乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です   作:N2

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またもや本編のサイドというか補足に近い内容ですね。

ただ、いずれ書こうかなと思っていた内容です。

本来なら三学期開始前に書きたかったんですけど、その時は早くお話を進めたかったんですよね。

ですのでこのお話の内容は、例え読まずとも進行の影響には響きません。
無駄に長いですが(笑)

ヤバイ、ドロテアのラフ画が美人過ぎてヤバイ


閑話 本家ヘルツォーク子爵領外様会議

 ヘルツォーク子爵領、ここはヘルツォーク当主家に加えて独立11家の陪臣の重鎮、ヘルツォーク12家で領内の統治が構成されている。

 

 ヘルツォーク子爵領浮島発見時において、島内に溢れていたモンスター群を、ファンオース大公家の次男がファンオース大公領の11家から選抜した次男、三男達で開拓した歴史があり、嫡子でなくとも正に本物の冒険者と言える偉業を成し遂げた領地であった。

 

 ファンオース大公家の反乱、ファンオース公国としての独立等の歴史的経緯もあり、ヘルツォーク子爵領もホルファート王国内においては中々に古い家柄とも言えるだろう。

 王家、王国本土から冷遇されてきたが、長い年月が経つという事はそれだけ貴族の増減もあり、浮島の発見や領地を開拓する強者も現れる。

 長年の貢献で浮島を下賜される直臣も出てくるという事だ。それはヘルツォーク子爵領とて例外ではなかった。

 そう、ヘルツォーク子爵領においても長い歴史によって、時々の情勢により、現在三家の王国直臣の寄子の領地が浮島としてヘルツォーク子爵領付近に存在する。

 ヘルツォーク子爵領寄子御三家とも言うべき、バルクホルン準男爵家、ガーランド準男爵家、そしてベアテの実家のウーゼ騎士爵家である。

 

 エーリッヒ・フォウ・ヘルツォークは、彼等当主筋を集めてこの冬季休暇中、12家会議とは別に本家ヘルツォーク外様会議を行おうとしていた。

 勿論これ等はエルザリオ子爵も預かり知る所であり、エーリッヒから報告が行く内容である。

 仮にファンオース公国が攻めてきた場合は、彼等は本家ヘルツォーク近郊の防衛に当たって貰う予定だ。

 彼等外様は、ファンオース公国に対して作戦参加から外れるので、今回の会議はその心情に対するケアという側面が強いと言える。

 

 

 

 

 集まった面々に対してエーリッヒは、マルティーナを同伴させて会議を始めようと号令をかける。

 

 「さて、そろそろヘルツォークの外様会議を始めようか。勿論、君達は王国直臣とはいえ、王国よりもヘルツォーク領に忠誠を誓って貰っているという前提で話を始めるけど、構わないかな?」

 

 俺は集まった面々に視線を向け、改めて忠誠の有無を確認するまでも無いと言える面子ではあるが、会議の紋切り型として口上に述べた。

 皆が一斉に頷く。

 元々は、バルクホルン、ガーランド、ウーゼはヘルツォーク子爵領よりも王国本土の内陸寄り、そしてフレーザー侯爵家寄りに存在した小さな浮島群であった。

 しかし彼等はフレーザー侯爵家の寄子になれず、半ば放って置かれてしまい、ラーシェル神聖王国の対応に苦慮していた所をヘルツォーク子爵領が援助したという経緯がある。

 その後、彼等の浮島もヘルツォーク子爵領近辺に配置して、共に防衛に当たるようになって半世紀以上過ぎていた。

 

 「しかし、エーリッヒ様が外様というのも違和感が半端無いですな。ここ数年はエーリッヒ様がヘルツォークのメインと言っても過言ではありませんでしたし、何よりマルティーナお嬢様を側室に娶られたというのに……」

 

 今は亡きゲルハルトの息子である、ヴォルフ・フォウ・バルクホルン準男爵が、奥歯に物が挟まったかのようなしかめ面をしながら、違和感を強調してくる。

 ゲルハルトはエルザリオ子爵の鎧乗りとしての盟友であったが、息子のヴォルフはどちらかというと、領地経営と艦隊指揮に才能がある人物である。

 ヴォルフもまだ24歳と若いから、俺に対してそう思うのだろう。ヘルツォーク領内の20代の世代は、俺の領内及び王都での活動から、何処かでまだ俺が、ヘルツォークの次期当主なのではと勘違いというか、錯覚している節がある。

