乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です   作:N2

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前話におきましては、誤字が多くて大変申し訳ございませんでした。
誤字報告をくださりました、見物人様、霧空様、西瓜ペシャン公様、ひふみん様、赤羽結城(偽)様、本当にありがとうございました。




第89話 笑撃の事実

 リオンとマリエが前世の件で話し込んでいる。

 どうやらマリエは、「あんたには育てられないから」と言われてしまい、自分の子供、女の子を実家の両親に預けていたらしい。

 リオンはその件を聞いて両親が正しいと言って安心していた。

 前世を超えた運命的な出会いだというのに、リオンも微妙な表情をしているので、俺自身も2人のこの出会いは凄いとは思うが、全く感動が無いのが印象的だ。

 リオンがマリエの前世の記憶がどこまであるのかと尋ねると、どうやら彼氏に暴力を振るわれて、気付いたらこの世界にいたとの事だ。

 何だ、そもそも前世から呪いを引き摺ってきていたのだろうか。

 

 「あたしだって色々と頑張ったもん!」

 

 「うるせぇっ! 中身は婆の癖に、もん! なんて使うな! 鳥肌が立つわ」

 

 「言ったわね! 糞兄貴こそ中身はオッサンじゃない!」

 

 俺にも刺さるんですけど。結構心にくるんですけど。

 子供産んだマリエとのほうが、リオンよりも死んだ時点での歳は近いのかもしれないな。それでも5年近くは離れていそうだけど。

 

 「僕にとっては知りたくなかった事実だな」

 

 今後マリエにどういう態度を取ればいいのだろうか? 境遇に同情していただけだったからなぁ。

 

 「あんたも転生者ってホントなの? この世界が乙女ゲーの世界って事も知ってたわけ?」

 

 零れ落ちた言葉をマリエに拾われてしまった。

 

 「前世があるというのはそうだよ。リオンとは結構歳が離れている気がするけどね。ちなみにこの世界が乙女ゲーだって事は全く知らない。そもそも僕はそのゲーム其の物を知らなかった」

 

 「は? じゃ、じゃぁ何であんたそんなに上手く立ち回っているわけ!? あんただって母親ラーファンで、あたしの従兄のお兄ちゃんなんだから、あたしの事も助けなさいよ!」

 

 またそれか……

 

 「僕も一応は努力してきたつもりだが、お前とリオンの関係を知ってからそれを言われると、頭が痛くなってくる…… 無下にしていいものかどうか悩ましい」

 

 実際に助けてやった方がいいのではないか? なんて考えてしまうだろうが!

 

 「妹が何かスマン……」

 

 マリエはリオンまでいた堪れなくしている。マリエの従兄のお兄ちゃんという言葉には、得も言われぬ玉虫色のような非常に表現しづらい感覚が沸き起こるな。

 

 「な、何よ! あの一件で兄貴が死んだ後、頼りにしてた従兄のお兄ちゃんまで死んじゃって、頼る人いなくなってホント大変だったんだから! ほら! 兄貴と一回り離れていた従兄のお兄ちゃん」

 

 マリエは頼ってばかりじゃないか。リオンもその従兄のお兄ちゃんとやらも大変だったんだな。

 

 「え!? 従兄の兄貴死んだの!? いつ?」

 

 「兄貴の2年後…… 離婚してたからずっとお邪魔してたのに出ていかなくちゃ行けなくなったし…… 大学卒業間近で就職決まってなかったし…… だから夜の世界に飛び込んだんだもん!」

 

 ぐふっ、おい! 耳を塞ぎたくなってきたのは気のせいだろうか?

 

 「だからオバちゃんが、もん! を使うな! あの人、従兄の兄貴にはけっこう世話になったんだよ。就職とか…… なぁ、死因は?」

 

 (忙しい部署じゃないって話だったのに、残業や土曜出勤とか有ってちょっと恨んだのは内緒だけど。他の部署でもっと忙しい所も有ったしなぁ)

 

 あれ? お世話になったとか言いながら、少しげんなりとした表情をリオンは浮かべている。

 何かが気にくわなかったのだろうか?

 

 「検査で病気発症してるのがわかって…… 本当は即入院しなくちゃいけないのに、次の日無理して職場に病状の説明と、入院中に引継ぎのための仕事やるって言って入院日ずらすし。その日出社して帰りに倒れてそのまま死亡。別れた奥さんと病院で鉢合わせして超困ったんですけど。あたし、従兄のお兄ちゃんの別れた奥さん知らなかったし…… 何か勘違いされるし。色々従兄のおにいちゃんの文句やら何やらを泣きながら言われるし」

 

 その従兄のお兄ちゃんとやらは相当な阿呆だったんだろうな。あぁ、頭に加えて胃まで痛くなってきた。

 

 「あの人らしいけどな。ほら、小さいOEM系の商社だったけど、会長の孫、社長の娘さん嫁にした後、会社大きくしたのも従兄の兄貴だったから。離婚した後も出世してて、俺が入社した時には既に専務だったぞ」

 

 「あぁ、そういえば兄貴あそこで働いてたんだね。超コネじゃん!」

 

