乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です   作:N2

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一年生編、終了しました!


第114話 エピローグ

 ホルファート王国がファンオース公国に勝利し、終戦における各種条項に関する書面の締結も現在は済んでいる。残すところはこの戦いにおける褒章に関する式典を残すのみとなった。

 リオンは連日に渡り、学園入学前の上級貴族家出身である婦女子とお茶の席を共にしており、ミレーヌからは王国中枢主体による歴史的政治判断を聞かされる事となった。

 リオンの姉であるジェナの専属使用人、亜人種のミオルがフランプトン侯爵派閥へ金銭で裏切った事実を理由とした宮廷貴族達が、貴族社会における、ある種理不尽な高待遇を解消しようと法案を纏め出した事を知ったリオンは、やっとこの世界の歪な社会通念が改められると安堵していた。

 

 そして、時間が空いたこの貴重な日を以て、エーリッヒと話をしようと考え、彼が療養も兼ねている王宮内にある最上級の療養個室へ、早朝にも関わらずに足を運んだのであった。

 入室を果たしたリオンは、何処にぶつければよいのか不明で理不尽な怒りに駆られてしまった。

 

 「こいつっ…… このまま殴りつけて起こしてもいいかな?」

 

 「バルトファルト卿、私は暫しお待ちをと申し上げた筈ですが……」

 

 リオンの目の前には、広いベッドの中央で未だに寝ているエーリッヒがおり、その左右にマルティーナとクラリスが侍るように寝ている。極めつけはヘロイーゼがエーリッヒに覆い被さりながら、エーリッヒの胸元で幸せそうな寝顔を見せ付けている。

 エーリッヒが寝苦しそうな表情をしているのが、唯一の溜飲が下がる要素ではあるが、それすらも贅沢過ぎて殴りたくなる衝動にリオンは駆られてしまう。

 

 「リオンでいいよナルニアさん。俺もリックも忙しいからさ。空いた時間は有意義に使いたいし…… ていうかナルニアさんは、皆寝てるのにもうカッチリとした姿なんだね」

 

 流石にジャケットまでは羽織ってはいないが、ナルニアは既にヘルツォーク領軍特有の軍服を着用していた。膝丈に少し切れ込みが入ったタイトスカートとフリルブラウスだ。

 リオンが好む純粋な胸部数値を満たない筈だが、何故かリオンの視線は釘付けとなっていた。

 

 「リオンさん、視線があからさまですよ。リック様はそのような不躾な視線は致しません。アンジェリカ様やオリヴィアさんは、リオンさんのその視線を受け止めるでしょうが、余り不用意にその視線を女性へ向けないほうがいいと思いますよ」

 

 ナルニアは、いやらしい目をどうにかしろとオブラートに伝えた。

 

 「リックはそういう視線をナルニアさん達に向けないの?」

 

 「向けないというより感じません。女性の意識が男の目から外れている瞬間に、サッと見て把握すると仰有ってました。その熟れすぎた女性への接し方もどうかとは思います」

 

 溜め息を吐くナルニアは、リオンから見るとそこには多少の嫉妬が混じった吐息に思われた。

 

 「……ナルニアさんも変わったね。一学期は家柄と見た目で、俺たち辺境男爵グループに人気はあったけど、あのオフリーと仲良かったから嫌厭されていたというのに…… 全くこの男は……」

 

 得も言われぬ嫉妬感から、リオンは拳を握り込みながらエーリッヒを睨みつけた。

 

 「私もオフリーお嬢様の専属使用人を借りて遊んでましたから、てっきり男子には疎まれていたかと……」

 

 「別にそんな程度は皆気にしないだろ。俺だって婚約後にその辺りを清算して身綺麗になるのであれば、それまでいくら遊んでても構わないからなぁ。寧ろそれをしてくれる上級クラスの女性は男にとって好条件でしょ?」

 

 辺境だったり貧乏な男爵家出身は、そもそも上級クラスの貴族女性に人気が無いため専属使用人、要は女性専用の性奴隷だが、それ以外にも人間の愛人すら面倒を見ろと言われて、漸く結婚が可能だ。

 現状のナルニアは、学園ではトップクラスの結婚したい女性となっていた。

 

 「ふ、ふふふふふ…… 表現は異なるとはいえ、リオンさんとリック様は少し似ていますね」

 

 大人の女性が表現するかのようなナルニアの親愛を含めた笑みを見たリオンは、不意打ちをくらったかの如くドキリと胸がざわついてしまう。

 

 「む、結ばれた後にお互い尊重するなら、過去なんかどうでもいいだろ」

 

