

 

 亀山の反論に割って入る形で後部座席の楯無が杉下に同調する。

 

「おそらく、高原詩織を殺害した犯人は芝浦先生で間違いありません。そして、彼女が爆弾を制作した意図が分からない以上一刻も早く彼女の身柄を拘束する必要があります。それに、IS学園内に殺人犯がいる現状を更識家として見逃すことはできません。すでに更識家の人間が学園周辺を固めてますし、学園内の者にも芝浦を見張るように命令してあります。」

 

 芝浦が殺人を犯した疑いが上がってから、楯無はそれまで醸し出していた陽気な雰囲気を引っ込め、まるで張りつめた糸のような緊迫した空気を周囲にまとわせていた。これは更識家当主として相対するべき敵を前にしたときのそれであり、自然と彼女の周りの空間に緊張感を与えていた。

 亀山は今までと全く違った雰囲気を醸し出す楯無の主張の前に黙り込むしかなかった。車内に再び静寂が戻る…。

 

 

 

 学園の駐車場に車を止めた時には日はすっかり落ちてしまっていた。あと十分もすれば食堂も閉まってしまう時間ではあったが三人は空腹を我慢し、芝浦がいるであろう女性教師寮へと急いだ。すると、暗い闇の中から三人を呼び止める声があった。

 

「楯無様、虚です。至急ご報告したいことが。」

 

 見れば、三つ編みに眼鏡をかけたどこかお堅い感じのする少女が楯無の横に控えていた。制服の胸元に黄色いネクタイをつけていることからIS学園の二年生であると分かる。

 

「楯無さん、この方は?」

 

「彼女は布仏虚。私の従者を務めている人間よ。」

 

「なるほど。学園内の協力者というのはあなたのことだったんですね。」

 

 杉下がそういうと、虚は静かに頭を下げた。

 

「そんなことよりも虚ちゃん、至急報告したいこととは何なの?」

 

「はい、それが芝浦真紀子が学園内から姿を消しました。」

 

「なんですって!」

 

 楯無が悲鳴のような大声を上げる。杉下たちも驚愕を隠しきれず目を見開いている。

 

「いったいどうゆう事なの!私は芝浦を見張っているように言ったはずよ!」

 

「申し訳ありません。楯無様から命令を受けすぐに芝浦を捜索したのですが、その時にはすでに行方を眩ました後でした。」

 

「っく!」

 

 楯無は悔しげに奥歯をかみしめると空を仰いだ。すると今度は杉下が虚に対し質問を始めた。

 

「その報告からすると芝浦先生は学外へ逃走したように聞こえるのですがそういった報告は上がっているんですか?」

 

「それが…、学園の警備員によると芝浦が学外に出たのを見たものは一人もいなくて…。学外を見張っている者たちからもそれらしき姿を見たという報告は上がっていません。」

 

「それでは、芝浦先生はまだ学内に潜伏している可能性が高いということですね?」

 

 杉下の問いに対し、虚ろは首を縦に振り肯定を示す。

 

「わかりました。亀山君、僕たちは引き続き学園内を捜索し 芝浦先生を探しましょう。楯無さん、虚さん、君たちは今日はもう遅いのですぐに寮に戻ってください。」

 

「ちょっと待って!私たちも捜索するわ!」

 

 楯無は杉下の言葉に食って掛かるが、杉下は厳しい表情を作ると彼女に語り掛けた。

 

「楯無さん、本来ならあなた方はもう寮に戻っていなければいけない時間です。それを表向きは僕たちの事情であなた方を連れまわしたことになってます。これ以上僕たちに付き合わせるわけにはいきません。」

 

「それでも私たちは更識の人間なの!IS学園を守る立場にいるのよ!こんなところで今日はもう遅いから帰って寝なさいなんて言われて納得できるわけが…。」

 

「でしたら教師として言わせてもらいます!楯無さん、今すぐ寮に戻りなさい!さもなくば、門限を無視したとして罰則を与えます!。」

 

 杉下と楯無はしばらくの間にらみ合っていたが、楯無はあきらめたようにため息をついた。

 

「わかりました。今日のところは引き下がります。でも明日からはまた同行させてもらいますからね。」

 

「ええ、それならば何の文句もありませんよ。それでは、また明日。」

 

 そう言って杉下が頭を下げると、楯無は虚を伴って寮へと帰っていった。

 その後、杉下と亀山は夜を徹して学園内の捜索を続けたが、広大な広さを誇るIS学園を立った二人で隈なく見て回ることなどできるはずもなく、結局芝浦を見つけることはできなかった。

