乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です 作:N2
そういえば、リックとマリエの間で女の子の子供を作れば、ザナっぽくなったりして……
ヘロイーゼは思いの外大変な状況に困惑しながらも、生まれてから初めてと言えるほど、忍耐と努力をしながら頑張っていた。
ややもすれば、持ち金を決闘のギャンブルで失った後、友達すら離れていった一学期終了後の夏季休暇よりも精神的に苦労しているだろう。
「ヘロイーゼちゃん先生って、新しい当主様の愛人って、それマ!?」
「うっそ! そんな可愛い顔して超エロくね!」
「あぁ、それな! 何かヘロイーゼちゃん先生って全方位受けするエロいスタイルしているんだよな。しかも新しい当主様ってほとんどこの領にいないからほっとかれてんの? 可哀想~」
「前の当主様もほとんどこの領にいなかったけど。まぁいいや。じゃあさ、終わったら俺達と
今回は特に大変なグループに当たってしまったらしい。
「これでも側室ですっ! もう! ちゃんと話しを聞きなさぁぁああい! た、確かに私は愛人というかペット枠みたいなものですけど……」
貴族の出であるのに、異様に取っ付きやすく見目の整っているヘロイーゼは、新ヘルツォークの領民にも大人気だ。
「ペット! それマ!?」
「えっ! ヤバッ!? 何そのご奉仕プレイ? ってか首輪プレイ! 超エロエロじゃん!」
「うわぁ、新しい当主様って、前の当主様よりエグッ!? そんな倒錯プレイに嵌ってんのかよ」
「何、その当主様の鬼畜プレイ!? ヘロイーゼちゃん先生大丈夫? 一緒に俺達と飲んで愚痴でも言っちゃえば!」
ヘロイーゼの精神的疲労からくる混乱が、彼等生徒達の混乱を更に深く醸成させてしまっていた。
「ち、ちがっ! え~と、違くはないというか…… もう! あぁん! 旦那様助けてぇ!」
☆
ホルファート王国の王都は、超大型を含めたモンスター群、そしてファンオース公国軍本隊を迎え撃つのに慌ただしいなか、新ヘルツォーク子爵領そのものは、王宮の役人が呼び戻された以外、当主がエーリッヒと代わってからの通常の状態へ戻っていた。
旧オフリー伯爵家に連なる陪臣家やオフリー伯爵の悪事に携わっていた者達は、その罪の度合いに応じて罰を受けている。残された各陪臣家の家族は、住居を移して平民と同じ扱いで住んでいるだけであった。
「数は少ないとはいえ、全ての陪臣家がオフリーの裏家業に携わっていたから、領を管理運営、そして非常事態に対処出来る人材の不足が問題ね」
王国や王都のリッテル商会から避難してきた人員も多く、受け入れ後の各種段取りをしているクラリスは、アトリー家の息が掛かった役人が引き揚げた後の大変さを痛感していた。
現在は、新ヘルツォーク子爵領をクラリスが陣頭に立ち、パウルの抜けたフュルスト家の人員すらも駆使して全てを執り仕切っていた。
おまけに旧オフリー伯爵家の騎士や軍人は、本家ヘルツォーク子爵領との貴族間抗争にてほぼ全滅している。
現在までの領内における治安維持関連は、フュルスト家の人員と新ヘルツォーク子爵領の軍人に行わせていたが、責任者のパウル・フュルストが、艦を率いて軍人達のそのほぼ全てと共に王都に出払ってしまったため、フュルストからの治安維持に関連する事項に加えて、役人から引き継いだ領内の統治運営もクラリスに集中してしまっているのが現状だ。
「リッテル商会からの避難民は、ドレスデンで受け入れはダメなんですか? リュネヴィルの避難民のように」
リュネヴィルからの一時避難民については、ドレスデン男爵領がメインで引き受けていたので、そのキャンプを利用してはどうかという意味合いで、ヘロイーゼはクラリスに聞いていた。
