乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です   作:N2

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むぎちゃのちゃちゃちゃ様、誤字報告ありがとうございました。

い、勢いで書いてしまった…… 楽しかった(笑)


幕間1 マルティーナの日常&女子会

 学園に入学してから5月が到来し、1年生の男子もお茶会を開催し出した。

 わたくし自身は専属使用人を連れていないため、男子からの誘いが非常に多く、その事もあるのか女子とは距離を感じる。あからさまな苛め等はないが、避けられている感じでしょうか。やはりヘルツォークの名は皆が遠慮をするものなのでしょう。

 男爵家から子爵家の男子は、もはやそんな事をいってられないとたくさんの招待状が来て困ります。

 ミリーやジェシカの手帳も予定でいっぱいだそうです。

 

 「ミリー、エーリッヒ様からは招待状は来た?」

 

 わたくしは思いきってミリーに聞いてみる。

 

 「あっ、ティナ、来たよ。でも行っていいのか、ちょうどティナに聞こうと思ってた。ジェシカもティナに聞きたいって」

 

 わたくしに確認してくれるのは助かりますね。

 

 「2人とも王国本土の方々で手一杯でしょう。断っていいわよ。わたくしからもエーリッヒ様に伝えておくわ」

 

 「そ、そう? でも参加してもいいかなぁ……」

 

 「時間は有限よミリー、大切にしないと」

 

 ミリーは王国本土の跡取りを狙っている。そんな事じゃ誰かに取られてしまうだろう。

 友達の為を思い、両肩を正面から掴んで説得する。

 

 「あ、ありがとうティナ。た、頼むね」

 

 「ええ、任せておいて」

 

 そう、これは友達のため。

 王国本土希望のミリーがお兄様のお茶会に参加したら、甘いマスクと言葉でクラっと落ちてしまうかも知れない。可愛い系のミリーが、そんな一時の気の迷いで、王国本土希望を逃してしまうのは可哀想だ。

 わたくしは友達思いのいい事をしたわ。

 

 「あ、ティナ!」

 

 「何かしらジェシカ」

 

 ミリーを見送ったら、廊下を曲がった先から来たジェシカに声をかけられた。

 

 「エーリッヒ君からお茶会の招待状来たんだ! もう嬉しくて、ティナに知らせとこ……」

 

 「駄目よジェシカ」

 

 「えっ、何で?」

 

 「ほら、貴女も話していたランビエール君、王国本土の子爵家のお金持ちの男子、彼から誘われてたじゃない。彼は競争率が高いわよ」

 

 ジェシカは入学当初からお兄様を普通に気にかけていた。ミリーも同じく特にヘルツォークの名にも悪感情を持たず。

 だからわたくしも2人と友達なのですが、だからこそ友達には、縁談はいい相手を選んで欲しい。

 

 「それにあまり他の男子と比べるような素振りは、逆にマイナスよ。彼は選べる立場だから」

 

 「な、なるほど、じ、じゃあ今回は見送るって伝えておいて」

 

 任せてと伝えて、わたくしはお兄様のお茶会へ向かった。

 

 

 

 

 お兄様がお茶会で気落ちしていた。

 しかし、仕方がないだろう。お兄様の評判は微妙ですから。

 

 「エーリッヒ君の顔を見ながらお茶を飲んで、そこから殿下達コースが良くない?」

 

 「あっ! いいかもそれ!! もしくは中休みとか?」

 

 わたくしの存在に気付かずに適当な事をペラペラと

 

 「でもたまに目付きや雰囲気が怖いのよね」

 

 「えっ!? 私ぞくぞくしてけっこう好きかも」

 

 はぁっ!? 

