乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です 作:N2
おバカファイブが出てくるとホッコリするなぁ(笑)
甲板に突如として現れた鎧達を視界に入れたリオンは、心中で苦虫を咬み殺したような心情を浮かべたが、何とか舌打ちを堪えることに苦労を要した。
「何をしに来たんだ、お前ら」
赤、青、紫、緑の各鎧から四人のパイロットが降りてきてマリエの元に集まった。
「このグレッグ・フォウ・セバーグが、お前を守ってやる」
自信満々のグレッグの頼もしい立ち姿にマリエの目から涙が零れ落ちる。
「あんたたち……」
「私も忘れてもらっては困る」
クリスは眼鏡を外して微笑みをマリエに向けて投げかける。
「僕達がいる限り大丈夫さ」
ブラッドはいつもと変わらない様子で自然に髪を掻き上げてポーズを決めた。そして颯爽と手をマリエに差し伸べるのはジルクだ。
「マリエさん、今度は私達が側にいます。貴女は一人ではありません」
四人は実家からの援助で決闘時の鎧を用意してこの場に駆け付けたのだった。
実家の評判を落とし、しかしその後、空賊の討伐、修学旅行時のファンオース不意遭遇戦などで、廃嫡から復帰したりと忙しい彼等であるが、それは彼等の実家の貴族社会での評判も同様だ。
彼等を戦場に出すのに躊躇する家は無かった。決闘後に功を成していないジルクは、マーモリア子爵家としては是が非でも王国の役に立って貰いたい事であろう。
「み、みんな…… あ、あたしは!」
流石に王子であるユリウスを戦場に鎧で出陣させるわけにはいかない。
しかしその時、マリエの言葉を遮るようにパルトナーの艦橋の上に一機の鎧が舞い降りた。
「私も参加させてもらおう!」
狙ったかのように曇り空の隙間から降り注ぐ陽光を浴びて、青いマントを風でたなびかせながら、白い鎧は煌めきを解き放っている。
リオンはその姿を見上げながらつい思った第一声を小さく
「……帰って」
白い鎧の胸部装甲が開き、中から仮面を身に付けた人物が降りてくる。全身にピタリと張り付くパイロットスーツに仮面だけではなくマントまで羽織っている。
(ユリウス殿下じゃねぇか…… その馬鹿っぽい格好を止めろ。こっちまで恥ずかしいだろうが。一体何がしたいんだよ)
リオンがげんなりしている最中、周囲では予想外の反応が返ってきた。
「彼は!? 何者ですか?」
「は?」
リオンは聞き間違えではないかと呆気に取られる。
ユリウス殿下の乳兄弟にして、親友であるはずのジルクが冗談ではなく本当に驚いているのだ。
どうやら空気を読んで知らないふりをしているわけでも無さそうである。
「仮面野郎、一体何をしに来た!」
グレッグはマリエの前に出てユリウス殿下っぽい仮面を付けた人物に対して庇いながら、警戒心むき出しの声を張り上げる。
(え? 嘘だろ!)
リオンは周囲を慌てて窺うが、皆が本気で驚いた顔をしながら警戒している。
バルカス男爵とニックスは、この状況の展開についていけないために甲板の端に寄り唖然としていた。
「マリエ、下がれ」
警戒心が高まったクリスが剣を抜き放った。
「え? でも、あれってユリ――」
どうやらマリエはリオンと同様に仮面の人物が、ユリなんとか殿下その人であると気が付いているようだが、警戒心ゆえなのかマリエの言葉を聞くよりも先に敵対行動を始めだす。ブラッドが両手に炎を出現させた事により、マリエも口を噤んでしまった。
(お前ら何なんだよ! あれ、どう見てもユリウス殿下だろうが!)
