魔王生徒カンピオーネ!   作:たけのこの里派

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数多くの感想、誤字修正指摘など、誠に感謝します。
アンケート有難うございます。一応今回で閉め切りますね。


第六話 目には目を、ゴリ押しにはゴリ押しを

「―――――――カンピオーネになったァ!? 北欧で一体ナニしたバカ弟子!! というかどうやって殺せた!? どういう事だ! 吐け、今すぐ全て吐けぇぇぇええええ!!」

「むしゃくしゃしたから殺った。完全八つ当たりだったけど反省も後悔もしていない」

 

 北欧から帰還してあれから、皐月はエヴァンジェリンに本気で殴られ、アスナと木乃香に抱き締められて漸く一息付いた。

 残骸と化していた服を着替え、エヴァンジェリンの別荘に行きそこから怒涛の追及を受けた。

 

「ていうか、なしてアスナとこのかも居んの」

「ジジイと北欧でまつろわぬ神が出現した事を話していた時聞かれてな。そこからはなし崩しだ」

「マジで?」

 

 潜在的には二人とも魔法関係者とは言え、原作開始時は魔法は知らなかった重要ポジションのヒロイントップツーが両方原作約七年前に魔法バレ。

 

 ―――――原作崩壊。

 その言葉が皐月の頭に浮かんだが、今更か、と納得した。

 そもそも原作通りに事が運ばない事は、既に分かりきっているのだから。

 ただ、主人公のネギの人生の難易度が跳ね上がっただけなのだから。

 

「で、この1ヶ月以上何をしてたの?」

「そうやそうや、心配してたんやで!」

 

 二人の少女に迫られて、皐月は諦観した口振りで答えた。

 

「いやぁ、北欧で神ブッ殺した後色々あってな。父さんと母さんとも別れて面倒な連中にラチられて、そこから瞬動で帰ろうとしたんだが南アジアまで着いたらまた別のまつろわぬ神に絡まれて、ソイツが遠距離移動用の権能持ってたからブッ殺して帰ってこれたんよ」

 

 アスナとこのかには神を殺したことなどより、両親と別れたことが気になった。

 

 

 

 

「―――――だからさエヴァ、俺をエヴァの養子にするのとか出来る?」

 

 

 

 

 

 

 

 

第六話 目には目を、ゴリ押しにはゴリ押しを

 

 

 

 

 

 

 

 硬直しているエヴァを尻目に、このかが皐月にカンピオーネについて質問してきた。

 

「なあなあ。つっくんは、カンピオーネっていう怖い人になったん?」

「その事実は間違ってないけど、流石に戦狂い共と同一認識は勘弁してくれ。傷付くからさ」

 

 そもそもカンピオーネの第一印象が魔王になったのは、大体最古参の魔王ヴォバン侯爵のせいなのだ。

 

 サーシャ・デヤンスタール・ヴォバン。

 18世紀から生きている、神殺しを成した現存するカンピオーネの中で最古の魔王。

 人物像は極めて悪質なプライド高いバトルジャンキー。

 三百年という月日は彼から刺激という物を奪い、神と戦う事でしかその渇きは満たされないとか言っちゃう時代遅れの横暴者。

 他の魔王から「知的ぶってるだけの野蛮人」、同じバトルジャンキーから「食欲以外の欲望が少ない」と明言されるなど、闘争本能の塊の様な魔王だ。

 実際、自らの信奉者を戯れで殺したり、出現した神と戦うカンピオーネにも関わらず、態々神を呼び寄せて戦おうとしたり本末転倒な事もやってしまうジイサンである。

 

「ちょ、ちょっと待て! 養子とはどういうことだ? あれほど親好きだったお前が……」

「あー、質問を質問で返すの悪いけど、魔法で呼び出される悪魔って、どういう分類になるんだ?」

「……まつろわぬ神を大層な招来儀式によって降臨させでもしない限り、呼び出されるのは魔族だ。世間一般の言う悪魔とは全く別物だぞ。契約も魂なんぞ取らんしな」

 

 曰く、まつろわぬ神クラスの悪魔は基本的に名付きであり、伝承や神話や宗教を伴わない連中。つまりネギま!原作で登場した、原作主人公ネギの村を襲った悪魔も全て召喚された魔族であり、術者によって肉体を持って現れた存在なのだという。

 よってまつろわぬ神でも何でもなく、神が存在している神話そのものともいえる『不死の領域』とは別経由なのだ。

 

