乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です   作:N2

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ひふみん様、誤字報告ありがとうございます。


第78話 ファンオース公国艦隊発進

 学園の上空には現在、王国軍が所有している軍艦級飛行船が警戒するように浮かんでいる。

 それを示すかのように鎧を纏った騎士達が周囲を警戒飛行しており、地上にも騎士と兵士が派遣されている。

 学園に戻った俺は、地上にいる兵士達に制服に付いている略綬を、彼等に目敏く確認されてしまい、敬礼をされたので返しておいた。

 物々しい警備に学園の生徒達もピリピリとした空気を感じ取っている。

 慣れ親しんだ戦争前の緊張感に思わず口角が上がってしまう。

 そして、運よくアンジェリカとオリヴィアさんが、血相を変えて話し合っている所を見つけることが出来た。

 

 「久しぶり。アンジェリカにオリヴィアさんも慌ててどうしたの?」

 

 「エーリッヒさん!? 今までどこに?」

 

 オリヴィアさんが珍しいものを見たとでも言うような反応だが、昨日リオンへ差し入れするために学食には顔を出したんだけどね。

 

 「すまんエーリッヒ、リビアと大事な話があるんだ。私達は女子寮に向かう」

 

 オリヴィアさんの肩を抱きながらアンジェリカは、時間が一刻も惜しいと歩き出そうとする。

 

 「それってリオンの事かな?」

 

 探るようにカマをかけてみると、アンジェリカもオリヴィアさんも驚いて俺に振り返った。

 

 「そうなんです! リオンさん捕まって連行されてもう何日も…… クラリス先輩やイーゼさんも学園からいなくなっちゃうし…… 一体何が起きてるんですか?」

 

 オリヴィアさんも感じ取っているようにこの学園に対する警戒は、王宮の慌ただしさの影響も出ている。

 

 「知っていることは全て話すよ。僕の部屋に来てもらおうか」

 

 女子寮の近くではあるが、男子寮の近くでもある。人目を気にするのであれば、俺の部屋がいいだろう。女子寮へ基本的に入るのは気が引ける。

 

 「わかった。行こうリビア」

 

 「はい! エーリッヒさんお願いします」

 

 急いで男子寮の俺の部屋に入り、ソファーに座ってもらう。早く聞きたいのか2人ともそわそわしているため、冷蔵庫から冷えた安物のお茶を配って話を始めた。

 

 「先ずは結論から。リオンの王宮の地下牢への拘束は、ミレーヌ様とレッドグレイブ公爵の手配だよ。リオンを守るためだね。だから安心するように」

 

 「なっ!? ち、父上やヘルトルーデは、公国と繋がっている者達が、罪を擦り付けてリオンを捕らえて地下牢に放り込んだと。事実、パルトナーやアロガンツも押さえられているではないか!」

 

 「そ、そんな! リオンさんは悪いことはしていないのに何で!」

 

 あれ? 伝わらない!?

 

 「えぇと、ちょっと落ち着いて。アンジェリカの言う通りなんだけど、リオンを保護する形で地下牢に放り込んだんだよ。暗殺の危機もあるからね。現に僕はリオンが連行された当日の夜にバーナード大臣から経緯を聞いているし、昨日リオンとも面会してきたよ。リオンの安全は、外にいるよりも牢屋の方が安全という事だ」

 

 事実は俺にはわからないが、ミレーヌ様やレッドグレイブ公爵はそう考えているのだろう。

 

 「面会できたのかっ!? 何故父上は言ってくれないのだ……」

 

 「私達もリオンさんに会えるんですか?」

 

 う…… ヒステリック気味の女の子に説明するのは大変なんだな。

 割と俺の周りは、聞き分けの良い女の子ばかりだったから、この2人けっこう面倒くさい。リオンはこの2人を纏めていたのか…… 凄いな。

 

 「じゃぁ、オリヴィアさんから。リオンは今、接触を図る者たちの餌になっているよ。接触した者、話した内容を調べるのに使われている。オリヴィアさん達はレッドグレイブの人間だと思われているから、会いに行くと結果としてリオンに迷惑が掛かるから、止めてあげて欲しい」

 

 「っ!? は、はい……」

 

 少し強い俺の物言いにオリヴィアさんはシュンとして下を向いてしまった。

 何この謎の罪悪感は? 気を取り直してアンジェリカに説明しようか。

 