 

 「お嬢様、彼の目は殺しに慣れた人間のものです。不用意に近づかないほうが賢明かと」

 

 亜人種の専属使用人のほうが、女子よりも弁えているというのが複雑ですね。

 

 「ごきげんよう。一体誰の事を侮辱しているのかしら? わたくしに教えて下さらない」

 

 「ひっ!? マルティーナさんっ!」

 

 専属使用人もいる事ですので、魔法を即座に発動出来るように準備しておきましょう。

 

 「あぁ、わたくしも実家では、多少エーリッヒ様に鍛えて頂きましたの。専属使用人の方もお試しになります?」

 

 わたくしから迸る魔力に専属使用人もびくついており、慌てふためいているのが面白い。

 あぁ、なるほど、ペットのようなものね。犬に猫、狐ですか。エルフは何でしょう? 

 

 「あ、あのね…… 別に悪口とかじゃないから!」

 

 「だったら口を閉じなさい。2度と見れない顔にされたくはないでしょう!! 貴女だけじゃないわよ…… そこの専属使用人達も同じにするわ」

 

 睨みつけて一層魔力を噴き出させると、走って逃げていく彼女達。

 全くこの学園の女子はあんなのばかりね。

 

 

 

 

 今夜はミリーとジェシカと食事の約束があったわね。お兄様に伝えておこう。

 

 「エーリッヒ様、今夜は友達と食事に行って参ります」

 

 「まさか、デートかい?」

 

 「違います! 女同士ですよ」

 

 女子会って奴か、と呟くお兄様。

 わたくしが男性と食事に行くと言ったらどんな反応をするのでしょう? 普通に遅くならないようにと言われて終わりそうなのが、無性に腹立たしい。

 

 「じゃあ終わる頃にティナを迎えに行くよ。危ないし心配だからね。僕が迎えに行くから、多少はお酒をいれてもいいよ」

 

 「ありがとうございます。それではこの時間にこの店で……」

 

 ふふ、心配してくれるのは嬉しいですね。帰りも楽しみになりました。

 

 

 

 

 あるレストランの一角、ミリーとジェシカはマルティーナより先に着いたため、待つ間2人で話をしていた。

 

 「ミリーはもう、好い人決まりそう?」

 

 「ええ、ジェシカ。カルロビ子爵家のヴィム君かな。ジェシカはランビエール子爵家のクルト君でしょ」

 

 「まぁね。でも私、エーリッヒ君けっこう本気だったんだよね」

 

 「貴女最初から気になってたもんね。私はバルトファルト君だったなぁ」

 

 ジェシカはエーリッヒ、ミリーはリオンを狙っていたのだった。男2人からしたら、驚愕の事実だろう。

 続けてジェシカがミリーに話す。

 

 「私達って、辺境の男爵家の出じゃない。だから辺境の大変さもまぁ楽しみ方も知ってるし」

 

 「確かにね…… 正妻の子達が羨ましかったのもあるけどね」

 

 ジェシカの言葉にミリーも相槌を打つが、やはり王都で暮らす正妻やその子供達に嫉妬を覚えたのは事実だ。

 

 「でもさ、辺境で旦那様と暮らせば、王都への仕送りなんか発生しないわけよ。そのぶん家には余裕も出来る。なら、旦那様に月に一度か、二月に一度くらいは、王都に遊びに連れて行って貰えそうじゃない? 私はそれで十分なんだよね」

 

 デートにもなるしとジェシカは言う。

 確かに貧乏な辺境男爵家や子爵家の財布事情を苦しめているのは、王都に住まう正妻やその子供達だ。

 自分の妻達に親世代の妻達と重なる時代は、莫大で逼迫する要因となっている。

 

 「そうよね。私達が家内をしっかりすればいいわけだし。辺境の男の子達とは感性も合うし、皆中身はしっかりしてるし優しいしね。バルトファルト君なんかやっぱり憧れちゃうなぁ。だって成功した冒険者よ」

 

 ミリーは成功した冒険者に憧れを持つ、ある意味一般的な女の子だ。

 

 「私はエーリッヒ君が殿下達5人に遠慮して、手を抜いてるところを見た時は凄いと思ったの。あんな物凄い実績があったら、普通もっと偉そうじゃない? なのに謙虚でさぁ、見た目もあの5人と遜色ないし」

 