「まぁ何だ。実は旅行中にその魔族のハーフの子を母さん達が預かるというか拾ってな、それが原因で教皇庁からも追放された狂信者組織に襲われたんよ」

「――――ッ!!」

 

 原作では描かれていなかった、海外の魔術組織。

 カンピオーネの世界と交わったこの世界では、魔族という悪魔に似た存在は十字教、教皇庁にとって極めて都合の良い『悪』だった。

 尤もそれは昔の話であり、原作は人権や倫理観など様々な事で守られているものの、手を出す連中が居なかった訳ではない。

 そして狂信者にとって悪魔の子を擁護した者も悪魔。

 

「別にその子を保護した事自体に後悔は無い。父さんは警官だし、母さんはお人好しだ」

 

 そして怨むべきは害した者達。

 カンピオーネと化した皐月が行った事は蹂躙だった。

 その怒りは凄まじく、皐月が考えうるあらゆる方法を使って苦しめられた。

 虐殺ではなかった理由は、一人残らず生き地獄を味わっているからなのである。

 具体例を述べると、エンドレスな凌遅刑など。

 

「じゃあ、サツキの両親は……」

「生きてるよ」

「だったら思わせ振りな言動を取るなァ!」

 

 水原夫妻は数週間前に既に日本に帰国しており、和俊は警察署に出勤している。

 しかし皐月はカンピオーネに、神殺しの魔王になった。

 そんな魔王が敬愛している両親はアキレス腱(逆鱗)そのもの。

 魔王を利用して甘い蜜を啜ろうとする者達からすれば、魔王の恐ろしさを知らない愚者が万が一人質にでも取ろうものなら、今度こそ何をしでかすか分からないのだ。

 

 人間だった頃でさえ、つまり両親が害され『極限までストレスが溜まった』時に神が騒がしく暴れただけで、その鬱憤は神々を殺した。

 唯でさえ危険だというのに、大量破壊系の権能を持つ魔王となった今、その怒りが齎す被害は何れ程になるか。

 

 何より、皐月はその事を自覚している。故に皐月は自身が魔王になった事で生じるデメリットを、両親に向かう危険を可能な限り無くす為に親子の縁を切る選択をした。

 勿論、それは戸籍上の話であり、会おうと思えばすぐさま会えるのだが。

 しかし、

 

「残念ながら皐月、それは無理だ」

「…………なして?」

「お前、私が中学生という事を忘れてないか?」

 

 戸籍という概念が存在しない時代に生まれ、約六世紀の間追われる身だったエヴァンジェリン。

 そして封印された今、彼女は未だに中学生。保護者になることが出来ないどころか、法律的には保護される未成年。

 

「忌々しいが、私の戸籍は保護者しているジジイが管理している。中学生の養子になるなど出来んだろうが」

「ガッッテムッ!!」

 

 皐月が執れる行動で近右衛門の養子になることが一番手っ取り早いのだが、それはメガロメセンブリアの下位組織の長の養子になるということ。

 それは面倒な事態を起こしかねない。

 

「……仕方無い、じゃあエヴァンジェリンが中学生じゃなきゃイイ訳だ」

「は? その通りだが……」

 

 エヴァンジェリンが中学生をし続けなければならない理由は、ナギ・スプリングフィールドがアンチョコ混じりの適当極まる魔力ゴリ押しの『登校地獄の呪い』が元凶。

 だったら、その呪いを解けばイイ。今の皐月の持つ権能ならソレができる。

 

「呪いの解呪……。お前が神から奪った権能は魔法関係の神か?」

「間違ってないけど正解じゃない。これまでに俺が殺した神は三柱で、解呪に用いる権能を奪った神は火神だ」

「なに?」

「俺がこの数週間で地獄の瞬動フルマラソンで南アジアまで踏破したことは言ったよな。その時に殺した神だ」

 

 そう言うと同時に、皐月の右手に白い炎が出現した。

 

「!」

「名前はアグニ。火単品の神の権能じゃあ、利便性は最高だと自負してるぜ?」

 

 インド神話の火神アグニ。またの名を「普遍的なもの(ヴァイシュヴァーナラ)」としても信仰されている。

 サンスクリット語で「火」を意味し、ゾロアスター教のアータルと同様アーリア人の拝火信仰を起源とする古い神だ。

 アグニは、火のあらゆる属性の神格化として世界に遍在し、また「家の火、森の火」や「心中の怒りの炎、思想の火、霊感の火」としても存在したとされ、同時に浄化とも強く結びつき、天則を犯す者、悪魔を容赦なく焼き払う神である。

