乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です   作:N2

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霧空様、ももりもり様、ryougetsu様、誤字報告ありがとうございます。


第60話 黒騎士部隊

 ゲラット伯爵が退避した後方の右翼軍艦では、マルティーナの放った大魔法で混乱しており、被害を受けなかったこの軍艦でさえ艦隊隊列を必死に整えようと右往左往していた。

 その中を口角泡を飛ばしてゲラットは指示を出していた。

 

 「何をしているのですか! 早く砲撃を叩き込んで沈めるのです!」

 

 ゲラットの怒声に軍人達は揃って反対する。

 

 「味方がいるのですよ! それに、王女殿下はまだご無事ではありませんか!」

 

 ゲラットは髭を撫で付けて気持ちを抑えようとしたが、既に無いことに気が付き、怒りと共にその手を握りしめる。自慢の髭であり、毎日欠かさず手入れをしてきたというのに、今は綺麗になくなっており、つるつるとした綺麗な肌触りが余計にゲラットを腹立てせる。

 その自慢のカイゼル髭は、ゲラットが気絶から目覚めた時には無くなっていた。助けに来た兵士が一瞬誰かわからずに詰問されたことも怒りに火を注いだ。

 

 (あの六芒星(ヘキサグラム)の赤い悪魔め! あいつが恐らくやったのだ! 奴を何としてでも討ち取らねば気が済まない! あの悪魔の首を殲滅公女に投げつけてやる!)

 

 実際に永久脱毛したのはルクシオンであるのに、ゲラットは勘違いのままエーリッヒに復讐心を燃やしていた。

 

 「どうして突撃などさせたのです!?」

 

 ゲラットの言葉に軍人達は視線を逸らして沈黙した。

 

 (こいつら、被弾に託けて姫様を助けるためにわざと突撃させましたね。砲撃できない理由を作って! 代わりはいるというのに!)

 

 ゲラットが腹立たしく近くの設備を蹴るが、意外な硬さで足を痛めてしまった。

 

 「ぐっ、こ、これもあの男が悪い! 私の髭を奪ったあの男が憎い!!」

 

 「あ、新たな艦影を確認しました! 目算で700m級です!」

 

 船員が叫んだ内容に驚いてゲラットも慌てて外を見る。

 

 「馬鹿な!? 王国の増援が間に合うなど……」

 

 軍人から双眼鏡を乱暴に奪い、覗いてみれば変な飛行船が一隻こちらに向かってきていた。

 

 「何ですか? 大砲の数が二門しかぁっ!?」

 

 ゲラットの異様な言葉の区切りを軍人達は不思議に思うが、パルトナーから放たれた砲撃で、左翼の十隻が次々に被弾させられて行くのが、双眼鏡が無くとも軍人達にも確認できた。

 

 「ば、馬鹿なこの距離で砲撃が当たるっ!? は、早く沈めなさい!」

 

 間髪入れずに発射された砲弾で、つい先ほどまで無傷であった左翼の十隻は火を噴きあげて高度を下げていった。

 

 「か、囲みなさい!」

 

 通常であれば側面に砲を並べて面制圧するのが艦隊戦の主流であり、正面からの砲撃においては依然としてヘルツォークでしか取り入れていない。

 

 六芒星(ヘキサグラム)の赤い悪魔さん曰く、「ピストル・ショットじゃないんだぞ! 照準の概念がない砲なんざただの重りじゃねえか! 動揺手は一先ず置いといても旋回手と俯仰手の連携強化! 小型の長距離狙撃銃があるんだぞ。どでかい砲筒の精度ぐらい何とかしろ! 命中させれば巡洋艦ぐらい3発から5発でシールド解除、そんな程度で飛行船なんざ落とせるんだ。こんな時代にカロネード砲とか頭おかしいだろっ! もっと真面目に戦争やるんだよ!!」

