問題児たちと正義の味方が異世界から来るそうですよ?   作:ベアッガイ

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一月以上も開けての更新…。
お待たせしました。


ゲーム、決着みたいですよ?

「というか。お前の世界にはそんな世界を滅ぼすような奴が居たって事だろ。うわマジ羨ましい。俺もそいつと闘いたかった」

「この世界になら同じぐらい凶悪で危険ではた迷惑なのが幾らでもいるでしょうから、それで我慢しなさい」

「手始めに、俺と闘おうぜエミヤ」

「何でそうなるのよ、貴方バカじゃないの、バカでしょ」

「いいじゃねぇかよ。世界救ったんだろ?だったらもう闘うしかないだろ。あの蛇じゃ全然物足らないしよ」

「いやいやいや。仲間同士でなんてやめてください!それに十六夜さんが暴れたら、ますますコミュニティの本拠が荒れてしまうじゃなーーー」

「……いいわね、それ。あくまで力試し程度なら構わないわよ」

「エミヤさん!?」

「ごめんなさいね黒ウサギ。けれど私も新しい身体になったから、この身体の調子とかも確かめたいの。それが分からないとどれだけの事が出来るかわからないでしょう?それだといざって時に困るでしょう?」

「そういうことだ。黒ウサギはすっこんでな」

「うぅ……分かりました。それならばなるべく被害の少なく済みそうな場所でしてもらいますよ」

「嫌だね」

「してもらいます!何でここで拒否するんですかこのお馬鹿様!」

 

スパァンとまたもハリセンで十六夜の頭を叩く黒ウサギ。

もはやテンプレだな。

 

「それじゃぁ、今夜にでもやりましょう。なるべく早い方がいいでしょうし」

「おう。箱庭に来てからようやく満足出来そうだぜ」

「………… あくまで力試し程度よ?」

「 おう。だから俺の“力”を試すぜ?」

「額面通りに受け取るんじゃないわよ、この馬鹿」

「いいじゃねぇかよ少しくらい」

 

………了承はしたけど、大丈夫かしら私。

遠坂、イリヤ、桜。今夜、力試しで死んだらごめんなさいね。

 

GEEEEEYAAAAAAAAaaaa!

 

そんな風に下らない事を話していると、森の中から獣の咆哮が響いてくる。

森から鳥達が一斉に飛び立って行く。

見れば黒ウサギも驚いた拍子に屋根から転げ落ちそうになっている。やっぱり黒ウサギってどこか鈍臭いのよねぇ…。

 

「いい、い、今の凶暴な叫び声は…?」

「ああ、間違いない。十中八九、虎のギフトを使った春日部だな」

「そうね、きっと彼女ね」

「なるほどなー。ってそんなわけでしょう!?幾ら何でも失礼過ぎますよ!?」

 

私達の発言に怒る黒ウサギ。

しかし、黒ウサギのウサ耳は怒ると逆立つのか…ホントにあの耳どうなってるんだろう。気になる。

後で私も引っ張ってみようか。

 

「耀じゃなかったら、飛鳥ね」

「もしくはジン坊っちゃんだな」

「エミヤさんまでボケ倒さないで下さい!」

 

やっぱりハリセンでもってツッコミをする黒ウサギ。中々の芸人魂だ。

 

「ですから黒ウサギは芸人ではないのですよ!?」

「いや芸人だろ」

「違います!!ああもう!そろそろ黒ウサギもホントに怒りますよ!?」

「しかし、この舞台といい、今の叫び声といい、前評判なんかよりも凄いことになってるわね」

「確かにな。こりゃお嬢に参加しないっつったのは早計だったか?」

「貴方が出たらあの森ごと焼き払いかねないからダメよ」

「お前の中の俺のイメージどうなってんだよオイ。さすがにそこまでやらねぇよ」

「本当かしら。その辺りに関してはイマイチ信用ならないのよ貴方は」

「おいおい。こう見えて俺は自制心の塊みたいに謙虚なんだぜ?」

「息を吐くように嘘をつかないでちょうだい」

「さらっと黒ウサギを無かったことにしないで下さい!お二人共!」

 

黒ウサギが何か言っているが、生憎と私の耳は都合の悪いことは聞こえてこない。冬木の地で身につけたスルースキルだ。

 

「おい黒ウサギ。これ森ん中まで見に行ったらいけないのか?」

「お金を取るなどして観客を招くゲームもありますが、事前に取り決めて無い限りは駄目です」

「何だよつまんねぇ。ーーーそうだよ。お前、“審判権限(ジャッジマスター)”持ってるんだよな。ならそのお付きって事で俺らも中に連れてけよ」

「だから駄目なのですよ。黒ウサギのザ・素敵耳は此処からでも大まかな状況が分かってしまいます。状況が把握出来なくなるような、余程の場所で無い限り、侵入は禁止なのですよ」

 

黒ウサギの耳はそこまでいいのか。

何だかんだ言いつつも、黒ウサギが今までコミュニティを支えてきたという功績は伊達では無いのだろう。

 

黒ウサギの言葉を聞いた十六夜はチッと、露骨に舌打ちをしながら文句を言う。

 

