乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です   作:N2

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名無しのとおりすがり様、誤字報告ありがとうございました。

うぅ、誤字が多くてすいません。いつも皆様に助けられています。


第37話 ウィングシャーク

 エーリッヒ達ヘルツォーク子爵艦隊が、オフリー伯爵合同艦隊と会敵しようかという頃、リオンは、朝早くから飛行船の港で、ルクシオンの偽装船パルトナーの自慢を聞き流しながら、空賊討伐依頼をしてきたカーラ・フォウ・ウェインを待っていた。

 

 『来ましたよマスター』

 

 「あぁ、見えている」

 

 カーラの顔色は悪く、やつれているようにも見えた。オリヴィアは申し訳なさそうにしている。

 

 「すみませんリオンさん、カーラさんからどうしても来てくれと頼まれてしまって」

 

 アンジェリカとのギクシャクは解消したわけではないが、マルティーナとリオンからの励ましで、オリヴィアは学園祭の時よりも状態は、リオンには良いように見えた。

 

 「いや、構わないよ。空の旅でも楽しんでくれれば」

 

 (そのままリビアに聖女の首飾りを渡せるか?)

 

 「バ、バルトファルト男爵、宜しくお願いします。それと……」

 

 焦り気味に口ごもるカーラにリオンは違和感を覚える。

 

 「げっ!?」

 

 「何でバルトファルトがいるんだよ……」

 

 カーラやオリヴィア達とは別方向から、赤いグレッグと紫のブラッドが、嫌そうな顔をして歩いてきた。

 

 「こっちがげっ!? って言いたいよ。この負け犬共め」

 

 互いに険悪になり、リオンもグレッグもブラッドですら、睨み合う。

 

 「やんのかっ! ぁあん!!」

 

 「調子に乗っていられるのも今のうちだけだぞ」

 

 グレッグとブラッドが声に出して威嚇をし出すと、リオンはオリヴィアの裏にサッと隠れる。

 

 「え、え? リオンさん!?」

 

 「俺はこれからリビア達と予定があるんだ。さっさとどっかいけ」

 

 リオンは慌てふためくオリヴィアに癒されながら、肩越しにシッシッと追い払うような動作で、グレッグとブラッドを逆撫でる。

 グレッグは溜め息を吐きながら頭を掻き、ブラッドはジトッとした目をカーラに向けて問い掛けた。

 

 「これってどういう事かな?」

 

 困り顔で目を逸らすカーラをリオンはじっと見据えている。カーラが隠したい何かを咎めるように。

 

 「え、えっと、あ、あの、私の実家までの足がですね、そのぅバルトファルト男爵の飛行船でして……」

 

 カーラの言葉に3人は顔を見合わせた。

 

 「はぁ!? 俺の大事な飛行船にチンピラ達を乗せろだって!」

 

 リオンの言葉にグレッグとブラッドも切れだし、オリヴィアはあわあわと3人を見ている。

 

 「誰がチンピラだ!」

 

 「お前は本当に嫌な奴だよな!」

 

 「リ、リオンさん、その、言い過ぎですよ…… と、取り敢えず乗りましょうよ」

 

 オリヴィアを挟んで睨み合いが始まり、オリヴィアは困って肩越しのリオンに注意して場を動かす事にした。

 

 「パルトナーに悪戯するなよ。ほら、乗れ」

 

 「チッ、そんなガキみたいな真似誰がするか!」

 

 グレッグが舌打ちをしながら文句を言うので、リオンは鼻で笑いながらさらに言い返す。

 

 「ガキだから注意したんだよ」

 

 「やんのかてめぇ!」

 

 「喧嘩売ってるだろ!」

 

 リオンの物言いにグレッグだけでなく、ブラッドまで参戦してくる。

 

 「ま、まあまあまあ、バルトファルト男爵も皆様も出発しましょう」

 

 リオンはオリヴィアの手を引き、カーラはグレッグとブラッドを宥めながらパルトナーに乗り込むのだった。

 

 

 

 

 「彼女は元婚約者の寄子でね。助けを求めれたから手を貸すことにしたのさ。報酬も出るしその空賊は賞金首だ。マリエの助けになればと思って空賊討伐を決意した」

 

 「その話を聞いて俺も参加を決めた」

 

 グレッグは槍一本の姿とブラッドに至ってはその身一つだ。リオンはこいつらに、そんな装備で大丈夫か? と問いたかった。

 

 (大丈夫だ! 問題無い! と言われそうだな)