 ここ3年でヘルツォーク領のみは、既存技術で大分先を進んでいた。

 マルティーナやエルンストが、エルザリオ子爵ではなく、実質上のヘルツォーク領軍関連のトップをエーリッヒであると誤認する一幕でもあった。

 余談ではあるが、既存技術なのでルクシオンもエーリッヒが、ただこの世界の住人だと認識したのは責められないだろう。

 

 もの凄い衝撃音と共に振動でゲラットは床に転んでしまった。

 

 「な、何ですか!?」

 

 ゲラットの乗艦する軍艦に向かってパルトナーからの砲撃が叩き込まれて、大事な機関が損傷して軍艦は大きく揺れだす。もはや航行不能となってしまった。

 

 「新たな艦影からの砲撃です! この艦にも直撃! 既に我が左翼は沈黙しました!!」

 

 船員も絶叫しながら報告をしてきた。

 

 「な、馬鹿なっ!? シールドを一撃で貫いたというのですか!?」

 

 ゲラットが言うようにシールドで最低でも一撃から二撃は防げるはずだが、この世界のシールドをものともしない威力が、パルトナーがロストアイテムの所以であった。

 しかしそんなことを知らないゲラットには、これから起こることなど想像すら出来なかった。

 

 

 

 

 リオンは艦隊戦は既にパルトナーに任せて、甲板に降り立った大きなコンテナのような箱に笑みを浮かべた。甲板上にいる学園生達もその箱に希望を見出している。

 

 クリスはボロボロの鎧でリオンに近づき声を掛けてきた。

 

 「バルトファルト、やれるのか?」

 

 リオンはルクシオン片手に振り返り宣言した。

 

 「誰に向かって言っている? そして喜べ! 俺の…… いや、俺達の勝ちだ!」

 

 その力強い言葉に学園生達は歓声を上げだした。

 

 「何かリオンに美味しいところを全部持ってかれた気分だな。まぁ、助かるなら何でもいいか」

 

 俺の愚痴とも取れるような呟きを拾ったクラリスは微笑みながら髪を鋤く様に撫でてくれた。

 

 「リック君は頑張り過ぎって、リオン君にも言われたでしょう。こんな状態であんな無茶はもうしないで」

 

 大分心配を掛けたようで、クラリスは眉を顰めてしまった。ヘロイーゼちゃんとナルニアは必死に氷を取り替えたりしてくれる。

 身体が強制的に冷やされたせいもあるのか、頭痛も怠さも多少和らいできている。

 パルトナーのおかげで駆逐艦側の戦況は落ち着きを見せ始めている。それはマルティーナやエルンストの安全を意味するので、安堵して身体から力が抜けてしまう。

 

 『マスター、敵の鎧がこちらに向かってきています。ドローンの展開許可を求めます』

 

 ルクシオンの言葉にリオンが頷いている。クラリスに手伝って貰い身を起して確認をすると、パルトナーから上半身だけの足の無い鎧が、手にはそれぞれ違う武器を装備して次々と射出されていた。

 全部無人機かよ、こりゃ叶わないわ。

 コンテナのような箱が自動で開くと、その中からリオンの鎧であるアロガンツが胸元のハッチを開けて、リオンが乗り込むのを今か今かと待ち焦がれる様に待機しているのが見えた。

 

 「まさか、ロストアイテム」

 

 アロガンツを見て目を細めているヘルトルーデは、両脇をアンジェリカとオリヴィアさんに捕らえられている。

 

 「詳しいですね。そうですよ。ロストアイテムです」

 

 リオンはアロガンツに乗り込みながら律儀に答えていた。

 

 「思い出しました。王国に冒険者として名を上げた若い騎士がいると、貴方でしたか」

 

 その言葉にはリオンは返答せずにハッチを閉めてしまった。

 リオンも周囲を警戒しだしたのだろう。アロガンツで周囲を睥睨しているように見えた。

 ファンオースの鎧は未だに60機は空に浮いており、混乱を立て直そうと隊列を組み直している。エルンスト達は疎らに残るモンスターの掃討に動き出していた。1個小隊は俺がこちらに急降下した段階で既に中破しており、駆逐艦に退避させているエトからは聞こえていた。

