問題児たちと正義の味方が異世界から来るそうですよ?   作:ベアッガイ

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魔王を倒すためのコミュニティみたいですよ?

黒ウサギ達が湯船で今日一日の疲れをとっている頃、私と十六夜は本拠の館を出て、子供達の住む別館の前に立っていた。

 

「あら。今日は貴方の日のようよ、十六夜」

「はぁ?俺の日………あぁ。今日は十六夜の月か」

 

そう。今日の月は、私の隣に立つコミュニティの同志と同じ名の月だった。

 

「まるで、貴方という存在が箱庭に来たことを祝福してくれているみたいじゃない?」

「ロマンチストだこと」

「快楽主義者の貴方が言う?」

「どっちにしろお前がそうだってことには変わりはねぇよ…………っつうか、こんだけ無駄話してるんだから早く決めてくれよな。そうでないと俺が風呂に入れないだろうが」

 

突然十六夜が私以外の誰かに話しかける。

風が木々を揺らす音はすれど、誰か又は何かがいるようには思えない。

普通は。

 

「ここを襲うの?襲わないの?」

「やるならいい加減、覚悟決めてかかってこいよ」

 

だが、それでも何の反応もない。

このまま待っていても仕方がない。

 

「ーー投影開始」

 

両の手に、それぞれ三本ずつ、計六本の《黒鍵》を投影する。

 

「ふぅん……それが《無限の剣製》か?」

「というよりかは、そこから零れ落ちたものの一部かしら……ねっ」

 

身体を使い、両手を振り抜き、全ての黒鍵を投擲する。

『鉄甲作用』。

埋葬機関の秘伝、純粋な投擲技法である。

それを用いて放たれた黒鍵は全て、木々の中へと突き進みーーー

 

「ぐぁぁっ」

 

そこに居た何かを容易く貫き、木々に縫い止めーーーるどころか、その後ろの木々すらもへし折っていった。

 

「………アレ?」

「うわぁ、ひっでえ。死んだんじゃねぇのアレ?」

「こ、殺すつもりは無かったわよ!?そもそも威嚇のつもりだったし……そう!躱せなかった方が悪いのよ!」

「正義の味方が言っていい台詞じゃないだろそれ」

 

し、仕方ないじゃない。

殺意が無かったのは本当だし、私達を狙ってくるんだからそれなりの実力はあると思ってたし……。

 

『おい!しっかりしろ!』

『へへ………悪ぃな。どうやら俺はここまでみたいだ』

『バカな事言うな!こんなところで死ぬんじゃない!』

『あばよ…皆……』

『ジョニィィィィィィィィィ!!』

 

向こうではよく分からない茶番が繰り広げられていた。

というか

 

「……別に殺してしまっても構わんのだろう?」

「その意見には比較的賛成だが、お前やっぱり正義の味方じゃないだろ」

 

よくよく考えてみれば、今私達を狙ってくるような輩は、十中八九“フォレス・ガロ”の連中だろう。

そうでもなければこんな弱小コミュニティを狙う理由は無い。

そして、こいつらは“ガルド・ガスパー”の支持で、今みたいに他のコミュニティから子供達を攫い人質としてきたのだろう。

そんな奴らを殺さない理由の方がみつけるのは難しいではないか。

 

「やはりこいつらは皆殺しにしよう」

「……まぁ少し待てよ。ちょっとぐらい話を聞いてからでもいいだろ」

「だが……」

「い、一体どうしたんですか!?」

 

本拠から慌てた様子でジンが飛び出してきた。

どうやら先ほどの謎の叫びを聞きつけてきたらしい。

 

「くっ、ジョニーの事は残念だが…」

「ああ。なんという鮮やかな手並み」

「これならばガルドの奴とのゲームにも勝てるかもしれない…!」

 

侵入者達には、敵意のようなものはほとんど感じられなかった。

そして、改めてじっくりと侵入者をみると、明らかに人間離れした者もいた。

 

「おお。なんだなんだ、お前ら人間じゃないのか?」

 

犬の耳、長い体毛と鋭い爪、爬虫類のような瞳の者。

十六夜は物色するように不躾に彼らを眺めている。

 

「我々は人をベースに様々な“獣”のギフトを持つ者。しかしギフトの格が低いため、このような半端な変幻しかできないのだ」

「へぇ……で、何か話がしたいんだろ?さっさと話せ」

 

十六夜はにこやかに話しかけるが、侵入者達は沈鬱な表情で黙り込む。

 

