問題児たちと正義の味方が異世界から来るそうですよ? 作:ベアッガイ
つい勢いで書いてしまいました。
日も暮れた頃、噴水のある広場にて久遠飛鳥、春日部耀、そして黒ウサギと同じコミュニティに所属するジン=ラッセルという少年と合流した。
このジン=ラッセルが、黒ウサギ達のコミュニティのリーダーらしいが……こう言ってはなんだが、黒ウサギ達のコミュニティが人材不足がどれほどのものか良くわかる。
「な、何であの短時間で“フォレス・ガロ”のリーダーと接触してしかも喧嘩を売る状況になったんですか!?」
「しかもゲームの日取りは明日!?」「それも敵のテリトリーで戦うなんて!」「準備している時間もお金もありません!」「お金というあたり、弱小コミュニティは辛いわね」「どういう心算あっての行いですか!」「聞いているのですか三人とも!?」
「「「ムシャクシャしてやった。今は反省しています」」」
「黙らっしゃい!!」
「まんま、犯罪者の言い訳じゃない……」
示し合わせたように同じ言い訳を口にする三人に激怒する黒ウサギ。
弱小コミュニティで、それを補うために優秀な人材を呼んだと思ったら、その日のうちにその人材が他のコミュニティに喧嘩を売っていたのだから、まぁその怒りたい気持ちも分かる。
「別にいいじゃねぇか。見境なく喧嘩売ったわけじゃないんだから許してやれよ」
「い、十六夜さんは面白ければいいかもしれませんが、このゲームで得られるのは自己満足だけなんですよ?」
黒ウサギの言葉に、“契約書類”を覗き込む十六夜。
“契約書類”とは“主催者権限”を持たない者達が“主催者”となってゲームを開催するのに必要なものらしい。
ゲーム内容・チップ・賞品が書かれていて、“主催者”のコミュニティのリーダーが署名することで成立するとのことだ。
「“参加者が勝利した場合、主催者は参加者の言及する全ての罪を認め、箱庭の法の下で正しい裁きを受けた後、コミュニティを解散する”ーーーまぁ、確かに自己満足ね。ゆっくり時間をかければいいものを、わざわざリスクを負ってまで短縮させるんだもの。しかも、自分達には全く無関係の罪の言及のために」
遠坂が聞いたら、心の贅肉だわ。とかって言いそうだ。
ちなみに、チップは彼らの“罪の黙認”だそうだ。
おそらくだが、これはどのような状況出会っても罪を暴露することが出来なくなる、ということだろう。
どれほど拷問を受け、肉体、精神が追い詰められようとも口に出すことは出来ない、そうだった場合、中々に恐ろしいものではないだろうか。
「でも、時間さえかければ、彼らの罪は暴かれます。だって肝心の子供達は……その」
「既に死んでいるのだから」
黒ウサギは言い淀むが、私が後を引き継いで口にする。
「そう。人質は既ににこの世にいないわ。そこを責め立てれば必ず証拠は出るでしょう。けれどそれには時間がかかるわ。あの外道を裁くのにそんな時間をかけたくないの」
「そうね、私だったらその場で殺しているでしょうし」
「………いえ、それはマズイでしょう」
箱庭の法は箱庭の中でしか通用しない。一度箱庭の外に出てしまえば最早罪の追求は不可能と言っていいらしい。
しかし、それを防ぐための“契約書類”による強力な“契約”なんだとか。
「それにね。黒ウサギ。私は道徳云々よりも、あの外道が私の活動範囲内で野放しにされるのが許せないの。ここで逃がせば、いつかまた狙ってくるに決まってるもの」
「ま、まぁ……逃がせば厄介かもしれませんけれども」
「僕もガルドを逃がしたくないと思っている。彼のような悪人は野放しにしちゃいけない」
ジンも飛鳥に同調してみせる。
まぁ、既にゲームが実行されるのは決まっているのだから、今更グダグダ言ったところでどうにも出来ないのだから。
「はぁ〜……仕方ない人達です。まぁいいデス。腹立たしいのは黒ウサギも同じデスし。“フォレス・ガロ”程度のゲームなら十六夜さん一人で楽勝でしょうし」
「何言ってんだ、俺は参加しねぇよな?」
「当たり前よ。貴方なんて参加させないわ」
二人の言い分に食ってかかる黒ウサギ。
「だ、駄目ですよ!御二人は同じコミュニティの仲間なんですから、キチンと協力しないと」
「そういうことじゃねぇよ黒ウサギ」
十六夜は真剣に黒ウサギに言い聞かせる。
「いいか?この喧嘩は、コイツらが売ったんだ。そしてヤツらが買った。なのに俺が手を出すのは無粋だって言ってるんだよ」
「あら、分かってるじゃない」
「……ああもう、好きにして下さい」
