問題児たちと正義の味方が異世界から来るそうですよ?   作:ベアッガイ

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実に5ヶ月振りという。
期間を空けすぎました、すみません。


“誇り”の返還みたいですよ?

ガルドが消滅するのとほぼ同時に、森の木々もまた消失する。

 

「早く行くわよ!さっさとしなさい二人とも!」

「はい!急ぎますよ、十六夜さん!」

「ってオイ、そんな急ぐことかよ」

「急ぐことなのよっ………耀がかなりの出血をしてる!」

「黒ウサギ!こっちだ!耀さんが危険だ!」

 

瞬く間に私達は廃屋に隠れていたジン達の元にたどり着いた。

 

黒ウサギは耀の容体を見て思わず息を呑む。それほど耀の出血が酷い。

 

「すぐにコミュニティの工房に運びます。あそこには治療用のギフトがありますから。御三人は飛鳥さんと合流してからーー」

「黒ウサギ、ちょっと待って」

 

耀を抱えて今にも飛び出そうとしていた黒ウサギを呼び止め、その手から耀を奪い取る。

 

「って、何で止めるんですかエミヤさん!!一刻も早く耀さんに治療をーー」

「だからするのよ治療を。今すぐに」

「ほぇ?」

 

黒ウサギのアホな声を聞くと同時に、身体が覚えている治癒の魔術を行使する。

私自身はこの魔術を行使出来るほどの素質もなければ、魔術の理解も無い。だが聖杯のカケラの埋め込まれたこの身体は、不完全ながら願望機たる聖杯として機能しているため、イリヤと同じように、過程や理論をすっ飛ばして魔術の結果を生み出すことが出来るのだ。

 

「すごい……耀さんの傷が」

「あっという間に塞がった……」

「へぇ…それがお前の言ってた『魔術』ってやつか」

「まぁね。………まさかぶっつけ本番で上手くいくか分からなかったとは言えないわね」

「オイ。バッチリ聞こえてんぞ」

「気のせいよ。気のせい」

 

ともかく、私が行使した治癒の魔術は上手くいき、耀の怪我を治すことが出来た。

これで失敗とかしていたら恥ずかしいにもほどがあるが。

上手くいったのだから良しとしよう。

 

「一応、傷は塞いだけど、流れた血まで全ては戻らないからしばらく安静にしておいた方がいいわ」

「分かりました。それでは耀さんを連れて先に本拠に戻らせていただきます」

 

そう言って耀を抱えて去って行く黒ウサギ。

昨日も思ったが、あの細い身体から出てるとは思えないほどの脚力だ。

 

「なぁ御チビ、黒ウサギは春日部の治療をするつもりだったみたいだが、そういうギフトを持っていたのか?」

「いえ。彼女のものでは無く、僕らの工房にある治療用のギフトです。しかし扱いが難しいため、僕らには扱えず……。彼女しか扱えません」

 

やはり黒ウサギはこのコミュニティにおいては一線を画する存在のようだ。

なるほど。

耀や飛鳥の話ではジンの事を『黒ウサギに寄生している』といった風に揶揄していたガルドだが、外からはそのように見えてしまうのも仕方ないだろう。

 

「やっぱりアイツが1番面白いな。俺並みには程遠いが、“ノーネーム”では明らかに別格だ」

 

十六夜も同じように感じていたようだ。

それにしても、“俺並み”とはまた随分な言葉だ。……彼らしいと言えばらしいが。

と、そこで彼は此方を振り返り、

 

「最も、エミヤ程じゃ無いが」

 

いや、そんなに期待されても困るのだけれど。

そんな『闘いたくてウズウズしてるぜ』みたいな目で見ないでくれ。

 

まぁ、十六夜が“ノーネーム”に協力しているのは、まず間違い無く黒ウサギが居て、私もまたこのコミュニティに参加しているからだろう。

黒ウサギの異常とも言える程のコミュニティへの献身。

その姿に何かしらの興味を抱いているのだろう。

 

「恋愛感情とかなら分かりやすいんだが……コレじゃあなぁ…」

十六夜が割と酷い事を言いながらジンを見る。

分からなくも無いが本人の前で言ってやるなよ。

しかも何故かジンが頭を下げてきた。

 

「ん?何で頭を下げる?」

「踏んでくれとか言わないでよ?」

「違いますよ!?」

「えっ、違うのか?」

「そう……違うの」

「違います!何でエミヤさんはちょっと残念そうなんですか!?」

 

いやまぁ、たまにはいじめる側に回ってみたいと言うか……。

きっとイリヤと同じ身体の影響だな、うん。きっとそうだ。

 

「それはともかく……僕は結局何も出来ませんでした…」

「あ、そういう?」

「そうかもしれないがな。でも勝ったのはお前らだろ?」

 

皮肉るでも無く、ごく当たり前のように十六夜は言う。

 

「お前達が勝った。なら御チビが居た事にも要因があったって事だろ?何かは知らないが。少なくとも春日部が生き残ったのは御チビの適切な処置があったからだろ?」

「は、はい」

「ならそれでいいじゃない。それよりも初めてのギフトゲームはどうだったの?楽しかったかしら?」

「そりゃ楽しいだろ」

「……いえ、そんな事はありません」

 

まぁ実際足を引っ張っていたとまでは言わなくとも、特に役にも立っていなかったしな。

 