 俺個人としては若い世代に認められていて嬉しい反面、成人したエルンストのためにも、そろそろ彼等の意識改革にも取り組まなければならないと感じている。

 

 「皆もご存じの通り、僕にはヘルツォークとの血の繋がりが無いからね。仕方がないさ…… ティナがいるからこそ、外様枠で仲間扱いしてくれるだけでも僕は有難いよ。それに、今後外側からヘルツォーク子爵領を助ける事が出来る体制を構築するのはかなり大きい」

 

 「何を言ってるんですか。ヘルツォーク内でエーリッヒ様を省くような輩なぞ、例え親兄弟でも秒で首と胴を斬り離してやりますよ」

 

 ガーランドやウーゼもヴォルフに賛同するように頻りに頷いている。

 しかしヘルツォークは過激過ぎるな。あの赤色の液体を定期的に見ないと心が落ち着かないのだろうか?

 ヴォルフの気持ちは心底有難いがね。

 

 「気持ちは嬉しいが、過激過ぎるよヴォルフ。まぁ、実際の問題は、本家ヘルツォークの新たな外様となる新ヘルツォーク領関連だな。戦力は正直雑魚と言っても過言ではないが、ホルファート王国内における地政学的上の場所としては、本家ヘルツォークを孤立無援から脱却させられる位置付けなので悪くない」

 

 正直、新ヘルツォーク領における浮島のポテンシャルは低い。しかし王都の事業のポテンシャルは高いというチグハグな領である。

 そこにドレスデン男爵領、リュネヴィル男爵領、そしてウェイン準男爵領が、新ヘルツォーク領と密な関係が構築される。

 新ヘルツォーク領の寄子とも言える新御三家が、外様として本家ヘルツォーク子爵領に加わるとも言える。

 そして、この冬季休暇で非公式ではあるが、本家ヘルツォーク子爵領は、ナーダ男爵領、バロン男爵領を寄子に近い形で同盟を結んだ。

 ヘルツォーク浮島群共和圏構想、若しくは連邦構想の着手をし始めている。

 俺は、ホルファート王国内において、単独の小国状態におけるヘルツォーク子爵領の改善を図るため、エルザリオ子爵と共に本家ヘルツォーク子爵領を盟主とする、従属関係の構築を画策し始めていた。

 実は王都の事業を本家ヘルツォークに全て譲り渡して、新ヘルツォーク領で領民と一緒に畑を耕そうかなとクラリスに言ったら、物凄い笑顔が怖かったので止めた。

 半分は冗談だったんだけどね。本当だよ。

 平和で貧乏な辺境の男爵や準男爵クラスは、細々と畑を耕して一生を終えるのに。

 

 「ここ数年で、ヘルツォークもかなり勢力と相関関係者を増やしましたね。お兄様の功績は、ヘルツォークの歴史に於いて燦然と輝いています」

 

 我が事のように誇ってくれるマルティーナは微笑ましいが、ファンオース公国とラーシェル神聖王国を跳ね返すにはこれぐらいは必要だ。

 ある意味、ギリギリで体制を構築出来るといった所だろう。

 しかし、フレーザー侯爵家がヘマをしたら、この体制でもヘルツォークは苦しくなる可能性も出てくる。

 フレーザー侯爵家は王家からの密命で、ヘルツォークの監視役も兼ねている。昨今は互いに色々と協力関係を築いてはいるが、それでもヘルツォークに対する、王家からの監視役というフレーザー侯爵家の本質は、今後も変化のさせようが無いだろう。

 

 「ティナは大袈裟だよ。一先ずファンオース公国の件は置いておくとして、今後の外様は新ヘルツォーク領絡みになる。バルクホルンにガーランド、それにウーゼは、ナーダとバロンと共に本家ヘルツォークの会議にも参加して貰う予定だ。ナーダとバロンも武闘派の貴族だからヘルツォークとも合うだろう。それにナーダとバロンに関しては、エルンストの初仕事だ。11家も後押しした大仕事だな。誇らしいじゃないか」