 

 『マスター、ヘルツォーク子爵艦隊とオフリー伯爵艦隊が会敵しました』

 

 パルトナーのラウンジで、リオンは2人の話を聞き流していると、エーリッヒを監視しているルクシオンが耳打ちしてきた。

 

 「早いな。映像は?」

 

 『可能です。撮影しておきます』

 

 リオンの心あらずの様子をブラッドが訝しむ。

 

 「どうしたんだ?」

 

 「いや、気にするな。それよりほら、例の紺と緑に青いのは?」

 

 ブラッドがリオンに怒鳴り込む。

 

 「色で僕達の事を呼ぶのは止めろよ! 3人とも実家に呼び出されたよ。マリエは用事があるから来ない。まぁ、用事がなくても危険だから来させないけどね。だから僕達だけさ」

 

 (空賊なんて飛行船や鎧まで持ってるというのに、たった2人、しかも槍一本で何をするつもりだ? それに……)

 

 ラウンジの少し離れた所で、カーラとオリヴィアは話している。カーラはオフリー嬢が、マルティーナにどんな目に遭わされたか知っており、ヘルツォークと仲の良いリオンやオリヴィアに恐れを抱き出していた。

 当初の喫茶店での嫌な態度は、この2日ですっかりと改善されている。

 雰囲気の変わったカーラには、リオンもオリヴィアも逆に戸惑ってしまっていた。

 

 『カーラは焦っていますよ。寄親のオフリー嬢やその他の取り巻きも、戦争がどう影響するかわからないからです。実家も巻き込まれている可能性もありますので』

 

 「実際の所はどうなんだ」

 

 『オフリーの寄子ですか? 参戦はしていません。もちろんウェイン家もです』

 

 「少し早くウェイン家を目指すか…… 行けるか?」

 

 『もちろんです』

 

 ヘルツォーク、オフリー間における戦争の推移が現状不明のため、リオンは急ぎウェイン家へとルクシオンに指示を出した。

 

 

 

 

 手持ち無沙汰を解消するため、リオンはグレッグとブラッドを誘ってカードに興じている。

 いわゆるポーカーであり、もちろんルクシオン特製のイカサマ出来る優れものだ。

 

 「ウゾだろこんなのっ! インチキだ!」

 

 「何連敗したと思ってるんだ! こんなのありえない」

 

 案の定、グレッグとブラッドは有り金をどんどん巻き上げられていった。

 

 「負け犬は皆そう言うんだよ」

 

 「こいつに真っ当な勝負を挑むのが間違ってたよ」

 

 「くそっ、全くだ」

 

 (お前らは少し社会勉強したほうがいい)

 

 やっていられないとばかりに、手仕舞いとなり、お茶を飲みながらブラッドの婚約者の話に移っていく。

 

 「お前の婚約者って評判悪いぞ。何で婚約したんだよ? メリットがないだろうが」

 

 「メリットはあったさ。だからフィールド家は彼女と婚約したんだよ。オフリーは乗っ取られた家でね。先代は商人さ。彼等は貴族の血が欲しい。フィールドであれば尚更……」

 

 グレッグがブラッドの婚約者が派手に遊び歩いている事を非難したが、ブラッドはそれでもメリットがあると話そうとする。リオンは黙って聞いているが、その時、そのメリットにグレッグが気付いた。

 

 「公国か! ファンオース公国との外交で活躍した家だったな!」

 

 「気付いたのかい? 僕の家は公国との国境を任されているからね。外交の話を纏めたら、伯爵の娘との結婚を考えて欲しいと頼まれたのさ」

 

 「成功した時は騒ぎになったな…… あの黒騎士に怯えなくてすむってよ」

 

 黒騎士、公国最強を誇り、ホルファート王国の鎧を数百機墜とし、飛行船も百隻以上墜としている正真正銘の化物だ。リオンとてその名は知っている。

 寧ろこの年代ならリオンが一番知っているかもしれない。前世の乙女ゲーの敵キャラで、余りにも強すぎて課金を決めた宿敵だ。

 グレッグの婚約者の話に移り、会ったのは数回で情も何も湧かないという言葉には、リオンも彼等とて幾ばくかの苦労はしているのだなと感じ入る。

 

 『マスター、空賊の飛行船が二隻こちらに接近してきます。本体とは別、先遣隊のようなものです』

 

 ヘルツォークとオフリーを含めて、ルクシオンには広範囲の索敵を任せている。空賊団、ウィングシャークの本拠地もだ。

 