「……貴種のウサギさんマジ使えね」

「そういうことはせめて聞こえないように言って下さい!本気でへこみますから!」

「……貴種のウサギさん、マジいらない子」

「……貴種のウサギさん、マジ愛玩動物」

「聞こえないようにとは言いましたが、聞こえないぐらいの小声だといって目の前で露骨に言うのもやめて下さい!もう!そんなに黒ウサギをいじめて楽しいのですか!?」

「超楽しい」

「昔はいじめられる事がおおかったから……凄く新鮮!」

「お馬鹿様!ホントにお馬鹿様!ーーーうぅ……あんまりなのですよ…」

「大丈夫よ、黒ウサギ。私達は貴女をいじめていじって楽しんでるけれど、けっして貴女の事が嫌いだとかじゃないわ。むしろ、貴女が好きだからいじめているの。これが私達なりの愛情表現なのよ」

「これが愛だと言うならば……愛などいらぬっ!」

 

黒ウサギがどこぞの帝王のような事を言っているが、それよりも気になる事がある。

それは、何故この森自体から吸血鬼とよく似た気配を感じるのか、である。

ガルド=ガスパーに吸血鬼の仲間がいて何かをし、彼に新たなギフトを与えたのだとしたら、先ほどからの黒ウサギの微妙に不安げな表情も分からなくもない。

 

(とはいえ。今更私達に出来ることなんて何も無い。出来るのは、ジン達三人を信じることだけ。頑張るのよ、三人とも)

 

きっとこの場にいる全員が少なからず同じ事を思っているだろう。どうか三人が無事でいることを祈っているのだろう。

 

と、視線を黒ウサギから森の中の屋敷へ移すと、そこには予想外の光景があった。

突如として、派手な音と共に屋敷の壁を蹴破って飛鳥を抱えたジンが飛び出してきたのだ。

 

「なんでさ…」

 

幾ら何でもおかしいだろう。

明らかにごく普通の人間にしか見えなかったジンが自分よりも大きな飛鳥を抱えたうえで。屋敷の壁を蹴破るなど、悪夢か何かにしか思えない。

ガルドのギフトの効果だろうか。

それにしてはジンが飛鳥に危害を加える様子などは特に無いので、ガルドのものでは無いだろう。

耀のギフトは他種と交流しその恩恵の一部を得るギフトだ。

そうなると、飛鳥かジンのギフトのどちらかだが……肉体強化の恩恵だらうか。

 

『ちょ…っと!もう、いいから!今すぐ止まりなさい!』

『はい。……ファッ!?』

 

飛鳥を抱えて爆走していたジンが飛鳥の言葉で急停止する。

飛鳥の命令を聞いているということは、飛鳥のギフトだったのか。

そういえば、昨日も飛鳥はガルドをその言葉で従わせていたと、黒ウサギも言っていたか。

………ふむぅ。ーーー対魔力の低い私にとっては、かなりヤバイギフトなんじゃないのか、それって。

 

『ガルドが守っていた銀製の十字剣…すなわち、今日と十字架。吸血鬼と化したガルド。ーーー間違いなく指定武具はあの白銀の十字剣です』

『吸血鬼?』

『はい。元々ガルドは、人、虎、悪魔から得た霊格によって成るワータイガーと呼ばれるものでした。しかし、今のガルドは吸血鬼によって人から鬼種へと変えられたのでしょう』

『だから銀の十字剣……。でも、どうして吸血鬼なんていうモノがあんな小悪党に力を?』

『それは……まだ吸血鬼とは分かりません。吸血鬼はこの辺りでは希少種ですから。しかし、黒幕のような存在がいるのは間違いないかと』

『でしょうね。あの様子じゃ、理性なんてほとんど残って無さそうだったもの……そんな状態でこんな舞台やゲームを用意することなんて出来ないでしょうしーーー誰っ!?』

『………私』

 

飛鳥とジンの二人がガルドとこのゲームについて考察を述べている時。

負傷しながらも、銀の十字剣を手に耀がやってきた。

見たところ、それなりに深い傷のようだ。

 

「黒ウサギ。確認したいのだけれど、箱庭の吸血鬼は血を吸った相手を殺すの?」

 

元の世界では吸血鬼に血を吸われた者は、死徒という化け物に成り果てる。

こちらの吸血鬼もまた同様ならば、早急にこのゲームの黒幕らしき者を見つけ出し滅ぼす必要がある。

 

「え?ーーいえ、そんなことはありません。箱庭の吸血鬼は吸血した相手を鬼種に変化させる事はあっても殺してしまうような事はそう無いハズですが……」

「と、いうことは。ーーー吸血鬼は見つけ次第打ち滅ぼすということで良いのよね?」

「いや何でそうなるんだよお前は」

「そ、そうです!そんなことは認められません!」

「何故?」

「何故って……そんな…」

「吸血鬼は吸血した相手に鬼種に変化させてしまうのでしょう?それはつまり、人としての存在を殺してしまう事と、何の違いがあるというの?現にガルドは鬼種に変化した事で理性を失くし、ただの獣のようになってしまっているもの」