 少々しどろもどろになりそうであったリオンは、ギリギリの所で恰好を付けた返答をする。

 元々前世のリオンも美人であれば、ギャルであろうがお清楚だろうが巨乳ならば大好きだ。

 ただ、その経験の無さから虚乳を見極めきれないという欠点が有るだけだ。ただ、好きになった相手であれば、リオンも最終的にはそこを気にしない誠実さは有るだろう。

 

 「……自分を棚に上げてリック様の過去を気にする私は浅ましいのかも―― あ、起きましたね。ご主様、申し訳ありません。リオンさんの無作法な入室を止められませんでした」

 

 ナルニアの物言いにリオンはギョッとするが、次第に目覚めて来た女性陣に土下座をする羽目となった。

 アンジェリカとオリヴィアさんに言おうかしら、と(のたま)うクラリスの言葉にリオンは床におでこを更に擦り付ける羽目となった。

 リオンの唯一の救いは季節柄、厚手のネグリジェを女性陣の三人が身に着けていたからこそ、その程度で済んだのかもしれない。

 

 今はベッドを稼働させて身を起こしたエーリッヒが、椅子に座るリオンと向き合っている。

 身分が高い人物が利用する、広く幾つも部屋がある特別療養室だが、ところかしこに書類が多く積まれている。

 一見しただけでリオンにもエーリッヒが、療養しながら仕事をしているという事実が理解出来てしまった。瀕死から目が覚めて幾日も経っていないというエーリッヒの状況を知るリオンは、流石にワーカーホリックも行き過ぎだと心中で呆れてしまう。

 クラリスにマルティーナ、そしてヘロイーゼの三名は厚手のガウンを羽織って、エーリッヒとリオンの二人をこの広い特別療養個室のリビングルームの端から、ソファーに座り見つめている。

 ナルニアが淹れたお茶の芳香が室内を彩っていく。

 

 「リオン、言いたいことがあるんだろう? ファンオースの件かい?」

 

 そしてエーリッヒは改めてリオンに対して、対ファンオースへのヘルツォークと王家による強制的で隷属とすら思える()()の密約を話した。

 

 「ざっけんなよ! 税金払ってる同国の貴族に対してそんな酷い……」 

 

 予め例の対ファンオース参戦における密約は、クラリス達に話している。個別にベットの上でだが、エーリッヒもそのような場でしか話を出来なかったのだ。

 この世界における未婚の貴族女性に対する信頼と信用は、情事の後でしか確信が持てなかったというのがエーリッヒの考えでもあったからだ。馬鹿正直にそれを伝えて、クラリスやヘロイーゼが身支度を終えた後には、彼女達のビンタが炸裂したのは言うまでもない。それはクラリスのみならず、あのヘロイーゼでさえもそうであった。

 マルティーナは…… そのような事はあらゆる意味でどうでもよかったらしい……

 

 「俺は知らなかったとはいえ――」

 

 そこでリオンは改めてエーリッヒと繋がりの深い四人の女性陣を見渡してからエーリッヒに向き直る。

 

 「――お前が守りたいものはわかったよ。今回の件は仕方が無いんだろうな…… でもだからこそ、もうお前はそんな道を進むなよ。ヘルツォークを超えて、今はお前を必要とする人達がいるんだから」

 

 「……僕は死に急いでいるつもりは無いよ。それにお前は性格的に、()()は無理だろう?――」

 

 あれ、要は戦争における殺しという通常であれば避ける事の出来ない部分だ。

 それを暈したエーリッヒの言葉をリオンも正しく理解して顔を顰めながら頷いた。

 

 「――その部分は僕を頼ればいい。リオン、お前にはルクシオン先生に助けられた大きな恩がある。お前が()()をしたくないというのであれば、僕がキッチリと責任は持つよ」

 

 「今回の公国戦で俺は、()()を出来なかった…… 多分、今後も無理だとは思う。それに、もうあんな悲惨な戦いは無いだろうしな」

 

 現状はそう考えているリオンも近々知る事となる。

 この世界という現在における星の年代記で、あの乙女ゲームがシリーズ物として続くということを。

 

 「リオン、それでも…… お前の精神に負荷が掛かるのであれば僕が始末をつけるよ。僕はもう、()()を行うのに何の感慨も抱かないからだ。僕の事を気にするな…… お前はアンジェリカとオリヴィアさんとの未来を良い物にしていけばいいだけだ。まぁ、マリエに関しては僕とお前で適度にコントロールしてやればいいだろう。僕はクラリスに嫌われたくないし、お前だってアンジェリカに嫌われたくはないだろう?」