 

 「それではエーリッヒ様、遂に我々は外様ではなく……」

 

 ミュラー・フォウ・ガーランド準男爵が声を震わせながら問い掛けてくる。

 エルザリオ子爵の世代よりも少し下にあたる初老、所謂40代に差し掛かったミュラーの声色には、幾分かの期待が込められていた。

 

 「あぁ、そうだミュラー。もうお前達御三家を外様とは呼ばせないさ。それにお前の娘のカミラは、エルンストの最有力妾候補だろう。この件はエルザリオ子爵、ヘルツォーク12家会議でも決定事項だ。ナーダとバロンは暫くはオブザーバー扱いだがな……」

 

 「我が家には勿体なさ過ぎる程の待遇…… 感謝の念に耐えません」

 

 王国直臣とは言っても辺境の場合は、付近の有力貴族と連携が密になるのが常である。

 フレーザー侯爵家がここ数世代不甲斐なかったせいで彼等も苦労していた。

 しかしそのお陰で50年以上に渡って、ヘルツォークと関係を築いてくれた彼等には感謝している。

 王国直臣だからこそ彼等経由で、王国本土の物資調達を先々代の頃ですら出来たという経緯があった。

 それにガーランドもフライタール辺境伯戦が初陣だった長男が戦死している。

 カミラちゃん含めてそれなりの待遇で遇しなければ、俺もエルンストも自分を許せないだろう。

 特にエルンストは、フライタール辺境伯戦参戦者を神聖視している。カミラちゃんのお兄さんの墓にはよくお参りしていると聞いていた。

 カミラちゃんのお兄さんは俺の6歳上だったが、11歳以降は領の仕事と訓練で俺自身は深く関われなかった。

 その俺の代わりにエルンストが12歳手前くらいまでは、彼にエルンストの訓練の相手をして貰っていた相手だった。

 

 「僕もエルザリオ子爵も古い…… 最早、硬直的な人間だろう。その点エルンストなら柔軟に上手くやるさ。支えてやってくれ。何ならガーランドが、ヘルツォーク内の序列を駆け上がってもいいぞ」

 

 場の雰囲気がしんみりとしていたなか、クスリと少し場が和む空気が漂いだす。

 

 「エーリッヒ様、うちのベアテはまだ鎧乗りを諦めてないんですが、どういたしましょうか?」

 

 ウーゼ騎士爵家の当主であるクラフトに加えて、王国軍に仕官しているが、タイミング良く休暇でヘルツォークに戻ってきていた嫡男、ベアテの兄ホルストが悩ましげに妹の進路相談をしてきた。

 

 「王国直轄軍だろうが、方面軍だろうが女で鎧乗りは採用が無いだろう。ヘルツォークだって無しだ。いざというときに、逃げるための訓練ぐらいしかティナやメグもしていない。現実的に諦められないのか?」

 

 そもそも前提として学園に通う貴族の男子達は、女に貢ぐために屈強になる。王都の学園を卒業する男子が、女に鎧で負けるようなら、そいつはさっさと死んだ方がマシなぐらい無能だ。

 平民から軍人に志願する男子だってそれなりに真面目に訓練するのだ。余程の才能差が無ければ、女が男の軍人相手に無双など出来ない。

 前提として申し訳無いが、婚活で半ば狂人と化している男子には勝てないのは明白だ。

 

 「ベアテにも困りましたね。今は普通クラスの3年生、王国軍の現実も学園やホルストから聞いているでしょうに……」

 

 ティナは呆れながら言うが、正にティナの言う通りであり、クラフトもホルストも溜め息を吐いてしまっていた。

 軍にはそもそも女性が少ない。だからこそ女性特有の細やかな気配りや後方でのデスクワークが求められている。現場に行くとしたら、軍艦級飛行船の艦艇員ぐらいだ。

 国境沿岸の基地詰めすら、ほとんど女性がいないのが現状だ。

 女性が入隊した場合、治癒魔法師以外の女性は、研修が終われば王国本土の各基地に引っ張りだこである。

 王都の学園を卒業した普通クラスの女子が、王国軍に志願した場合は、既に後方の事務方のエリートが約束されている。本当に能力があれば、参謀本部の門すらも開けるだろう。

 