 「アンジェリカはこの状況を自分の手で何とかしようとしたんじゃないのかい? レッドグレイブ公爵はそうして欲しくないから話さなかったんだろうけど、どうやら逆効果だったのかな?」

 

 「し、しかし、本当に大丈夫なのか? ミレーヌ様や父上が自由に動けるようには思えない。王宮内の権力争いで手が回せるのか? 下手をすればリオンの処刑だって!」

 

 アンジェリカの叫びにオリヴィアさんが、ガタっと立ち上がったのを俺は、反射的に腕を取って捕まえた。

 

 「何を考えているオリヴィアさん?」

 

 「私はリオンさんを助けたいんです!」

 

 俺の話をまともに聞いて貰えないのは、信用が無いからだろうか? まぁ、信用して貰えるような行動は2人に対して取っていないから、それはそれで仕方ないのかもしれない。

 

 「だから何をする気だ?」

 

 「こうなったら、聖女様に頼めば! 聖女様ならきっとリオ――」

 

 「馬鹿を言うな! そもそも神殿と王宮は組織が違う。いくら神殿に権威があろうが、王宮内に易々と意見が通ると思っているのか! 王宮の沽券に関わる。リオン釈放の要求を神殿側から打診してみろ。意地でも王宮は認めないぞ!」

 

 実際の神殿と王宮の関係はわからないけど、この子達を落ち着かせるには、多少怒鳴るくらいがいいのかもしれない。オリヴィアさんも俺の剣幕に圧されてソファーに身を降ろす。

 オリヴィアさんが、とち狂って聖女様とお友達になりに行っては堪らない。リオンもそれは嫌だろう。

 

 「アンジェリカ、僕はリオンに会って来たと言っただろう! リオンからもこの件を話すのは了承を貰った。この状況で外から関与する事は出来ないんだ。いいか、リオンに迷惑を掛けたくなければ、軽挙妄動は厳に慎め! 放っておけばリオンは勝手に出てくる。それこそ2人が勝手に動いたら、その権力争いとやらで強行手段を取られても知らないぞ。いいか、この件はリオンもミレーヌ様も、そしてお前の父親であるレッドグレイブ公爵も承知済みなんだ。後先考えずに感情だけで動いてリオンに迷惑を掛けるな!」

 

 「っ!? ぐっ…… わかった。自重して大人しく学園で待機する。リビアも堪えてくれ」

 

 「な、納得は出来ませんが、エーリッヒさんがそこまで言うなら……」

 

 疲れた…… 言い過ぎたかな? リオンに迷惑掛けるなと強調したから大丈夫だろう。

 なまじ若い女の子に権力があるとそれを抑えるのも一苦労だな。

 納得してよオリヴィアさん。大人しい子だと思ったら、アンジェリカとはまた違った行動力がある子じゃないか。

 まぁ、俺もルクシオン先生がいるから大丈夫だと何となく思ってるだけで、リオンが本当に解放されるかはわからないんだけどね。

 アンジェリカとオリヴィアさんを見送った俺は、どっと疲れが身体を襲い、暫くソファーに身体を埋めるのだった。

 あ、クラリス達の事を話すの忘れた。まぁ、あの2人には関係が無いから良いだろう。

 

 

 

 

 ファンオース公国上空、浮島を飛行船にした飛行空母まで揃えた艦隊が、空を覆いつくしていた。

 百五十隻を超える軍艦級飛行船と共に、周囲にはモンスター群が艦隊を覆いつくすように威容を誇っている。ヘルトルーデが用いていたものと同様の、一際大きいモンスターの上に飛行船を載せた旗艦に、魔笛を使用するヘルトラウダ第二王女は乗艦していた。

 公国にとっては王国に魔笛があっても、もう一つ存在しているため問題は無かった。

 使用するのは第二王女であるヘルトラウダ・セラ・ファンオース。御年はまだ成人前の14歳であり、正面から見ると、姉とよく似た烏の濡れ羽色の髪をショートボブにしているように見えるが、後ろで纏めて膝裏にまでその長髪を流していた。

 体系もスレンダーで美しい顔立ちの姉、ヘルトルーデとは異なり、身長は150cmに満たず、トランジスタグラマーで年齢を凌駕するボリュームある胸に、可愛らしいといえる顔立ちを今は、きつく表情を引き結んで緊張感を周囲に発していた。