 

 「一方的に殴りやがって! ここからは俺が一方的に殴り続けてやる! 公国の馬鹿共が! 誰に喧嘩売ったのか、恐怖と共に叩き込んでわからせてやる!!」

 

 『マスターも反撃をしましたけどね』

 

 「気分の問題だ!」

 

 オープンにしているせいかルクシオンとのやり取りが丸わかりだ。

 アロガンツの背中にあるコンテナから、マシンガンを持ったドローン達が射出されていく。まだ無人機が出てきたことに俺は驚愕してしまった。

 

 「避難していてください」

 

 リオンは周囲のモンスターをドローンで撃破しながら、アンジェリカ達に伝えていた。

 

 「あぁ、後はお前に任せる」

 

 「リオンさん、絶対に戻ってきてくださいね」

 

 リオンがアロガンツの手を上げて2人に答えている。するとクリスがリオンの横に立った。

 

 「私にも手伝わせてくれ」

 

 どうみてもクリスの鎧はボロボロだ。

 しかもブレードのみ、鎧の相手なんかしたら中距離で、蓮根の様に穴だらけになりそうにしか見えない。

 

 「勝手にしろ。足を引っ張るなよ」

 

 「善処する」

 

 おぉ、リオンもクリスの参戦を認めた!? 死んでも構わないのだろうか?

 アロガンツは右手に大型のライフルと左手にブレードを装備して飛び立っていき、その後をクリスは付いていった。

 空に出たアロガンツにモンスターが群がるが、ドローン達がアロガンツの周囲に集まると、そのままマシンガンで黒い煙に変えていく。

 あれルクシオンの操作だろうか? 神経と魔力使わなくて羨ましいな。

 パルトナーから出撃したドローンがモンスター達や公国の鎧を相手にして豪華客船を守っている。

 エルンストとペーターの分隊、そして1個小隊もそれに加わって公国の鎧を撃墜していっていた。

 

 「よっと…… あれ?」

 

 両脚は甲板に投げ出したままだが、上半身をクラリスに後ろから抱き抱えられて身動きが取れない。

 

 「だぁめ」

 

 微笑みが怖い。

 

 「いや、でもここは叩きどころじゃ……」

 

 「うふふ、だぁめ」

 

 仕方がないか、少し休ませてもらおう。

 アロガンツが公国の鎧の頭部をライフルで吹き飛ばすのを見つめながら、クラリスに体重を預けるのだった。

 

 

 

 

 ゲラットは、何とかまだ浮いている軍艦の艦橋からアロガンツの無双状態を絶望と共に見ていた。

 

 「あんな化け物が……」

 

 もはや公国に無事な軍艦は無く、鎧までも次々に落とされて行っている。アロガンツは主流である鎧とは程遠い重装甲タイプ。不格好と最初は笑ってみたが、味方が為す術もなく落ちていく光景に表情はどんどん青褪めていった。

 

 「伯爵、もう撤退するべきかと」

 

 進言してきた軍人をゲラットは殴りつける。魔力で強化した拳は軍人を容易に吹き飛ばした。

 

 「撤退? 何を馬鹿なことを! 公国の軍隊は王国の学生に負けて帰ったと笑われるつもりですか! 相手は豪華客船と変な船一隻、それにヘルツォークの12機、たったそれだけの相手に!?」

 

 「し、しかし既に我が軍の被害が――」

 

 口から出た血を拭いながら尚も進言する軍人の言葉をゲラットは遮る。

 

 「姫を奪われ! 魔笛も奪われ! 挙句に子供に負け! 我々に撤退する道など残っていないのですよ! 処刑ものの失態です。この期に及んで逃げるような者達は、頭を吹き飛ばします!」

 

