乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です   作:N2

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時系列でいうと、公国が公爵家として王国傘下、いわゆる併呑が決定した頃合いの話です。
リオンのキャッキャウフフなお茶会は、ミレーヌ様から書籍及びWEB原作様の【残酷な真実】を聞かされる時点になります。

女生徒達の話部分はその後日です。



戦後の一幕1 公爵家の後始末、裏切りの女生徒達

 俺が管理している新貴族街と旧貴族街に交差するように配置された繁華街の一区画。

 雑多な雰囲気が蔓延し、ファンオース公国との戦争直後もなんのそのと喧騒が渦巻いていた。

 貴族女性が足を運ぶ小洒落た商業区や貴族に属する女性ターゲットの繁華街とは別方向にあり、復興等に携わる平民の男や更にそことは別けられた場所では、貴族男性の姿を見掛ける場所であった。

 

 中規模だが瀟洒な外観を擁した建物内、俺の向かいには、綺羅びやかで華やかなモデル体型の美女に、カチューシャを使用してショートヘアにアクセントを施したグラマラスな体型の可愛らしい女性が、両者共におどおどと警戒するように座っていた。

 

 「一先ずは軟禁からの解放おめでとうと言った所かな」

 

 店を管理している三十歳手前の準貴族家出身の女性が用意してくれたお茶を飲みながら話を始めた。

 二人もつられるようにお茶に口をつける。

 

 「わ、私達は家から指示されただけで! よく、わかってなかったのよ……」

 

 「そうよ! なのに王宮もまともに話を聞いてくれないし!」

 

 レッドグレイブ公爵家の寄子である伯爵家出身の(きら)びやかちゃんはションボリとし出すが、レッドグレイブ公爵家陪臣家筆頭出身のカチューシャちゃんは、怒りがこみ上げてきたのか、声を張り上げだした。

 

 「例の修学旅行時には、家自体が派閥を抜けるのは知っていたみたいじゃないか?」

 

 ギロリと片目で睨み付けるとあっさりと口を割り出す。

 あれから数ヶ月経っている。今やファンオースとの戦争は落ち着いているのだ。こちらが知っている事も把握済みなのだろう。

 

 「うっ……」

 

 「それは、まぁ、お父様達がそういう話をしていたのは聞いていたわ」

 

 二人の様子をこの世界での経験豊富な店舗責任者の女性、所謂ママと一緒に眺めながら、何でこんな状況になっているかを思い出していた。

 

 

 

 

 レッドグレイブ公爵家を裏切った彼女達の家は取り潰しではなく、頭をすげ替える事に決定したのだ。

 冬期休暇中に先代と当主、嫡子を処刑して、分家から彼女らの家の当主として養子を迎える段取りを既に行っていた。

 残った彼女らの母親や小さい兄弟は平民落ちか更に養子に出された形だ。

 ここにいる彼女らも現状は平民落ちであり、ただし本人達は訳もわからずに利用されただけということで、ファンオースとの戦争が落ち着くまで政治犯を収容する留置で軟禁されていたのだった。

 そしてその二人の身柄を俺の管理下で扱えという、無茶な要求をレッドグレイブ公爵はしてきているのだ。

 

 「寄子とはいえ、王国直臣の伯爵家と陪臣筆頭家が我が家を裏切った、その一言だけを以って取り潰しは出来んということだ。もちろん直接的な当人達は既に処分済みだがな」

 

 レッドグレイブ公爵は厳かに告げるが、こちらとしては「はいそうですか」で済む話ではない。

 

 「公爵を裏切ったということはフランプトン侯爵に寝返ったということでしょう? お家断絶は妥当では?」

 

 「リック君、あそこに関してはそう簡単な話ではないんだ。一応公式では事件扱いのファンオース公国不意遭遇戦、あれはあの場で片が付いた。本来ならレッドグレイブ公爵家にも咎が発生してもおかしくないという事だよ」

 

 俺の反論にバーナード大臣自身も心中穏やかならざるものを抱えながらも窘めてくる。

 あぁ、要は内輪揉めでまねいた管理責任がレッドグレイブ公爵家にもあるといいたいという事か。

 そして時系列的には、ファンオース公国本隊王都侵攻と続きかと思っていたが、王宮内では分断して個別判断が成されていると。しかしその発端は王家、ユリウス殿下の愚行が引き金でフランプトン侯爵の台頭を許した末の事案だと言える。