 顔立ちは十分に似ていると言える姉妹だが、魔笛の扱いに関して言えばヘルトラウダの方が優れていた。現艦隊における率いるモンスターの数も多く、そして魔笛自体もヘルトルーデが持っていた物よりも強力である。

 本来なら王国を沈めるには、ヘルトルーデの先遣隊だけで十分な筈であったが、ほぼ、リオン1人に計画を潰されてしまい、ファンオース公国上層部は大慌てであった。

 本来ならヘルトラウダを出陣させる予定はなかったというのに、リオンの脅威が貴重な最後の直系を擁立する羽目になってしまった。

 

 「儂まで担ぎ出すとはの……」

 

 ヘルトラウダの横に座る老境に差し掛かった人物の呟きの内容までは、ヘルトラウダは聞き取れなかったが、それが合図となり家臣に問いかけを行った。

 

 「外道騎士は動かない。間違いないな?」

 

 「間違いありません。ロストアイテムの飛行船も、そして鎧も押さえたと報告がありました。王国の馬鹿貴族達は呑気なものです」

 

 少々軽いノリで答える家臣ではあったが、その内容は周囲の重鎮達が満足いくものであった。

 

 「お爺様、王国は自分達で首を絞めたようですね」

 

 ヘルトラウダは隣の老境に差し掛かった人物に笑みを浮かべて話しかけた。

 

 「ラウダ、侯爵と呼べ。今はお主がこの艦隊の指令じゃぞ。戦闘の細かい指示はこちらで全て行うがの。ほれ、立場を明確にせねば皆が戸惑う」

 

 侯爵と自分の事を言った人物は、孫娘に言い聞かせるように優しく立場を伝えた。この戦いでこのような優しい物言いは、最後になるだろうとヘルトラウダも感じ取る。

 

 「助言感謝する、ファンデルサール侯爵」

 

 軽く笑みを浮かべて簡易礼を取ったファンデルサール侯爵の心中では、もはやどうしようもなくなってしまった状況に覚悟を決めた。

 

 (10年以上も前に失脚した和平派の儂を担ぎ出すか…… 強硬派はこれを機に反対勢力を一掃するつもり、いや、強硬派で国内を固めるつもりか。違うな、儂が()()を肌身離さず連れている事を知られていたか……)

 

 ヘルトラウダからお爺様と呼ばれたファンデルサール侯爵、紛う方なき故人である公妃の父親であり、ヘルトルーデとヘルトラウダの祖父である。

 政治的に失脚しているとはいえ、防衛戦においては無類の強さを誇る公国の守護神とも言える武人が、王国侵攻を担うのは異例ではあったが、周囲を大人で固められているヘルトラウダにとっては心強かった。

 攻めの黒騎士、守りのファンデルサール。20年前の王国軍の侵攻を阻んだ大将軍であった。

 

 「姫様、侯爵閣下、支度が調いました。いつでもいけます」

 

 ファンデルサール侯爵を見てヘルトラウダは小さく頷く。そしてヘルトラウダは、公国の未来を掛けた戦いに臨む覚悟を決めた。

 

 「これより王国に攻め込む。皆の者奮起せよ! 目指すはホルファート王国王都。他の雑魚には目をくれずに前進あるのみ! 総員出陣せよ!」

 

 ヘルトラウダの号令を受けて、その場に居合わせている重鎮達が威勢よく返事をし、各持ち場に散っていくのであった。

 

 

 

 

 「エト、済まないな。それにランディも。ペーターにルドルフ、お前達はいつも損な役回りを押し付けて申し訳ない」

 

 王都の浮島ターミナルで、本家ヘルツォークから来た人員を迎えていた。慣れ親しんだ駆逐型高速輸送船で乗り付けてくれた。

 ペーターはリック05、ルドルフはリック06のコードネームで呼んでいた懐かしの12騎士。懐かしいとは言ってもペーターは豪華客船での戦いで共に戦場に立っており、ルドルフはオフリー合同艦隊との作戦で特殊任務をペーター共々行っている。冬の長期休暇でも顔は合わせているので、久しぶりとも言えないお互いに見知った間柄だ。

 小型偵察艇も来ていたため互いに軽く挨拶を交わした後、飛行船の中で打ち合わせに入った。

 

 「ソロモン、改修は終わったか」

 

