乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です 作:N2
本筋には九割関係ないです(笑)
最初の方には別途で描く予定の話と最後の方に今後の展開に関する微妙な人物が登場します。
リオンから聞いた内容で、急遽バルトファルト領に寄ってからリオン達はアルゼル、その後リックは別れてファンオースに向かう前のやり取りです。
リックは偶数月はファンオース、奇数月はアルゼルに赴きます。
リオン達一行はアルゼル共和国、そして俺はファンオースに向かう道すがら、一度バルトファルト領に寄った。
「こ、これは醤油か!? 寝かせ方がいまいちとは言え……」
「一応そろそろ完成しそうなんだ。味噌は既にあるぞ」
「味噌はヘルツォークにもあるよ。ほら、手前味噌と言うだろ。各家庭で作ってたよ」
ヘルツォークの本島には根粒菌が無く大豆を栽培できない。今は直接輸入取引しているが、過去は寄子に仕入れて貰い、油と家畜の飼料にほとんど使い切っていた。
本家含めたヘルツォーク十二家で余った数少ない大豆を味噌にしていたというわけだ。正しく手前味噌と言う奴だろう。
「味噌って家で作れるの!?」
本来なら叔母さん、お前のお母さんも作れるだろうけどね。面倒くさいから市販なのは俺の母もそうだった。
「あぁ、割と簡単に作れるぞ。各家庭で味が異なるのが趣深い。しかし醸造が得意なヘルツォークでも醤油の製造は着手していないな…… 輸入の魚醤が調味料としてあるが、人気はいまいちといった所だよ。しかし、これがあれば……」
ヘルツォークは長年孤立気味だったからこそ、家畜のすべてを食べるように扱う。骨等は出汁にして捨てるところは何も無い。牛も豚も鳥もそうだ。
牛のヨメナカセは贅沢品でもある。まぁ、率先してマルティーナもマルガリータも食べようとするのは愛嬌ではあるけど。
牛骨も豚骨もある。塩も味噌もある…… 実際に作ったこともある。だが、ある一つの味、そこから派生する味は再現できなかったのだ!
個人的嗜好で、俺は米はどうでもいい。前世でも丼物やカレー系でしか食さない。米が食卓になくても一向に構わない。
だがアレは! アレだけはあの調味料を使用した物もレパートリーに加えたいのだ!
そして俺は、リオンとマリエを呼んで演説を行う。事前にクレアーレ博士に盛り上げるための仕込みすら頼んだのだ。
おバカファイブには近寄るなと申し付けて適当に仕事をして貰う。
ここに来る前、一週間のヘルツォークキャンプで身体と心を苛め抜いたあの五人は、一先ずは俺のいう事を聞いている。その話はまた後日にしよう。
さぁ、始めようじゃないか!
諸君、私はラーメンが好きだ。
諸君、私はラーメンが好きだ。
諸君、私はラーメンが大好きだ。
天下一品が好きだ。
京都系が好きだ。
家系が好きだ。
和歌山商店が好きだ。
天天有が好きだ。
熊本系が好きだ。
豚骨系が好きだ。
味噌系が好きだ。
塩が好きだ。
京都で。大阪で。神奈川で。東京で。
一条寺ラーメン街道で。梅田東通りで。相模原ラーメン通りで。
名古屋で。横浜で。
あの世界で作られるありとあらゆるラーメンが大好きだ。
専用ガス代にならべられた寸胴たちが高火力でガラと共に煮沸つのが好きだ。
一次処理後に湯気が舞う各種ガラ達が、バラバラに砕かれ店内を充満する香りが満ちる時には心がおどる。
器に山盛られた野菜と肉に初めて挑む相手を横目に、颯爽と追い抜いて食すのが好きだ。
どんぶりのコーナーからインを突いてスパートをかけ、麺が汁を吸いだす前に完食した時など、胸がすくような気持ちだった。
ある芸人が好きな地元店とテレビで紹介された後、自分はその芸人より年下なのに「もっと昔から来てくれてましたよね」と店員に言われるのが、その芸人に勝利するようで好きだ。
ロケが来るんですよと言って、店員同士の湯切りの競り合いで何度も何度も麺を打つ様など感動すら覚える。
食べログで各種競合を僅差で抑えて、推しの店が優勝し連覇の達成などはもうたまらない。
昂る客達が、店員の気持ちいい挨拶と共に食欲を刺激する食券機で、じゃらじゃらと煩くお釣りをややもすれば忘れるかのように席に駆け抜けて行くのも最高だ。
待ち望んだその日のラーメン三食目で、リアルバースデーだからこそ、自身が健気にも胃を奮い立たせて最後の一飲みを達成した時など絶頂すら覚える。
常連にサービスです、と端からいい所取りをされるのが好きだ。
先に並んでいたというのに手違いで後回しにされ、更には忘れられてポツンと席に据わっている様は、とてもとても悲しいものだ。
決まった席でまたもや忘れられてしまうのは、もはやネタとして好きだ。
チェーン展開しているというのに、京都では店によってスープの味が異なるのは、驚嘆と落胆で病みつきになって堪らない。
酒の後に食べたくなる習性に駆られて、飲み過ぎて気持ち悪いにも関わらずラーメンを食べた後、結局帰り際の側溝に吐いてしまうのは屈辱の極みだ。
諸君、私はラーメンを、慈愛に満ちたラーメンを望んでいる。
諸君、私に賛同する前世を共有する諸君。
君達は一体何を望んでいる?