「イーゼちゃんには申し訳ないけど、リッテル商会の人員は丁重に扱いたいわ。リック君が個人的にかなり恩を感じているみたいだから。会頭代行はこの屋敷、他の人員達は空になっている陪臣家の家屋を使用しましょう。それと治安維持要員の増員は、本家ヘルツォーク子爵領に依頼の手紙を出したわ」
手配をフュルストの手の者に任せて、クラリスはヘロイーゼを見る。
「ん? どうしたんですか?」
ヘロイーゼはクラリスの手伝いではあるが、実質的にそこまで役に立っていない。
元々、オフリー伯爵家の寄子であった騎士家出身で学園の普通クラスに在籍していた女子のほうが、この領の浮島にも慣れており、数ヶ月間庁舎での仕事に携わっているので、ヘロイーゼよりもよっぽど使える状況であった。
「実はイーゼちゃんにやって欲しい事があるのよ。それも今後は長い期間になるかもしれない仕事よ」
「どんな内容ですか? リックさんの力に私もなれるんですか!」
自分が目に見える役には、決して立ててはいないという事を自覚しているヘロイーゼは、エーリッヒの役に立てる仕事であれば否応は無い。
「実はもう手配や諸々は、リュネヴィルからの避難民受け入れ時からやっていたのよ。適任者をどう選別しようかと思ってたのよね。しかもこれは、リック君が今後において考えていた事よ。前もってイーゼちゃんが取り組んでいたら、あの人も嬉しいんじゃないかしら?」
「リックさんが!? やります! 出来ます! 私にやらせて下さい!」
クラリスの作る話の流れに乗せられてしまったヘロイーゼは、その内容の確認もせずに勢いよく了解してしまった。
エーリッヒが今のヘロイーゼの姿を見たら、心配してしまう事間違い無しという反応だ。
「良かったわ! リック君も喜ぶわね」
「因みに何を私はするんですか?」
喫緊事ではないが、新ヘルツォーク領における重要事項への解決に向けて、これで心置きなく存分に動けるクラリスは、満面の笑顔を表情に貼り付けてヘロイーゼに伝えた。
「うふ、それはね! 先生よ」
「ほへ?」
☆
授業終了後に生徒である青年達に絡まれたヘロイーゼは、精神的な疲れでヘトヘトになりながらも、新ヘルツォーク領の屋敷に到着して直ぐ様、飛び込むようにリビングのソファーに倒れ込んだ。
「ヘロイーゼ奥様、はしたないですよ」
アトリー家から連れてきた女中が、ティーポットからヘロイーゼのためにお茶を注ぎながらも、クッションに顔を埋めて寝転んでいる姿を嗜める。
ヘロイーゼは実家のリュネヴィル男爵家から女中を連れてきておらず、アトリー家の女中から貴族女性としての教育と世話を受けていた。
普通なら生活しづらいと思う所だが、あまり他者に対して壁を作らず楽観的なヘロイーゼは、順当にアトリー家の女中達と親しくなりお互いに馴染んでいた。
「うぅ~、20歳前後の未婚の男性達に教えるのが一番大変だし面倒ですぅ。10歳前後はヤンチャだけど可愛いし教えがいはあるんですよね。弟とも同年代ですし……」
教える。
そう、ヘロイーゼは今、この新ヘルツォーク子爵領の首都にて、平民に読み書きと四則演算を教えるための教師をやっているのだった。
「勢いで引き受けちゃったけど、人に教えるのって結構大変なんですね」
「ご苦労様、イーゼちゃん。その様子だと大変みたいね」
クラリスが執務室からリビングに降りてきて、ヘロイーゼに労いの言葉を掛けた。
「クラリス先輩、ただいまです! もう、年頃の未婚の男性達が鬱陶しくて…… まぁ、嫌われたり嫌がられたりしないだけ良いんですけどね」
「余りにも露骨だったら名前と住まいの区画を報告してね。親しみを持たれるのは今後も考えて良い事だけど、こちらは貴族、しかも当主の家内という事をしっかりと教えなければいけないわ」