 「はい、私はソロモンに付きっきりでしたので、その分改修後の調整が早く終わりました。ダビデの調整は、今は父上が率先して行ってますよ。それでもまだ掛かりそうですが。いい技術がファンオース製には使われているそうで、整備改修班は喜んでましたよ。型枠作成や削りだしなど、部品製造はヘルツォークでも既に可能な体制です。魔力波感知増幅システムは、まだ解析に時間が掛かるのでファンオース製をそのまま流用しています。ただ出力は高いんですが、繊細というか過敏さは王国製のスピアの方がいいみたいですね」

 

 こちらの魔力波で自由自在に動かせるスピアは、出力よりも反応が過敏な方が助かる。要は王国に使いこなせている者がほとんどいないという事だ。

 トップスピードが上がったことにより、兵装を以前よりも搭載出来るようになったのが、目に見えた利点とエルンストは説明を付け加えた。

 この打ち合わせの主旨は鎧の事ではないので、先ずは偵察員からの報告を聞こうとして促した。

 

 「公国が進軍を開始しました。数は百五十隻以上、浮島型飛行空母も存在していました。艦隊を覆うほどのモンスター群も確認済みです」

 

 浮島型飛行空母、ならば航行速度が遅いことはそれだけで明白だな。ゆっくりじっくりとモンスター群で耕していく算段か。

 

 「またモンスターですか。鬱陶しいことこの上ありませんな」

 

 「まったくだな。だから僕達が行う作戦は少々変更する」

 

 当初、親父とも話して今いる人員を手配して貰う予定の頃とは想定が異なる。その時はモンスター群はこれっぽっちも考慮していなかった。

 基本骨子に変更はないが、目的の変更だな。

 

 「本来は直上から強襲して即離脱。その後多少ファンオース艦隊が混乱したところに本家ヘルツォークのガワだけ軍艦級飛行船が、二十隻特攻して艦隊隊列を完全に乱す。後は王国軍なり領主編成軍なりで飽和攻撃してもらう予定だったが、モンスター群のおかげで、まぁ、無理だろうな」

 

 モンスター群と聞いて皆が渋い顔をし出した。ルドルフもエルンストやペーターから聞いているので詳細は知っている筈だ。そもそも国境哨戒で海洋生物似のモンスターには遭遇する。

 そのモンスターが大小様々で万を超すとなると、ルドルフとて即座に脅威を認識出来るだろう。

 

 「では、我々別動隊は待機ですかね?」

 

 そんな筈は無いだろうとペーターは確信している顔だが、確認と話しを進ませるために聞いてきた。

 

 「安心しろペーター、もちろん強襲はやる。相手はそもそも王都しか見てない視野が狭い状態。加えてモンスター群でまともな警戒なぞしてないぞ。王国本土をのろまなスピードで耕すのに夢中になっているだろう。こちらは寝ててもランディが真上を取ってくれるさ」

 

 ランディは乾いた笑いを上げているが、実際は今喋った通りに容易だろう。

 あのモンスター群を思い浮かべる限り、空はモンスターで制圧。本格的に鎧を出すのは王都だな。モンスター群が邪魔で鎧なんぞ発進させても無意味に近い。

 

 「何をするんです兄上?」

 

 「作戦時間と会敵時の時間がシビアだがな、ペーターとルドルフで急降下強襲でモンスターの排除。僕とエトで、魔笛使用者か魔笛を強奪。豪華客船の時に確認した同系統の旗艦は、偵察員が確認済みだ。乗艦しているのはおそらく、第二王女ヘルトラウダ。14歳の女の子だ。人相は不明だが、メグと同い年だし、旗艦にそんな子供が乗っているとしたら本人しかいない。鎧で抱えて飛んで逃げるぞ」

 

 会敵時に既にリオンが言っていた超大型のモンスターがいたら作戦は中止。ガワだけ軍艦級飛行船二十隻を突撃させた後は逃げの一手しかない。作戦が成功しても突撃は敢行させて、後はあくまで逃げだな。

 

 「わかりました。急降下強襲は構いません。ここにいるメンバーは全員経験済み。しかし兄上、兄上はあれで行うんですか?」

 

 エルンストは先程格納庫に運ばれてきた鎧を見てギョッとしていた。あの鎧の事で間違いないだろう。

 

 「もちろんだ。僕は今、あれしか持っていないぞ」

 

 ペーターもルドルフも目を丸くして驚いているが、設定がドンピシャなのはあれしかなかったのだ。だから冬の長期休暇後に予備として持ってきていた。

 

 「く、訓練機じゃないですか!? それも数世代前の! 急降下後の制止挙動でバラバラになっても知りませんよ!」

 

