問題児たちと正義の味方が異世界から来るそうですよ? 作:ベアッガイ
俺の新しい身体の素体用に、イリヤがわざわざ用意してくれたらしい。
それは凄く嬉しい。嬉しいんだが、ちょっと待て!
「って、それってつまり俺は……」
「そうよ、貴方は女の子になるのよ」
「なんでさ!」
それはそれは、いやらしい、悪魔のようにニヤニヤと笑う、あかいあくま。
くそっ、イリヤ、わざわざ用意してくれた事はとても嬉しいけれど、何でよりによって自分と同型の身体を選んだんだよ!
「いいじゃない、イリヤスフィールと同型だから、ある程度はアインツベルンの魔術も使えるし、魔術回路も増設してあるのよ?」
「しかも身体能力は軽く人間の限界を突破出来るよう作ってある。さすがにサーヴァントには劣るようだが、それでも十分だろう」
「いやそうじゃなくて!何でイリヤはそうしたのかってことを…」
「まぁ、本人曰く、『シロウは私の弟だけど血は繋がってないじゃない?だったらこの機会に私と同じ身体にすれば、正真正銘、私達は姉妹になるじゃない♪』だそうよ」
イリヤ……その気持ちは嬉しいような悲しいような…。
「それに、これだけ色々と付け加えてるのは貴方がまた無茶をしてもある程度は平気なようにというのと、イリヤと同じ身体だと思えば、貴方もその身体を粗末に扱ったりしないでしょうっていう打算もあるのよ」
「うっ…」
何から何までお見通しだ。
イリヤや桜、彼女たちには一生涯敵わないだろう……いや、敵わない事はもう証明されたのか。なんせもう間も無く死んで新しい身体になるわけだし。
「どうでもいいが、そろそろ始めた方がいいのではないか?そう時間があるわけでもないのだろう」
「そうね、始めましょうか。そういうわけで、覚悟はいい?衛宮君」
「あ、あぁ……そうだな。頼むよ、遠坂、青崎さん」
「そうか…なら、しばらく目をつむって身体を楽にしていろ。すぐに終わる」
青崎さんの言う通り、目をつむり、身体から力を抜く……が、元々満身創痍なので大して身体に力は入らない。
すると、少しして、一瞬の浮遊感。
そして、すぐに何も感じなくなる。五感がなくなっているのだろう。
そのまま何か狭い所に押し込められたような不快感というか違和感のような物を感じるが、それもすぐに無くなる。
「終わったぞ。目を開けてみろ」
言われた通りに目を開けてみる。
目の前に横たわり、ピクリとも動かない自分の元の身体がある。
こうして見ると、何やら言いようのない不快感があるな。
「……鏡もなしに、自分の姿を見るっていうのもイヤな感じね…」
「言っても貴方はアーチャーとも戦っていたんだから、そこまででもないでしょうが」
いやまぁ、それはそうなんだけれども。
それでもやっぱり、長年連れ添った?身体との別れというのも、感慨深いものがある。
「そっか、この身体ともお別れなのね…、ありがとう私の身体、おやすみなさい」
「………衛宮君、貴女」
ん?
って、あれ。自然に女口調になってる!?
「な、なんで!?どうなってるのよこれ!?」
「……おそらくだが、世界により修正が働いたのだろう。女の身体に男の精神というのもアレだったのだろう。精神は肉体の影響を受けるとも言うしな」
「そうね、多分だけれど、その推測が正しそうね」
「そ、そんなぁ……」
「いいじゃない衛宮君。むしろイリヤと同じような身体で、男性の口調という方が変よ」
「それよりも、違和感や不具合は無いか?」
「えっと…今調べてみるわ……」
「ーー同調開始」
ーー魔術回路27本正常稼働。強化、投影、魔術の使用に問題無し。
ーー新たな魔術回路200本、サブ魔術回路100本、正常稼働。
ーー固有結界・無限の剣製正常封印。
ーー魔力量、以前に比べ倍以上に増大。
ーー肉体表面外傷無し。及び内面も損傷無し。
ーー『全て遠き理想郷』の存在を確認。
んんー?