 「後方勤務やかなりの努力は要するが、王国軍の参謀本部を狙うとかじゃ駄目なのか? ベアテなら佐官級参謀の副官なら充分努力で狙えるだろうに……」

 

 「どうしても鎧搭乗者になりたいらしく…… このままでは思い詰めて、家出して鎧を使用する建築土木作業員や民間護衛組織に行くんではないかと心配なんです」

 

 ベアテの父親であるクラフトも困り果てた表情をしている。

 元々ベアテは俺の妾候補であり、ヘルツォークを廃嫡されてからは正妻候補だった。ベアテの進路の件は、俺のせいではない筈なのに、この得も云われぬ罪悪感は何だろう?

 

 「ベアテももうすぐ学園を卒業だから、長期休暇が終わったら直接話をしてみるよ。ティナもそれでいいね」

 

 「わ、わたくしは別に構いません。何でお兄様はわたくしに聞くんですか!?」

 

 だってお前ベアテと仲が悪いし。

 

 「お願いしますエーリッヒ様。何とか鎧は思い止まらさせて下さい」

 

 ウーゼ親子から頭を下げられるが、結果として俺は新ヘルツォーク領にて、ベアテを鎧乗りとして採用してしまったのは後日の話であった。

 ベアテは、新ヘルツォーク領における軍務面の俺の副官色が強いので、クラフトもホルストもベアテが好き勝手にやるより、俺に鎧乗りとしても面倒見て貰えるほうがいいという事で、上手い具合に納まったと納得していた。

 

 

 

 

 さて、一度ナーダとバロンの従属に近い同盟提案に話を戻すが、これに関しては次代のエルンストの諸手の賛成があったからこそ、ナーダとバロンを半ばヘルツォークに組み込む形での同盟に至ったという経緯がある。

 彼等の希望もフライタール辺境伯戦以降は、ヘルツォークの寄子になりたいという考えが、彼等の領内の大多数を占めていた事も後押しした。

 しかし、俺と親父、エルザリオ子爵だけでの打ち合わせであれば、関係は密にしていくが寄子云々は長期間保留にしていた筈だ。

 ナーダやバロンの領民の気質調査まで行わなければ、安易にヘルツォークに組み込めない。

 ただそこに12家会議の面々がエルンストを後押ししたのが、俺に驚きと喜びを同時に沸き起こらせる事となった。

 

 「御当主様、エーリッヒ様、ヘルツォークはこれから更なる変化に晒されます。良い意味合いのほうが大きいでしょう。貴方達2人が率先して骨身を削りながら切り開いた大きな道…… 公には同盟ですが、ナーダもバロンも対等ではなく、ヘルツォークを盟主とした傘下に入りたいとの希望。我々11家もあそこであれば賛成です。成人したエルンスト様の最初の大きな仕事としてサポートするのはどうでしょう? 決定は投票ではなく御当主様に一任致します。11家からの突き上げみたいな形になってしまいますから」

 

 俺も親父、エルザリオ子爵もこれは良い変化かもしれないと捉え、この冬季休暇に急ピッチでナーダとバロンのヘルツォーク傘下の体制を整え出した。

 急ぎ目の決断に際しては、ファンオース公国の動きに対する対応と国境沿岸対応の利点が勝った事にも起因している。

 エルンスト発案として纏める事にも意義があった。

 実はここでヘルツォーク内でも少々問題が起こっていたのだ。

 未だ小さい問題だが、放置すると領内が割れる程の問題であった。その対処のためにもエルンストには武勲以外のヘルツォーク内で功績を上げさせたかったのだ。

 

 恐らく、ヘルツォーク子爵領内で誰かが何とは無しにボソリと言ったのが始まりだろう。

 

 「マルティーナお嬢様と結婚するってことは、やっぱりエーリッヒ様がヘルツォークの次期当主なんだべか?」

 

 「んだでねか? あんのおがだがぁおがげんで、だんぶヘルツォークもよぐなっだだやなぁ」

 

 12家や寄子ではない、ただの領民の噂で広まってしまったのだ。

 しかも質の悪い事にエルンストも、「確かに姉上と結婚するなら、兄上がヘルツォークを継いでもいいのでは? 私が行政官のような形で、フュルストと共に新ヘルツォーク領を統治しても構いませんよ」

 

 バカ、ホント欲の無いお馬鹿! 