「なるほどなぁ………確かに、他者を無差別に襲って鬼種にしちまうような吸血鬼は見つけ次第ぶっ飛ばした方がだろうな」

「ちょ、ちょっとお待ち下さい!基本的に箱庭の吸血鬼は、相手との合意の上でのみ、吸血行為を行います!そのように無差別に人を襲うような吸血鬼はいません!」

「………まぁ、いいわ。箱庭の吸血鬼は私の世界の吸血鬼とは違うみたいだし。見つけ次第討伐……なんて事はしないわ。ただし、相手が無差別に人を襲うような存在なら、容赦はしないわよ」

「それには俺も同意だがな…………しかし、ホントお前は正義の味方っぽく無いな」

「あら、知らなかったの?」

「何がだ?」

「『正義の味方は、自分が味方した者しか救えない』のよ?」

 

そう。

全てを救う正義の味方なんてものは、決して存在しない夢物語。理想でしか無い。

けれど、その理想は美しい。何物にも変え難いものだと感じた。だから憧れた。

けれど、その理想へはどうあっても辿り着くことは出来ないーーー出来なかった。だからこそ、今、自分はここにいるのだが。

 

「自分が味方した者しか救えない……か。何だ、まるで全てを救いたいみたいな言い方じゃないかオイ」

「………少なくとも、私と、切嗣ーーー養父の理想はそうだったわ。あくまで理想は、だけど」

「ふぅん………まぁ、その辺もいずれ聞かしてもらいたいとこだが」

「あら、十六夜の事だから無理矢理にでも聞き出すのかと思ったけれど」

「んなことはしねぇよ。俺だって良心の呵責ってもんを感じたりするんだからな」

「ははは、面白い冗談ですね十六夜さん」

「全くだわ、ナイスジョークね」

「よしそこに直れ性悪ロリに駄ウサギ。十六夜様のありがたいお説教を味合わせてやる」

「ひぃっ、どうかご勘弁を!主犯はエミヤさんです!」

 

この糞ウサギ。

サラッと私を売りやがった………黒ウサギ、いつか泣かす。

というか、それよりも。

 

「何やら飛鳥達のゲームも終盤みたいよ」

「ん?そうなのか?」

「えぇと、はい。そのようですね」

「で、どんな状況なんだ?見えてるんだろエミヤ」

「そうね……」

 

舞台に目を向ければ、いつの間にか飛鳥が銀の十字剣を持ち、走っている。

そしてその後を大型の獣ーーガルドが追いかけている。

彼女らが来た方向を見れば、ガルドが居た屋敷の一部が派手に燃えている。

下手をしたら森にまで引火しかね無いというのに。随分と無茶をするものだ。

 

「飛鳥とガルドの一騎打ち…ってところかしら」

「はぁ?お嬢様ってば、そんな面白い事になってんのかよ」

「そうね、面白いかどうかはさておき。見たところ、今のガルドには飛鳥のギフトはあまり効果は無いみたいだし、単純な身体能力でいっても飛鳥ではガルドには、まともに相手にすらならないでしょうね」

「飛鳥さん……」

 

黒ウサギはドキドキハラハラ、心配そうに見守っている。対して、十六夜の方はあまり普段と変化が無い。まぁ少なからず心配はしているようだが。

 

「で、お嬢様は何をしようとしてんだ?」

「分かるの?」

「分かるというよりも、あのお嬢様が無策で敵に突っ込むようには思えないんでな」

「良く分かってるじゃない。そう、ギフトも効かない、身体能力でも勝ち目は無い、そんな相手にどうするか。虎の身体能力に人間では追いつくことなんて出来はしない」

「俺は出来るがな」

「黙ってなさい人外生物………追いつけないなら追いつけるようにすればいい。ーーーつまり、飛鳥はね、ガルドの来る方向を狭めたのよ。森の木々をギフトで操作してね」

 

そう、先ほどから飛鳥とガルドが追いかけっこをしていた道ーーー不自然なほどにまっすぐな道。まるで“誰かによって木々が動かされた”かのように。

飛鳥はガルドの動きを見失わないために、森の木々を操作し一本道を作り上げた。そうなれば、必然的にガルドが来る方向は飛鳥の真っ正面に限定される。

これならば、両者の身体能力の差を皆無、とまではいかなくともかなり減らすことが出来るだろう。

そうして来る方向を限定した上での、樹木によるガルドの拘束。

そこへ更に、ギフトによる十字剣の強化。

おそらく、飛鳥の勝ちは決まったようなものだろう。

 

『GEya………!』

 

強化された十字剣の輝きと、途切れた悲鳴。これが、ガルド=ガスパーと呼ばれた虎の最期だった。

 

見れば、どうも最期の抵抗に飛鳥は吹き飛ばされ木々に身体をぶつけていたようだ。激しく咳き込んでいる。

 

『今さら言うのもアレだけれど……貴方。虎の姿の方が素敵だったわ』

 

こうして、ノーネーム対フォレス・ガロのゲームは、ノーネームの勝利で終わったのだ。

 


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