問題児たちと正義の味方が異世界から来るそうですよ?   作:ベアッガイ

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ゲームスタートみたいですよ?

箱庭二一零五三八零外門。ペリベッド通り、噴水広場前。

 

飛鳥、耀、ジンのゲーム参加者三名と、今回は不参加の黒ウサギ、十六夜、普段は耀の連れてる三毛猫、そして私は“フォレス・ガロ”のコミュニティ居住区画を訪れる道中、“六本傷”の旗を掲げたカフェテラスで声をかけられた。

 

「あー!昨日のお客さんじゃないですか!あれですか、今から決闘ですか!?」

『にゃー!にゃにゃー!』

 

ウェイトレスの猫娘が近寄ってくる。

うぅむ……やはり三毛猫が何を言っているか分からない。

そのうち黒ウサギに聞いて、そういった通訳系のギフトを探してみようか。

 

「ボスからもエールを頼まれました!ウチのコミュニティも散々連中の悪行に苦しめられてきたのですよ!自由区画、居住区画、舞台区画全てでやりたい放題でしたもの!二度とこんな不義理な真似が出来ないようにボコボコにしてやってください!」

 

ブンブンと両手を振り回して応援してくれる猫娘。

このテンションの高さといい、ネコ科ということもあってか、どこぞの虎を彷彿とさせるが、そこはやはり猫。かの冬木の虎ほどの恐怖は感じない。

………あんなのが他に居ても困るが。

 

「勿論、期待に応えるつもりよ」

「おお、心強いお返事!これは期待大です!」

 

だが、猫娘が明るい声を一転、ヒソヒソと声を潜め出す。

 

「実はお話があるのですが…。“フォレス・ガロ”の連中、領地の舞台区画ではなく居住区画でゲームをするつもりらしいんですよ」

「居住区画で、ですか?」

 

居住区画に舞台区画。

初めて聞く言葉だが、おおよそは予想がつく。

居住区画は文字通り居住区で、舞台区画はおそらくギフトゲームを行うための舞台のある区画の事だろう。

 

「さらにですね、傘下のコミュニティや同志やらをほっぽり出しての居住区画でのゲームですよ!?」

「……それは、さすがに変ね」

 

思わず顔を見合わせる私達。

とはいえ、ここで考えたところで答えが出るハズもなく。

 

「…何はともあれ、とりあえずゲームの会場へ行ってみましょう」

「何のゲームかはまるで分かりませんが、とにかく気をつけて下さいね!」

 

 

熱烈なエールを受けた私達は“フォレス・ガロ”の居住区画に向かう。

 

「皆さん!見えてきました!あれが“フォレス・ガロ”の………アレ?」

 

黒ウサギが言うが、すぐに言葉がつまる。

目を疑っているようだ。

というか、私達全員が目を疑っていることだろう。

なぜならば、そこにあるハズの居住区画は無く、森が存在していたからだ。

コミュニティの門にも盛大にツタが絡まり、その奥には鬱蒼と生い茂る木々が見える。

 

「どう見ても人の住む場所には見えないのだけれど…」

「……ジャングル?」

「虎の住むコミュニティだし、おかしくはないんじゃないか?」

「いや、おかしいです…“フォレス・ガロ”のコミュニティの本拠は普通の居住区画だったはずなのに…。それにこの木々は…」

 

ジンがそっと樹木に触れる。

樹木の表面が脈打ち、まるで生き物の鼓動のようですらある。

 

「やっぱり…“鬼化”している。いや、でもまさかーー」

「ジン君、ここに“契約書類”が貼ってあるわ」

 

見れば、門柱に羊皮紙が貼られている。

そこに記されたギフトゲームの内容はーー

 

 

『ギフトゲーム名 “ハンティング”

 

・プレイヤー一覧

久遠 飛鳥

春日部 耀

ジン=ラッセル

 

・クリア条件 ホストの本拠内に潜むガルド=ガスパーの討伐

 

・クリア方法 ホスト側が指定した特定の武具でのみ討伐可能。指定武具以外は“契約”によってガルド=ガスパーを傷つけることは不可能。

 

・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

・指定武具 ゲームテリトリーにて配置。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します。

 

“フォレス・ガロ”印』

 

「ふーん、指定武具ねぇ…」

「ガルドの身をクリア条件にしーー指定武具で討伐!?」

「こ、これはまずいです!」

 

ジンと黒ウサギが悲鳴のような声を上げるが、何がそんなにマズイのだろうか。

たしかに、武具が指定されているため闘う術が限られらるが、それだけではないだろうか。

……いや、へたしたら私にとっては致命的か。

 

「このゲーム、そんなに危険なの?」

「いえ、危険度はそれほどでは。問題なのは、このルールーー指定武具です。ルール上、飛鳥さんのギフトも耀さんのギフトも通じないということです」

「………どういうこと?」

「“恩恵”ではなく、“契約”によってその身を守っているのです。例え神格保持者であろうとも手は出せません。自分の命を勝利条件に組み込むことで、それ自体を自らを守るための鎧としたのです!」

「………すいません、僕のせいです。はじめに“契約書類”を作った時にルールを決めておけばよかったのに……!」

 

昨日、私と十六夜に言われた事を思い出しているのか、これでもかと言うほどジンの顔が申し訳なさに歪んでいる。

とはいえ、もはや後の祭りだ。今更どうしようもない。

 

「敵さんは捨て身で五分に持ち込んだわけか。中々やるじゃねえか」

「気軽に言ってくれるわね…条件は厳しいわよ。指定武具がどんなものかも書かれていないし…このままでは厳しいかもしれないわ」

 

こちらも、その綺麗な顔を歪ませている飛鳥。自分が売った喧嘩だけに責任を感じているのだろう。

 

「だ、大丈夫ですよ!“契約書類”には『指定』武具と書かれています!最低でも何らかのヒントはあるハズです!もし無ければルール違反となり“フォレス・ガロ”敗北が決定!この黒ウサギがいる以上、反則は見逃しません!」

「まぁ、そのヒントとやらに気付けなければこちらの、敗北が決定!でしょうけれども」

「エミヤ、余計な事言わない。……大丈夫。黒ウサギもこう言ってるし、私も頑張るから」

「……そうね、むしろこの程度、あの外道のプライドを粉々に打ち砕くのにちょうどいいハンデだわ」

 

可愛いらしさ満点で励ます黒ウサギとやる気に満ちた耀。

二人の言葉に飛鳥も奮起する。

 

「そうそう、その調子。最後に私からも励ましよ」

「エミヤさんが…?」

「何かしら、その疑わし気な視線は」

「散々私達のやる気を削ぐような事ばっか言ってたエミヤが?」

「そういう性格なのよ、仕方ないでしょう?ーーー相手を討伐する方法、クリア条件が確立されているのだから勝機は必ずあるわ。相手は別に12回殺さないといけないという訳でも無ければ、実は小さな蟲が本体の数百年も生きた害虫という訳でも無い、ただの虎なんだから、絶対勝ちなさいよ」

「12回ってどういう化け物よ、それ」

「数百年も生きた害虫って、何?」

「私の知っている中にそういうのが居たってだけよ。とにかく、何があろうともけして諦めずに抗いなさい。いいわね?」

「……分かったわ、一応、ありがとうと言っておくわ。エミヤさん」

「頑張ってくる」

 

私の言葉も幾らかは彼女達の励ましになったようで何よりだ。

と、私が二人を励ましている間、十六夜はジンを鼓舞……というよりは、昨日の事で脅していたのか?

 

ともかく、こうして参加者三名は門をくぐり、ゲームへと挑んでいった。

 


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