 エトがそんな装備で大丈夫か? と言ってくるが、正直不安しかないのは内緒だ。

 皆がネオ○ジオンの中、MS-○6SザクⅡでロンド○ベルに突貫するような無謀極まる状態だからな。

 

 「エト、あの訓練機はラーシェルの最新式を2機落として、同じくラーシェルの最新式軽巡洋艦を一隻中破させているやれば出来る子なんだ。僕専用の設定は本家でしかそもそも出来ない。元々調整済みの奴を使うしかないさ。だからモンスターを吹き飛ばすのはペーターとルドルフ。僕とエトは奪還組だな」

 

 共同撃墜は数えなくていいだろう。

 それよりも逃げる時、あの訓練機は遅そうだから、ペーターとルドルフに引っ張っていってもらおう。

 

 「いや、まぁ、兄上ならそれでも何とかしそうなのでいいんですけどね」

 

 「取り敢えず、新ヘルツォーク領に向かうぞ。本家ヘルツォークへの招集はバーナード大臣の手配で新ヘルツォークへも回してもらえるから、艦隊の準備をこれから行う。一部はドレスデン男爵領に預けているからな。集合させて直ぐに動けるようにしておくぞ」

 

 「兄上、父上への連絡は? まだ動かさないんですか?」

 

 エルンストはファンオース公国が発進したタイミングで、事を進めると思っていたのだろう。

 

 「まだだ。もっと彼等が深く食い込んでからだな。航行スピードが遅いのが理由だ。それにもっと王都に彼等が近づけば、ヘルツォークの動きを仮に察知して別動隊を組もうが、公国に戻る前に本家の作戦は完了して、ヘルツォークへの航路を悠々飛行しているだろう。我々の作戦は、王国本土端寄りの第二次防衛ライン辺りになるから、終わって少ししてからが発動タイミングとして頃合いだな。父上に手紙は出しておくよ」

 

 エルンストも納得したので駆逐型高速輸送船は新ヘルツォーク領へ航路を取り、小型偵察艇は俺が手紙を急ぎ書き終えた後、本家ヘルツォーク領へ向かってもらった。

 

 「あ、そういえば、姉上の機嫌が日に日に悪くなっているんです。せめて手紙ぐらい書いてあげてくださいよ」

 

 えぇ!? まだそこまで日数経っていないぞ!

 

 「いや、昔も一ヶ月や二ヶ月ぐらい仕事で王都に行っている時なんかは離れていたぞ! 僕が原因じゃないんじゃないか?」

 

 エルンストが周囲をキョロキョロして手招きしてくる。今は話し合いも終わり各々船の旅を楽しんでいる最中だ。

 

 「いや、もう、なんて言ったらいいか…… メグが言うには、多分兄上と寝てから姉上の情緒が不安定になっているそうです。ってか何で私が、兄と姉の情事の心配をしなくちゃいけないんですか!? 滅茶苦茶姉上が怖いんで、さっさとフォローしてください」

 

 弟に女性関係のクレームを入れられる俺氏。

 しかもその女性は弟の姉。凄い罰ゲームだな。

 血は繋がっていないとはいえ、何て闇の深い表現なのだろう。

 

 「手紙書くよ。ごめんなさい」

 

 「うぇっ!? 頭下げないでくださいよ。まぁ、メグと母様に任せてきているので大丈夫だとは思いますが、兄上からの手紙があれば、姉上の機嫌も落ち着くでしょう」

 

 居た堪れなくなったのか、エトはブリッジの方に向かっていった。

 お兄ちゃん学園に入ってからどんどん情けなくなっている気がする。おかしいな、勲章も一杯貰ったのに。そろそろエトに、情けない奴! と言われてしまいそうだ。

 情けない訓練機の兵装でも確認しに行こう。

 俺はトボトボと肩を落としながら格納庫に向かった。




ティナ:ピキーン! お兄様が肩を落としている!

メグ:ティナ姉様の病気が悪化している。リック兄様に嫁いだのに何故?

ベルタ:一線超えて拗らせるのも珍しいわね。エーリッヒの部屋に放り込めばマシになるかしら?

メグ:無理。既に毎晩リック兄様のベットで寝ている。

ベルタ:こんなおかしな子だったかしら?

メグ:学園に入ってから加速度的に病気が進行した。

ベルタ:エトとメグを学園に入学させたくなくなってきたわ。

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