この世界でもラーメンを望むか?
心身を満たして病まないラーメンを望むか?
体重と血圧に暴虐の限りを尽くし、それでも止められない食の欲求で度肝を抜かす、麻薬の様なラーメンを望むか?
『ラーメン! ラーメン! ラーメン! ラーメン! ラーメン! ラーメン! ラーメン!』
よろしい、ならばラーメンだ。
我々は満身の力をこめてどんぶりに咲く大輪のチャーシューの輝きを食らおう。
だがあの小さなどんぶりでは、16年もの間堪え続けてきた我々にただのラーメンではもはや足りない!!
ラーメン激戦を!! 一心不乱のラーメン激戦を!!
我らはこの世界ではわずかに1年、12か月に満たぬ短い付き合いに過ぎない。
だが諸君は、何度も前世で食した古強者だと私は信仰している。
ならば私は、諸君と私で王国すらも凌駕する驚異の集団となる。
乙女ゲーの食文化を優先しラーメンを忘却の彼方へと追いやり眠りこけている連中をそっと起こそう。
胃腸を整え食欲を増進させるのを手伝い、
連中に暴力的なの味を植え付けさせてやる。
連中にラーメンの中毒性を味わわさせてやる。
天と地のラーメン味には、奴らの哲学では思いもよらない事があることを知らしめさせてやる。
『ラーメン中毒だ! ラーメン中毒者の名だ!』
王国民の腸をラーメンストリームで、王国中を満たし尽くしてやる。
そうだ これが我々が待ちに望んだ世界の食事だ。
私は諸君らに約束通り与えてやろうぞ。
この麗しの食を! この麗しのラーメンを!
『名人殿! 名人! 麺達! 達人殿! ラーメン伝道師殿!』
そして我々はついにラーメンを迎え、ヴァルハラの地へと至る。
リオン及びマリエ、それにルクシオン先生とクレアーレ博士に伝達。この世界におけるラーメン伝道師の命令である。
さぁ、諸君。究極であり至高のラーメンを創るぞ。
演説後に沈黙が流れる……
「いや、熱意は分かったよ。でもクレアーレまで何してんだ?」
『マスターやマリエちゃん達のソウルフードでしょ。興味あるじゃない!』
リオンはこのどこかで聞いたことがある演説にげんなりとしている。
「ラーメン食べれるの! 最高じゃない! お酒飲んだ後に何か足りないと思ってたのよねぇ」
マリエは目を輝かしている。
「この世界だと採算ベースに乗せるのが未だ難しいから、今はまだ僕が豚骨や味噌、そして塩。それらを複合したタイプの物とかを楽しんでいるぐらいだ。ヘルツォークで試しに食べさせた時は好評だった。だが個人的好みで、あともう一種の調味料が欲しいと常々考えていたんだ」
「あぁ、なるほど。それで兄貴の醤油ね!」
マリエもリオンも納得している。
「採算ベースに合わないって、商売は出来ない感じか?」
「各種ガラを店用に調達するところまでは手が回っていないからね。追々かな…… ヘルツォークではなく商会を頼らなければならないし、リッテル商会の品目にもあるけど取扱量が少なく、品種も高級品だから平民や下級貴族が利用できない店に卸している。ラーメンの場合作ってみて分かったが、ガラなんか安ければ安いほうがいいからね。ラーメンの場合、ある種雑多で大味な組み合わせだからこそ、ガラによって大した味に違いはない。現状で大衆店で出そうとしても100ディアは最低でも設定しなければならないよ。手間もそうだが材料費がね」
100ディアにマリエはビビっている。
「でも親しい人達で楽しむ分にはいいのか。お前も俺も金には困っていないしな。ぶっちゃけ俺も滅茶苦茶ラーメンは食べたい」
金には困っていないという所にマリエは俺とリオンを恨めしそうに見ている。
「出来れば、僕達が留学中に醤油を完成させてくれると嬉しいね。アルゼルに僕がいくときには希望があれば塩でも味噌でも豚骨系でも、披露してあげるよ」
『じゃぁ、私は王国に残るから、安く手に入りそうな材料の仕入れ先を探しておこうかしら』
「いいのか?」
俺はクレアーレ博士の言葉に前のめりになった。
時間が経てば俺が作るよりも職人が作る方が旨いラーメンを食べる事が出来るだろう。ヘルツォークは試作と言うかお披露目と慰労が目的だから、ヘルツォークに戻らないと職人の味を楽しむことが出来ないのが難点だ。
王都でも食べたいと常々願っていた。