 「おいお前ら、仕事の時間だ。しっかり働けよ」

 

 リオンの言葉に2人はきょとんとしながら、まだティーカップを持っている。

 

 「敵が来たから準備しろって言ってんだよ!」

 

 「そ、そうか!」

 

 「準備って何を!?」

 

 「マジかよお前ら! 準備って何だと!? グレッグ、お前は実戦重視じゃなかったのかよ!!」

 

 2人は敵と言われても、自らが何をしたらいいのかまったくわかっていなかった。

 

 「もうお前らは船の中で待機だ。何でとか言うなよ。何をするかもわかっていないからだ」

 

 リオンは迎撃準備のためにルクシオンに指示をする。

 

 「ルクシオン、アロガンツの起動を」

 

 『はい、マスター。それと空賊の本拠地も慌ただしいです。手早く済ませたほうが得策かと』

 

 「そうなのか? わかった」

 

 リオンはルクシオンの言葉を頭の片隅に置き、アロガンツに搭乗する。

 

 空賊の飛行船二隻は、パルトナーの真上を押さえ、そこから鎧で強襲するつもりだ。

 常識では、飛行船は横に砲が並べられて取り付けられているため、流れ弾に当たらないようにするためである。

 魔力シールドを展開していれば、いきなりの攻撃で墜ちる訳ではないが、相手はたった一隻、被害を被る事なく制圧したいという意思の表れでもあり、飛行船制圧におけるセオリーで見ても正しいと言える。

 空賊の二隻の飛行船は客船を改造した物だ。あまり良い出来とはいえないが、武装されているため、民間の客船や商船には十分脅威である。

 軍艦級の飛行船は、何処に何隻と王宮に詳細が報告されており、さらに査察も定期的に行っている。

 通常民間に払い下げられる場合もハードルが高い。空賊やマフィアが軍艦級を持っているようであれば、何処かが横流しした可能性が高いという事だ。

 戦場跡から拾って修繕など、とてもではないが空賊の技術力では無理だからだ。使える物は王国直轄軍か貴族が持っていって王宮に報告する。

 空賊団ウィングシャークは、重巡洋艦級を一隻持っている。だからこそ懸賞金が懸けられているのだ。出所も王宮としては非常に気になるという事だろう。

 

 「700m級か、これが手に入ればお頭も喜ぶだろうな」

 

 「大物ですね。本当に乗っているのはガキ4人だけですか?」

 

 ウィングシャークの船長の一人が、パルトナーを見下ろしながら、上機嫌に口笛を吹いた。

 

 「野郎3人に女が1人、もう1人女がいるが味方の内通者だ。丁重に扱ってやれ」

 

 内通者とはカーラの事である。船長クラスは今回の襲撃依頼における詳細を知っている。

 

 「4人とも始末しますか?」

 

 「馬鹿野郎、野郎3人は貴族のボンボンだ。金持ちの婆に売りつけて小遣い稼ぎだな。女の方は平民だからな、俺達で遊び倒した後は、娼館にでも売り捌くさ」

 

 周囲の空賊共はそれを聞くとやる気が漲ってくる。隣を飛ぶもう一隻の飛行船も降下を開始した。

 そのままパルトナーを飛行船で押さえつけて、行動に制限をかける腹積もりだ。

 

 「1人はとんでもなく強いらしいが、学園のガキだ。空賊の戦い方を叩き込んでやれ」

 

 「へい、鎧、制圧組と全員準備させてます」

 

 空賊の飛行船二隻から、20を超える鎧がパルトナー目掛けて飛び移ろうとする。

 旧い型や継ぎ接ぎで粗悪品に近いが、それでも数は多い。この空賊団はまだ本隊は別にある。懸賞金が懸けられるのも納得の規模であろう。

 

 「馬鹿ガキのおかげで楽が出来そうだな」

 

 船長が船員の相槌を聞きながら、後は自分達の飛行船で押さえつけ、逃げられないようにするだけだと考えていると、パルトナーから灰色の重そうな鎧が飛び出して、空賊達の鎧に近付いてくる。

 

 「たった1機だと? ガキが、おい、囲んでや……」

 

 船長の命令よりも早く、パルトナーから出てきたアロガンツは、両手でそれぞれ空賊の鎧を掴み、ぶつけて破壊した。

 破壊した鎧を投げつけてくるアロガンツ、そしてアロガンツは次々と囲もうとする空賊の鎧を殴り、蹴り飛ばして破壊していく。

 それは一際大きい姿も相俟って空賊達や船長に恐怖が生まれてくる。

 