「トゥッ! ヘァー!」
リオンの沸々と湧き上がる苛立ちをよそに、仮面を装着したユリウス殿下は見事な宙返りを見せ付けながら飛び降りる。四人は更に警戒する中、完璧な着地をしてゆっくりと立ち上がり、名乗りを上げた。
「私が何者か気になるようだな。そうだな、仮面の騎士、とでも呼んでもらおう」
バザリとマントを翻しながら言う堂々とした姿は無駄に立派であった。
「仮面の騎士? 怪しい奴」
驚くジルクが拳銃の銃口を仮面の騎士と名乗ったユリウス殿下へと向ける。
今まさに王国の存亡を賭けた戦いが始まるというところに、リオンにとっては急に茶番劇が飛び込んできたような気分になり、心中では情けなさと面倒臭さで泣きそうになっている。
「そうだ。君達の心意気に感動した。私も微力ながら手伝わせてもらおう! この白い鎧は伊達じゃな、んな!? 何をする! バルトファルト子爵、放さないか!」
「言わせねぇよ。いいから来い、この馬鹿野郎」
リオンは仮面の騎士の首に腕を掛け、全員から引き離すようにブリッジの陰に連れていく。二人きりになるとリオンは仮面に手を伸ばして取ろうとするが、ユリウスは必死に奪われないように抵抗した。
「はぁ、何をしに来たんだ殿下」
「ち、違う! 私はユリウス殿下などという高貴なお方ではない。故あって顔を晒すことは出来ないが、一人の騎士としてこの戦いに参加することにした。誓って言うが、私はユリウス殿下ではないぞ」
リオンにとっては馬鹿にされているようにしか見えない。
「遊びでやってんじゃないんだよ。いいから帰れ」
「ちょ!? 待て! バルトファルト子爵、今は少しでも戦力が欲しい時ではないのか!」
冒頭のセリフは仮面を取って普段のユリウスの顔で言えば、幾分かは様になっただろうに、などと逃避気味にリオンは思考してしまった。
「……身元不明の怪しい奴は使えないんだよ。ほら、しっしっ、帰れ」
「ま、待ってくれ! し、仕方がない」
顔を顰めながらあっち行けと手を払うリオンに対し、慌てながらユリウスは仮面を脱いで素顔を晒した。
「ふ、何を隠そう、俺はユリウスだ」
「え? 本気で言ってるの? いや、知ってるから。見た瞬間から気付いていたから」
リオンの即答にユリウスは驚愕する。
「何だと!? 変装は完璧だったはずだ」
「貴方は、ユリウス殿下なんですか! とでも聞いて欲しかったのか? 取り敢えずお前が俺の事を馬鹿にしているのはわかったよ」
(赤い人好きには付き合ってらんないな。それに今は俺が総帥みたいなもんだし)
「別にお前を馬鹿になどしていない。わかった…… ではお前にだけは真実を話そう。今回の戦いだが、俺も参加したい」
ユリウスはリオン達の前世ネタなど知らずにただ真面目にやっているのだが、雰囲気に当てられたリオンも気が緩んで馬鹿なことを考えてしまう。
そこに更にユリウスが馬鹿なことをリオンに申し出てきている。
「お帰りはあちらです」
ユリウスの要件は登場した時点でリオンにはもちろん解ってはいたが、自国の王子を最前線に出すなど正気の沙汰ではないだろう。
リオンは出口を指し示したが、ユリウスはリオンに縋り付きだした。
「頼む! 俺は皆と戦いたい!」
「HA☆NA☆SE! お前が死んだら俺の責任になるんだよ! それに
「だから仮面を着けてきたんだろうが!」
仮面があるから何だというのだろうかとリオンは思う。
死んだらMIA、いわゆる戦闘中行方不明扱いだ。そうしたら今度は要人避難を請け負っている王宮直上防衛艦隊の司令官、エーリッヒの責任問題になるかもしれない。
「お前の行動には誰かが責任を負わなくちゃいけないんだよ! 帰れ!」
「この私が戦わずに終わる? そんなのは嫌だ!」
(こいつ!? 愛と勇気だけが友達みたいになっていやがる! このまま送り返しても勝手に出陣して死ぬんじゃないだろうな? ポンコツ王子になってしまったこいつは危険すぎる)
ここまで来たユリウスをただ帰れと放り出すのも非常に危険な気がしてきたリオンは、処遇をどうすればいいのだろうかと真剣に考えだす。
何の気は無しといった具合で視線を動かした所には、光り輝く船であるヴァイスが中空に佇んでいた。
(あぁ、よし。ならば面倒な連中ごと一か所にまとめるか)
ヴァイスに彼等五人を乗艦させて、オリヴィアとアンジェリカの護衛にも生かそうと考える。あそこは一番守りも固くしてあるので、五人とも生き残れる確率は高いという判断でもあった。
「本気だな」
「無論だ」
リオンの問いにユリウスは即答する。戦意は上々だ。だからこそ言い方に注意しなければならない。ただ後方へ下がれと言えば、文句が噴き出てくるであろうことはリオンにも明白だ。