 

 

 

 次の日の朝、亀山は携帯のバイブで目を覚ました。あの後、朝方まで捜索を続けたのだが、飲まず食わず、不眠不休のまま動き続けたため流石の二人も体力の限界を迎え、一旦教官室に行き仮眠をとることにしたのだ。今も杉下は背中を椅子に預け静かに寝息を立てている。亀山は寝ぼけ眼のまま携帯に出る。

 

「…はい?もしもし?」

 

『ちょっと薫ちゃん!今どこに居るの!』

 

「げぇっ!美和子っ!」

 

 電話の相手は愛しの妻からのものであった。しかし、相手は相当頭にきているようであり、亀山を一瞬にして目を覚まさせるほどの大声を上げている。

 

『薫ちゃん一昨日言ったよね。できる限り毎日家に帰ってくるようにするって。もし帰れないときは必ず連絡するって。まさか一日で破られるとは思わなかったわ。』

 

「お、落ち着けって。これにはわけがあるんだ。昨日放課後、ちょっと出歩いてて。その時携帯を学校に忘れたまんまだったから連絡ができなかったんだよ。」

 

『そんなの右京さんから電話を借りればいいじゃない!まさか、右京さんまで忘れてたなんて言うんじゃないでしょうね!。』

 

「いや、まあ、なんというか他のことで頭がいっぱいだったというか…。」

 

『ほかのこと?まさか、女子高生とイチャついてたんじゃないでしょうねえ。』

 

「そんなことしてねえって!」

 

 亀山は美和子を納得させるために昨日会ったことの詳細を話した。美和子も最初は適当に相槌を打っているだけであったが、次第にジャーナリストとして興味をひかれたのか真剣に亀山の話に聞き入るようになった。

 

「っていうわけで、朝方まで右京さんと学園中を探し回ってたんだよ。」

 

『ふーん、大変だったんだね。…ごめんね、また誤解しちゃったみたいで…。』

 

「いや、俺の方こそ約束したのに連絡しないでごめんな。」

 

『ううん、もういいよ…。』

 

 この夫婦、結婚したのは最近のことだが、それより前からずっと同棲してきているはずなのに割と簡単にこうしてのろけやがるのだ。もしこの場面を伊丹が見たら、どんな顔をするだろうか。

 

『でも、その芝浦っていう人もISに対していろいろ思うところがあったんじゃないかなぁ・・・。』

 

「ん?どうして?」

 

『だってさその人の息子は女性至上主義者からいじめを受けてたわけでしょ?そういうのって、元をたどればISが世に出たから広がったやつじゃない。反ISテロとかも女尊男卑の煽りを受けた人たちが起こしているようなものだし…。普通だったらISのこともあまりよくは思わないと思うんだけど…。でも、その人は昨日までIS学園の教師を務めてたんだよね…。』

 

 美和子の考えを聞いて亀山も同じように違和感を感じた。確かになぜ芝浦は昨日になって急に姿を消したのだろう?自分たちが彼女に行きつく前に芝浦は姿を消したのだ。いや、そもそもの話、彼女がISを使って高原詩織を殺したならばIS学園にいる理由はないのではないか。事実、彼の夫の柳原和美は事件直後から姿をくらましている。何か目的があったのか?

 そこに至って亀山はある考えに行きついた。その考えが頭によぎった瞬間、亀山は己が想像した事

の恐ろしさに体が震えた。こんなことが実際に行われれば人が死ぬだけでは済まない。

 

「おやようございます、亀山君。どうしました?ずいぶん顔色が悪いようですが…。」

 

「右京さん、大変です…。」

 

 亀山は自身が思い至った事件の真相を語るべく唾を飲み込んだ。杉下も亀山の尋常ならざる様子に黙って彼の話を聞こうとする。

 と、その時、突如教官室のドアが勢いよく開かれた。

 二人が驚いて入口を見ると、昨日であった布仏虚という少女が肩で息をしながら立っていた。

 よほど慌ててきたのか、眼鏡はずれ、髪は乱れきっている。彼女は杉下たちを目にともると必死な声で叫んだ。

 

「杉下先生、助けてください!お嬢様が、楯無様がいなくなってしまったんです!」

 

「なんですって!」

 

 こうして、杉下たちがIS学園にきて三日目の朝が始まった。

 そしてそれは、彼らがIS学園に来て初めての事件が終わる日でもあった。




いうほど核心に迫っていないような気もするが気にしちゃいけない。
あと3話くらいで一つ目の事件は完結します。

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