「あ、そうそう、私。このコミュニティ抜けさせてもらっていいかしら」
「どうぞお好きに……なさっては駄目ですよ!?いきなり何を言い出すのですか!?」
さっきまで疲れきった様子だった黒ウサギが、急に元気になって反応してくる。やだ、ちょっと楽しい。
「そうだぜ、正義の味方サマ。さっきまでは協力する気満々だったのによ。それとも、怖じ気づいたのか?」
「そうね……ある意味正解かもしれないわ」
「オイオイ、マジに言ってんのかそれ」
「だってそうでしょう?大した実力も無いような子供がリーダーをやっているだなんて、不安でしょうがないじゃない」
まさかここで自分に飛び火するとは思っていなかったのだろう、ジンがとても驚いた顔をしている。
「なっ、それは違います!ジン坊っちゃんは若いながらもちゃんとコミュニティのリーダーとしての責務をーーー」
「だとしても、今日のは話にもならないわ。じゃぁ、聞くけど、ジン坊っちゃん?貴方はどんなつもりで“フォレス・ガロ”に喧嘩を売ったのかしら?」
黒ウサギが猛烈に反発してくるけど、これだけは譲れない。
ジンには聞かなければならないことがあるのだ。
「どうって……彼のような悪人は許せないと…」
「そうね。その通りだわ。その気持ちは多いに理解出来るし、共感できるわ」
「で、でしたら何が問題なので?」
「だけどね、ジン坊っちゃん?貴方の対応はお粗末にも1コミュニティのリーダーの対応とは呼べないわ。そんなんじゃ、ガルドとやらの言っていた、黒ウサギが哀れだという発言に共感せざるを得ないわ」
「っ………でしたら、僕の何がいけないと言うのですか」
「言われなければ分からないの?ますます哀れね、黒ウサギ」
私の言葉に黒ウサギもジン=ラッセルも、怒り心頭といった様子だ。
ヤバイ、さすがに煽り過ぎたか。
「まぁいいわ。教えてあげる……確かに今回のゲームは、久遠飛鳥と春日部耀、彼女達二人がいるならよっぽどの事がない限り負けることはないでしょう。けれど、そのよっぽどの事があったとしたら?」
「それは……無いとは言えません。ですが!」
「まぁ、貴方達の話からして、そのガルドっていうヤツだとそんな事態にはならないとは思うわ。だけどね。ジン=ラッセル。貴方はその可能性を少しでも思い浮かべた?相手の罠にハマり、彼女達が命を落とすかもしれない可能性を考えなかったの?」
「…………」
黙り込むジン。
その様子だと、ほとんど考えていなかったのだろう。
「例えば、明日のゲーム。それが完全に運によるものになってしまっていたら?」
「えっ…」
「彼女達二人がどれほどのギフトを持っていたとしても、完全に運に頼る物では、必ず勝てるとは言えないのじゃないかしら?」
「それは……」
「え、エミヤさん、確かにその可能性も無きにしも非ずでしょうが、別段、明日のゲームはたとえ負けたとしても……」
「明日のゲームは、でしょう。これがもし、互いに命を賭け合うようなものだったら?互いのコミュニティの仲間を賭けていたら?ジン=ラッセル。例え貴方が売った喧嘩だとして、ゲームの内容を全て相手に決めさせることになってしまうというのは、確かに大抵の場合、仕方が無いのかもしれない。けれど、そうだからこそ、貴方は軽率な判断をしてはいけない。コミュニティのリーダーである者が、頭を使わなければいけないのは分かるでしょう?指揮、采配、交渉、etc。勿論、参謀役だとかがいるならば話は違うわ。でもね、このコミュニティにはいないのでしょう?少なくとも、それの専門家と呼べる者は今はいないでしょう?」
「一応は、黒ウサギがそれに近い事をやっていましたが……」
「だとしても、よ。むしろ、それこそ経験も知識も上の黒ウサギがいないのに決めた事の方が問題だわ。十六夜たちが来て、多少なりとも舞い上がっていたのは分かるけれども。………それと、別に私はジンにリーダーを辞めろとかそういう事が言いたいんじゃないわ。ただ、考えなさい、ということ。貴方達のコミュニティには十六夜達という大きな力が加わるのよ。けれど、その大きな力も使い方が悪ければ意味がない。今まで以上に、リーダーという立場は重要になるわ。そのことを忘れないで。考えなさい、常に先の事を。仲間の事を」
「………はい。ありがとうございます」
「お礼なんかいらないわ。これは私のためでもあるもの」
なんというか、原作を読んでいて、ここのゲームが運ゲーだったらどうするんだろうなー、と何と無く思ったことがあったので、それをちょっと使ってみました。