 ホルファート王家とレッドグレイブ公爵家の心中におけるさじ加減一つで、ファンオース公国本隊との戦争前に国内で大きな内戦になっていてもおかしくはなかったと言いたいのだろう。

 王家もユリウス殿下の件で負い目があるから、レッドグレイブ公爵家自体には責を問わなかったという事だな。

 

 「空賊を手引きしたウェイン準男爵家、いくら寄親の娘にその娘が頼まれた事案だとはいえ、実質上は家自体にお咎め無し。私がオフリー領を下賜された後の事を考慮しての政治的判断だったとも思いますが、今回の件も含めて、下級貴族の立場の身としては不可解すぎますよ」

 

 こんな厄介事が舞い込むぐらいであれば、冷たい言い方にはなるがウェイン準男爵家もレッドグレイブ公爵家の寄子や陪臣家も、王家の名のもとに処罰されていたほうが俺にとっては都合がよかった。

 軍艦級飛行船も維持出来ていないような準男爵家、あれば利用するが無ければ無いで構わない規模でもある。

 

 大きなため息が漏れてしまうようなこの現在の状況は、王宮の一室にて二人に呼び出されて打ち合わせの最中であった。

 実はリオンも現在王宮に通っていて、次年度、要はこれから王都の学園に入学してくる上級貴族の女性達にチヤホヤされながら、ルンルン気分でお茶をしているとのことだ。

 目の前にいるおっさん二人を見据えながら、俺はそろそろ糞陛下やミレーヌ様に怒ってもいいような気がしてきた。

 

 「陪臣家は我が領内の事ではあるが、例の伯爵家を王家直轄にされるのは困るのだよ。この混乱の最中、我がレッドグレイブの機嫌をいたずらに損ねたくない王家、そして勢力を失いたくない我が家との思惑が合致したということだ」

 

 リオンを羨ましく感じているとレッドグレイブ公爵は説明を重ねてきた。

 

 「ファンオースとの戦争に対して王国を裏切った貴族家、それに小賢しくも状況を見据えようと戦力を温存した貴族家は、取り潰しに転封と今後王家は直轄領が増える。理解できる話ではあるが……」

 

 しれっと説明するレッドグレイブ公爵をバーナード大臣は一睨みするが、どこ吹く風といった様子でレッドグレイブ公爵は流しにかかっている。

 

 「はぁ、それで何で態々、私の管轄事業に押し込めようとするんですかね?」

 

 そこだ。

 レッドグレイブ公爵領内で飼い殺しにするか、平民落ちなのだから適当に放逐してくれればいいものを。

 

 「領内に置いておけば、誰にとっても意味を為さない悲惨な目にも合うだろう。そこに意味を見出すことが出来るのであればまだいいが、無意味であれば面倒事が増えるだけ。その点君はオフリーからの事業引継ぎで、娼館や接遇用酒類提供店舗を領の事業とは切り離して個人商会で営んでいることは聞いている――」

 

 接遇用酒類提供店舗!? 固いよ! キャバレーとかクラブと言え!

 

 「――我が領と関りがあった娘達が娼館落ちというのは外聞が悪いが、君が管理者として接遇用に彼女達を用いる分には問題が無いということだ」

 

 問題ないのか?

 どちらにしろ俺にとっては面倒事だし関係すらないだろう。それに何故レッドグレイブ公爵が、俺の個人商会における事業範囲内のことを知っている?

 オフリーの風俗関連を領の事業と切り離した事を知っているのは、バーナード大臣とリッテル商会の極一部の人間だけだ。切り離しはそもそもが、バーナード大臣からの助言だった。

 クラリスに余計な心配を掛けたくないという親心だろうが、だからこそナルニアにも風俗事業関連は内緒にしている。

 正直に言えば、こんな事業手放してもいいのだ。辺境の男爵家程度であれば喉から手が出るほど欲しい収入源としての事業かもしれないが、クラリスやマルティーナ、それにヘロイーゼちゃんの機嫌を損ねる可能性のほうが、俺には怖いしマイナス面が大きい。

 

 「よくも言う。ヴィンス殿は君を水面下で調べていたということだよ。君個人が持つ【ブービ商会】に関連する事業には、客として相当送り込んでいるだろう――」

 

 俺が坊やだったというわけか…… 毎度ありがとうございます。

 

 「――ヴィンス殿、私がわからないとでも? 彼女達は遡れば王族(ラファ)、しかもレッドグレイブの血が入っている…… これは、リック君の義理の父である私、アトリーという中立派に喧嘩を売っていると捉える事も出来るのだがね?」

 

 あぁ、そもそも寄子や陪臣家筆頭であれば、レッドグレイブ本流との血の交換はあるだろうね。でも、それがバーナード大臣に何の関係があるのだろうか?