 そもそもお兄ちゃんは、お前にヘルツォークを継がせるために実子証明したの。

 じゃないとガーランド準男爵家の婿入りだけでエトは終わっちゃうじゃん!?

 バーナード大臣に頼み込めば、新ヘルツォーク領も返還せずに、エルンストを力業で行政官扱い出来るかもしれないけど、何故エルンストはヘルツォーク家当主に執着しないのか? 親父と俺は頭を痛めた。

 折々に付けてエルンストには、お前が当主だ当主だと簡易サブリミナル効果を狙って、常々言い聞かせたというのに。

 

 「エトは泰然としているお父様や常々思考と行動を絶やさないお兄様を見て育ちましたから、2人の言う事を聞いていれば間違いないと考えてしまっているのですよ。多少やんちゃで言い付けを破って無茶をする事はありますが…… 子供の悪戯の範囲ですね」

 

 マルティーナはそう言うが、その言葉を額面通りに取ると、エルンストは子供の悪戯の範囲で親父を説得して駆逐艦に乗り込み、ファンオース公国の先遣隊と子供の悪戯の範囲で死闘を繰り広げていたんですけど。

 ティナの感覚は先代と先々代にそっくりだな。

 

 「あれを子供の悪戯で済ますな。エトも主体性が出てきたという事だ。それ自体は喜ばしいしな。僕とエルザリオ子爵で今回の件は、エトの領地運営業務の功績としてナーダとバロンを纏めておくよ」

 

 ナーダ男爵領もバロン男爵領も寄子のいない単独領だ。エルザリオ子爵が主導するだろうが、ヘルツォーク子爵領からは少し離れている。とはいっても半日程度しか掛からない距離ではあるが、場合によってはヘルツォークとナーダの間に、小さくても構わないから簡易軍事拠点用の浮島が一つ欲しい状況だ。

 そう、そこは越境してきたフライタール辺境伯を迎え討った空域である

 

 (あの作戦上、俺が用意する浮島を回せる余裕は無い。というよりも贅沢を言えば、あればあるだけ小さい浮島は作戦に使いたい)

 

 「別枠で用意するか、後々にするか…… どちらにしろ直ぐには無理だな」

 

 「お悩みですか? 御三家にも聞いて見ては如何ですか?」

 

 悩みではあるが、まだ独り言の範疇だな。

 気付いたら親父がサクッと対処してしまうかもしれない程度の事でもある。場合によってはナーダとバロン共同で出来るかもしれない。

 活用出来ているかは不明だが、彼等とて自領の浮島本島以外にも小さな浮島ぐらいは持ってるだろう。

 ナーダにしろバロンにしろ、軍艦級飛行船を五隻から六隻を保持している力強い男爵領だ。

 

 「いや、悩みって言うほどじゃない。ティナ、一度皆にお茶を淹れてくれないか。小休止にしよう」

 

 「はい! お任せ下さい」

 

 マルティーナは朗らかに返事をくれたが、却って御三家の面々を恐縮させてしまったみたいだ。

 当主筋の娘にお茶を淹れて貰うなど、彼等にとっては畏れ多いらしい。

 ならば――

 

 「僕も学園では、女子のためにお茶を淹れている。ティナよりは大分美味しくはないが、今日集まってくれた皆のために僕が淹れよう」

 

 ヴォルフもミュラーもウーゼ親子も勘弁して下さいと泣き付かれた。別に俺のお茶は不味いわけではなく、ただ普通なだけなのだ。飲んで爆発するわけではないのだぞ!

 くっ、まさか俺は味音痴扱いされているのだろうか?

