問題児たちと正義の味方が異世界から来るそうですよ? 作:ベアッガイ
三人の問題児に睨まれ、私に矢で狙われている彼女は焦って弁明を始める。
「や、やだなぁ御三人様。そんな狼みたいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ?そちらの貴女もそろそろ弓を下ろして欲しいのですよ。えぇ、えぇ、古来より孤独と狼と矢はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便に御話を聞いていただけたら嬉しいでございますヨ?」
「断る」
「却下」
「お断りします」
「そちらの目的次第だと思うがね」
「あっは、取りつくシマもないですね♪」
お手上げ侍、とばかりに降参のポーズを取る黒ウサギ。
しかし、その眼は冷静にこちらを値踏みしていた。
さて、こちらとしても無闇やたらと敵対するのもどうかと思うし、おそらくだが、彼ら三人を召喚したのは彼女なのだろう。
どうせなら彼女からこの世界についての情報を聞き出そうか私が迷っていると、春日部耀が不思議そうに黒ウサギの隣に立ち、黒ウサギの耳を根っこから鷲掴みにし、
「えい」
「フギャ!」
思い切り引っ張っていた。
「ちょ、ちょっとお待ちを!触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか!?」
「好奇心の為せる業」
「自由にも程があります!」
「へぇ?このウサ耳って本物なのか?」
今度は逆廻十六夜が引っ張り始めたかと思うと、久遠飛鳥までもが参加した。
左右から力いっぱい引っ張られた黒ウサギは、言葉にならない悲鳴をあげていた。その悲鳴は少々、というかかなり女性としてはどうなのかと言わざるを得ないものだった。
「ーーーあ、ありえない。あり得ないのですよ。まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはこのような状況を言うに違いないのデス」
「いいからさっさと進めろ」
そう言って逆廻十六夜は黒ウサギのまえの岸辺に座り込み、他の二人も同じように座る。
ここにいたり、私はようやく投影していた弓と矢を幻想へと破棄する。
それをやはり、驚いたように見つめる女性三人と、興味深そうに見つめる逆廻十六夜。
(逆廻十六夜の前では不用意に魔術は使わない方が良さそうだな)
彼はかなりの要注意人物だろう、性格的にも。
「そ、その前に、我々がこの“箱庭の世界”に招待させていただいたのは御三人様だったハズなのですが?はて、何故、御一人様多いので?」
黒ウサギが不思議そうに聞いてくる。
まぁそれはそうだろう。言ってみれば、招待したパーティに予定外の客が来たようなものなのだから。
「それについては簡単よ。私はそこの三人のように貴女たちが出したであろう手紙に招待されてきたわけじゃないからよ」
「先ほど黒ウサギを狩猟でもするかのごとく弓で狙っていた貴女は違うと?」
「そういやお前、さっきアーチャーでも好きに呼べって言っていたな。さっきの弓はそういうことか」
「そうよ、貴女。さっきは流したけどあの弓はどこから出したのよ?」
「さてね、生憎とそう簡単に手の内は見せるつもりはないが?まぁ、しいて言うならば、私の才能の一つだとでも思っていてくれ」
「才能……なるほど、それが貴女の“ギフト”というわけですか」
「「「「“ギフト”?」」」」
私たち四人の声が重なる。
「はい、そのことについてもご説明させていただくのですが……その前に。ようこそ“箱庭の世界”へ!我々は貴方方にギフトを与えられた者たちだけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせていただこうかと召喚いたしました!」
「ギフトゲーム?」
「そうです!既に気づいていらっしゃるでしょうが、貴方方は皆、普通の人間ではありません!その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵ーーーそれが“ギフト”でございます。『ギフトゲーム』はその“ギフト”を用いて競い合うためのゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活できる為に造られたステージなのでございますよ!」
両手を広げて、どこか誇らしげに語る黒ウサギ。
とはいえ、今の説明だけでもおおよその事が分かった。
やはりこの箱庭の世界は、元の世界とは全く異なる世界だということがはっきりした。
「まず初歩的な質問からしていい?貴女の言う“我々”とは貴女を含めた誰かなの?」
「YES!異世界から呼び出されたギフト保持者は箱庭で生活するにあたって、数多とある“コミュニティ”に必ず属していただきます♪」
「嫌だね」
「組織というものには、あまり信用がないのよ、私」
「属していただきます!そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの“主催者”が提示した賞品をゲット出来るというとってもシンプルな構造となっております」
「……“主催者”って誰?」
「様々ですね。暇を持て余した修羅神仏が人を試すための試練としょうして開催されるゲームもあれば、コミュニティの力を誇示するために独自開催するグループもございます。特徴として、前者は自由参加が多いですが“主催者”が修羅神仏なだけあって凶悪かつ難解なものが多く、命の危険もあるでしょう。しかし、見返りは大きいです。“主催者”次第ですが、新たな“恩恵”を手にすることも夢ではありません。後者は参加のためにチップを用意する必要があります。参加者が敗退すればそれらは全て“主催者”のコミュニティに寄贈されるシステムです」
「後者は結構俗物ね……チップには何を?」
「それも様々ですね。金品・土地・利権・名誉・人間……そしてギフトを賭け合うことも可能です。新たな才能を他人から奪えばより高度なゲームへと挑戦する事も可能でしょう。ただし、ギフトを賭けた戦いに負ければ当然ーーーご自身の才能も失われるのであしからず」
黒ウサギは、その笑みに黒いものを見せる。
あるいは、彼らに対しての挑発といったところだろうか。
見るからに負けず嫌いといった感じだもの、あの二人は。
「そう。なら最後に一つだけ質問させてもらっていいかしら?」
「どうぞどうぞ♪」
「ゲームそのものはどうやったら初めてられるの?」
「コミュニティ同士のゲームを除けば、それぞれの期日内に登録していただければOK!商店街でも商店が小規模ながらゲームを開催しているので、良ければ参加していってくださいな」
「つまり、そのギフトゲームというのは、この世界の法そのものと考えていいのかしら、ウサギさん?」
「ふふん?中々鋭いですね、狩人さん。ですがそれは八割正解といったところです。我々の世界でも強盗や窃盗は禁止ですし、金品による物々交換も存在しています。ギフトを用いた犯罪などもってのほか!そんな不逞の輩は悉く処罰しますーーーが!しかし!ギフトゲームの本質は全くの逆!一方の勝者だけが全てを手にするシステムです。店頭に置かれている商品も店側の提示するギフトゲームをクリアすればタダで手に入れることができます」
「そう。中々野蛮ね」
「ごもっとも。しかし“主催者”は全て自己責任でゲームを開催しております。つまり奪われるのが嫌な腰抜けは初めからゲームに参加しなければいいだけの話でございます」
そう言って、彼女は締めくくった。
しかし腰抜け呼ばわりとは、中々に辛辣だ。
残りは時間がかかるとの事で、黒ウサギのコミュニティで話をしないかとの誘いだ。
だが、そんな黒ウサギに逆廻十六夜が声を上げる。
おそらくは、彼にとっては最も重要な問い。
「この世界は……面白いか?」
彼の言葉の他の二人も無言で答えを待つ。
彼らの招待状に何と書かれていたのかは知らないが、おそらく元いた世界へはそうやすやすとは戻れないのは間違いないだろう。
それはつまり、家族や友人、今までの人生の全てのしがらみを捨ててきたということだろう。
かつての自分のように。
「ーーーYES。『ギフトゲーム』は人を超えた者たちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」