「ならば一番きつい場所に配置してやる」
「先鋒か? ふっ、わかっているじゃないか、バルトファルト」
嬉しそうに馬鹿な事を言うユリウスに拳を叩き込みたくなるのをリオンは我慢して堪える。
「馬鹿を言うな。今回の作戦の要はヴァイス、王家の船だ。あの超大型のモンスターを倒すために必須なのが王家の船だ。敵が一番に狙う場所だ」
ユリウスの表情も真剣なものに変化していく。
「マリエも乗せる。敵が一番押し寄せる危険な場所だ。お前に覚悟はあるか?」
結局マリエをヴァイスに下げることになるが、そこは致し方ないとリオンも諦めた。
ユリウスは口元に笑みを浮かべながら仮面を装着する。
「任せてもらおうか、総司令官殿」
(馬鹿で助かった)
マリエも下げておけば彼等五人組も後方に下げることが適う。
「よし、ヴァイスに行け」
「あぁ、お前の期待に応えよう。……ところで、勢いで飛び降りたはいいが、どこから上がれば鎧の所までいけるだろうか?」
仮面を装着したユリなんとか殿下が、自分の鎧の所まで行き呆然としながら自身の白い鎧を見上げ始めた。
「……不安だ」
間抜けすぎる仮面の騎士にリオンは愚痴を
☆
ヴァイスの艦橋では、オリヴィアとアンジェリカが我が目を疑っていた。
「え、えっと…… ルク君?」
二人の目の前に浮かんでいるのは、白い球体に青い瞳のようなレンズをしているルクシオンとは色違いの球体であった。
『残念ながら違うわよ。私は貴女達の言う使い魔みたいなもので、この飛行船の制御を命じられたの』
声質も女性に近い電子音を奏でており、ルクシオンとは別物であった。
返答内容にアンジェリカは驚きの声を上げる。
「そんなことが出来るのか?」
『随分と古いタイプの船だったけど改修したので可能よ。私がいればクルーも必要ないわね』
ヴァイスを動かしているのは、パルトナーと同じようにロボット達である。現状この船に乗艦しているのはオリヴィアとアンジェリカ、そしてレッドグレイブ公爵から手配された護衛の者達だけであった。
オリヴィアはルクシオンに似た使い魔に触れる。
「お名前は?」
『困ったわね。番号では味気ないでしょうから、【クレアーレ】とでも呼んで欲しいわ』
「クレアーレちゃん?」
『好きなように呼んでいいわよ。それにしても、あの捻くれ者のルクシオンが随分と貴女達を気に入っていたわね。しっかりと守らせてもらうわ』
クレアーレの言葉を聞き、何かを悩むように俯き加減のアンジェリカをクレアーレが少しだけ傾き、レンズでアンジェリカの顔を覗き込む。その姿はまるで、不思議がっているような感情にも見えた。
「どうしたんです? アンジェ」
「リオンに、会えないか? このまま出発しては、気持ちを伝える事は出来ない」
オリヴィアの問いで決心が固まったアンジェリカは無理だと思おうが、願い出ることを止められない。
『マスターへの気持ち? 待ってね…… わかったわ。繋ぎましょう』
「「え?」」
ちょっとした間があったと思ったら、すぐさま了承するクレアーレにアンジェリカとオリヴィアも驚いてしまう。アンジェリカも己の発露で出ただけであった言葉でもあるので、まさか叶えられるとは思ってもいなかった。
しかし空中には映像が映し出され、そこにはリオンの姿がある。背後にチラチラと仮面を装着した人物が見えてはいるが、リオンの姿を認めた二人は気にしない。
「リオンさん!」
「リオン! その、あの!」
『む? 何だこれは?』
感極まるオリヴィアとアンジェリカの言葉とリオンの姿を遮るように、仮面の男が画面一杯を覆いつくした。
「そこの変な人は退いてください!」
「何て格好だ。その変な仮面とマントは何だ? 加えて全身タイツ…… 変態か? いいからさっさとリオンを出せ!」
一刻も早くリオンの顔を見、そして声が聞きたい二人は、全身タイツ仮面に向かって怒鳴りつける。
二人の剣幕に落ち込む全身タイツ仮面が画面から消えると、リオンが何とも言えない表情を浮かべていた。
『え~、あ~、何かな?』
「リオンさんにお話しがあります!」
オリヴィアが豊満な胸に手を当てて言う。
リオンはついつい目がそこに惹かれそうになってしまった。
『打ち合わせもあるし、手短でいいなら』
話を聞こうとするリオンにアンジェリカは呼吸を整え切り出した。
「この前、ヴァイス起動に関する件だ。実は、お前にどうしても――」
アンジェリカの言葉を遮るようにグレッグが画面に割り込んできた。
『おい、あの仮面の騎士はどこだ? あの仮面引っぺがして顔を確認しないと。ん? お、何だこれ?』
無神経なグレッグにアンジェリカは額に青筋を浮かべており、温厚なオリヴィアでさえキツイ表情をしている。そんな二人の様子を意にも介さずにジルクにブラッド、そしてクリスも集まってきた。