 御三家が酷い。

 

 

 

  

 マルティーナのお茶を堪能しながら、話し合いは再開したが、その内容は新ヘルツォーク領とその寄子に性質が近い、新御三家の話に移っていった。

 新ヘルツォーク領も入れれば、外様四天王かな?

 新ヘルツォーク領が外様四天王筆頭だな。

 まぁ、所謂、今後は正にここが本家ヘルツォークの外様グループと呼ぶことになるだろう。

 

 「しかし、我々新ヘルツォーク領グループは少々情けないがな。新ヘルツォークにドレスデン、リュネヴィルを合わせても軍艦級飛行船は八隻だ。ウェイン準男爵領には軍艦級飛行船は無い。ウェイン準男爵領は公式にはまだ新ヘルツォーク領の寄子ではないとはいえ…… いずれは新ヘルツォーク領の寄子になるだろうが……」

 

 軍備は絶望的だな。

 まぁ、だからこそ俺が事業として持っていた民間護衛組織にヘルツォークを組み込んで、本家ヘルツォークに譲渡したわけだが。

 新ヘルツォーク領にて、民間護衛組織として本家ヘルツォークを雇うのは勿論、資金移動を合法的に誤魔化す為でもある。

 

 「お兄様、それでもいいのではないでしょうか? 王国本土の中継地点として結べる新ヘルツォーク領の位置は悪くありません。ドレスデンと新ヘルツォークで本家ヘルツォーク領への食料輸出も図れそうだと仰っていたではありませんか。新ヘルツォーク領は軍事機構以外で発展、本家ヘルツォークの役に立てればいいのでは?」

 

 え!?

 

 「な、何ですか? 鳩が豆鉄砲を食らったみたいな御表情を浮かべていますよ」

 

 「いや、まさか先々代と先代に一番良く似ているティナから、軍備やクレイジーさよりも経済的な視点で意見が出てくるとは思わなくて…… 成長したな、ティナ」

 

 ヴォルフやミュラー、クラフトやホルストも驚いているよ。

 ヴォルフやミュラーもラーシェル神聖王国フライタール辺境伯越境戦は参戦していた。

 オフリー合同艦隊との戦いの折りには、御三家は共にヘルツォーク国境防衛を任せていたため、マルティーナの艦隊司令は人伝に聞いただけだろう。

 とは言え、あの激烈な興奮によるマルティーナの色気と怖さは、今でもヘルツォーク内では語り草である。

 そんなマルティーナの軍事機構以外で発展という意見には、俺と御三家は絶句してしまった。

 

 「な、ななな!? 何ですか! わたくしにだって新ヘルツォーク領では、今の段階で出来ない事と出来る事ぐらい解ります! あの領はわたくしのテリトリー何です! クラリス先輩じゃありませんから!」

 

 あっ、そういう理由で頑張って新ヘルツォーク領を学んだんだね。

 元々、マルティーナやマルガリータも領地経営を補佐するための教育は、小さい頃から屋敷で受けている。

 更に学園で勉強を重ねれば、優秀すら通り越せる人材だ。

 

 「確かに王都はクラリス、新ヘルツォーク領はティナっていうイメージが俺もあるから、ティナのその意気込みは嬉しいよ」

 

 「お兄様っ! ですよね! 是非わたくしを頼って下さい! しっかり新ヘルツォーク領をフュルストから学んでおきます。独自に勉強も致しますから!」

 

 ティナは上機嫌だが、後日において作戦上、ティナは本家ヘルツォークへ向かわせてしまい、クラリス達を新ヘルツォーク領の屋敷で業務にあたらせた為、あの屋敷の実質的な主人はクラリスになってしまった。

 ごめんねティナ。

 でも王都も大事だから、ファンオース公国とのゴタゴタが終われば、クラリスも王都に戻るだろうから、ティナにはそれで勘弁して貰うしかないかな。

 まだ皆学生だから、結局は寮住まいだけどね。




新ヘルツォーク子爵領、ドレスデン男爵領、リュネヴィル男爵領、ウェイン準男爵領、本家ヘルツォーク外様四天王推参!

新ヘルツォーク領を筆頭に他はやっぱり新御三家かなぁ。

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