貴族出身の人間は、平民からしてみれば雲の上の存在だ。それは辺境ですら例に漏れない。
浮島の領主の運営は、領それぞれの特色があるので統治に関して一概には言えないが、平民の扱いは概ね良いだろう。
中には搾取しているような領主もいるが、その数は圧倒的に少なく、かと言って疲弊と飢え等はないのがホルファート王国の美点とも言える。
旧オフリー伯爵領時代も、平民の扱いに関して王国内では悪いほうではあったが、乱暴な搾取とまでは言えなかった。
ただし、平民の生活は配給頼りであったため、食料だけはオフリー伯爵も切らさないようにしていたようだが、平民達は慢性的な生活物資の不足に悩まされていたのが実情だ。
寂れているとはいえ屋敷のあるここは首都でもあるので、三男以下のダブついた人員の希望者を、農政改革の農地整備に雇い、さらに30歳以下の希望者には、読み書きと四則演算を教える教室を開いたのだ。
20歳以下で家業を継ぐ立場や家業がそもそも無いような出身者には、希望者は長男や次男でもこの教室に通うのを受け入れている。
「どうしっかりと教えるのかは怖いから聞きませんが…… でもこの首都だけでいいんですかね? 高等教育はどうするんです?」
年代や人数、現時点にて仕事のある者も少数だが参加している。習熟に差異は出てくるだろうが、1グループ辺り大体3ヶ月から半年間を期間として想定している。
「他の地域は今後の課題ね。ここだって動き出したばかりなわけだし。リック君は、旧オフリーの寄子で騎士家出身の子、イェニーを教師にしようと考えていたみたいだけど、あの子は庁舎から外せないわ。とにかくそこそこ教養のある人材がいないのよね。その先の教育に関しては今後の検討事項になるわね」
イェニー、元イェニー・フォン・リューベック。
一代限りのフォンを冠する騎士爵家出身であったが、旧オフリー伯爵家の悪事に当主が加担していたため、当主と嫡子が処刑と共に家が取り潰された元学園の普通クラスの女子である。
「あぁ、ニアと一緒に取り巻きやってた普通クラスの。何だかんだ仕事にも馴染んでましたよね」
エーリッヒも自身が学園を卒業してから、着手しようかと考えていた簡易な人材育成をクラリスは先取りしたのだ。
(イーゼちゃんは男爵家出身、学園でもティナさんから教えて貰いながらも何とかそれなりに出来ている。基本的な教養は問題無いのよね。でも、領内の仕事となると…… 何か凄い失敗をしそうで怖いのよねぇ……)
ヘロイーゼの教養や知識は平民とは雲泥の差だが、本人の資質なのかどうにも危なっかしいので、領内の仕事は単独で任せる事が出来る物は現状無かった。
ある意味、良い具合に浮いていたヘロイーゼを教師として、領民に読み書きと四則演算を教える事ができれば、新ヘルツォーク領内の役人や王都の事業、そしてここでの事業に関する人員として使用する事さえ、エーリッヒの想定より数年早い段階で可能となる。
(もちろんイーゼちゃんもリック君に褒められるでしょうけど、計画を進めた私もあの人なら当然。うふふふ、ペンドしていた計画の着手化に加えて、浮いていたイーゼちゃんの活用。結果としてリック君も喜ぶし、更には私も褒めて可愛がって貰えるわ! ふふふ、一石四鳥ね)
「そうなのよね。それ自体は良い事だから、イーゼちゃんの働きに掛かっているわ! 頑張ってリック君を驚かせて喜んで貰いましょう!」
「は~い! わかりました! 頑張ってリックさんに喜んで貰って、一晩中可愛がって貰いますっ! えへ、えへへ」
ヘロイーゼはデレデレし出して自分の世界へ没頭していった。
「本当、楽しみね」
クラリスも笑みを浮かべている。一見すると微笑ましい笑みに見えるが、瞳に計算と欲の色彩が浮かんで口角が上がり出していく。
「お嬢さ…… いえ、クラリス奥様。少々悪どいお顔になっていらっしゃいます。お気を付け下さい」