 このような酷い有様で逃げかえれば、各責任者は処刑されても不思議では無いほどの負け方と言えるだろう。挽回するには目の前の相手を沈めるしかなく、パルトナーによる砲撃の撃墜スピードが余りにも早かったため、そもそも引き際が無かったとも言えた。

 

 「王国にこんな新型、せめてあの飛行船と鎧を持ち帰らねば私の立場が危うい」

 

 ゲラットは周囲の目を気にせず一人ぶつぶつと独り言を呟いていると、艦橋に騎士達がやってくる。

 特注の黒い軍服を着用した彼らを見て光明を見出すかのように顔を上げた。

 

 「そうでしたね。我々には貴方がいた。公国最強の英雄殿」

 

 先頭に立つ60歳前後に見える男性騎士は、ゲラットの顔を忌々しそうに見やった。

 頭頂部が寂しいその男の額には大きな傷痕があり、筋骨隆々なその大きな体躯には、他の騎士達と異なり騎士鎧を身に付けていた。

 周囲が軍服や騎士服を着用しているため、戦場とはいえ聊か浮いているようにも見えるが、これが常在戦場を体現したこの男の正装であり、公国の人間はこの男の格好に違和感を抱かない。

 

 「出撃するなと命令しておいてよく言う。護衛に付けた我が部隊の1個小隊分の騎士も殺され、姫様が捕らえられたと聞いた。お前を締め上げるのは後にしてやる。俺達を出撃させろ」

 

 この男性騎士の言葉を聞いた軍人達の瞳に希望の光が灯る。

 眼前で猛威を奮う飛行船も鎧も、この騎士であれば何とかしてくれるという期待の眼差しが浮かんでいた。

 ゲラットも嬉しそうに何度も頷いた。

 

 「えぇ、構いませんよ。バンデル・ヒム・ゼンデン子爵。貴方に、えぇ、貴方達に全てお任せ致しましょう」

 

 ゲラットの胡散臭い笑顔を鼻息で一蹴するようにして、バンデルと呼ばれた騎士とそれに付き従う騎士達が、艦橋を整然と出ていった。

 ゲラットは気にせずクツクツと厭らしく笑っていた。

 

 「これで全て解決ですね」

 

 「し、しかしゼンデン子爵は出撃させるなと本国から命令が――」

 

 ゲラットに殴られた軍人が忠告するのを冷たい眼差しで見据えて、銃口をその軍人に翳す。

 

 「ま――」

 

 銃声が響き渡り、額を貫いた銃弾は後頭部を抜けて脳漿を吹き飛ばした。

 

 「頭を吹き飛ばすと言いましたよね? まったく度重なる抗弁は聞くに堪えません。そもそも本人が勝手に出撃するのです。……それにこの状況で最強のカードを切らないのは間抜け以下ですよ。“黒騎士”ならきっとあの化け物も倒してくれるでしょう。何しろ公国最強の騎士ですからね」

 

 唖然としている周囲の軍人に、その間抜けの死体を片付けろと指示を出してゲラットは1人、悦に浸り出す。

 公国最強の騎士達が、リオンを狙って本格的に動き出すのであった。

 

 

 

 

 リオンはアロガンツのコクピット内で悪態を付いていた。

 

 「こいつらウゼェ!」

 

 集団で襲ってくる敵の騎士達は、上下左右とリオンを囲んで遠距離からの攻撃を仕掛けてくる。背中を見せれば直ぐ様斬りかかってくる。アロガンツが距離を詰めようとすれば散開して逃げていく。

 

 『随分と訓練されてますね』

 

 弾丸は装甲が弾き接近戦でも傷つかない。

 

 それを豪華客船の甲板上から見ていたエーリッヒは、つい愚痴のような言葉を零してしまう。

 

 「あれずるいよなぁ、僕達があんなに攻撃喰らったら何回死んだかわからないよ」

 

 「ロストアイテムって凄いのね」

 

 クラリスはそんなエーリッヒの愚痴にも丁寧に付き合っている。その最中にも豪華客船は傾いていき、パルトナーから救助艇が到着した。

 