 

 「……勿論だよ。まったく、頭が上がらないよ――」

 

 郷愁に浸るリオンは思い出す。

 小学生時に揉めに揉めた三人の同級生を転校させた件、妹はビクついていたが、要はチラシに悪行を語り彼らの近所と親類縁者にローラー作戦を敷いて孤立させたことだ。

 リオンは、当時社会人二年目の従兄に相談して行った。認め印を用意して代理人として戸籍や課税証明書を入手したリック、従兄(アニキ)はヤバいと思った。

 従兄(アニキ)が言うにはそれでも温いと。

 平成後期前では全国ニュースで取り扱われる事案だろうが、90年初期では精々が地方版に載るかどうか。ネットも無いから社会的に殺そうとしたら、リオンが小学生の高学年時との手法は、平成初期では異次元というぐらいに差が出てくる。

 そう、表沙汰になりにくいからこそ、親類縁者に対してもその悪行を伝え、世間と親族間からすらも孤立させたらしい。

 結局その三人の家庭は穏便に引っ越した。

 彼等の持ち家も従兄が伝手を使い業者に売却して両手の仲介手数料6%を得て、更に業者経由のエンドに仲介で売却し6%の仲介手数料をせしめた。

 職種が違うくせに臨時で1,000万近く儲けた鬼のような従兄をリオンは思い出していた。

 「小利口な奴ほど嵌めやすい物だよ。2,000年代一桁の時代の役所なんて造作もない。訴えられても証拠は残らない。安心しておけばいい」そう言ってゲーム機のハードとソフトを10本プレゼントされたリオンは、小学生という事もあり純粋に喜んでいた。

 今思うと恐怖しかないとリオンは思う。

 

 「――だけど、お前は戦争で無茶をするな。お前は怖いんだよ…… 自分の命を真っ先に切り売りする所が怖いんだよ」

 

 「リオン、僕は貴族だ。王国の貴族は、敵を蹂躙して殺した後に略奪する。野蛮だがそう歴史で物語っているし僕もそれを受け入れている。だけど力を手に入れたお前はそれを受け入れなくてもいいとは思う…… 無駄に気にするな。自分が思うようにやればいい。借りを返すつもりで僕が何とかするよ」

 

 「お前の何とかとぼやかすような手法は怖すぎるんだけどな……」

 

 二人きりではなく、エーリッヒの関係者である女性陣がいるため、終始お互いに暈しながらの話であったが、前世での縁浅からぬ者同士では、それなりに通じ合っていた。

 そして、褒章授与式典がその日の午後より始まった。

 

 

 

 

 褒章授与においてリオン・フォウ・バルトファルトは伯爵に陞爵され、尚且つ三位下の宮廷階位を下賜された。

 リオンとミレーヌ王妃は目を見開き驚愕していたが、その功績から建国時より制定されて尚、授与者がいなかったホルファート大十字星章を与えられた。

 もはや観覧用として王宮に飾られていた勲章ではあったが、まごう事無き王国存亡の危機を救う手柄、下級貴族の浮島よりも大きいモンスターに加え、敵ながら勇名を轟かせる黒騎士を討伐したという仕組まれた手柄を挙げたからこその授与であり、参列した貴族で不満を述べる者はいなかった。

 その時リオンは、ローランドと()()()()()()()を睨んでいたが、その行いは記録上に明記はされなかった。 

 そして長きに渡る王国の棄民政策に晒されていた領が、この授与式を以って解放された。

 ヘルツォーク子爵領は伯爵領となり、その嫡子であるエルンストは成人したばかりの学園にすら入学していない身で、剣柏葉付き騎士殊勲十字章に加え、艦隊指揮殊勲十字章を授与された。これは王国軍の編成による功績が加味されている。そしてエルンストはホルファート勇猛騎士列伝に続き、勲章授与における総数の格としても最年少として、エーリッヒを抜くこととなった。

 最後に王族として戦争前に認められたエーリッヒ・ラファ・ラーファン子爵は、宮廷階位四位下を臨時的に与えられた。

 そして公国正規鎧84機撃墜及び公国軍艦十二隻撃沈という功を評価され、黄金剣柏葉付き騎士殊勲十字章と柏葉付き艦隊指揮殊勲十字章に空戦突撃章金章、更には戦傷章金賞を授与された。しかし、勲章の格としてはホルファート大十字星章を授与されたリオンの後塵を拝する結果となったのであった。

 更に女性としては異例の艦隊指揮殊勲十字章を王国の歴史で初めて、マルティーナ・フォウ・ヘルツォークは授与されたのであった。

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