 「上昇だ! 上昇しろ! な、何なんだあれ……」

 

 船長が怒鳴り声を上げるが、言い終わる前に飛行船が激しく揺れ出した。近くにあった手摺りに掴まり船長は叫びだす。

 

 「何があった!?」

 

 「ほ、砲撃です! 獲物が砲撃を!!」

 

 「馬鹿な!? 俺達は真上にいるんだぞ!!」

 

 通常飛行船には真上に向かって攻撃する手段がない。甲板や艦上待機した鎧が攻撃するぐらいだ。

 真下は死角だが、今回のように備えて魔力シールドを展開していたら、それではダメージは通らないだろう。

 

 「あれだけ巨大な飛行船がどうやって大砲をっ!? あっちも被弾だと!? たった4人でどうやって動かしてやがるっ!」

 

 パルトナークラスとなると、艦艇員達が万全の体制を整えると、それこそ千人以上必要だ。魔力シールドの要員がかなり必要になる。

 ヘルツォークは、ここの人数を監視員や索敵員の優秀さで以て、魔力シールドを船全体に張り巡らす事なく、一方向で対応して人員削減を可能としている。

 もちろん整然とした艦隊飛行に、鎧の熟練度があってこそではある。

 加えて糧食をレーションで統一して、厨房員すら削減するという徹底ぶりだ。統一規格化されたレーションは費用削減にもなる。

 

 「降伏だ! 降伏しろ! 早く白旗を掲げろ」

 

 自船ともう一つの飛行船から吹き上がる煙を見て逃げられないと判断した船長は、降伏を船員達に指示をするのであった。

 

 

 

 

 グレッグはアロガンツを見上げている。

 

 「さっさと手伝え脳筋!」

 

 ブラッドは甲板で空賊達を拘束しており、アロガンツを見上げて考えに更けるグレッグに文句を言っていた。

 

 「勝てねえよな……」

 

 グレッグの呟きは風にかき消されていく。

 グレッグが見上げるアロガンツは、重装甲で重そうな見た目とは裏腹に、とても軽やかに空を飛び、空賊の粗悪な鎧など相手にもならなかった。

 

 「何が実戦重視だ。いざ、1人になれば、俺は何も出来ないじゃないか…… ガキか、そうか、俺は粋がったガキだったのか」

 

 家臣達にお膳立てされて、自身が活躍出来ていたことをリオンを前に痛感させられていた。

 敵の接近に即座に対応したリオンとは異なり、自分は誰かにサポートされないと戦えないのだと気付かされてしまった。

 

 「くそ、俺はなんて情けない……」

 

 「何ぶつくさ言ってるんだ! 早く手伝え!」

 

 ブラッドは、1人で空賊達を縛り上げるのに奮闘していた。

 

 アロガンツの中からリオンは周囲を見渡す。

 

 「これで全員無力化が出来たかな?」

 

 『はい。既に飛行船二隻はエンジンを停止しています。逆らっても問題ありません。撃墜するだけです』

 

 ルクシオンは殲滅に躊躇しない。

 

 「馬鹿、止めろよ。持ち帰って売るんだから」

 

 粗悪な鎧もそうだが、飛行船も金になる。空賊達も鉱山労働や、上の人物は王宮への引渡し対象だ。

 

 『撃墜したほうが早かったのでは? このまま連れ帰っても面倒になるだけかと…… おや、まさか……』

 

 「いやぁ、嬉々として人殺しを出来る精神じゃないからね。流石にお前を使って戦うなら自重するわ。ん、何だ?」

 

 自分の判断で人殺しはリオンには出来ない。仮に命令であればそれを理由、言い訳にする事も可能だが、だからこそ、自分から本来は関わりたくはなかったのだ。

 

 (どうしてこうなったのか……)

 

 『ヘルツォーク対オフリーの戦争ですが、終わりますね…… これは驚きです』

 

 「は!? まだ会敵からせいぜい二時間ちょっとじゃないか!?」

 

 ルクシオンの会敵報告からまだ二時間程度だ。リオンの言うように早過ぎるだろう。

 

 『もちろん、今後補給、それにフレーザー侯爵家が、どうも墜ちた飛行船のサルベージや捕虜収用などを請け負っていますので、オフリー伯爵領にヘルツォーク艦隊が到着するのは夕方過ぎでしょう。寄子の浮島へは明日になるかと』