 ジェシカは見た目で一目惚れし、後から中身を知って一層心を惹かれていた。

 

 「確かに、入学式で見た時は彼が噂の殿下達5人の一人かと思ったもん。だから逆に私は遠慮しちゃってたけど」

 

 「うちの正妻の兄が騒ぎに巻き込まれて、エーリッヒ君の身なりを私は知ってたからね。エーリッヒ君もバルトファルト君も辺境出身だから、私達とも感性が合うし」

 

 2人の好感度が、かなり高い状態であるのにリオンとエーリッヒに全く縁が生まれないのにも理由があった。

 

 「でもバルトファルト君、特待生の子にかなり入れ込んでるからなぁ。あの子確かに可愛いし…… 庇護欲をそそるよね。バルトファルト君みたいな冒険者になると一般的な貴族のルールみたいな物に囚われないんだろうなぁ。貴族が平民の子を正妻にするって、ある意味冒険よね」

 

 ミリーががっかりとした口調で残念がる。

 やはり平民に貴族が入れ込むのは、感覚的に許せない部分があるのかもしれない。特にミリーとジェシカは、相手が辺境でもしっかり先方に嫁ぐ気があるので尚更だ。

 

 「バルトファルト君の噂では、茶器に相当お金使っているそうよ。他よりも冒険で稼げて財力もありそう。エーリッヒ君も実力はかなりあるし、ティナが言ってたけど、領の輸出入部分を一手に取り仕切っているから、御当主様からけっこうなお給料を貰っているそうよ。あの見た目で財力あって鎧の実績も飛びきり。憧れちゃうなぁ」

 

 ほぅ、とジェシカからは溜め息が漏れた。

 

 「でもティナのガードが強固過ぎて……」

 

 「あの子のあれは、凄いわよね…… もうマーキング的な。でも私もジェシカもティナの助言で、ヴィム君やクルト君と上手く行ったからねぇ……」

 

 マルティーナが2人にお茶会に行ったら、次の約束を決めろと言ったり男子の事を褒めろと忠告をくれた。2人の男子のお茶会へ行って、ヴィムやクルトの好みを聞いてくる等の手助けもしていた。それに助けられたのは事実だった。

 

 「あの子、自分が一番人気だってわかってるのかしら?」

 

 「関係ないんじゃない。だってあの子、エーリッヒ君と結婚する気でしょう? 血が繋がってないあの証明って、そもそも2人で結婚するためかと、私は2人見て思っちゃったし」

 

 ミリーの問いにジェシカは、2人の距離感の近さとマルティーナの視線のエーリッヒに対する熱を見た時の印象から、そう早くから判断していた。

 

 「ティナのエーリッヒ君を見る目は、他の女子が専属使用人を見る目よりヤバいからね……」

 

 ミリーは言ってから、マルティーナのあの目を思い出して背筋がぞくりとする。

 

 「バルトファルト君は男の子も憧れる冒険譚だけど、エーリッヒ君はミステリアスなのが女の子好みなのよね。貴族の血を引く見目麗しい青年、謎に包まれた出自…… 実は王族が父親とか? ほら、ミリーだってそういう本持ってたじゃない」

 

 「あっ!? 確かに…… だから女子達も何だかんだエーリッヒ君の事を騒いでたのか」

 

 良くも悪くもエーリッヒは女子の話題に上がっていた。ジェシカの指摘にミリーはなるほどと納得する。

 そこに、早いわねと マルティーナが来店したので、女子3人で姦しくも華やかに花を咲かせるのだった。

 

 

 

 

 マルティーナが来店して、女子会が始まってから2時間以上経った21時過ぎ、エーリッヒはマルティーナを迎えにレストランに到着した。

 

 「ティナ、迎えに来たよ。少し遅れたかな?」

 

 「あぁ、お兄様ぁ。お疲れ様ですぅ」

 

 マルティーナはすっかり出来上がっていた。

 

 「あれっ? ジェシカさんにミリーさんか! ティナをありがとう。2人は迎えは?」

 