 「コネも立派な武器だ! ん? 何でリックはぐったりしながら椅子に座ってるんだ? そんなに疲れてたのか」

 

 嫌な頭痛と胃痛で確かに疲れているが、一応聞いておこう。

 

 「そういえばリオンの死因は乙女ゲーし過ぎて倒れたとしか聞いてなかった気がする…… 教えてくれ」

 

 「こいつのせいだよ! 乙女ゲー押し付けられて48時間ぶっ続けでゲームして、終わって腹減って買い物行こうとしたら、眩暈が治まらずに階段から足を踏み外して落ちたんだよ」

 

 マリエとリオンの両方から、どっかで聞いたような内容が飛んできた。

 

 「あぁ、階段から落ちて死んだ入社を捩じ込んだ従弟と、いきなり上がり込んで部屋を一つ占拠した従妹ね……」

 

 俺の言葉にリオンとマリエが絶句して目を見開く。 

 

 「お前らじゃねぇかぁぁぁぁあああああ!!」

 

 うちの一族が前世から呪われていたのだろうか?

 

 「「えっ!?」」

 

 『おや? ではエーリッヒの旧人類の遺伝子がマスターとマリエの半分程度なのは、お二人の従兄が関係して薄まっている要因でもあるのでしょうか? お二人の四分の一ではなく二分の一なのが気になります』

 

 俺はもう、ルクシオン先生の言葉は右から左に抜けていっていた。

 

 

 

 

 暫く3人は混乱と興奮で、思い思いに勝手に喋っていたが、今は落ち着きを取り戻して全員椅子に腰かけていた。

 室内に沈黙が漂っており、まるでそれを壊すように俺は呟いた。

 

 「せっかく使い物になってきたお前を、営業部の梃入れに放り込もうとした矢先に階段から落ちて死ぬわ。いきなり転がり込んできたお前のせいで、僕が叔父さんと叔母さんに報告して、お互いに頭下げあって微妙な空気になったんですけど……」

 

 つい前世で溜め込んでた愚痴を呟いてしまった。

 しかも叔父さんと叔母さんだけに留まらず、俺の両親まで出張ってきて、学生の従妹の下宿先として考えれば悪くないだろうという話になった。

 悪いわ!

 

 「「ご、ごめんね」」

 

 俺の両親も妹夫妻も甥っ子も姪っ子もマリエが死ぬ1年前までは生きていたらしいので、両親に関してはそれでもう安心した。

 妹も嫁いで別の家の人間だし、俺が気にし過ぎるのも妹の旦那に失礼なので、もうここで区切りを付けて良しとしよう。

 元嫁関連は、相当お金持ちの向こうの実家任せだからあまり心配はしていない。

 これで、最後まで心奥に蟠っていた前世関連が霧散したかな。そこだけはマリエに感謝しようか。

 

 「と、とにかく、先ずは皆落ち着いたし、今後の話をしよう。マリエ、お前はリビアに協力しろ」

 

 実際深い話し合いはこの騒ぎが片付かないと難しい。それにマリエの件だ。

 

 「あ、あのさ? このままだとあたしは死ぬんだけど……」

 

 それがある。

 現状リオンも俺も庇えるレベルをぶっちぎっている状態だ。神殿も体裁と面子そのものが掛かっている状況。処刑を取り下げるのは容易ではない。

 

 「そうだな。でも最後くらい真面目に人生に向き合ったらどうだ?」

 

 リオンの冷たい物言いにマリエが泣き始めて喚きだした。

 

 「そんなの嫌よ! 助けてよ、お兄ちゃんズ!」

 

 俺とリオンは最後の言葉でズッコケそうになってしまったが、糞兄貴に兄貴、それにお兄ちゃん呼び。リオンは色々呼ばれていたんだな。

 しかもマリエは本気で泣き出している。もう号泣であった。

 

 「それに嫌よ。あんな化け物と戦いたくない。絶対に戦争には出ないわ!」

 

 「はぁ? ふざけるなよ。お前が聖女になるから色々と狂ったんだよ。とにかく責任を取って飛行船に乗れ。リビアのサポートをするだけでいいから」

 

 不味い、またヒートアップしてきているな。マリエは完全に椅子から立ち上がっているし、リオンも腰を浮かしている。

 

 「な、何であんな女なのよ! あたしを助けてくれてもいいじゃない!」

 

 「まあまあ、取り敢えず落ち着け2人共。マリエもリオンも一度座れ」

 

 マリエの肩を掴んで椅子に押し戻し、リオンには目線で促した。

 

 「神殿が体裁と面子によって決定した処刑を覆すには、この戦争で功績かそれに準ずる物が無ければ難しいぞ。王国に根を張る神殿の影響力には、王宮だって面子や明確な利益が無ければ表立っては波風を立てたくは無い筈だ」

 

 「うっ、うぅ……」

 

 マリエだって助けてというお願いだけで、命が助かることは不可能だという事は理解してはいるだろう。図星を突かれたかのようにハッとした後は呻いている。

 