『えぇ、エーリッヒには子供が旧人類の遺伝子をどう含むかのデータが取れるから便宜を図るわよ。マスターもさっさと子供を作ればいいのに』
「俺はそういうのは慎重なの!」
子供をクレアーレ博士の実験に使用されたら堪らないが、データ収集とルクシオン先生も明言しているから大丈夫だろう。
俺のクローンを作って記憶を電子的処理して移してみてよと言ったら、リオンに激しく却下されて頓挫している。
酷い……
クレアーレ博士はそれにプラスして一万通りの思考及び状況判断テストを行い、大成功でも一卵性の双子で本人そのものにはならないだろうとの事。
それでも、クラリスやティナは喜びそうだ。ナルニアは仕事に有用だとドラスティックに割り切りそうだ。
ヘロイーゼちゃんは涎やらなんやら決壊して喜んでくれそう。ヤバいな……
「それって兄貴がヘタレなだけじゃない?」
「お前ら二人と一緒にすんな!」
「そこに僕を含めるところが、僕に対する敵意を感じるんだけど」
最近リオンが俺に対して酷い。
「いや、お前の王宮の療養室では、怒りで震えて涙が止まらなかったからな。しかも何だよあの婚約式は! 四人とも黒いウェディングドレスとか恐怖でしかなかったよ!」
表面上問題なくレッドグレイブが参列したいとの意向があって、リオンの婚約式の後に俺達の婚約式を行った。
だけど、まさかクラリス達が黒いウェディングドレスを着た事実には、俺も意識が飛びそうになったよ。しかもアクセ等の飾りは赤や深紅…… ブラッディ―マリーかな。とても飲み干せそうにない物だった。
どうしてこうなった?
「おっも…… お
マリエの評価が酷い。
「そ、そんなことを言う二人にはラーメンは食べさせません!」
俺は宣言した。真っ先に反応したのはマリエだ。
「もう、重い女を嵌めつつ救う気にさせて、更に深い沼に嵌めているお
反射的に更に俺を貶すマリエは、咄嗟だからこその本心なのだろう。
殴ってもいいかな?
「痛いっ!?」
取り敢えずデコピンしておいた。
「俺もラーメン食いたいからいいけどさ。あれ、どうすんの?」
俺達が話をしている一室の窓から艦橋を見下ろすと、そこには四人の女性がいた。
「リオンに押し付けようと考えている」
「ほんと止めて! マジ無理だから!」
「ねぇ、お
マリエの言葉にげんなりとしてしまう。
二人は二つ下である四バカの妹、ジル子ちゃんとブラ子ちゃんだ。マーモリアがヤバいのとフィールドのゴマすりで、派遣されてきたジル子ことジュリアちゃんにブラ子ことブリアナちゃんだ。まだ学園入学までには一年あるからね。仕方ないね。
もう二人は、後が無いとレッドグレイブに脅されて、強制的についてこさせられた元アンジェリカの取り巻きの煌びやかなエヴァとカチューシャボインのアンナだ。
「アンジェリカの元取り巻きの二人はさ、追々仲直りさせたくないか?」
「……まぁ、アンジェも幼少期からの知り合いだしな。心入れ替えて謝罪するならいいとは思うよ」
筋を通せばリオンも受け入れると言質を取った。
「だからさ、僕は考えたんだ。リオンの側室にしてやってよ!」
キラッ!
学園では全く使いどころが無かったイケメンスマイルをしてみた
「グハッ! おふっ!!」
リオンに殴られ、更には何故かマリエにも殴られた。
「俺の家庭に爆弾を投下するんじゃねぇ!」
「バカじゃないの! 兄貴にそんな甲斐性あるわけないでしょうが!」
リオンが怒るのは分かる。だがマリエの怒りが分からない。
「マ、マリエ、まさか今世では血が繋がらないから―― グホッ!」
「それ以上言うんじゃねぇよ!」
マリエのミドルキックが炸裂した。
百歩譲ってリオンの怒りはまぁ分かる。けど、マリエの怒りって理不尽じゃない?
1年生編までのオリジナル人物の紹介は必要か?
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必要
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いらね〜し
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どっちでもいいかなぁ