問題児たちと正義の味方が異世界から来るそうですよ? 作:ベアッガイ
それから黒ウサギについて彼女のコミュニティへと移動している最中ーーーだったハズが。
「何で私は世界の果てを見にきているのかしら」
「何言ってんだ、そこに世界の果てがあるからに決まってるだろ」
「だからそれが何でなのかってことよ……ハァ」
そう、私は現在、逆廻十六夜に連れられ、落下の時に見えた世界の果てを見に来ていた。半ば無理やり拉致されたようなものだが。
「ハハハ、男ならロマンを求めるもんだろ?」
「今の私は女の子なのだけれど……おまけに貴方のせいでずぶ濡れじゃない」
「水も滴るいい女だぜ?エミヤ」
ニヤニヤと笑みを浮かべながらこちらを見る彼。
どことなく視線がイヤラシイ気がするのは気の所為ではないだろう。
現に、私は湖に落ちただけでなく、今しがた吹き上がった巨大な水柱のせいで全身ずぶ濡れ、来ていた服は身体に張り付いて一部なんか透けてしまっている。
とはいえ、普通はそうなると目を逸らしそうなものだが、彼は遠慮なしに視線をむけてきている。
……いやまぁ、別に大して気にならないけれども。
「それにしても、言われた通りちゃんと名前で呼んでくれるのね、逆廻十六夜くん?」
「おうよ。素直に呼んでやったんだ、感謝しろよ?っつうか、そっちも十六夜でいいっての……いや、十六夜様だと尚よしだぜ?」
「貴方ってホント、自由な男ね……十六夜」
私たちがそんな風に少しだけ仲を深めていると
「ここですね!」
黒ウサギらしき人物がすごい勢いで飛び込んできた。
「あれ、お前黒ウサギか?どうしたんだその髪の色」
「そうね、その赤い髪も似合ってはいるけれど」
「黒ウサギの事よりも……一体何処まで来ているんですか!?」
「“世界の果て”まで来ているんですよ、っと。まぁそんなに怒るなよ」
「先に言っておくけれど、私は十六夜に無理やり連れて来られたのよ。無理やり、ね」
「おい待て、そこを強調するな。何か俺が悪いことをしたみたいじゃねぇか」
「悪いことをしているのよ、貴方は。私みたいな幼気な少女をこんなひと気のない所に無理やり連れて来るだなんて…」
「い、十六夜さんって……」
「おい待てや、性悪ロリ。生憎と俺にそんな世間様に大っぴらに言えないような趣味はないぞ。黒ウサギ、お前も真に受けるんじゃない!」
十六夜が声高に主張する。
というか性悪ロリって……私の事か。
無理やり連れて来られた事への、ちょっとした意趣返しだ。
「しかしいい脚だな、黒ウサギ」
「あら、十六夜ってば脚フェチなの?」
「違ぇよ、そういう意味じゃねぇよ。そりゃ黒ウサギの脚は確かにいいが俺としてはむしろその胸の方が……」
「何をおっしゃって…って、どこを触ろうとしてるんですか!」
「どこって胸だが?」
「って、何をナチュラルにセクハラをしようとしてるのよ貴方!?」
「そうです!このお馬鹿様!」
「ちっ」
と、そんな馬鹿な会話をしながらも、私は素直に黒ウサギに感心をしていた。
十六夜が遊んでいたとはいえ、十六夜のあの身体能力に、これだけの時間で追いついてくるとは。
箱庭に彼らを召喚する術を持つだけあって、黒ウサギ自身もそれなりの能力ーーーギフトを持っているようだ。
「ま、まぁ、十六夜さんとエミヤさんが無事でよかったデス。水神のゲームに挑んだと聞いて肝を冷やしましたよ」
「水神?」
「ーーーああ、アレのことか?」
『まだ……まだ試練は終わってないぞ、小僧共ォ!!』
怒りの声とともに、川面に横たわっていた白い細長いものが鎌首を起こす。
それは身の丈三十尺はある巨躯の大蛇だ。それが彼女の言う水神に間違いはないだろう。
「蛇神……!ってどうやったらこんなに怒らせられるんですかお二人とも!?」
「………その。つい癖で、矢を放ってしまって…まぁ人間相手じゃないんだし、いいじゃない」
「で、何か怒りながらも『試練』がどうとか言い出したから、俺らを試せるかどうか試させてもらった……まぁ、結果は大したことなかったがな」
『貴様ら……付け上がる人間!我がこの程度で倒れるか!!』
蛇神の甲高い咆哮とともに、巻き上がる風が水柱を上げて立ち昇る。
周囲には、戦いの傷跡である、捻じ切れた木々などが散乱している。
あの水流に巻き込まれたら最後、普通の人間ならば容易く千切れ飛んでいくだろう。
「十六夜さん!下がって下さい!」
「何を言ってやがる。下がるのはテメェだろうが黒ウサギ。これは俺……らが売って、奴が買った喧嘩だ。手を出せばお前から潰すぞ」
『心意気は買ってやる。それに免じ、この一撃を凌げば貴様らの勝利を認めてやる』
「寝言は寝て言え。決闘は勝者が決まって終わるんじゃない。はいしゃを決めて終わるんだよ」
はなから自分の勝利は決まっているとでも言わんばかりの台詞に黒ウサギも蛇神も呆れている。
『フンーーーその戯言が貴様らの最期だ!』
蛇神の雄叫びに応えて嵐のように川の水が巻き上がる。
竜巻のごときそれは、蛇神の背丈おも超えている。
竜巻く水柱が三本。
それぞれがまるで蛇のように十六夜に襲いかかる。
(これが“神格”……神の位を持つ者のギフトの力ね…)
「十六夜さん!」
黒ウサギが叫ぶ。
しかしもう遅い。
竜巻く水柱は川辺を抉り、木々を捻じ切り、十六夜の身体を濁流に飲み込み、容易く千切れ飛ばしーーー
黒ウサギと蛇神はそんな光景を幻視した。
「ーーーハッーーーしゃらくせぇ!」
しかし、そんなわけが無い。
嵐を超える暴力の渦。
十六夜は竜巻く激流の中、ただの腕の一振りで嵐をなぎ払った。
「嘘!?」
『馬鹿な!?』
驚愕する二つの声。
あれは最早人智を超越した力だ。
私自身、あそこまでデタラメだとは思わなかった。
死ぬような事はないだろうと、思っていたが、まさか腕一本でなぎ払うとは。
実は十六夜って、人間に見えるけど人間じゃないんじゃなかろうか。
「ま、中々だったぜオマエ」
大地を砕くような爆音。
胸元に飛び込んだ十六夜の蹴りは、蛇神の胴体を打ち、空中高く、その身を打ち上げた。当然、蛇神は重力に引かれ、そのまま川に落下していく。
そのせいで川が氾濫し、十六夜はもちろん、私たちまで全身が濡れる。
こうして、私達の箱庭初の神格保持者とのゲームは、あっけなく終わった。
……いやまぁ、私何もしてないけれども。
でも、蛇神が終始、貴様ら、って言ってたし、私も参加者って事でいいでしょ、うん。