 貴族的な血も交えた政治的な話は、多角的過ぎて正直よくわからない…… 当事者なのに小物っぽいワテクシ。

 おかしいな、俺は一応王族(ラファ)らしいんだけどね。

 ただ、ラファというのは厳格で、その一代に血が入っただけではフォウからラファへは認められない。もちろんその家にとっては貴族社会でアドバンテージにはなる。伯爵以上の上級貴族には、どこかでラファの血が入っているのが現状だ。

 フレーザー侯爵家は王族(ラファ)だが、フランプトン侯爵はフォウであった。彼が躍起になっていたのもそのためだろう。

 はて、厳格? 俺が認められた時点でショボい物のような気がしてならない。

 

 「もはや押しも押されぬ中立派、いや一大派閥の巨魁となった貴様に敵対するとでも? 穿ちすぎというものだ」

 

 俺をそっちのけで、ド偉い方達が話し合っている…… リオンの所に混ざってきてもいいかな?

 リオンは今頃、いけないアバンチュールの約束でもしているのかもしれないと思うと、アンジェリカに告げ口をしたくなってくるな。

 ただ、上級貴族女性と安易な気持ちでラブロマンスを繰り広げてしまうと、とてもとても大きな政治的なものに巻き込まれてしまいそうなので、実はリオンも生殺し状態になってそうだ。

 

 「王族(ラファ)は王家と王国を念頭に置く政治主眼、対してフィアである私は王国と貴族家を政治主眼として念頭に置いている…… 方向性はヴィンス殿と私では似たようでも必ずぶつかる部分があるというのに、強気とも取れる」

 

 バーナード大臣は王家や公爵寄りとはいえあくまで中立。政策における各派閥間折衝を担っていた派閥だ。直接的なフランプトン侯爵派閥が瓦解した事により、今や中小の派閥が乱立しているがレッドグレイブ公爵派閥が盛り返し、中立派も自然と大きくなった。

 王国の混乱の渦中にあっては、お二人は仲良しのほうがいいだろうに。

 俺、もう帰ってもいいかな?

 

 「その時は穏便に解決していきたいものだなバーナード。あぁ、そうそう、彼女等を接遇用に用いるのはいいが、管理はしっかりしてほしい。安易な血の流出は困るのだ。面倒事を頼む当家としても子爵には便宜を図っていく心づもりはあるので安心してくれ」

 

 面倒すぎる。

 首を飛ばして血を全部流出させたほうが楽なのではないだろうか?

 

 「ヴィンス殿、まさか」

 

 バーナード大臣の目が険しさを増していく。

 

 「もし、彼女達に子供が出来たら、当家で責任を持って引き取るので、子爵は何も心配はしなくていいということだ。では、失礼する…… 私個人としてはすまないと思っている」

 

 意味がわからない。

 レッドグレイブ公爵は言いたいことだけを言い退出していった。

 

 「いや、だったらそのまま彼女達を引き取って欲しい、というよりも僕に預ける意味が不明なんですが…… お義父さん?」

 

 こめかみに次いで、目頭を揉みながらしてやられたといった装いで、バーナード大臣は口を開いた。

 

 「君と彼女達の間の子供を将来的に、例の伯爵家や陪臣家の当主に仕立てようという事だよ。全く、手の込んだことをする…… らしくない、いや、()()が表に出てきたのか」

 

 うぇ!? 何だその無茶苦茶な手法は!

 

 「暴論では? 大体、彼女等を店舗と住まいで管理するとはいえ、勝手に子供でもこさえられたらどうするんです? それでもレッドグレイブ公爵家は引き取るんですか?」

 

 だったら最初から自領で管理してほしい。

 

 「君に預けたというのが重要なんだ。父親は? その話になった時に真っ先に君の名前が上がるだろう。それにレッドグレイブとしては、彼女達が子を生んだ時点で、レッドグレイブの血は薄く遠かろうとも入っている。貴族的にも政治的にもそれだけで十分なんだ。しかもヴィンス殿が指定してきた君の店、客層は中小の商会の会頭や準貴族がメイン…… 仮に本当の父親がいようが即、その人物は行方不明だろう。君が父親という噂が事実として罷り通っていくというわけだね」

 

 あの糞実父は、俺の家庭を崩壊させたいのだろうか?