「あら、淑女に何て事を言うのかしら。うふふ、でも忠告として気を付けておくわ」
クラリスの思惑にはこれっぽっちも気付かないヘロイーゼは、新ヘルツォーク領やエーリッヒのために、教師として頑張る決意を固めるのであった。
そして翌日、エーリッヒから手紙が届いた。
クラリスとヘロイーゼはエーリッヒからの手紙というものはそう貰うことがないので、内心喜び興奮しながらも封蝋を開いた。
謹啓 余寒なお去りがたき折から、皆様は御変わりございませんでしょうか。
さてこの度、私ことエーリッヒ・フォウ・ヘルツォークは、急遽特段の事情により、ラファとして王家より認可される運びと相成りました。
私自身、青天の霹靂ではございますが、矮小な身の程には分不相応な立場であるとは認識しております。
しかし、一度認可されたとあらば、現在の私程度ではどうする事も出来ない事情をご理解と共に、ご容赦を頂ければ幸いにございます。
この筆を取る時分には、まだ内々の話ではあります。しかしこの手紙が届く頃には、王宮内を正式に通達文書が回る頃合いだと存じ上げますので、可及的速やかに筆を取らせて頂いた次第になります。
今後は私、エーリッヒ・ラファ・ヘルツォークとして、王国本土端防衛戦では至らぬ結果を残した非才の身ではありますが、此度のファンオース公国王都迎撃戦においては、王宮直上防衛艦隊を率いる身となりますので、満を持して捲土重来に臨む次第でございます。
謹白
エーリッヒ・フォウ・ヘルツォーク改め、エーリッヒ・ラファ・ヘルツォークより婚約者達へ自責と悔悟の念を込めて
追伸
僕に関する全ての婚約は、王家と王宮内にて保留扱いとなりました。
酷いよね。
一緒にソファーに並んで座りながら手紙を読み終わった2人は、ポカンとした表情となり――
「「は?」」
そして二人は絶句する。
「ふぅ……」
「お、奥様!?」
クラリスは糸が切れる様にソファーに倒れこんでしまった。女中は慌ててクラリスを介抱するが、そこにヘロイーゼの絶叫が鼓膜を直撃してしまう。
「わだじぃ、リッグさんに捨てられちゃうのぉぉぉぉおおお! びぇぇぇぇぇええええん!!」
エーリッヒから時間差で到着する手紙を読むまで、屋敷中に阿鼻叫喚の嬌声が響き渡ったのは言うまでもなかった。
☆
「イーゼはしっかりとクラリスを手伝えているかなぁ」
エーリッヒは兵舎に急ごしらえした執務室にて、各種軍備の配分の書類をナルニアと2人で、せっせと昨日の件を頭から追い出すように処理していっている。
王宮直上防衛艦隊員の訓練は、臨時野戦任官にて大佐に任官されたエルンストとパウルに任せていた。
「閣下はイーゼばかりを気にしすぎです。クラリス様とティナ姐さんにもお気を配らないと、後で大変な事になりますよ」
エーリッヒがサインをカリカリと書いている中、呟くような言葉を拾ったナルニアは、自身も簡便処理が認められている書類に判を押しつつも、エーリッヒのその呟きの内容を咎めるように忠告した。
「あ、この書類らとこの書類らは、提出する部署が別々だから別けておいて。でもさぁ、クラリスもティナも心配のしようがないでしょ。クラリスはそもそも万能だし、ティナにはエルザリオ子爵が付いていてくれてるからなぁ」
「ではこの棚の段に別けておきます。そういうのじゃないんですよ。閣下のイーゼへの贔屓には、あの2人は敏感に感じ取りますよ。クラリス様任せでの管理も当然宜しいですが、閣下自身でも気を付けて、気配りや気持ち、3人への行動の管理は為さって下さい」
(ニアが言いたいのは、クラリスばかりに押し付けるなという事かな? それとも順位をつけろという事か? いや、それはなぁ……)