 「クラリスもイーゼちゃんも、もちろんニアも救助艇に乗って。僕は折角奪ったこの鎧で脱出するよ」

 

 「無茶は駄目よ」

 

 わかっていると答えてクラリス達をエーリッヒは救助艇に促した。

 そして鎧に乗り込んで周囲を見渡す。

 

 「体力は消耗しているが、頭痛や倦怠感は少しは楽になったな」

 

 クラリス達が無事に救助艇に乗り込めるように、出発するまで周囲の警戒に当たり出すのであった。

 

 エーリッヒからずるい等という、そんな感想を言われているなど思いも寄らないリオンは悪戦苦闘をしていた。

 結局ダメージはないのだが、問題は倒すのに時間が掛かるという事だ。

 

 「ちっ、エト君達はよくこんなのを相手にポンポン落としていたな! それに何で撤退しない!?」

 

 『ヘルツォークの一般兵士レベルの練度の方が高いですからね。撤退をしてもおかしくない被害は与えているのですが…… 通信を傍受しました。どうやら撤退できない理由があるようですよ。それに短時間で被害を与え過ぎたかもしれません』

 

 ルクシオンの傍受によれば、撤退を進言した軍人は多いらしいが、指揮官が拒否したとリオンは聞かされた。

 

 「さっさと逃げろよ! 逃げてくれないとこっちが困るだろうが! 無駄に抵抗ばかりしやがって!」

 

 アロガンツを加速させて空中で敵の鎧をブレードで突き刺す。突き刺したのは中にいる騎士が傷つかない場所だ。ブレードを引き抜いて被弾して高度を下げつつある敵飛行船の甲板に蹴り落とす。

 

 『パルトナー救助を開始します』

 

 傾いた豪華客船を守る位置についたパルトナーは、既に救助艇を出して収容を開始していた。リオンが目を向けると黒い鎧が護衛するように張り付いていた。

 

 「豪華客船はもう駄目か」

 

 黒い煙が至る所から噴きあがり、既に船体まで歪み出していた。

 

 「パルトナーに全員乗せたら離脱しろ。いつまでも付き合っていられるか」

 

 『――!? マスター、新手が出撃してきました。機体色はブラック。エーリッヒとマルティーナが奪った物と同系統です。敵、精鋭部隊と思われます』

 

 「くそっ、リックが黒い鎧を奪ったからもしかしてと思ったけど、まさか()じゃないだろうな」

 

 リオンは嫌な思い出が蘇る。

 前世のあの乙女ゲーに登場する最強の敵は“黒騎士”だった。とにかく強く、黒騎士相手に何度もゲームオーバーにさせられた記憶がまざまざと思い起こされる。

 接近戦はクリスよりも強く、遠距離戦闘ではジルクが相手にもならない公式チートが黒騎士であった。

 あの乙女ゲーの戦略難易度を上げ、数々の乙女の心を圧し折ってきた元凶の一つである。

 

 『パルトナーの砲撃を避けています。ドローンも破壊して進んできます。このままでは救助を邪魔されます』

 

 ルクシオンが敵の突破スピードに警戒を強めていた。

 

 「上等だ! 俺が相手してやる!」

 

 例え公式チートと呼ばれた相手だとしても、今のリオンもチートいうには十分過ぎるアロガンツに乗っている。それに頼れる相棒とでもいうべきルクシオンもおり、気力は頂点に達した。

 黒騎士ぐらい倒して見せると意気込んで、アロガンツ内に浮かんだモニターを見ると――

 

 「え!? 12機っ!? いや、さらに奥に馬鹿でかい大剣持った…… くそぉ! 部隊じゃねぇか!!」

 

 頂点に達したリオンの気力が萎えようとしていた。

 

 

 

 

 エーリッヒはクラリス達が乗った救助艇が無事にパルトナーに乗艦したのを見届けて、自分も駆逐艦に帰投しようとした所に、ファンオース公国のもはや着水寸前の軍艦から黒い鎧の部隊が飛行してくるのを目視した。