あまつさえ三人は、呑気に二人に手を振ってくる始末である。
『これは凄いですね。相手の顔が見えて声も聞こえますよ』
『僕達もそっちに行くから待っていてね』
『マリエも行くから準備を頼む』
いきなり邪魔をしてきて、更にはマリエのために準備をしろと言ってくる。さすがにアンジェリカも激怒して拳を画面に叩き込んでしまった。
「お前ら退け! 私達はリオンに話があるんだ!」
すると、まるで殴られた影響だとでも言うように、映像にノイズが走り消え去った。
「「あ!」」
アンジェリカが絶望するような表情をする中、オリヴィアがクレアーレを見たが、青い一つ目を横に振る。
『通信状況が悪いのでこれ以上は無理よ』
「わ、私のせいなのか?」
空中に浮かぶ画面を殴ってしまった自分のせいなのだろうかと、アンジェリカはオロオロとし出してしまった。
『違うわ。普通に通信状況が悪いだけよ』
リオンと話が出来ずに俯き加減のオリヴィアに、気を取り直したアンジェリカが手を握る。
「……大丈夫だ。必ず二人で気持ちを伝えるぞ」
「はい! 必ず!」
『あら、お熱いわね。本物の愛と言われるだけあるわ。けれど、そろそろ艦隊行動の時間ね』
クレアーレは揶揄い口調で二人に告げてくる。その声を聞いたオリヴィアは前方に浮かぶ艦隊に視線を向けた。
「凄い光景ですね」
二百隻という軍艦級飛行船が空に浮いており隊列を整えて動き出した。
「ほとんど寄せ集めで連携など取れない。数だけは揃えたが、本当にこれで勝てれば奇跡だな」
アンジェリカは壮観な艦隊を視界に入れながらも不安は拭えない様子だ。
「リオンさんなら奇跡だって起こせますよ」
オリヴィアの言葉にアンジェリカは、修学旅行時にエアバイクで颯爽と自分を助けに来たリオンの姿を思い浮かべた。
「そうだな。あいつにはどうしても期待してしまう」
アンジェリカとオリヴィアの頬には赤みが差していた。
公国との決戦についてクレアーレが補足してきた。
『どうやら決戦は大きな湖の上で行うみたいね。海水を引き上げている場所で、大地の裏側とも繋がっている場所だわ』
「湖の上で決戦ですか……」
何かを思うようにオリヴィアは左手で胸を押さえる。
「そうだ。落下しても助かる可能性があるからな」
アンジェリカの言うように王国本土での空中戦を行う際には、湖の上で行われることが多かったが、辺境や国境防衛ではそうもいかない。航行不能になれば海面に叩きつけられるのだ。
それを気にし過ぎるせいで、高度を下げて相手に上を取られては堪らない。王国軍中央や王国本土を領地に持つ貴族家にはその甘さが散見されている。
今回は侵攻に対して迎撃する立場でもあるので、彼等で言うセオリー通りの戦場想定が可能なだけであった。事実として先行した公国軍の王宮強襲用別動艦隊は、迎撃艦隊が配置されている場所を迂回して攻撃をしたのだ。
「水が、汚れてしまいますね」
オリヴィアもアンジェリカの言う理屈は理解したが、納得し難い表情をしていた。
戦争で生み出されるゴミが湖を汚してしまう。周囲に住まう人々には迷惑な話だろうと思うためだった。
「今回は生きるか死ぬかの戦いだ。悪いが、気にしている余裕は無い。全てが終われば、復興作業で人手を出すさ」
艦隊の先頭を行くパルトナーから、小型の飛行船が出てきてヴァイスに近づいてくる。
そこには先程の全身タイツ仮面やマリエ達が乗艦していた。
☆
王国本土某所上空。
「うふふふ、あはははは! 感じる。感じました! 捕まえましたよ。進行方向微調整、急ぎなさい」
怪しく笑う妙齢の女性軍人が、妖しい色気を振りまきながら艦長席から指示を飛ばしている。
「こうも通信状況が悪い中、ここから? 間違えじゃないんですか?」
三十代の副艦長から疑問の声が投げられた。周囲は黙々と己の業務に腐心している。
「わたくしが間違えるわけがないでしょう。通信と魔力感知は別です」
「はぁ」
どちらにしろ目的の場所に向かうだけだと副艦長は割り切った。
「さぁ、
狂気じみた瞳と高笑いがブリッジ内を包んでいる。
「あぁ、病気が始まった……」
副艦長は諦めつつも艦隊に指示を出し、五隻が航行進路調整を取りつつ全速力で王都に向かって飛行していった。
超大型なんて、白い鎧で押し返してやる!
リオン :やってみせろよ、ユリウス(投げやり)
ユリウス:何とでもなる筈だ!(やる気満々)
リック :か、仮面だと!?(驚愕)
糞陛下 :厄介なものだな、女というのは(ミレーヌに怒られた)
使用楽曲情報は念のためです。
愛と勇気だけが友達…… ボッチかな?
アッ、アーッ♂ ア○パンマン
ゆるせたかし