 またアグニの働きの中でも特に祭火と浄化の力は重要視され、前者は神と人の仲介者たる役目、後者はアグニが大地を一度焼き払うことでその地を人の居住可能な場所にするという。

 

「密教に於ける明王の一尊の烏枢沙摩明王もアグニの派生した姿と考えられている。呪いなんて不浄極まりないモノを焼却処分にするにはピッタリな権能だと思うんだが?」

「つ、つまり……ッ!!」

 

 ―――――何ぃ? 呪いがバグりまくってる上に力ずくのゴリ押しだったから正攻法じゃあ解けない? 

 逆に考えるんだ。態々正攻法で解呪することなんて無いさ、と考えるんだ。

 

「あの度しがたい変態に頼る必要は何処にもない」

「う、ぅおおおお!!」

 

 エヴァンジェリンは歓喜の声を挙げる。

 そこまでアルビレオと交渉するのが嫌か。

 しかし何かに気付いた様に徐々にその声は小さくなり、エヴァンジェリンは俯いて呆然と呟いた。

 

「……そうか、ジジイが私にアルのことを教えなかった理由はコレか」

「は……?」

「笑え。どうやら私はナギにこそ、この呪いを解いて欲しかった様だ。ナギとの繋がりを断ち切りたくなかったとでも言うのか? ははは、何だこの様は」

「エヴァ……」

 

 自らを嘲笑しながら、静かに涙を流すエヴァンジェリンの頭に、皐月は優しく手を置いた。

 初恋から七年。

 エヴァンジェリン、彼女は漸く失恋をする事が出来た。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

「もう、良いのか?」

「あぁ、やってくれ」

 

 目を少し充血させながら、憑き物が落ちた様に晴々とした笑みを見せるエヴァンジェリンに、皐月は手を翳した。

 

「エヴァ、先にリスクについても話しておく」

「リスク? 解呪のか?」

「あぁ。解呪っつっても、呪いの術式と精霊を焼き殺すんだけど。兎に角、アグニの浄火は権能クラスの魔法でも燃やせる。つまりエヴァ自身が傷付く可能性も――――造物主(ライフメーカー)がした実験の真祖(吸血鬼)化の術式も破壊してしまう可能性もある」

「――――――な、に?」

 

 エヴァンジェリンは六百年前、領主に『預けられた』娘だったが、謎の魔法使いが当時十歳の彼女を真祖の吸血鬼にしたのが始まりだ。

 その魔法使いは『完全なる世界』首領、造物主であり、『不死』の実験を行っていた結果だと原作でアルビレオは考察した。

 それは原作でもナギを憑代としている造物主自身の「我が娘」という言葉で、エヴァンジェリンが造物主の実娘である可能性が高い事が証明されている。

 

 そして、この世界は神話や伝説の神々が実在する。

 つまり造物主を神祖、つまり零落したまつろわぬ神だと仮定するならば、造物主の不滅特性も神祖の転生能力とするならば納得がいく。

 そして造物主の行ってきたことを振り返り、当てはまる神を探せば造物主のまつろわぬ神としての名も、何故『不死』の実験をしたのかも理由も理解できる。

 要は造物主は自分の娘で不死、つまりは『完全』を、『永遠』を目指し、そして中途半端に失敗した(・・・・・・・・)のだろう。

 

 ―――――話を解呪に戻そう。

 つまりエヴァンジェリンは後天的の、魔法によって真祖の吸血鬼に変えられた存在である。

 

「もしかしたら、エヴァはその不死性を失うかもしれない。吸血鬼じゃなくなるかもしれないが、どうする?」

「…………構わんさ。今更人間に戻っても『正義の魔法使い』共にとっても私が悪なのは変わらんし、吸血鬼としての私にそこまで執着も無い」

「解った、――――行くぞ」

「ッ」

 

 皐月の全身から莫大な呪力と共に炎が吹き出し、徐々にその色を白に変える。

 

「オン・シュリ・マリ・ママリ・マリ・シュ・シュリ・ソワカ!」

 

 烏枢沙摩明王(アグニ)の真言を聖句として唱え、自己暗示により呪力と精度を上げながら、皐月は浄火の炎をエヴァンジェリンに纏わせていく。 

 

「ふわぁっ……」

「――――サツキ、すごい」

 

 そして、エヴァンジェリンを傷付けず術式を燃やし尽くす!