 「あっ、これから来てもらう予定です」

 

 「エ、エーリッヒ君その姿は?」

 

 ミリー達は例の男子達に迎えを頼んでいたため、酔った所をまだ見せないよう、2時間でワインをグラス一杯しか飲んでいない。ヘルツォーク産の1年物のワインをマルティーナに勧められて嗜む程度に味を楽しんでいた。

 ジェシカはエーリッヒの姿に気を取られた。専属使用人達が着用するような、上等なスーツを着込んでいたからである。

 

 「あぁ、これか。今日はさっきまで商会やその下の納入先と打ち合わせをしていてね。若造だから舐められないようにね」

 

 「はわぁ、お兄様ぁお似合いですぅ」

 

 マルティーナが目を蕩けさせるのも2人にはわかるほど、エーリッヒの仕立ての良いスーツは似合っていた。180cmに届きそうなスラリとした長身、実用面を重視した引き締まった肉体。細身ではあるが、肩幅と胸板からは、十分な筋肉が付いている事がわかる。

 

 「「いえ、お似合いです」」

 

 ミリーとジェシカも目を奪われてハモっていた。

 

 「ほら、ティナ。よっと、何だ軽いな相変わらず」

 

 身体の力を抜いて深く腰掛けていたマルティーナを起こす為に、膝下に手を差し込み、もう片方の手で背に手を回して抱き起こした。

 

 ((お姫様抱っこ!? そんな自然に!!))

 

 「んふぅ」

 

 マルティーナはご満悦だ。下ろされてからは直ぐ様エーリッヒの左腕に抱き付いている。エーリッヒが伝票をすかさず摘まみあげた。

 

 「あ、それは……」

 

 「ティナを楽しませてくれたお礼さ。またティナを誘ってやって欲しい。じゃあ、学園で」

 

 会計にそのまま向かう。

 

 「あれっ、多いんですが?」

 

 「見ての通り手が放せなくてね。うちのワインをありがとう」

 

 「あぁ、ヘルツォークの。いえ、評判いいですよ。またお嬢様もご贔屓に」

 

 「ご馳走様でした。美味しかったです、また宜しくお願いしますね」

 

 「ありがとうございました」

 

 洗練された仕草から挨拶するエーリッヒ、ミリーとジェシカは魅入っていた。

 

 「あれはヤバいね…… 本当に私達と同い年なの?」

 

 「私さ…… エーリッヒ君なら、2番目でもいいかな。ティナとも仲良いし…… 甲斐性あるし、幸せにしてくれそう」

 

 「目を覚ましてジェシカ! あのスマートさに私もぐらついたけど、ヴィム君とクルト君は人間性も良し、家の財政も良し、王国本土で王都にも近い三拍子揃った間違いなく逸材よ」

 

 血迷い始めたジェシカを揺さぶるミリー。ジェシカの言葉に頷きそうになったのは内緒だ。

 だがヴィムとクルトは、人柄も良く努力家だ。自分自身で才能が際立っていない事を認めてもいる稀有な人物。あの2人に言い寄られてそれを蹴るのは、正気を疑われる程だ。2人なら将来も安泰だろう、無謀に手を出さずに慎重な判断が出来る。ミリーやジェシカはそれを支えればいい。

 

 「そ、そうよね。現実を見据えないと…… あの学園の女子達みたいになるわ」

 

 マルティーナは、このあと滅茶苦茶いい夢を見た。

 

 後日、学園の男子が別の席でこの話を聞いていたため、リオンとエーリッヒに告げ口をした。ざまあみろと言いたげな笑みと共に。

 

 「「絶望したっ!!」」

 

 ティナ、謀ったなティナぁああ!

 

 「お前の妹の独占欲に俺を巻き込むんじゃないっ!!」

 

 「はっきり言う、気に入らんな」

 

 ぐはっ、リオンに修正された、これが若さか。




気休めかもしれませんがエーリッヒ君ならうまくやれますよ。

ありがとう。信じよう。

リオン君もリック君も学園楽しんでるな。

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