色々とツッコミたいところがあるんだが、とりあえず
「ねぇ、遠坂、何で『全て遠き理想郷』があるの?」
「何でもなにも、埋め込んだからに決まってるじゃない」
「そうじゃなくて、何でセイバーに返したハズの鞘がここにあるのかって話よ」
「あぁ、それはイリヤスフィールがまた見つけてきたのよ。元々、それを見つけたのもアインツベルンだしね。ひょっとしたらって思って探したらあっまらしいわよ」
なんとなく適当な感じもするが、そう言われてしまえば納得するしかない。
しかし、このイリヤがよく着ていたようなヒラヒラした服。特にスカートというのは全くもって落ち着かない。
このあたりの感覚は、世界の修正による魂の改竄が起こっても変わらなかったようだ。
そういえば、髪も何故か昔みたいな赤色になっている。いや、イリヤの色と上手く合わさって朱銀とでも言う色になっている。
「さて、それではわたしは報酬として、この身体を貰っていくぞ」
そう言って青崎さんが私の元の身体をアタッシュケースの中にしまい込む。どうやって、あの中に入れているんだろう。
「というか、もう必要無いとはいえ、人の身体を報酬にするって…」
「あら、貴女の新しい身体を用意して貰う代わりに古い身体を渡す。身体と身体を交換するんだから、まさに等価交換じゃない」
「いや、その理屈はどうなのよ…」
私が何となく釈然としない気分でいると遠坂が何かを取り出す。
「遠坂……それって」
「えぇ、宝石剣よ」
宝石剣。
宝石翁、キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグーーー偶然かつ不完全とはいえ、宝石剣を投影してしまった私ん無理矢理弟子にしたトンデモ爺さんだーーーの生み出した礼装であり、遠坂の家系に伝わる『宿題』だ。
「そうか、至れたのね…さすが遠坂、といったところかしら」
「まぁ、一応ね。と言っても、大師父ほどには自由にはまだ扱えないけれど」
「それでも十分凄いことじゃない。おめでとう」
私が賛辞を述べると、照れ臭そうにする遠坂。
彼女が魔法を扱えるようになった事が、我が事のように嬉しい。
とはいえ、彼女がそれを取り出したということはだ。
「…やっぱり、この世界にはいられないって事ね」
「えぇ、残念だけれど。貴女は世界中からその命を狙われている。さらには今の身体は封印指定された人形師の作った人形。狙われる理由にはまるで事欠かないでしょう?だから貴女をどこかの並行世界へと飛ばーーー落とすわ」
「待って、何で今そっちに言い直したの。普通逆でしょう?」
「仕方ないじゃない!さっきも言った通り、私はまだ完璧には使いこなせていないのよ」
それはつまり、どこの世界へ行くのか分からないということだろう。
だから、落とす、なのか。
なんて物騒なんだ。
「文句でもあるのかしら?」
「いえいえ、文句なんてあるハズないじゃない。………お願いするわ、遠坂」
「そう、それじゃぁね、衛宮君。キチンと自分なりの幸せを見つけて幸せになりなさいよ。じゃないと許さないわよ」
「精一杯努力するわ……青崎さんも、ありがとうございました」
「何、気にするな私として中々興味深い素体も貰ったことだ。更には、魔法の使用に立ち会えるのだ。十分だよ」
「そうですか……それでも、ありがとうございました。それじゃぁ遠坂。桜達によろしく言っておいてね」
「分かったわ。じゃぁ、さよなら衛宮君」
そういって、遠坂の持つ宝石剣から虹色の光が溢れ、私の視界を埋め尽くした。
はい、というわけでようやく導入部が終わりました。
色々と適当になってしまっているであろうと思うので、ここは間違っている、などという所は指摘して頂けるとありがたいです。