 

 そこからは素早く光魔法の信号でエルンストとペーターを呼び寄せた。

 

 「黒騎士部隊が1個中隊に、一番後ろの奴は黒騎士本人ですぜ、ありゃあ」

 

 ペーターが苦み走った声で報告する。そもそもこのペーターも20年前のファンオース公国侵攻戦で黒騎士部隊と戦っている。情報は間違いないだろう。

 

 「王女殿下護衛の1個小隊の黒騎士部隊は僕とティナで始末したから、いても精々2個小隊ぐらいかと思ったが、不味いな。作戦単位の中隊となると面倒だぞ。おまけにあの大剣持ちは単独行動か?」

 

 「昔もそうでしたよ。黒騎士は単独行動です」

 

 俺の問いかけに的確に答えてくれるペーターだが、声色は震えている。今は大ベテランでも20年前はまだ中堅に差し掛かるレベルだったのだろう。黒騎士の恐怖は覚えているという事か。

 

 「しかし兄上、姉上から聞きましたよ! 40℃前後の熱があるそうじゃないですか!? 無茶過ぎます、退いてください」

 

 俺はパルトナーから放出されたドローンを、いとも簡単に破壊して進む黒騎士部隊を見つめる。そして救助艇には未だに学園生達が殺到していた。

 

 「まだ避難は終わっていない。それにここからはネームドの戦場だ。こちら側はリオンと僕達で4人だけだ…… やるしかないだろう」

 

 リオンに黒騎士を任せて俺達で1個小隊ずつ迎撃するか? エトは問題なさそうだが、俺とペーターが流石に危ういな。

 

 「確か例の剣豪がいませんでしたっけ? 多分あの太刀筋はそいつじゃ?」

 

 エルンストも剣術が好きで相当訓練しているからわかるか。

 

 「ブレードしか使えない鎧乗りなんかうちの新人内でもドベに近い。邪魔になるだけだ」

 

 「ブレードだけ!? 私も剣術は相当やり込んでますけど、だからこそ棒振りと戦争の違いは理解してますがね……」

 

 エルンストは呆れかえるような声色で、公国の鎧と豪華客船から離れた所で対峙しているクリスの鎧を眺めていた。

 

 「新人の分隊で蜂の巣に出来そうですな。両手広げて懐に迎え入れて貰えるとでも思ってんでしょうかねぇ」

 

 ペーターの声は明らかに侮蔑の色合いを含んでいた。

 

 「強襲する分には、それなりの力量はあるんだろうがな。しかし、2人の言う事がわからない内は、剣豪だろうが剣聖だろうがおしめの取れないひよっこってだけだ。地上と空じゃ振り方一つ異なる。まぁ、そのぐらいは知っておいて貰わないと困るレベルだが……」

 

 一度深呼吸して息を整えて指示を出す。

 

 「リオンの装甲は驚くほど硬い。一先ず無視していい。エトは単独でアタッカー、僕とペーターで分隊飛行しながらエトの直掩だ。エト、出し惜しみは無しだ」

 

 

 「「了解!!」」

 

 豪華客船の護衛は予め積まれていた6機の鎧達に任せて、ハッチを閉じてエルンストを先頭に3機の随伴飛行で迎撃に空へ躍り出るのだった。




初老って40歳からなんですよね。
ですので、イメージ的に60歳前後にお爺ちゃんの年齢を設定しました。

カロネード砲しかないんなら、砲なんか重いだけで全部取り払ってやると憤慨した少年がいたとか(笑)
何で大型から小型化じゃなく、そもそも小型軽量化から始まっているんだと頭を抱えたとか(笑)

ルクシオン曰く、「あんな環境だとやらないほうがおかしいので、やっていた彼等が正しい。だからエーリッヒはこの世界の人間だと当初判断しました。つまり私は悪くありません」

とリオンに言い訳したとかしないとか(笑)

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