 

「んっ……」

「よッ、し……ッ!」

『■■■■■■■■ッ!!?』

 

 皐月に、声も姿も見えない呪いの精霊の絶叫と苦しむ姿が『見える』し『聴こえる』。

 実のところ、エヴァンジェリンを傷付けずに解呪するにはアグニの権能だけでは足りなかった。

 

 現在皐月が持つ権能の内、完全掌握している物はアグニの権能を含めて二つ。

 最初の内の一つは複数の能力がある故、同様に複数の能力を持ちながら火に共通して掌握しやすいアグニに比べ、未だに完全掌握に至っていない。

 そして精霊と呪いを視認するのはアグニの、―――後に正史編纂委員会から『遍在する炎(ユビキタス・ブレイズ)』と名付けられる権能(本人は悶え苦しんだが)とは別の権能である。

 

 つまりそれは、権能の同時行使に他ならない。

 魔王になってから一ヶ月も満たない皐月が、易々とソレを行えるのは、ソレが常時発動型の権能だからだ。

 しかし、比較的容易に使えているとは言え、行っているのは膨大な呪力を用いた精密作業。大きな集中力を要するため、精神的な負担もまた大きい。

 そして、皐月の浄火がエヴァンジェリンの呪いを燃やし切る直前、

 

 ――――――ここで突然の補足だが、呪力と魔力、気の解説をしよう。

 この世界には三種の超自然的エネルギーが存在する。一つは内的エネルギーである『気』、もう一つは外的エネルギーの『魔力』である。

 では最後の一つは何か。

 魔力と気、相反する力を合わせたエネルギー、すなわち『咸卦の気』である。

 コレは究極技法(アルティマアート)とまで呼ばれる「気と魔力の合一(シュンタクシス・アンティケイメノイン)」を行わなければ得られない力だ。だが、ことカンピオーネと神に至っては話が違う。

 この両者が権能や力を使用する際に用いるエネルギーは全て『咸卦の気』なのだ。

 故に本来「魔力を操る力」としての意味で用いられる呪力は、カンピオーネと神に対しては『咸卦の気』を意味する。

 つまり何が言いたいのかと言うとだ。

 カンピオーネの持つ膨大な呪力は、長年の修行から「咸卦法」を身に付けた者にとって極めて異常なものとして感じられるのだ。

 

 

 

 

 

 

「――――――どうしたんだいエヴァ!? 叫び声が市街区画まで響いていたよ! それに凄まじい『咸卦の気』が!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 先程の絶叫を聞いて急いでやって来たタカミチが、皐月の集中を乱した。

 

「―――――あ゛ッ」

「な゛っ」

「えっ?」

 

 浄火が、エヴァンジェリンの真祖化の術式を焦がした。

 

「…………」

「…………」

「えっと、もしかしてボクは空気を読めてなかったかな?」

「タカミチ、貴様なぁ……」

「っべー。マジやっべー」

 

 何とも言えない空気が流れ、

 

「アレ? タカミチ、エヴァと知り合い?」

「大丈夫なんか? つっくん」

「アスナ君!? あと確か、このか君!?」

「タカミチ、また老けたよね。ガトウさん目指してるの?」

「ファッ!!?」

 

 カオスが、降臨した。

 

 

  




さて今回は主人公の権能が(三つ目だけど)登場。エヴァンジェリンの失恋と解呪と造物主の真名の伏線、主人公の立場などのお話でした。

ここで感想欄でも溢していた「呪力」の扱い方を再検討、明確にしました。
カンピオーネや神ならこれぐらいはチートでないと、ということです。
一応肉体強化しているわけでなく、権能使用の際の力で定義させていただきました。

そして前回募集したアンケート結果ですが……、不評!! 圧倒的ゴドー君不評!
まぁ細かい集計はしていませんが、少なくともネギま!本編での護堂君の登場は無くなりました。
仮に出たとして、短編での登場になるかと。一定何時になるのやら。
まぁ主人公の立場と性格から、アンチ・ヘイトになること請け合いですが。



修正点は随時修正します。
感想待ってます(*´∀`)


・エヴァンジェリンを造物主の娘に修正。
・権能名を変更。

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