「いやでも、うちはクラリスの家格には申し訳無いけど、ただの新興の子爵家だよ。領自体も大したものじゃない。そういうのはもっと緩っとふわっとした感じでいいんじゃないかな? 厳格な高位貴族家ではないんだし」
(新興の子爵家でラファとかって意味不明だけどね……)
ナルニアは判を置いて、「何を言っているんだこいつは」とでも言うような白い目を己の主人でもあり上司に向けている。
普段のナルニアの態度からは、とてもではないが考えられない視線の圧力に、思わずエーリッヒはたじろいでしまった。
「本気で言ってます?」
「ほ、ほら! アトリー家は王都だし、クラリスも今後は王都じゃない? 慣習的にも正妻は王都だし。ティナは新ヘルツォーク領だろう。王都に拘ってないしね。イ、イーゼは…… 僕が動く時にどっちにも連れていけばいいかな! ニアもイーゼがいれば、息抜きも出来るでしょ。そうだな、それがいい」
「それ、愛人を連れ回す貴族みたいですよ。それに、それだと見ようによっては、イーゼが正妻に見えなくもないですね」
(ぐっ!? ヘロイーゼちゃんだって、つ、妻ではある…… でも何か不味そうな気がする)
「クラリスもまだ1年間は学生だし、僕達も学生だよ。追々にしようじゃないか。ハハッ」
エーリッヒは昨夜の件を半ば現実逃避気味にしているが、実はナルニアは王宮内に書類を提出しに行った矢先、エーリッヒに関する噂を聞いて既に状況をあらかた知っていた。
「はぁ…… ラファとして認められるそうではないですか。おめでとうございます…… ただ、婚約も保留になるとか。王宮内のメイド達にすら噂されていますよ。これ、実は相当不味いのではないですか? 主にティナ姐さんとか」
サインを切りの良い所で手を止めたエーリッヒは、溜息を飲み込むように紅茶を口に含んだ。
「もうそんなに噂になっているのか…… 手は回すさ。色々とね…… それに婚約の件はお偉いさんが動いてくれるから大丈夫だよ。おそらく落ち着けば時機に認められるさ。新ヘルツォーク領には、僕のラファや婚約の件に関する手紙も出したしね」
マルティーナは本家ヘルツォーク領にいるので、経緯に関する事項は事後報告で良いとエーリッヒは判断しているので、特段知らせるような事はしていなかった。
「そうですか。正直、私では摩訶不思議な雲上の世界の話になりますので、御三方、特にクラリス様とティナ姐さんへの対処だけは、しっかりとしておいて頂ければ何も言いません。ちなみに私はこのまま閣下、いわゆるラファとなられるご主人様の下で働いていても宜しいのでしょうか?」
寄子の娘として寄親の子爵家での奉公であれば何も問題は無いだろう。しかし相手がラファであれば男爵家の娘としては、とてもではないが畏れ多くて身構えもしてしまう。
「その点は気にしなくていいよ。というよりもニアには、もう傍にいて貰わなければ僕が困るぐらいだ。何か言ってきても全て突っぱねてやる。さて、僕はリオンとの打ち合わせに行ってくるよ。その後も軍議に近い会議が入っている。纏めた書類の各部署への提出は任せるよ」
「……ありがとうございます。わかりました。こちらも直ちに書類を纏めます」
真剣な顔つきになったエーリッヒの言葉とその表情を見たナルニアは、頬を染めながらもそれを隠すように俯きながら、順次書類を提出先部署ごとに纏め出していく。
それを確認したエーリッヒは、先程飲み込んだ溜息を吐き出しながら、リオンの元へ向かうのであった。
前略 婚約保留の件、お偉いさんが動いてくれるから大丈夫らしいよ。いやぁ、焦っちゃったよ。心配かけてごめんね! まったく困っちゃうよね。ハハッ! 草々
追伸
エーリッヒ・ラファ・ヘルツォークより、婚約者達に愛を込めて。
草が生えた!?
ほぼ同時刻に互いに助けてと叫ぶリックとイーゼは、相性バッチリだな。