 「それにな。オリヴィアさんが乗る飛行船という事は一番其処が安全だろう。リオンがお前の事も守ってくれるさ」

 

 リオンが顔を顰めているが、シスコンっぽいから大丈夫だろう。

 

 「ホ、ホント! お兄ちゃん!」

 

 「リ、リビアのついでだ」

 

 「何でよ!」

 

 また始まりそうだけど、さっきのような切迫感はないから問題無いだろう。じゃれ合いの様なものだな。

 そして、ノックが響いたかと思えばこちらの返事を待つことなく、急ぎ気味のバーナード大臣が入室してきた。

 

 「子爵、謁見の間の準備が整った。リック君も参加するように。報告に寄ってくれたお陰で、軍事演習場の官舎に呼びに行く手間が省けて助かったよ」

 

 えぇ…… 今日はもう精神的に疲れたから休みたい、とは言えずに素直に頷いてしまった。バーナード大臣の目の下の隈を見てしまったら断れない。

 マリエを椅子に座らせて置いたまま部屋を出ると、そこにはお馬鹿ファイブにカーラさんとショタエルフのカイル、それにアンジェリカとオリヴィアさんが待機していた。

 

 「カーラさんとカイル君はこっち。はい、マリエに言いたい事もあるだろうし今は落ち着いているから。3人で話し合いでもしたほうがいい」

 

 2人の背を押すようにして、部屋に強引に入室させた後はドアを閉めてしまう。勿論、鍵などは持っていないが、開けて出ていこうとする気配は感じられなかった。

 お馬鹿ファイブはマリエから罵倒された影響で、まるで幽鬼のような足取りでバーナード大臣に付いて行っている。

 

 「私はどうしたらいいでしょうか?」

 

 オリヴィアさんがふとした疑問を投げ掛けてきた。アンジェリカも「うぅむ」と唸って悩んでいる。

 

 「アンジェリカの付き添いでいいんじゃない。リオンが何かやるようだし、オリヴィアさんがいた方がリオンも心強いんじゃないかな」

 

 先程までの一件の疲労で、少し俺も投げやり気味になっているのかもしれない。

 

 「そうだな。総司令官になるリオンの晴れ舞台だ。リビアも一緒に見届けてやろうではないか」

 

 「はい!」

 

 リオンは両サイドにアンジェリカとオリヴィアさんを伴って、謁見の間に向かい出した。

 両手に花を持って総司令官になるとか、謁見の間の貴族達に色んな意味で喧嘩を大安売りしに行くようなものだな。

 あれ? 何か似たような状況があったような気もするが、疲れているだけで気のせいだろう。俺は少しでも疲労を抑えようと、あまり深く考えないようにした。

 

 

 

 

 泣き腫らした跡が痛々しいマリエの顔を見た瞬間、2人は先程の事をまるで気にしていないかのように、心配げな声をマリエに掛けるのだった。 

 

 「マリエ様!」

 

 「ご主人様、酷い顔していますよ」

 

 カーラとカイルがマリエが座る椅子まで近寄って行った。

 

 「あんたたち、その、あのぉ……」

 

 精神状態がまともでは無かったとはいえ、2人には酷い暴言を吐いてしまった自覚があるマリエは身を縮こまらせてしまった。

 

 「わ、私、マリエ様がいないと本当に1人になっちゃう。助けて貰って本当に嬉しくて! それにマリエ様は本当に優しくて……」

 

 エーリッヒとナルニアが少々気落ちしてしまう内容だが、それほどにカーラの心の支えと助けになっていたのはマリエであった。

 泣いているカーラを横目で見たカイルは、呆れ顔を表情に張り付けているが、実際は照れ隠しのようなものである。

 

 「僕も悪いところがありましたからね。でも、ご主人様も流石にアレは酷かったですよ。まぁ、これでお相子です。他の5人は知りませんけど、僕とカーラさんくらい一緒にいないと可哀想ですし」

 

 マリエの止まっていた涙腺が再び決壊し出してしまった。ボロボロと涙が頬を伝っていき、床に零れ落ちていく。

 

 「ごめ、なさい。ごめんなさい。本当に…… ごめんなさい、2人とも」

 

 カイルは泣いてるのを隠すようにそっぽを向きながら袖で目元を拭っていた。

 

 「さぁ、行きますよ。偽物でも聖女様です。恰好くらい付けないと」

 

 カーラとカイルに支えられてマリエは力強く立ち上がる。

 その眼の光は先程、嫌だ嫌だと叫んでいた時のような怯えたものではなく、まだ弱くはあるが確かな強い光が湛えられていた。




前世リオン死亡時
マリエ20歳(死亡時3?歳)、リオン24歳、リック36歳(死亡時38歳)。
年齢差のイメージ設定になります。
原作様ですと、私が抱いたリオンとマリエの年齢差イメージは2~3歳差程度だったんですが、4歳差に致しました。
マリエの海外旅行、ハワイだったかな? それも卒業旅行なのかなぁ、何て思いましたし。
でもただ海外旅行との描写だったので、この年齢差でもギリいけそうかなと考えてこの設定にしました。

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