「昨夜の……僕を担ぎ上げるという作戦、やっていけるのでしょうか」

「他に方法は無いと思うけど……十六夜はどう思うの?」

「御チビ様が嫌だとおっしゃるのなら、止めますデスヨ?」

 

十六夜の言葉に黙り込むが、すぐに首をふる。

 

「いえ、やります。やらせて下さい。僕の名前を全面に出す、この方法なら万が一の時にコミュニティの皆の被害も軽減出来るでしょうし……こんな僕でも皆の盾代わりにはなれるかもしれない」

「……あっそ」

 

ジンは十六夜に言われたからやるのでは無く、自ら進んで己の名前を売ろうとしているのだ。

生意気にも、これからの脅威を自分の名前に集められれば重畳だと言うのだ。

けれど。

 

「………自己犠牲なんてものはただのエゴよ。そんなのは人間としておかしいのよ。そんなのは、私だけで十分よ…」

 

私の言葉は小声だったためジンには聞こえなかったようだが、十六夜には聞こえていたようで。

こちらに物言いたげな視線を向けてくる十六夜だった。

 

 

ギフトゲーム終了から直ぐの事、“フォレス・ガロ”解散令が出された。

 

居住区から離れていた人々が、居住区が元に戻ったことに気付き次々と戻ってきていた。

 

「そう、ですか………ガルドはあなた方が」

「はい。人質の事に関しては“階層支配者(フロアマスター)”に話してあります。ですので、後の事は大丈夫でしょう」

 

ガルドが、ひいては“フォレス・ガロ”が無くなったというのに、それを喜ぶ声は少ない。

まぁ、無理もないだろう。

人質の死を知らなかった者たちは、その事実に泣き崩れ、無理矢理であったとはいえ、自分達の所属しているコミュニティが無くなった事に戸惑いを隠せない者、けして良い評判ばかりでは無かったが、それなりの規模であった“フォレス・ガロ”が無くなった事に不安を感じる者など、大部分は良い感情を持っていないようだ。

 

そんな雰囲気の中、代表者としてジン坊っちゃんと話しをしていた男が、何かを恐れるように新たに話しを切り出した。

 

「一つ、お聞きしたい事があるのですが」

「なんですか?多少の事でしたらご相談してもらっても構いませんが」

「いえ、そうではなくてですね……その、まさか俺達はあなた方のコミュニティに、“ノーネーム”の傘下に入るのですか?」

 

その言葉を聞いて、はっきりジン坊っちゃんの顔は強張った。

無理もない。つい先ほどまで命をかけて戦ってきたというのに、その事に対して感謝どころか、むしろ責めるような事を言われたのだから。

彼らにとっては人質を取られ支配される事と、私達“ノーネーム”の仲間入りは同じぐらいに惨めなものなのだろう。

 

ジン坊っちゃんは強張った顔のまま何も言えない。

やはり、“ノーネーム”では信頼に値しないのでは、などと思っているのだろう。

 

仕方ない。

ここは人生の先達たる私達が少しは引っ張ってやるとしよう。

 

私と十六夜は示し合わせた訳でも無いというのに、ほぼ同時にジン坊っちゃんの隣に立ち、

 

「たった今より!“フォレス・ガロ”に奪われた誇りを我らがジン=ラッセルが返還する!」

「すぐに代表者は前へ出るように!」

 

一千人を超える視線が、一斉にこちらを向く。

誰もが私達に注目している。だが、動こうとする者はほとんど居ない。

仕方なく、再度声を張り上げる。

 

「聞こえなかったの?あなた達が無様に奪われた誇りをーーー“名”と“旗印”を返還すると言ったのよ!コミュニティの代表者は疾く前に来なさい!“フォレス・ガロ”を打倒した我らがジン=ラッセルが、その手であなた達に返還してゆく!さぁ、早くなさい!」

「まさか…本当に…」

「俺達の旗印が返ってくるというのか?!」

 

ここに至って、ようやく人々は理解したようだ。

自分達の誇りが返ってくるという事に。

しかし、そこからは早かった。

皆、先を争うようにジン坊っちゃんの前に押し寄せる。小さなジン坊っちゃんが、人の雪崩れに飲み込まれようとした時。

 

「列を成して並べ戯けが!貴様らはそこらの獣以下か!」

「ひぃっ…」

 

十六夜の一喝と踏み下ろされた脚と砕かれた大地により、瞬く間に列を成していく人々。

初めからそうすれば良いものを。

 

「場の雰囲気は作っておいてやった。キッチリやれよ?」

「わ、分かりました」

 

当の十六夜本人は悪戯っぽい口調と顔で、ジン坊っちゃんに声を潜めて耳打ちをしていた。

 

「貴女達、随分と面白い事を考えてたみたいね?」

 

何が起こっているのか、起ころうとしているのかを理解したのだろう飛鳥が私に声をかけてきた。

 

「さて、何のことかしらね…」

 

そうとぼける私の顔は、きっと十六夜のような、悪戯が成功したかのような笑顔をしている事だろう。

 

勝利したところで、得られたモノは自己満足のみ。それが、一転して、ただの勝利ではけして得られないようなモノに化けたのだから。

少しくらいは得意気でいても良いではないか。

 

ジン坊っちゃんは“階層支配者(フロアマスター)”から預かったリストを読み上げ、人々に彼らの誇りを返していくのだった。

 

 


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