「恥を忍んで頼む!我々の…いえ、魔王の傘下であるコミュニティ、“フォレス・ガロ”を、完膚なきまでに叩きつぶしてはいただけないでしょうか!」

「嫌だね」

「断る」

 

侵入者もジンも、まさかこんなにあっさりと拒絶されるとは思わなかったのか、あんぐりと口を開けている。

 

「どうせ貴様らも人質をたてにガルドとやらに命令され子供達を攫いにきたのだろう?」

「は、はい。まさかそこまでお見通したとは露知らず、失礼しました……我々も人質を取られている身分、ガルドに逆らうことも出来ず」

「あぁ、その人質な。もうこの世にいねぇから。はいこの話題終了」

「ついでに言えば、他のコミュニティからその人質を攫ってきていた貴方達の頼みなんて、死んでも聞きたくないわ」

 

十六夜の言葉に割って入ろうとしたジンだったが、続く私の言葉で侵入者の方を振り返る。

 

そう。

結局のところ、彼らも同じ穴の狢なのだ。

 

「悪党狩りってのも悪くないけど、同じ穴の狢に頼まれてまでやらねぇよ」

「そ、それでは本当に人質は」

「……はい。ガルドは人質を攫ったその日に殺していたそうです」

「そんな……」

 

侵入者全員が項垂れている。

今まで悪事に加担してきたのは人質がいるからであったのに、すでにその人質がこの世にいないと知った衝撃は相当なものだろう。

 

絶望に沈む彼らを見て、ふと十六夜が新しい悪戯を思いついたような、誰しもがそう評するであろう、“悪い顔”をしていた。

 

「お前達、“フォレス・ガロ”とガルドが憎いか?叩き潰されてほしいか?」

「あ、当たり前だ!俺達がアイツのせいでどんな目にあってきたか……!」

「貴方達だって私からすればガルドの同類なのだけれど…」

「それは今はいい。ともかく、お前らはガルドを叩き潰したい。けれどお前達にはそれだけの力は無いと?」

「ア、アイツは腐っても魔王の配下。ギフトの格も遥かに上だ。俺達がゲームを挑んでも勝てるハズがない!いや、万が一勝てても魔王に目をつけられたら…」

「その“魔王”を倒す為のコミュニティがあるとしたら?」

 

ここに来て、彼が何をしようとしているのかが分かった。

そして彼は、ほぼ私の予想と同じような事を言った。

 

「このジン坊っちゃんが、魔王を倒す為のコミュニティを作る、と言ったんだ」

「なっ!?」

 

侵入者及びジンが驚愕した。

だが、十六夜が今言った事は、私達の目標である、魔王を倒しコミュニティを再建する、というモノとは似ているようで大違いだ。

本来はコミュニティを襲った魔王だけを倒せばいいものを、十六夜はわざわざ全ての魔王を相手取ると言っているのだ。

 

「魔王を倒す為のコミュニティ……?一体それは」

「言葉の通りさ。俺達は魔王のコミュニティ、その傘下のコミュニティも含め、全てのコミュニティを魔王の脅威から守る」

「そのかわり、守られるコミュニティにはこう言ってもらうわ。“全てはまず、ジン=ラッセルにお問い合わせを”ってね?」

「“押し売り、勧誘、魔王関係お断り。まずはジン=ラッセルまでお問い合わせを”でいいだろ」

「どっちも大差無いでしょう。好きにしなさい」

 

ジンは咄嗟に、冗談だろ!?といった感じに叫ぼうとしていたが十六夜に口を塞がれる。

 

「人質のことは残念だった!だけど安心していいぜ。明日ジン=ラッセル率いるメンバーがお前達の仇を取る!その後の心配もしなくていいぞ!なぜなら俺達のジン=ラッセルが“魔王”を倒すために立ち上がったのだから!」

「おお…!」

 

大仰に、芝居がかった風に語る十六夜。その姿に希望を見出す侵入者達。

そこに大きな打算があるとも気付かず、あるいは見向きもせず。

 

「さぁ、コミュニティに帰りなさい。そして伝えなさい。私達のジン=ラッセルが“魔王”を倒してくれると!」

「わ、わかった!明日は頑張ってくれよジン坊っちゃん!」

「おい、起きろジョニー。帰るぞ!」

「ま……待っ………!」

 

ジンの叫びも虚しく、あっという間に居なくなる侵入者達。

というかあのジョニーとかいうの、生きてたのか。

侵入者達の姿が消えるまで見つめ、後ろを振り返ると、あまりの展開に呆然と膝を折るジンの姿があった。

可哀想に。

 


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