 何店舗か水商売の店は持っているが、あのランクに指定してきたのは、下級貴族や上級貴族が出入りしないことを確認できていたからか。

 

 「らしくないですね…… 僕自身、公爵を詳しくは存じ上げないとはいえ、こんな手段を講じる人物には見えませんでしたが? それに僕が話そのものをぶん投げたらどうするんです?」

 

 退出前にすまないと謝っていたし、どうにも腑に落ちない。

 

 「公爵直々に頼まれて、今後は便宜も図ると言われているものを子爵の君としては断れるかい?」

 

 「はぁ…… 無理ですね。投げられるわけがない」

 

 紅茶で舌を湿らせるが、味も温度もわからなくなってきた。

 

 「いい手だよ。私の心証は最悪だがね…… ()()が出てきたか。君の件が公になったから、自領から口を出してきたのだろう。厄介な……」

 

 「彼女?」

 

 「公爵夫人だよ。ギルバート殿が王位継承権を破棄して公爵家の正式な継嗣となってからは、領内の補佐のために表に出てはこなかったんだが…… この王国内の混乱と君の件で、公爵家の政治的な地保を固めるために、どうやら王宮内に出てくるという事だろう」

 

 まさかのアンジェリカママ!?

 政治的な人物だなんて知らなかった…… 

 はっ! 浮気した公爵への腹いせに俺の家庭に対する嫌がらせを! 

 まぁ、んなわけはないか。

 

 「いい手ですかね? 現にお義父さんの心証は悪くなっているじゃないですか?」

 

 「現状はレッドグレイブは君との繋がりは薄いんだ。君の父親の件や王族(ラファ)の件、戦争前に発布されたとはいえ、つい最近の出来事だ。先々、早くとも十数年後を見据えての策だよ。アトリーと対立した時に君を上手いこと間に挟む気だろうね。現状のままだと君は、アトリーと対立した際、レッドグレイブには付かないと思われたのだろう」

 

 「それは道理でしょう。真っ向からアトリーがレッドグレイブと対立したら、僕がレッドグレイブに付く道理はありませんから」

 

 それは恐らくヘルツォークもそうだと言える。

 

 「だが君の子供がレッドグレイブ公爵家の寄子や陪臣家に存在したら? 心情的に調整役ぐらいは買ってでるのではないかね?」

 

 「それは……」

 

 そんな先の仮定の事なんて考えていない。ましてや軍事ではなく政治の深い部分が過ぎる。

 

 「王家優先と貴族家優先、これはいつの時代も衝突してきた事柄だ。混迷していくことを思えば絶対的な衝突は避けたい。それにね、私も考えていたんだよ。私の息が掛かった家の娘をバルトファルト卿、リオン君に宛がおうとね。先を越されてしまったわけだ」

 

 確かにリオンの許にアンジェリカとオリヴィアさんが嫁ぐのは、誰が見ても現状では明らかだろう。

 公にはロストアイテムは破壊されたことにはなっている。まだまだ各種式典に褒章の授与式も行われていないが、公爵家と繋がる王国の英雄を今後蔑ろにするような輩はいない筈だ。

 そうすると正室と側室間の階級差に幾らでも付け込める。リオンが王宮の別室で歓待を受けているのも、このあたりの上位貴族の思惑なのだろう。

 

 「しかしこの僕が、どれほど政治的意味合いを持つんでしょうかね…… あっ!」

 

 気づいたというよりも面倒事過ぎて頭から抜け落ちていたんだ。

 

 「まさか、忘れていたのかい? もはやリック君は、軍事的影響力だけではないんだよ。君には王位継承権が与えられただろう。君の政治的価値は、君が考えているよりも遥かに大きい」

 

 俺は王族(ラファ)会議で配られた王位継承に関する書面を必死で思い出す。

 そんな俺を見かねたのか、バーナード大臣は懐から書面を取り出して見せてくるのであった。




二次創作を書き始める前、当初オフリー嬢の取り巻きとアンジェの取り巻きをモブらしくヒロイン候補にしようかなぁ、なんて考えていた時期もありました。

結局この二人は政治の道具になってしまいましたが。
今後出番あるのかな? そういえばNursery Rhymeで出てた(笑)

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