 

 ルクシオンがそう言うという事は、ヘルツォークが勝ったという事だ。オフリー伯爵も早々に降伏したのだろうとリオンは考えて、エーリッヒ達の無事をルクシオンに確認する。

 リオンは学園祭の時にエーリッヒに空賊討伐を請け負うなら、一隻か二隻出そうかと打診されていたが、戦争をするエーリッヒに申し訳なく断っていた。

 そもそもルクシオンがいれば問題無いと考えた事も理由ではある。

 

 「リックやエト君達は無事なんだよな? ヘルツォークがオフリーの降伏を受け入れたのか?」

 

 『エーリッヒやエルンストは無事ですよ。エーリッヒが巡洋艦クラスの飛行船を十二隻中破、鎧35機撃墜。エルンストが巡洋艦クラスの飛行船六隻中破、鎧23機撃墜。双方共に被弾らしい被弾無しです』

 

 ルクシオンの報告にリオンは言葉を一瞬失くす。

 

 「……はぁっ!? 何だそりゃ!」

 

 『それとヘルツォークはオフリーの降伏は受け入れていません。文字通り壊滅させてます。オフリー艦隊三十三隻は、海の藻屑となるでしょう。まだ海に浮いている飛行船も、フレーザー侯爵家が来るまでに沈みそうです。いや、これは見事な包囲撃滅戦でした。遠目からの全体が把握出来る映像がありますので、後程確認なさいますか?』

 

 「……簡単な概要を教えてくれ」

 

 リオンには、何か物語を聞かされているような感覚だ。あの2人はロストアイテムすらない、16歳の学園の1年生とエルンストに至っては、まだ誕生日が来ていないので14歳である。リオンには寒々しい物を感じてしまう。

 

 『はい。ヘルツォーク艦隊三十隻とオフリー艦隊三十三隻が向かいあう中、ヘルツォーク艦隊が砲撃態勢移行前に、高高度から、エーリッヒ達がオフリー艦隊を鎧10機で強襲。オフリー艦隊が混乱する中、ヘルツォーク艦隊三十隻から一斉砲撃、後にオフリー艦隊後方と左翼方面から五隻ずつのヘルツォークの後詰めがあり、点での押さえではありますが、四十隻の砲撃で敢えなくオフリー艦隊は沈黙ですね。オフリー艦隊に問題は多々ありますが、見事と言えます』

 

 概要だけで震えがくる内容だ。どこかで乙女ゲーの世界だとリオンは高を括っていたが、身近な人物が、血生臭い戦場を生きている事を実感した。

 女性に優しい世界なのだろうが、それでもあの中にマルティーナという、友達の義理の妹というには複雑だが、リオンとも親しい女子がいる事にも想像はつく。

 

 「マルティーナさんは?」

 

 『旗艦ブリュンヒルデ、超弩級戦艦クラスに乗艦し、艦隊司令と言っても過言ではない働きをしていましたよ』

 

 「そうか…… 何か世界が違うな……」

 

 リオンとて身一つで小舟に乗り、ルクシオンというロストアイテムを得るに至る冒険を成功させている。

 この世界では、憧れのそして異なる世界を生きるような人物だ。畢竟、自分の事は余り客観的に見れないのだろう。エーリッヒにもそれが言える。

 前世を持つ者の共通事項なのか。そういう意味では、マリエが一番自分を客観視して、努力しているのかもしれなかった。

 

 『マスターの言う乙女ゲーの世界ですか? どうもヘルツォークには相当厳しい世界のようですよ。監視も含めて色々調べましたから』

 

 「後で、映像と共に教えてくれ……」

 

 リオンは、この世界との向き合い方にまで思考を及ばせる。何だかんだと言いながら、オリヴィアにもアンジェリカにも深く関わってしまった。

 モブとして彼女達とは距離を置くべきなのかどうか、考えても答えは出ない。そして、今後起こるであろう戦争をリオンは知っている。

 この世界にも大切にしたい家族はいる。力を持つ者として参加も余儀無くされるだろう事は目に見えている。

 放っておいて逃げ出す事もリオンには出来ない。

 

 まだ昼にもなっていないというのに、リオンは精神的な面から、疲労困憊になってしまったのであった。




何か真面目な話だ…… 人生ゲームなのノリが好きだなぁ、でもあれもちょっと血生臭くなりそうだけど(笑)

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